(釣り、したんだっけ)
あのとき使っていた鞄はもう引退して、押し入れの奥で眠っている。
件の番組企画にいちばん意気込んでいたのはみなみで、友美と敦子はその勢いにつねに引きずられていた。
結局そのみなみは魚を釣り逃し悔しい思いをしていたらしいが、帰り際、
「わたしさぁ、も一個、くやしいことがあるんだ」
むすっとした表情を向けた先には海がある。
「なに?」
「なにって、あっちゃん、ココ日本海だよ? もぉ、ぜったい夕陽見たかったのに、昨日魚釣りに必死で、見れなかったんだもん」
「夕陽、かぁ」
敦子もつられて西を向いた。細かな船がまばらに見えるその向こうに、水平線がゆるやかに引かれている。
「海に沈むんだよ」
それはきっと目のさめるようにきれいな光景だろうと思った。
あれから何度か日本海をのぞむ機会はあったものの、海に沈む太陽というものを見た記憶がない。敦子の知り得るかぎり、みなみや友美も同じだろう。
思いめぐらしていると、ポケットでさきほどの包みがかさりと鳴った。それに気をとられて指と月から意識をはずすと、マネージャーがあわてたように携帯にむかって何か捲し立てている。
「わかった、わかったから、いまからそこ、行くから、目立たないようにしていなさい」
命令口調で通話を切った。携帯をたたむのももどかしいようで、眉間に皺をつくった彼女はどこかに寄るよう運転手に告げる。それをうけて、いつもの帰り道、まっすぐに抜ける交差点を車は左に曲がった。
それまで横手にみえていた月は後ろにそれて、目で追った敦子から逃げるようにどこかへ消えた。
あのとき使っていた鞄はもう引退して、押し入れの奥で眠っている。
件の番組企画にいちばん意気込んでいたのはみなみで、友美と敦子はその勢いにつねに引きずられていた。
結局そのみなみは魚を釣り逃し悔しい思いをしていたらしいが、帰り際、
「わたしさぁ、も一個、くやしいことがあるんだ」
むすっとした表情を向けた先には海がある。
「なに?」
「なにって、あっちゃん、ココ日本海だよ? もぉ、ぜったい夕陽見たかったのに、昨日魚釣りに必死で、見れなかったんだもん」
「夕陽、かぁ」
敦子もつられて西を向いた。細かな船がまばらに見えるその向こうに、水平線がゆるやかに引かれている。
「海に沈むんだよ」
それはきっと目のさめるようにきれいな光景だろうと思った。
あれから何度か日本海をのぞむ機会はあったものの、海に沈む太陽というものを見た記憶がない。敦子の知り得るかぎり、みなみや友美も同じだろう。
思いめぐらしていると、ポケットでさきほどの包みがかさりと鳴った。それに気をとられて指と月から意識をはずすと、マネージャーがあわてたように携帯にむかって何か捲し立てている。
「わかった、わかったから、いまからそこ、行くから、目立たないようにしていなさい」
命令口調で通話を切った。携帯をたたむのももどかしいようで、眉間に皺をつくった彼女はどこかに寄るよう運転手に告げる。それをうけて、いつもの帰り道、まっすぐに抜ける交差点を車は左に曲がった。
それまで横手にみえていた月は後ろにそれて、目で追った敦子から逃げるようにどこかへ消えた。