5/13付けのブログで触れた四谷の愛住美術館。

普段足を踏み入れることのできないアトリエが公開されていたので、今日はその時の話を。

(最新の展覧会とアトリエ公開期間はすでに終了しましたが、今後も再度

アトリエ公開の可能性あり。)

 

 

愛住美術館は、堺屋太一氏・池口史子さんご夫妻のアトリエを美術館に改装したものですが、

開館からほどなくして堺屋氏が他界。

コロナ勃発の直前、本美術館は奥様の池口史子さんの出身校東京藝術大学に

寄付されました。

よって現在の正式名称は、堺屋太一記念 東京藝術大学 美術愛住館です。

 

本美術館では、画家・池口史子さんの展覧会が定期的に行われるほか、

数年前にはアンドリュー・ワイエス展のような特別展が開かれました。

 

 

先日訪れた展覧会は、池口史子さんの作品展でした。

とにかく池口さんの絵は、色彩が独特。

人物画にしても、風景画にしても、夕日を浴びているような

ノスタルジックな色合いを醸しています。

そしてなんといっても、感じる静けさ、寂寥感。

先日の小杉小二郎氏との対談によると、それらは、自然ににじみ出るものではありながら、

まとめあげる行程はまさに「格闘」に近いようなものがあるようです。

 

 

 

 

北米、欧州滞在時には、現地の女性を多く描いています。

厚い質感のカーテン素材などには日本人モデルでは合わないそう。

場所ごとに、材質ごとに、そこにぴったりとはまる肉体的特徴といったものが

あるようです。

芸術家の感性って凡人とは違うなぁ。

 

 

 

このほど公開されたアトリエは4階にありました。

洒落た室内の設計指導は、安藤忠雄氏が行っています。

ただし、こちらのアトリエを使用したのはそれほど長い期間ではなかったと記憶します。

 

 

 

主のいないアトリエ。

細長い間取りで本棚は作り付け。

 

 

広い窓に向いて机が置かれています。

 

 

在りし日の様子。

現在のアトリエはすっきりしていますが、当時はズラリ並んだ書籍が壮観。

 

 

お隣は奥様のアトリエ。

 

 

大型の絵も数々手掛けており、ご主人のアトリエより広い間取りです。

 

 

 

池口さんは、長年”堺屋太一氏の妻”、という色眼鏡で見られ苦しんだと対談で

語っておられました。

絵には産みの苦労があるものの、その苦労には耐えられる、

でも、画壇にはなじめなかった、とも。

マスコミの騒がしさも苦痛だったようです。

 

画家として独り立ちしたい、という思いがつのるものの、なかなかブレークせず。

ご主人に伴って行った米国である一つのモチーフに出会います。

それは、無機質ともいえるWheat pool、穀物倉庫。

「人が面白いと感じないものに惹かれる」、と。

このシリーズの絵でひとりの批評家に評価してもらったのが発端で

一躍時の人になりました。

 

 

 

これは欧州滞在時の絵だと思います。↓

ちょっと的外れな言い方かもしれませんが、デ・キリコ的の形而上絵画の

一歩手前、という印象。

うまく言えないのだけど、、、、

きっとありのままの情景に近いのではあろうけれど、異質の空間を生み出している、

みたいな。

形而上絵画とかシュールレアリズムの渦中の作品との境界線ぎりぎりのところに

宿っている絵画に思えます。

 

 

 

 

対談で印象に残った話:

堺屋太一と出会ったとき、通産官僚でありながら本を書いていると聞き、

本当かしら?と疑念を抱いた史子さん。

当時通産官僚だった叔父に調べてもらったら、確かに在籍している人だと判明。

でも、叔父からは「変わった人だよ」と言われたそうです。

 

 

 

花の絵にも、池口さんの個性がはっきり刻まれています。

どこか妖しげで、はかなそうだけど、しぶとそう。

 

 

2階からは、1階の展示室を見下ろせる構造です。

 

 

 

会期中にブログを書こうと思っていたのに、東京建築祭のネタに時間を割きすぎました。
鉄は熱いうちに打つべきだったなぁ。

 

次の展覧会はまだ情報が出ていません。

アトリエは、当初は非公開でしたが、リピーターを生み出すにはどうしたらいいかと考え

公開に踏み切ったと聞きました。

なので今後の公開にも期待。

小粒ながら、ゆったり作品に浸れる空間です。