
田邉さんは、実は講談の研究者としても有名で、「講談研究」という地味な雑誌を長年主宰していた。作家たちを講談に連れて行ったりして、講談師たちからこの世界の「恩人」とも呼ばれていた人である。ところが、不思議なことに新潮社の人間はほとんどそのことを知らないのだ。私は昔、本人ではなく、他社の編集者からそのこと聞いて初めて知った。おくゆかしい人だった。去年のOB会で話した時はお元気そうだったのに・・・・。
悲しいといえば、フェリーニの代表作「道」の再上映会があって、「なんて悲しいのだろう」と感動再びの思いをした。この映画がイタリアで初めて上映されて60年になる今年、イマジカなど日本の映画関係者の努力で、リマスター版ができ、見事にきれいな映像に甦った。
21日にイタリア文化会館で催されたその特別上映会に、フェリーニの熱烈なファンである私は何としても時間を繰り合わせて行きたいと思った。評論家の四方田犬彦氏が挨拶に立って、ジュリエッタ・マシ―ナも出席した1993年のフェリーニの追悼式の思い出を語ってくれた。
それにしても、この映画は、ジュリッタ・マシ―ナとアンソニー・クインという生れついての役者、稀代の名優二人の組み合わせがあって傑作たりえているのだと改めて思った。荒くれだが、しかしどこか憎めない大道芸人役のクインの存在感には圧倒される。その粗暴な男を捨て切れない頭の少し弱い、しかし純粋な魂をもった女役のマシーナ。こんなに人間の本源的哀しさを表現できる女優は二度と現れないのではないか・・・・・・。この二人の男と女は、本来無一物で孤独である人間の本質を思わせてなんとも哀しい。「生ぜしも一人、死するも一人なり」といった一遍の言葉を思い出す。若い頃に見た時も感動したが、今は人間について少しは分かる歳になったから、思い深かく味わいながら観ることができた。