スペインの旅漂・月光とピエロ・ | 美術家 村岡信明 

美術家 村岡信明 

漂漂として 漠として  遠い異国で過ごす 孤独な時の流れ
これを 私は旅漂と呼んでいる


スペインの漂・月光とピエロ

月光とピエロ

ジンタが賑やかに鳴り出した 

ピエロの出番だ 笑いが待っている


空中ブランコが始まると

ピエロなんか誰も見ちゃいねぇ、

それがピエロ

ライトがシナリオ通りにおどけた白い顔を

アップに照らし出す、涙もかくせる厚化粧

ほんとの顏はだれも知らない


ホセの空中ブランコの神業で拍手がつづくなか

ピエロが尻を大きく上げて、ずっこけた

シナリオにないアドリブで


ホセの女房は料理がうまい

安もんのハムを土鍋にいれて、

煮立ったら玉子を割って入れる

そこに摺りおろしたトマトを流し込んで

パプリカを指につまんで 少しだけ振りかける

鍋の周りにアルコールの炎がゆらめく

フラメンカエッグの出来上がり


ギヤー ッ ~~~~~~~~~

でっこ(落下)の声が長く、ながく つづいた

ホセがでっこした!

ネットなんかいらねぇ!

俺が落ちるわけねぇだろう

いつもシェリー酒を飲みながら 口ぐせだった


ジンタがカルメン組曲に変わった、

でっこしたホセが顏中包帯を巻いて出てきた

ホッ!とした安堵が客席を流れ 拍手がわいた

ホセの身代わりとは知らず

ピエロが人生なら、人生もピエロ、

笑え 笑え 笑いなさいよ

人生、笑える時なんて そんなにないよ


猛獣使いがムチを打ち鳴らして広場に出て来た

観衆のざわめきが暗い楽屋まで聞こえてくる


小屋がはねた楽屋の中

老けたなァ- じっと見つめる鏡の中

白い塗粉(とのこ)を落としながらのひとり言

吾が子の寝顔をじっと見つめる ピエロ


夜更け 小屋の外に出る

月光が青白くピエロの素顔を照らしていた

                                               

月光とピエロ、淡彩画、art on Drawing Paper

2016416・(月)、art  MURAOKA nobuaki、,絵・村 岡 信 明