芸術家 王文傑、 | 美術家 村岡信明 

美術家 村岡信明 

漂漂として 漠として  遠い異国で過ごす 孤独な時の流れ
これを 私は旅漂と呼んでいる

 

芸術家、王文傑

~~~~未公開の敦煌(とんこう)遺跡に誘われて~~~~

 

王さんが「すぐ近くにアトリエがあるから見て下さい」と言ったので、気安く車にのったが、上海の都心から一時間も経つのにまだ走りつづけていた。

そこでロシアを思い出す、ロシアで「すぐそこ」といえば、一時間二時間は当たり前、中国も広いので距離感覚はロシアと同じなんだろう。アトリエに着いたのは二時間も経っていた。

王さんのアトリエはブロックに囲まれたガレージだった。中に入ると画台の上に岩絵具と描きかけの絵皿が置かれていた。すぐ横に小さなストーブが、これが真冬の暖房だろうか、

描きあがった絵は細く巻かれて積み上げてあった。王さんが絵をひろげていくと、50号~100号ほど大作ばかり、主題はどれも僻地に住む少数民族の女性であった。

                  Φ

中国で芸術家・王文傑の知名度は高く、買上げられた作品は各地に飾られている。JAL(日本航空)も買上げて、上海空港のJALのロビーに大作が飾られている。絵に関心がある日本人であれば、この絵を見ていると思う。

                   Φ

王さんは敦煌の未発掘の遺跡調査の責任ある立場にいて、毎年夏になると敦煌に長期間出向していた。ある年の夏、王さんから

「発掘は砂漠の地下、現在の敦煌遺跡より古く、中国でも一部専門家以外は見ることは出来ない。珍しい未公開の絵を見せてあげるから一緒に行きませんか」

誘われたとき、ぜひ行こう、とその気になったが、王さんの話を聞いていると、発掘現場までの交通機関は無く、現地にはホテルも電気も水道も便所も何も無いとのこと、“次の機会もあるだろう”と諦めたが、いまになってみれば貴重な機会、なぜ行かなかったのか、とすごく悔やんでいる。

                   *

2018820、(月)村 岡 信 明