長い沈黙が流れた。

各々が記憶の糸を引っ張り出しているようでもあった。

この女は本物の大島優子なのか?

そんな疑問が頭の中を流れる。

インターネットで検索すればその顔は一番上に現れる。指名手配の写真なのだが、実に楽しそうな顔をしているのが印象的だ。

だが、今ここにいる大島優子には笑顔がない。


「どうしました? 折角ゲストが来てくれたんですから、拍手で迎えてあげてください。ほら拍手」
男がゆっくりと手を打ち合わせ、拍手を促すも、一同の体は硬直したままだった。

そんな中、中田花奈が小さく「間違いない、本物だ」と呟いた。

優子の視線が花奈へと向けられる。

「で、でも、もしかしたら他人の空似とかってことも……」

後ろに向けていた身体を斉藤優里は前へと向き直し、目の前にいる数人のメンバーに同意を求めた。
一番近くに居た中元日芽香が、優里から視線を外したのは、その奥に佇む優子と目が合ったからだった。

「斉藤さん、まだこの状況が信じられませんか?」
「信じられないって言うか……だって、まさか殺し合いとか」
「だったら、このボタンを押してみてください」

男が掌にスッポリと収まりそうな程のスイッチを優里に差し出した。
目の前に現れたそれを疑問符を浮かべながら見つめる。

「この赤いボタンを押せば、このゲームが本当だと証明出来ます。さて、誰の首輪が爆発するんでしょうかね? 斉藤さん、どうぞ、押してみてください」
「え……?」

一体この男は何を言っているのだろうか。

スイッチ一つで誰かが死ぬと言っている。

優里はボタンと男を交互に見つめ、小さく首を振った。彼女なりの精一杯の拒否だったのだろう。

「でしたら、私が押させてもらいますね」

口角を上げ笑みを作ると、男はスイッチを顔の前まで掲げてから親指をボタンに乗せた。

「待ちなよ」

優子だった。教室に入ってから一言も口を開かなかった優子が、ドスを効かせた声色で声を発する。

「無駄に命を奪ったら、アンタらの楽しみが減るんじゃないのか?」
「ふっ、確かに」

睨みつける優子に男は笑顔で対応した。
小さく息を吐く。

 「私が証言してやるよ、この首輪は本物だ。そしてあのスイッチも本物。お前らはこのゲームから逃げられないんだよ」

それは絶望への宣告。死の宣告を表す言葉だった。

時間が止まったかのように、張り詰めた空気は揺らぐことがない。

それを打ち破ったのは、

「はーい、ではバトルロワイヤルを知っているみなさんですが、一応ルールは説明しておきます」

パンッ
男が一つ手を打ち鳴らした。

「今から配るバッグを受け取りましたら、この校舎から出て行ってください。島の中ならどこへ行っても構いません。全員が出ていきますと、この校舎は進入禁止エリアとなり、一歩でも踏み入ればセンサーが反応して首輪は爆発します」

ドン、とわざとらしく手のひらで爆発を表現する。

「それと、この島はいくつかのエリアに区切らています」

教卓から黒板の三分の二程の地図を取り出し広げて見せた。

「一日に零時、六時、十二時、十八時の計四回の定時放送をします。その時に一時間後、三時間後、五時間後の禁止エリアを発表しますので聞き逃さないでください」

指を折って説明する。その表情は実に楽しそうだ。

「ああ、それとですね、その時に死んだ者も発表しますので、残り生存者を確認してください」

言いながら扉の向こうに合図を送った。
数人の男たちが何やらなだれ込んでくる。肩には銃らしき物を持っていて、先程のスタッフたちとは異なる人種に見えた。

「二十四時間死者が出なかった場合は、残念ですが、全員の首輪が爆発しちゃいますので、気を付けてくださいね」

最後に入ってきた男が荷台を引っ張ってくる。上にはバッグが大量に積んであるようだ。

「このバッグの中には、最低限の食料と飲料水、あとコンパスなどが入っています。それと、一番重要な武器もありますので、十分に活用して殺し合いをしてください。では、説明は以上になります。質問がある人はいますか?」

誰も何も言葉を発しない。
男の流暢な声だけが先程から流れている。

「はい、何もありませんね。では、席順にバッグを渡して行きますので、名前を呼ばれたらバッグを受け取って出て行ってください。それでは、秋元真夏さん」

出席でも取る先生のように、男は名簿らしきものを見ながら名前を呼んだ。

秋元真夏の肩が僅かに跳ねたのがわかった。隣の絵梨花に助けを求めるように視線を送るが、その絵梨花自身も顔を強張らせたまま動かなかった。歯がカタカタと鳴る。

「秋元さん、早くしてください」

男が苛立ちを込めてそう言うと、真夏の近くにいた銃を持った男が、同じく大声で「早くしろ」と言った。

「は、はい!」

反動で席を立つ。投げられたバッグを落としそうになりながら、真夏は教室を後にした。

「次、生田絵梨花さん」

次々に名前が呼ばれていくのを、里奈は夢でも見ているかのようにぼんやりと聞いていた。

たぶんこれは夢だろう。

そう願うように。









番組での企画発表から数日後のこと。

一同は、脅されたわけでもなく、何の抵抗をするわけでもなく、無人島で過ごす三日間に少々の不安を抱くだけで、どちらかと言えばキャンプにでも行くような楽しさを抱えながら、自らのその足で無人島へと向かった。

船着場からは小高い山へと向かう道が蛇のようにクネクネと細く長く続く。
その道を三列程に広がり歩く。
薄暗くなった山道の先には、古びた木造の校舎が見えた。窓から灯りが洩れているのは、先に到着したスタッフがいるからだろう。

校庭を挟み、校舎の入り口までの距離を数名のメンバーがダッシュで駆けていく。テンションは最高潮まで達しているようだ。


スタッフに案内されて一つの教室へと足を運ぶ。人数分の机が並べられており、席順が黒板に貼り出されていた。

「すごい古いね」

教室をぐるりと見回した生田絵梨花が、一言そう呟いた。

「今はもう無人島だからねー。ずっと使われてなかったんじゃない?」
「そうだよね、校舎に入った時、すごくカビ臭かったもん」

同じく教室をぐるりと見回す生駒里奈と、眉根にシワを寄せた橋本奈々未が目を合わせた。

「秋田の学校よりは新しいやろ?」

チャチャを入れた松村沙友理に、里奈が怒って追いかけ回した。

各々が席に着いたり騒いだりしている中、ディレクターらしき人物が席に着くように促した。

「みなさん、机の中の物を取り出してみてください。立っている人も各自席に着いて引き出しの中を確認してみてください」

言われ、引き出しの中に手を入れる。指先にひんやりとした丸みのある鉄製の物が触れた。

「なにこれ?」
「くび……わ?」

指で摘んだそれを目の上の高さまで持ち上げてから、白石麻衣が首を傾げた。

「バトルロワイヤルって言ったらこれだよね。スタッフさん分かってるー」

若月佑美が首輪を自身の首に当てがった。
それは思った以上に冷たくて重い。

「では、その首輪を装着してください。その首輪には、万が一この島で迷ったときのための発信機が付いています」
ディレクターの言葉に感心したような声が上がる。
一人がそれを装着すると、警戒心が薄れたかのように一人、また一人と、首輪を付け始めた。
カチャリ、とロックされた音までもが冷たい。

スタッフ数人が最終確認するように、一人一人の首輪を見て回った。

「それと、言い忘れましたが、発信機以外にも生体反応を送信する装置と小形爆弾が付いています」

その言葉に一瞬だけ場が凍りつきはしたが、すぐに「本格的だー」の間の抜けた声で笑いに変わった。

「もう、ディレクターさん冗談が上手すぎですよー。一瞬信じちゃったじゃないですか」
「うんうん、さらっと言っちゃうだもん。ウチ、はぁ? って思っちゃったじゃん」

ディレクターの表情は何一つ変わらない。それも全て演技だと思われているのだろう。

そうして、続けざまに里奈が「嘘を吐くならもっと分かりにくいこと言わないとだよねー」と言った。

「それじゃ、簡単なルールを説明します。みんなはバトルロワイヤルを知っているみたいですので、大まかな説明は省きますが、まあ簡単に言うと、メンバー同士で殺し合いをしてもらい、最後まで生き残っていた人が優勝ってことです」

非常に簡素な説明に肩透かしを食らう。

「だから、殺し合いってところを一体どう変えてやるのかを説明してください」

若干のイラつきの色を見せた畠中清羅が、机に肘を付いて口を尖らせた。視線は黒板の上にある。

「まだ分からないですかね? 今から殺し合いをするんです、殺し合いを」

もう笑いも起こらない。そういう雰囲気が教室中に張り巡らされていた。失笑だけが宙に舞う。

ため息を一つ付いたディレクターがゆっくりと教卓の前へ歩く。

「今から六年前、あるアイドルグループがMV撮影のために小さな島へと向かった」

突然の語り口調にメンバーが困惑する。
ディレクターは教卓を背凭れにして、足を組むように交差した。

「不慮の事故で大半のメンバーが亡くなり、残ったメンバーは島へと取り残される。あるのは少ない食糧と小さなボート。勿論全員が乗れるほどの大きさではなかった。助けは中々来ず、メンバーの心理状態は、ほんの少しのキッカケで切れるほどの張り詰めた状況だった。脱出を試みようとしたメンバーは、一つのボートを奪い合うために殺し合いを行った。あるメンバーの一人は、残されたメンバーを抹殺し、島からの脱出のため、当時の年少メンバー二人を人質に取った」

息を呑む。
その事件なら誰もが知っていた。当時のテレビや雑誌などでよく報道されていたからだ。
人気アイドルグループのメンバーが殺し合い。新聞の一面に大きく記されていたその事件は、普段ニュースを見ない清羅でさえ知っていた。

「だけど、それは表向きの事件の内容だ。実際は違う。実際は、メンバー容認の殺し合いが行われた。それはこの企画と同じく、バトルロワイヤルと名付けられた」

足を組み替える。わざとらしく咳払いをしたあと、これまたわざとらしく大きく息を吸った。

「今のAKB48があるのは、当時のその事件があったからこそと言える。だから、乃木坂もまた、今以上に大きくなるために、同じ道を進んでみよう」

冗談じゃあない。そう言わんばかりに衛藤美彩が立ち上がった。

「私たちに犠牲になれってことですか?」
「まあ、そうなりますね。乃木坂は一期生だけしかいないわけではないでしょう? みなさんがここでAKBと同じ道を歩み、後は二期生に託しましょう」

飄々と言う男に美彩は唖然とした表情をした。

「まだ少しだけ疑っているメンバーがいるようですので、一つやる気を起こすためにも、ゲストを紹介したいと思います」

ポケットから小型の無線機を取り出し、何やら指示を出しているようだ。

こんな状況でも、まだ茶番だと思えるメンバーがいる。

「六年前の事件で生き残ったメンバーがいるのは知っていますよね? 当時の年少メンバー二人を人質に取り逃亡した元AKB48メンバー」

教室の後ろの扉が開いた音がした。
扉付近の机に座っていた斎藤ちはるの首がゆっくりと後ろを向く。

ボロボロのジーンズに白のティーシャツ、その上からは格子柄の長袖を羽織っている。
長い髪をゆっくりと掻き分けると、そこから覗く大きな瞳が教室内を見渡した。
その眼光に背筋が凍る。


そこには、元AKB48チームKの大島優子が立っていた。









月光が届かない山間。

少女が一人身を潜めている。

乾いた破裂音が空を舞ったのを、息を殺して聞いていた。

「もう、やだ……」

閉ざされた瞳には、思い出と惨劇しか映らない。

塞がれた耳には、懐かしい声と叫び声が。

結ばれた口からは、救いを求める言葉が紡ぎだされていた。


一体何故こんなことが起きているのだろう。

少女の思考では答えを見出せないまま、死へのカウントダウンは刻一刻と進んでいた。




数日前。

「どん! さあ、始まりました。乃木坂って、どこ? 司会のバナナマンでーす」

結成当初からのレギュラー番組の収録。
司会のバナナマンのいつものコールが始まる。

「さて日村さん、本日の企画をですね、殺人鬼っぽく言ってください」

毎回の設楽の無茶振りに、日村が精一杯の鬼の形相をするが、スタジオからは笑い声が響いた。

「最後まで生き残るのは誰なんだ? 乃木坂、バトルロワイヤル」

タイトルコールに合わせて拍手を鳴らすのはいつもの光景だ。

「と、言うわけでですね。今回はみなさんにバトルロワイヤルをやってもらうわけですけど、みんなバトルロワイヤルって知ってる?」
「知ってるでしょ。超有名だもん」

メンバーからは「知ってるー」や「小さい頃に見た」などの声が聞こえたり、うんうんと頷くだけの者もいる。

「バトルロワイヤルと言いましてもね、我々も鬼じゃありませんから。本当に殺し合いをしろとかは言いませんよ」

設楽が悪戯を思い付いたような少年の笑みで企画の説明をするときは、過酷な試練が待っていることを意味することを知っている。

「ただ、みなさんにはね。無人島で三日間バトルロワイヤル形式の勝負をやってもらい、そのなかで勝ち抜いた一人が優勝となり、番組を一回だけ優勝者の自由にしてもいいと言う権利を差し上げます」
「それは何やってもいいの?」

日村がメンバーの代わりに質問する。

「例えば、例えばよ? 三十分間自分だけをずっと映しちゃうとか」
「ははは。いや、それはさ、三十分間ずっとって、んー、まあその子のファンにしたら最高の三十分間だろうけどね。多分大丈夫なんじゃない? でも視聴者の方も良かったよね? これ、もし日村さんが参加してさ、優勝なんかしちゃってたら、三十分ずっと日村さんが映ってるかもしれないってことでしょ? もう地獄だよね」

設楽の言葉に嫌悪感のある悲鳴が上がる。
同時に日村の怒声が上がるのも、いつものお決まりの流れだ。



そんな笑いに包まれたスタジオ収録の中で、数日後の惨劇を誰が想像しただろうか。

あの六年前の悲劇の繰り返しを、一体誰が想像しようか。

スタジオには笑い声だけが木霊していた。











また一人、また一人消されていく

誰が此処に生きたかっただろうか、誰が此処に生きているはずだったろうか



答えは何一つ無いままで



嘆きなさい、憎みなさい、壊れなさい、狂いなさい



そして消えなさい



その全てが糧となる常闇の世界で眠りなさい


もう何も、苦しむ事が無いように


優しい優しいカミサマの腕に抱かれ


繰り返す悪夢の中で悟りなさい




救いの光りなどこの世には在りもしない偶像だったのだと




「さあ……始めよう」


赤き月に照らされたアナタの中の狂気が織り成す惨劇の物語を



開演

気が付けば春が過ぎ、夏が終わり、いつの間にか秋が到来していました。
お久しぶりです。こんばんは。松本氏です。


近況を話すほど大きな出来事はありませんので、何もお知らせすることはないのですが、一応生存確認だけでもと思い更新させて頂きました。



秋と言えば、読書の秋ですね。
昨年末からお休みして長いこと執筆から解放されてましたが、そろそろ何か書こうかな、と思案中です。
ただ、何を書くかテーマもジャンルも思い付かない状態なわけで……

書くとしたら乃木坂だなぁ、と漠然に考えてるだけなんですよね。ブログ名がAKBなのに……



まあ、近いうちに何か小説を更新したいと思うわけです。
待っている人がいるかは分かりませんが、相変わらずの自己満足で、駄文をダラダラ更新していこうと思います。





最後に、メッセージをくれていた胡桃割り人形さん、何故か返信が出来ませんでしたので、そちらのブログのコメント欄に返事を送りたいと思います。よろしかったら一時的で良いのでコメント欄を解放して頂けないでしょうか?


ではでは、また近いうちに更新致します。