月光とバザールの女 | 美術家 村岡信明 

美術家 村岡信明 

漂漂として 漠として  遠い異国で過ごす 孤独な時の流れ
これを 私は旅漂と呼んでいる

シルクロードンP旅漂 10

  月光とバザールの女


シルクロードの砂漠は平たんではない。砂丘がうねる大波のように続いている。砂丘を切り拓いて造られた道の両側は絶壁のようにそそり立っている。

砂漠の昼は太陽にじりじりと照らされて、灼熱の砂漠は無人となる。

夕方になるとキャラバンは荷物を積み直して、旅支度を整え、深夜の旅に発つて行った。キャラバンが去った後に置き忘れられた陶器の人形が一つ残っていた。

               Φ

夜になると砂漠の地平線から、アフガンス(砂漠の砂嵐)のガス(空に残って漂う微粒子)に汚れてセピア色の満月が昇っていく。

やがて中空にかかると月光は青白く煌めき、古廟を真昼のように浮かび上がらせる。誰もいない広場に、昼に賑わっていたバザールの幻覚が現れてきた。その頃、日本では仲秋の名月の夜だった。