わたしの名前は中村麻里子。平々凡々な学生生活を送っていたわたしだが、成り行きでヒーロー部という名前のよく分からない部活の副部長を任されて居る。

好奇心旺盛で何にでも首を突っ込みたがる部長の李奈と、それにいち早く賛同し余計なことまで吹き込む玲奈。部室の片隅の棚に並べられてる化学室の薬品のそれよりも怪しい代物は、彼女の物だ。
それと、一日の大半は寝ているんじゃないかと思う自称宇宙人と交信出来るまりやと、最近自我が目覚めてきたのか初期の大人しいキャラから少しずつ変わってきた朱里。

そんな五人で織りなすヒーロー部も結成から既に一月以上が経っているが、先日の姫部の依頼を受けて以来、これといって何の活動もしていない。
こんなことで本当に良いのか。そう提案したこともあったが、李奈の「考えたら負けだよ」の言葉のせいで、今日もまたいつものようにダラダラとした一日が始まっていた。

そう、アノ子さえ洗われなければ。間違えた、現れなければ。


いつものように全ての授業を終えたわたしが、誰にも見られてないことを確認しながら新しいステップで旧校舎へと赴くと、朱里の怒りモードを必死に抑えている玲奈の姿を見つけた。

「またじゅりの逆鱗に触れるようなことをしたのね……」

半ば呆れて部室の扉を開けると、朱里の濡れタオルヌンチャクがわたしの顔面目掛けて飛んできた。マトリックスのように咄嗟に避けるわたし。グキッという音ともに腰を痛めたが、そんなことではもう目げない。

「はい。高橋さん、いつものお薬ですよ」

標的がわたしに向いている間に玲奈が朱里に注射を打つ。一体なんの成分でできた薬なのか、朱里が一瞬にして大人しくなった。
玲奈曰く鎮静剤のような物らしいが、今のところ副作用はないのでわたしは見て見ぬふりをしている。触らぬ神に祟りなしだ。ちょっと意味は違うけど。

そんなこんなで部室に入ると、部長の李奈から怒声を浴びせられる。

「おっそーい! 門限は四時までって言ってたでしょ!」
「門限だと帰らなきゃいけないことになるけど」
「どっちでもいいの! 今日は、大事なことについて会議を開くって伝書鳩で伝えたよね!?」

この21世紀に伝書鳩はないでしょ。そもそもそんなの届いてないし。メールか電話で済ましてよね。

「おかしいなぁ……昨日、伝書鳩の幸村にちゃんと言い聞かせて放したのになぁ?」

鳩に何を言い聞かせてんの? 責めてオウムにしなさいよ。てか、幸村って何よ? 何処の戦国武将よ。

「李奈さん、そろそろ中村麻里子さんにヒーロー部のLINEのグループに入れてあげたらどうでしょう?」
「そうだなぁ……。でも中村麻里子って臭そうじゃん?」
「ちょっと待って! わたしに内緒でそんなことしてたの? てか、別にグループに入れてても臭くないわッ!」

臭いのはあんたの足だけにしてよね。わたしは毎日二時間は行水……おっと、お風呂に入ってるんだから。

「でも、ほら、中村麻里子って未だにトランシーバー使ってるって聞いたから」
「使ってないわよ! ずっとスマホ使ってるわよ!」
「ずっと? この世に生誕してきてからずっと?」
「変なとこで揚げ足取るわね……。正確には二年前くらいからね。先月最新機種にしたばかりだし」
「へえ、本当だ。最新機種じゃん? どうしたの? 募金で買った?」
「誰が募金で買うかーッ! ちゃんと親に頼んで買って貰ったわよ」
「墓前で『スマホの最新機種が欲しいです。お母さんお父さん、保険金を少しだけ……』痛い……」

しつこい。今日はいつも以上にしつこい。大体わたしの両親は健在だ。
もうこの子は放っておこう。さて、先程まで怒りモードで暴れていた朱里はっと……

うん。普通に宿題してた。
玲奈も何かの薬品の調合に忙しいみたいだし、まりやはいつものように交信中だ。
わたしも今の内に宿題を……

ん? そういや、なんか会議がどうたらとか言ってたな?

「ねえ、今日、会議あるの?」
「お! よくぞ聞いてくれました、ジオング」
「誰がジオングだ!」

この麗しい乙女に向かってロボットなんかに例えるだなんて全く……。

「とうとうヒーロー部らしい活動を考えてきたの?」
「んとね。今日はボクが一番最初に部室に来たんだけどね」

チラッと朱里を見てから李奈は頭を掻いた。
ん? なんだなんだ? 二人の間に何かあったのか? ちょっとオラ、ワクワクしてきたぞ。

「部室の鍵の管理はじゅりがしてんるんだよ。で、じゅりが来るまで暇だったからヒーロー部を『七土甲王部』に変えて遊んだりしてたら、部室から青白い光が見えたんだ」

七土甲王部って……やってることが小学生男子じゃない……。
ん? ていうかその青白い光って確か……?

「で、じゅりが来たからムカついてお前のカーチャンチンジャオロースってからかったらキレちゃって」
「……全然話が見えない……てか、チンジャオロースて……」
「美味しいですわよね」

玲奈さん、そこの会話に入ってくるんですか。そうですか。

「いや、それよりも青白い光って、あれでしょ! 未来人が来た時と同じ現象でしょ!」
「あー!」

李奈と玲奈が口を揃えて納得した。
あんたらの頭の中は一体どうなってるの? 一度覗いてみたい。

「で、何かまた現れたわけ?」
「そこに普通に座ってますわよ」

居た!? 自然に溶け込み過ぎて全然気付かなかった……。
可愛らしい女の子が椅子にチョコンと座ってる。それだけだと未来人には到底見えない。
ちょっと近付いてみよう。

目が合った。黒目だけがこちらを見てる。そして何か呟いてる。なにこれ怖い。タナえもんとは何か違う。

「あ、あのー?」

質問を投げかけるために声をかける。
今度は頭ごとこちらを向いた。やっぱり怖い……。

「えと、未来からどのような用事で……?」
「タナベミク」
「え?」

鱈鍋見る? うーん、ちょっとお鍋に季節的に早いかなぁ?

「タナベミク殺ス」

鱈鍋ミックス? 何と? 鱈と鮭かな? でもお鍋は季節的に早いかな?

「中村麻里子さん、そろそろ現実に戻ってください」

あ、バレてた? だって無表情で人を殺すとか言ってんだもん。現実逃避したくならない?

「邪魔スル人ハ全員抹殺……シタイ」

気分かよ! そこははっきり「する」って言うでしょ!
ちょっと話し方が片仮名入ってるから未来から来たロボットってことでオーケー?

「ソウトモイウ」

いいんだって。タナえもんよりよっぽどドラえもんじゃん。

「じゃあさ、ビームとか撃てる?」

またそんなこと言っちゃって……
本当に撃っちゃったらどうすんのよ。

「標的……中村麻里子……照準ヲ標的ニ合ワセ発射準備……」
「ちょっと待って! なんでわたしなのよ! ほんと危ないからやめて!」
「照準ヲ標的ニ合ワセ……合ワセ……合ワ……」

プスンプスン……。
頭から白い煙出して止まった……。
まさかこの至近距離で命中出来なくてショートしたってこと? 嘘でしょ?

「れなっち、これ直る?」
「機械系は得意ではないんですが、やってみます」

李奈の指示で玲奈が未来から来たロボットの頭を、ポッドの蓋のようにパカッと開けていた。

「とりあえず名前はぽんこつでいいよね?」
「もう好きにして……」

こうして、ヒーロー部に新たな部員?が増えた。
彼女の目的は今のところ忘れよう。
それとなく冒険クラブの未来人に伝えればいい。伝書鳩の幸村で。






つづく



この思い出たちから歩き去らなければいけないのは、よく分かっていた。

学校からの帰り道。

夕暮れの生温かいような、一抹の切なさを含んだ空気と、橋の下を流れる川。

水面には線香花火みたいに光が踊っていて、東と西で二つの時間が流れている空が、どこまでも広がって見えた。

私は当然のようにその景色の中にいる。気の知れた友達三人と、夕暮れの琥珀色を感じながらくだらない話をしている。

彼女たちとはいつから、連絡が取れていないのだろう。

浪人生になってしまった私が、誰一人仲のいい友人を作ることが出来なかった予備校に入ってからか。大学に合格して、両親やら世間の目やらに監視されながら就職というゴールを目指し始めた頃からか。

よく、覚えていない。

卒業式の日に、三カ月に一度は会おうって約束をしたことだけは、いまでも鮮明に覚えているのに。

駅の改札口で。四人で手を挙げて。

今思えば、あの「さよなら」から、私たちはそれぞれの列車に乗り込んで行ったのだと思う。

浪人が確定していた私からすれば、あのときの終着駅は間違いなく大学合格だった。

でも、いざ合格発表を目の前にしてみると、また新たな線路がすうっと私の前に伸びていった。

次の駅は毎日学校へ行くことで、単位を落とさないことで、人間性のよく分からない人たちと義務的にはしゃぐことで、この環状線を三回巡り、次の駅は就職活動。私の場合はすんなり決まった。周りの人たちと比べて高望みしなかったのがよかったのかもしれない。

そして、いま。

社会人二年目を迎える私は、こんな独り身の中年女が熱中するような奇妙な仕掛けの虜になりつつある。


メモリアルウム――記憶のプラネタリウムと銘打たれたこの装置は、文字通り頭の中にある思い出を映像化してくれる「アステロ・ワークス社」の商品だ。

本社はアメリカにあるらしく、私はネット広告でこのサービスの存在を知った。

最初は気にも留めなかった。会社の書類をまとめる資料探しでそれどころではなかったからだ。でも……私という人間が、そもそも能力のある人間ではなかったからかもしれない。

いつからか仕事がうまくいかなくなり、無性にやるせなくなって、そのときに再び、このネット広告に出逢った。次の日がたまたま休みだった。やらなければならない仕事がいくつかあったけれど、それから逃避したい気持ちもあって、私は電車を二つ乗り継いでアステロ・ワークス社の日本支部がある雑居ビルへと赴いた。

そこは小綺麗な歯科クリニックのような場所で、白衣を着たドクターがおり、精神科で行われるような問診(実際に行ったことはないから、あくまでイメージだ)を受け、次回は映像化したい期間の象徴的な物をいくつか持ってくるように言われた。これも記憶の映像化には必要な手続きらしかった。

そして二回目、私は高校の卒業アルバムと、捨てずに取っておいた制服、軽音楽部に所属していた頃に使っていたギターを持って、クリニックを訪れた。

「制服を着てギターを構えてください。過去に対する念をより強めるためです」

そう力強い口調で言う医師の言葉を聞いたときには、さすがに新興宗教めいた怪しい空気を感じずにはいられなかった。

だけど、私はどうしようもなく疲れていた。騙されていると頭の片隅で感じていながら不思議と抵抗できない心理状態にあった。

医師に脳波を調べるための装置みたいなのを頭にはめられ、「きれいな思い出がよみがえっていきます……」という言葉を聞きながら、私は深い眠りへと落ちていった。

目覚めたあとの記憶はぼんやりとしている。ただ、私はクリニックへと持っていた物にもう二つ、映像化した記憶のディスクとそれを読み込むプラネタリウム型の投影機を両手いっぱいに抱えて家路についた。


独り暮らしの部屋は物が少なくて、四方を囲む壁の白さがいやに際立って見える。

疲労からほとんど手足が勝手に動くロボットのようだった私は、それこそ淡然と部屋の明かりを消して、説明書きに沿って装置をセットした。

プラネタリウムから光が射し、無地の壁に『CAUTION!』と警告文が映し出された。

『本装置ではあなたの思い出はよみがえっても、あなたの時間まではよみがえりません』

これも訴訟大国アメリカならではの前置きなのだろうか。

それから数秒のブランクののち、映像が始まると、私はすぐにのめり込んでいってしまった。

何故なら、この映像の中には、毎日わけの分からないことで怒鳴りつけてくる上司も、私をぐんぐんと追い抜いていく同僚の姿もないからだ。

廊下を駆けていく足音、休み時間のざわめき、始業のチャイム、授業中の気だるい静寂と、誰かのひそひそ声。

何気ない音の一つ一つが私を優しく包み込んで、これから十四時間後には通勤電車に乗らなくちゃいけないことなんてすっかり忘れていた。

入学式のあと、これから三年間を共にするクラスメートとの顔合わせ。教室は緊張の空気に占められていた。

ああ、私はあんな言葉がきっかけで、彼女と友達になったんだ。

憧れていただけの夢も、仲良くなれるとは思っていなかった人との最初の言葉も、毎日乗りこなせるか不安だらけだった朝の満員電車も、一人で帰ることになるだろうと勝手に決め付けていた帰り道も、全部、奇跡のようなきっかけがあって、まったく、私という人は夢のような時間を過ごしていた。

心残りはあまりない。

やりたいことはほとんど出来たし、本当に幸せ過ぎるぐらいに順調だった。

だけど、思い出は終わってしまう。卒業式の帰り、駅の改札を最後に。

私は慌てて付属のリモコンを握りしめ、また入学式の日から、あの三年間を再生していった。

『本装置ではあなたの思い出はよみがえっても、あなたの時間まではよみがえりません』

そんなことは分かってるんだ。分かってるんだよ。

でも、私は何度も思い出をさかのぼり、そして延々とそれを繰り返した。


外はもう深い夜の気配が薄れ、朝靄が漂い始めている。

結局のところ、私は寝るのも忘れて思い出観賞に没頭していたわけだ。

こんな人間が日本でも少数、本土ならもう何千、何万人かいることを想うと、アステロ・ワークス社はなかなか罪深い代物を作ってしまった。

私はいよいよ現実に帰れない。それこそ、思い出と鎖でつながれてしまったみたいに。

「最近元気ないけど、どうかしたの?」

映像の中の私が、一人の友人にそう声をかけている。

場所はあの帰り道。夕暮れ、橋、川の流れ、車、人々の往来。私たちの風景だ。

「うーん、なんていうか」

友人の声には苦しくうめくような響きがあった。

卒業を一週間前に控えていた頃だ。帰り道には、私と友人しかいない。

「こうやって話すのも、ここを通るのも、あと少しで終わりなんだなー、って思うとね」
「センチメンタル?」

友人は力なく笑った。

「ていうか、あんたさ」

あまり気落ちしている自分を見られたくないのか、彼女は急に話頭を転じた。

「結局さぁ……この三年間で、好きな人とか出来なかったの?」
「格好良い人いないじゃん。それにさ、ぶっちゃけ、部活やってたり、友達とぐだぐだ喋ってたりしてる方が、私的には楽しいんだよね」
「……レズ?」
「ばれた?」

そして友人の胸に手を伸ばす私。当然、くだらない芝居の一つだ。でも、それが楽しかった。

結局、友人の誰に聞かれても濁すばかりでまともに答えなかったけど、本当は、気になっている人がいた。

でも、一方で、私が友人に言った言葉も間違いではなかった。

毎日部活に行って馬鹿みたいにギターの練習をしたり、誰かの上手くいった、いかないの恋愛話を茶化したりするのも楽しかった。

彼とは一年生のとき、女子グループが中心になって企画した『クラス交流会』で携帯電話のアドレスを交換したっきり(それも流れで、だ)ろくに会話していない。

彼は今ごろ、どうしているのだろう。大学を卒業して新米社員として働いているのか、あるいは素敵な奥さんが出来ているのかもしれない。

いずれにしろ、私が好きだったあの人は、もうこの世にはいないのだろう。

この友人だって……。

「あのさ……」

私は友人の名を呼んでいた。あの駅の改札口で。

「卒業したってさ、会おうと思えば会えるじゃん。だって、」

私たち、友達でしょ? 私はそう言おうとしたけれど、急に照れくさくなってやめたんだ。

「……いつか、お酒を呑みに行こうよ」

友人は微笑んだ顔で頷いて、その背中は私とは違う路線に向かい、遠く、消えていった。

とっくにお酒を呑める年になってからもう何年、私たちは結局、会おうとすらしていない。

今の私の右手には、メモリアルウムのリモコンではなく、携帯電話が握られている。

高校時代から一回機種を変更したけど、電話帳は引き継いだから友人たちのメールアドレスは登録されたままだ。

届くかどうかは分からない。ただ、私は一心不乱に文章を綴り、卒業式の日に駅の改札で別れた友人たちにメールを送った。

時刻は六時。寝てもいないのに目覚まし時計は鳴る。それを止めて、私はいそいそと出社の支度にかかった。

アドレスが変わっていて、メールが届かない。そんな通知を知りたくなくて、私はメールを送ったあと、ほとんど無意識のうちに携帯電話を閉じた。

『本装置ではあなたの思い出はよみがえっても、あなたの時間まではよみがえりません』

なら、今の私に出来ること。

それはいつか、あの友人たちと再会した時に、恥ずかしくないよう、精いっぱい。

明日を、生きていくこと。






おわり
つい先日正月が来たばかりかと思いきや、いつの間にか桜が咲いて毎年恒例の無礼講とは口ばかりのお花見も終わっちゃったんですね……
月日の流れって早いですねぇ……

そんなこんなで今年も新入社員がゾロゾロと入社してきました。(正直ゾロゾロは言い過ぎた)

ガチガチに緊張している新人に、去年まで新人だった先輩がドヤ顔で後輩指導してるのも例年通りです。

この時期が来て初めて一年の始まりを感じますよね。

まあそんな中、初めての就活でエントリーシートや履歴書書いたり面接や説明会に追われ普段使うようなこともない駅や路線で走り回り心身共に疲れきったりしてようやく内定貰って就職した会社を一週間も経たない内に辞めた猛者が居ました…………

まあ、彼には彼の考えがあったんでしょうし、寧ろ中途半端に仕事に慣れた頃に辞められるよりかはマシなんでしょうが、
本当にその選択で良かったのかい?と、辞める前に訊いてみたかったです。



そういや、最近小説の方が疎かになってますね(^_^;)
チラッと見たら、月一のペースでしか書いていないorz
ちょっと暇になり始めてきてるんで、ここらでなんか長編でも書き始めようかなぁ……と、思ったり思ってなかったり…………


……誰かネタくださいorz







あ、どうやら今日は自分自身の誕生日だったみたいです。

友達からのメールで思い出しました(^_^;)

ハッピーバースデー自分!