いま、「産後ケア」ということが注目されている。何年か前、女優の小雪さんが韓国で産後ケアを体験して話題となった。子供を生んだ後のママたちの体は容易に回復しないし、産褥期と呼ばれる時期をどう過ごすかで、その後の子育てに大きな影響が出る。昔は、実家でしばらく面倒を見てもらうことが多かったから、さほど問題視されなかったが、いまは、実家の母も働いていたりして、そう昔のように出産後の娘、孫の面倒が見られない。海外では早くから産後ケアが社会のシステムとして定着していたが、日本では里帰り出産などができていたから、かえって遅れてきた。そういう実情に問題があるとして、「産後ケア施設」の必要性を説いてきた医師の大草尚先生に共鳴し、本を出すことにした。大草先生は群馬で大きな産院を運営してきたが、最近、自ら、「さくら産後院」という産後ケア施設を立ち上げた。その経験を踏まえ、結局、原稿をまとめるまでに1年近くかかり、今月、編集作業が終わって、3月上旬にやっと刊行できることになった。私の友人の若生一春さんも、東京の一流ホテルを利用した24時間対応の産後ケア施設を準備している。今後この動きは大きいムーブメントになってくるに違いない。
やっとその本が校了になったので、20日の金曜日、国立新美術館で始まる「ルーブル美術館展」のプレス向け内覧会に出かけた。タイトルからして、ルーブルの大作名画がごそっとやってくるのかと思っていたら、このタイトルには「日常を描く―風俗画に見るヨーロッパ絵画の真髄」という副題がついていた。やってきたのは、83点でほとんどが小品だった。その中で誰もが知る名画としては、フェルメールの「天文学者」、ティツィアーノの「鏡の前の女」、ムリーリョの「蚤をとる少年」くらいだろうか。「LOUVRE]と金字ででかでかと宣伝されているのを見たら、ほとんどの人は誤解をしてしまう。内容は地味なもので、どちらかといえば玄人好みの展覧会といっていい。「ルーブル美術館展」と銘打つのは、国立美術館としていかにもおこがましく恥ずかしい。
しかし、歴史画や宗教画に比べていちだん低く見られてきた日常生活を描く「風俗画」に注目し、その正しい評価を考えさせようとする主旨には賛同できるし、実際、興味深い作品もあった。ル・ナン兄弟の「農民の食事」は初めて見たが、なかなか感銘深い作品だ。なにしろ、あの膨大なルーブルのコレクションだから、こんな秀作でも、名だたる大作名画の陰に隠れてしまうのは無理もない。素足の農民に、質実剛健な日常が素直に感じられるが、その顔つきに一種の尊厳も見てとれて、思わず見入ってしまう迫力がある。
発見はもう一つ。18世紀のフランスの画家、ジャン=バティスト・グルーズの 「割れた水瓶」だ。あどけない顔の少女の胸からは乳首がのぞいている。主題に道徳的教訓を盛り込んでいるというが、描かれたその肌の白さ、とくにその腕の白さには、ぞくッとするほどの官能的美くしさがある。ヨーロッパの画家たちが女性の肌の白さを表現するのにつぎ込んだ情熱には、なみなみならぬものを感じる。しばし、その絵に魅せられてしまった。