先日NHKで、ピカソ作「サルタンバンク」の絵の来歴深堀り番組を見ました。

「日曜美術館」枠とかでない単発番組で、ちょっと唐突感はあったけれど。

 

「サルタンバンク」・・アーティゾン美術館が所有する下の絵です。

ブリヂストン美術館時代から常設展の定番で、

抽象絵画移行前の、新古典の時代の画風です。

調べると、新古典時代の終わりごろに描かれたもののよう。

 

こうした大道芸人の表情によくある愁いを含んだ瞳、

余り注力していないおおざっぱな背景に映える衣服の赤、力強い線描が印象的です。

 

 

 

 

番組によると、意外ながらこの絵が初展示されたのはフランスではなくニューヨーク。

第一次大戦で経済疲弊していた欧州を避け、アメリカ進出をもくろんだ結果でした。

画商ポール・ローザンベールの才覚が功を奏し、展覧会は盛況だったようです。

ただ値段が今の価格で2500万円と高く、すぐには売れず。

 

その後オーナーが入れ替わり、1930年にマンハッタン在住のハリマン夫妻が購入。

ハリマンギャラリーで展示され、1945年に4000万円相当で購入したのが

ピアニスト、ウラディミール・ホロヴィッツでした。

所有期間は25年にも及び、レコードのジャケットにも採用。

 

芸術で稼いだお金は芸術に使うというのが信条のホロヴィッツ氏。

ただ!この絵について本人の言葉が一切残されていないとのこと。

他にモディリアーニの絵も所有していたものの、サルタンバンクが宝だったとみられます。

 

サルタンバンクといえば興行で軽業を見せる人物。

運動神経がよく、地方を転々とする旅芸人、という点で

シンパシーを感じていたとみる向きもあります。

ホロヴィッツ自身、ウクライナで生まれ、14歳でロシア革命を機に世界演奏に出て

旅の連続という日々を送りましたから。

 

潰瘍性大腸炎で人前に出なくなった時期、
サルタンバンクとの関係がインテリアからよき友人へと変化したとみられます。

レコーディングを再開したときには、サルタンバンクのある自宅部屋で録音したといいます。


やがてこの絵はガービッシュ夫妻の手に移りますが、

夫妻の死後、1980年、オークションにかけられることに。
事前のお披露めが東京池袋西武デパートで開催され、
ブリヂストン美術館学芸課長島田さんが見に行きます。

 

美術館創始者石橋正二郎氏は、ピカソの「女の顔」の絵を購入したことで知られます。

美術館開館ポスターのメインビジュアルにも使われた誉れ高い一枚です。

そのご子息、石橋幹一郎氏は、この「サルタンバンク」を手に入れたい!と切望。

無事手に入れることが叶い、親子二代でピカソの新古典時代の名画を

手に入れたのでした。

 

かつて2500万円でも高いと言われた本作。

ブリヂストン側の購入金額は6億円以上でした。

購入後科学分析の結果、下図が現れ、サルタンバンクに頬を寄せる女が描かれていたそうです。



ピカソの「女の顔」昨年の展覧会にて

 

偉大なる石橋正二郎氏像。

 

 

ブリヂストン時代、展示室へのアプローチ部分の定番だったブランクーシ「接吻」