アーティゾン美術館で開催中の「空間と作品」展では、

絵の持ち主が作品をどう見て、どう扱ったか、そんなことを考えさせる

仕掛けが数々施されています。

 

 

 

例えばピカソの「腕を組んですわるサルタンバンク」。

この絵の来歴は、以前ブログに記したとおり。

 

芸術で稼いだお金は芸術に使うというのが信条のピアニスト、ホロヴィッツが

一時所有し、愛でていました。

 

 

 

セントラル・パークそばの5階建ての家の2階応接間に飾らられていたというこの一枚。

室内にはほかに、2台置かれたスタインウェイのグランドピアノ。

時折友人たちにピアノの演奏して聞かせ、

その合間にはこのソファに座って一息ついた、そんな話も。

 

 

 

 

今回アーティゾン美術館は、あたかも所有者になったかのような疑似体験を念頭に、

絵の前にこれ(↓)と同じソファを置くことをもくろんだようです。

しかし特殊なソファで同型のものはなかなか見つからず。

オレンジ色の色違いをなんとか見つけたものの、所有する美術館から

貸出許可が得られず!

 

 

 

代わりに置かれたのはこのつるっとした黒い椅子でした。

なんともなつかしい。

ブリヂストン美術館時代に置かれていた椅子を代わりにいくつか並べることにしたようです。

これではホロヴィッツ気分は味わえないけれど、かつてあった美術館を想起させ、

郷愁を誘うことには成功したかも。

 

 

 

この描かれた大道芸人の表情がなかなかいいのです。

悩んでいる様子はなく、静かだけどポジティブな力を与えてくれそう。

 

 

そのほか大邸宅にあったピサロの四季の4枚組が冬から順に並べられている部屋や

空海の木彫りが2体並んだ部屋も。

 

 

 

円山応挙のふすま絵展示には、見た目以上の工夫も。

世界的照明家の豊久将三さんの仕掛けみたいですがー

障子から差し込む外の光さながらの光を当てて屋敷の中の襖絵鑑賞を疑似体験。

右から差し込む光は、実際に外から差し込む光を計算して作られています。

 

 

畳の上に上がって鑑賞可。

ただし、ある一定以上距離が近くなるとアラームが出るのでご注意を。

 

 

 

襖の引手には鳳凰が刻まれているようです。

「應擧寫」の文字と落款もあり。

 

 

笹ごしに顔をのぞかせるわんちゃんのかわいらしさといったら。

金粉も残っていますね。

 

 

これまで何度か触れた三岸節子さんの南仏の絵は、

リビング再現コーナーに。

手前3脚の椅子には座ることが可能。

それよりも室内奥は立ち入り禁止。


 

 

もっとも、この階より下の、アーティゾンとっておきの耳寄りな話をちりばめた

5,4階の展示のほうが個人的にはわくわく度が高かったかな。

 

QRコードを読み込むと様々な作品の旧所蔵者情報や額縁のこぼれ話を知ることができます。

恐らくコピーライトの関係なのか、この追加情報は館内のWifiでしか読むことができず、

一旦館外に出るとNot Foundになります。

この情報を載せた紙媒体は作成されていません。

あくまで館内Wifiをつないだ人のみへ提供される情報です。

ということはIT弱者の高齢者はこぼれ話を読むことができない可能性があります。

この一連の裏話がなかなか興味深く、

もしスマホ操作ができないせいでこの楽しみが奪われるとしたら、とても残念。

 

学生一律無料など、今のアーティゾンは若年層をせっせと呼び込む一方で、

よその美術館によくある高齢者割引制度はなし。

今回の貴重な情報QRコード読み込みスタイルは初の試みで、今後どんどん

増えていく可能性も。

まるで、ターゲットは10代+いわゆるコア層、高齢者切り捨て、と断言しているかのよう。

昨今のテレビドラマみたいです。