ヤバイ話なので【夢物語として聞いてください】
気配りの届かないフロアで
コロナ禍前の話。
大手通信会社の社員と、下請けグループ会社の社員が、同じフロアで働いていた。
その中に、派遣社員として私もいた。
全員が出社していた頃――ある日、異動でひとりの新しい男性社員が部署に加わった。
海外留学の経験に、高学歴ばかり。
経歴だけを見れば、華やかな履歴書を想像させる。
都内の大手企業には、こういう人材が集まっているのだろうと、自然と周囲も受け入れていた。
だが、マーケティングの部署には独特の空気があった。
軽んじられているのは、いつも立場の弱い者たち。
ここでは弱い方が悪いのだ。
別部署でも過去にはSNSでお客を馬鹿にした“従業員のメモ”が炎上 したこともある。
派遣に話しかける必要はない
その日、社員の数に対して、派遣社員は三人だけだった。
新入りの男性社員が、直属の上司の顔色を伺いながら口を開いた。
「派遣さんたちにも、話しかけた方がいいですか?」
不安げに投げかけた問いに、上司は表情ひとつ変えず、すぐさま答えた。
「話さなくていいよ」
その場にいた私たち派遣社員には、はっきりと聞こえていた。
だが、誰一人として顔を上げる者はいない。
聞こえなかったふりをして、黙々と目の前の作業を続けた。
心だけが冷えきっていく。
部外者。
存在していても、存在していないものとして扱われる日々。
それでも今日一日、無事に終わらせることだけを考えていた。
昇格という名の孤独
あの職場には、派遣から社員になった人物もいた。
だが、彼は一切の飲み会にも、食事会にも顔を出さなかった。
笑顔を見せることなく、孤独の中で淡々と仕事をこなしていた。
人と馴れ合う必要など、初めからなかったのだろう。
この職場では、馴染もうとすることこそが消耗する。
コロナが変えた昼休み
当初は、派遣社員同士でランチに行くこともあった。
だがコロナ禍が始まり、人の入れ替わりも増えていくうちに、
誰かと過ごすことが負担になっていった。
ひとりで行動する時間が、次第に心地よくなる。
他人と距離を置くことで、ようやく呼吸がしやすくなる。
昼休みは、会社近くのスタバで静かに過ごすことが唯一の癒しだった。
コーヒーを啜りながら、誰にも邪魔されない時間の中で、自分の輪郭を取り戻していた。
つづく
