先日仙厓展のことを書いた際、有名な□△〇=丸三角四角の絵のことにも触れるつもりでした。

単に、画面に□△〇を並べただけの絵。

とはいえシンプルでありながら、

解説によると仙厓さんの禅画のなかでもこれは一番難解と言われているそうです。

 

〇は円満な悟りを示すと思われるものの、解釈は何通りかあり、

出光美術館では明言を避けています。

ただ、この3つの形でこの世の存在すべてを象徴していると考えられ、

いわば宇宙感のようなもの、としています。

 

ただこの話、昔ブログに既に記したな、と思って途中で書くのは止めました。

代わりにふと、〇△□を建築であらわした人がいた気がする、

誰だっけ?とそちらの方が気になりだしてブログを書き終えてからも

そわそわしていました。

 

そしてふと、今日になって思い出したのです。

カナダ大使館を設計した日系カナダ人のレイモンド・モリヤマさんだ!と。

 

 

あれはコロナ勃発の前の年、2019年のこと。

カナダ大使館は日加修好90周年ということで、カナダ大使館で

建物作者であるモリヤマさんの講演会がありました。

 

 

 

この時のモリヤマさんのお話で、設計にあたっては禅の〇△□を意識した、といった

ことが語られたのです。

 

建物の外観はざっと見た感じ□=四角ばかりが目につきます。

 

ところどころに弧を描いている部分はあり、

 

 

円柱もありました。

ただ、〇△□を意識したようには見えません。

 

 

 

でも、上階にある入り口に近づくにつれ、幾何学図形が散りばめられている一角を発見。

禅画への意識、はこのあたりに色濃くにじんでいました。

 

 

 

モリヤマさんが意識したもうひとつは、ロケーション。

なにしろ向かいは赤坂御所。

隣は高橋是清翁公園。

周囲への配慮が欠かせません。

 

(↓写真はカナダ大使館方面から是清翁公園越しに草月会館を眺めた図。)

 

 

御所にも適宜建築の進捗を知らせたそうです。

 

交通量の多い青山通りに面しているとはいえ、こうした御所や公園の存在を意識して、

静けさの演出に力を入れたとか。

 

実際、外付けのエスカレーターで入り口のある上の階に上ったところにはー

 

 

白っぽい日本風の庭が広がっていました。

 

 

奥に東京タワーが見えます。

 

 

 

お話の中で特に印象に残ったのが、子供時代に立ち戻ってデザインを考えた、

というくだり。
 

子供時代、モリヤマさんが初めて作った家がツリーハウスでした。

いわゆる原点回帰です。

 

モリヤマさんの父親はなかなかのアクティヴィストで、家族はかなり苦労をされています。

父の投獄中は母親と子供たちで貧しい日々を送ります。

さらに大戦に突入し、一家は収容所へ。

母はその間身ごもっていた子供を流産するなど新たな悲劇もありました。

そんな中、逃避の場所として作ったのがツリーハウスでした。

 

もともと建築、ということに興味を覚えたのは幼児期のこと。

火傷で長期間ベッド生活を送る中、窓から見える建築現場に足を運んでいた

設計家に憧れたのだそう。

設計青写真を小脇に抱え、パイプをくゆらす姿がかっこよかったとみえます。

 

 
 
氏はずっとカナダを拠点にされていて、講演会もオール英語。
日本との接点はそれまであまりなかったようにお見受けしました。
なので、日本的な要素はどんなものがあるかな、とあれこれ考えつつ
庭や禅にたどり着いた印象です。
 
そんな中、この建物のどこかに投影されている若いころのツリーハウスは
紛れもない日本との接点です。
日本人収容所という特殊な場所ではありますが、唯一の安息を得た場所であり、
ポジティブなものとして氏の心の中に住み着いているものに違いありません。