儀征 の夜と朝、 | 美術家 村岡信明 

美術家 村岡信明 

漂漂として 漠として  遠い異国で過ごす 孤独な時の流れ
これを 私は旅漂と呼んでいる

儀征の夜と朝、

~~~~ 儀征の町を一人で歩く、~~~~

 

許さん家族が儀征の繁華街を案内してくれた。面白い処に行きましょう、と市場に連れて行ってくれた。市場の中の活気!威勢の良い掛け声のする鮮魚売り場に行くと、上海蟹(わたり蟹)が生きたまま水槽から這い出していた。

東京の会合で銀座の中国料理店にいくが、上海蟹の紹興酒漬が一匹 \50008000円。その上海蟹がここでは100円ほどで売られていた。

現在、この市場は立派なスーパーに変わっている。

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午後は許さん家族と別れて、ひとりで儀征の町に出かけて行った。賑やかな商店街を歩いていると、きれいな服を飾ったブティックがあった。日本では見ることのないデザインの服が、日本のお土産にと英語で聞いてみた・・・・ 店の人は誰も答えてくれなかった。通じないのだ。と言って、私は中国語は話せないし、もしかしたら、とロシア語で聞いてみた。これも反応がない。私は笑って「再見(さいちぇん)」と手を振って店を出た。

すこし行くと小さな中華料理店があったので入って行った。ちょうど麺の塊を大きく振り回しながら、ラーメンを打っているところだった。これも珍しいので、厨房のそばにいって見ていた。やがて出来上がったのでメニューの中から適当にえらんで注文した。日本のラーメンとはかなり違う味だった。とくにラーメンの上に乗せられた香草は、はじめての臭いで食べれなかった。                  

足の向くまま郊外に行くと広い川に出た。じつにのんびりした光景、まるで時間が止ったようだ。おおらかな儀征の景観。

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儀征の町は赤レンガ造りの家並みがつづき、町を歩いていると、どこからともなく聞こえてくる人々の言葉、音だけの言葉を聞いていると音楽のようだった。            

儀征の夜は静かに更けていく、真夜中に外に出て空を見上げると、漆黒の空に散る星屑の中にオリオン星座が煌めいていた。遠い異国で星空を眺めていると無意識に郷愁が忍び寄る。

 

夜が薄っすらと明るくなる頃、遠くから聞きなれないラッパの音が響いてきた。だんだん近づいてくると、何かの呼び声も聞こえてきた。何だろう?

あとで、利さんに聞くと、「荷車を曳いた豆腐売りのラッパと呼び声」とのこと。

いまでも儀征を思うとラッパのひびきが聞えてくる。

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201881、(水)村 岡 信 明