『ピエール・アレシンスキー展 おとろえぬ情熱、走る筆。』 ~Bunkamura ザ・ミュージアム | 美術ACADEMY&SCHOOLブログ出動!!!

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美術Academy&Schoolスタッフがお届けする、ARTを巡る冒険の日々♪

 

あらゆる“あわい”を描き続ける、ほとばしるエネルギーの圧倒

 

 

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会場入り口


 渋谷Bunkamuraザ・ミュージアムでは、ピエール・アレシンスキー国内初となる本格的な個展が開催されています。

 

 

 

 

 

制作中のピエール・アレシンスキー 2009年
© Adrien Iwanowski, 2009
 

 


 ピエール・アレシンスキー。

 

 1948年に結成された前衛美術集団CoBrA(コブラ:コペンハーゲン、ブリュッセル、アムステルダムの頭文字をとった)の結成メンバーとしてデビューし、その理念を継承しつつ、89歳となった今も新しい表現を模索し続けるベルギーを代表する現代アーティストです。

 

 51年にグループは解散しますが、その前衛的な考え方と、即興性の強い、内面の情熱を描き出したような激しい筆さばきは、その後のアレシンスキーを特徴づける基本要素となりました。

 

 1940年末の初期から最新作まで、およそ80点で彼の画業を概観する展覧会は、時系列に5章の構成。

 コブラ解散後に彼が強い影響を受けた日本の書との関係とともに、激しさと怜悧さと、皮肉とユーモアと、物語とインパクトと、独特の作品世界で魅了してくれます。

 


 1.コブラに加わって

 

 1944年に美術学校の広告部門に入学したアレシンスキーは、在学中に左利きを矯正されたことをきっかけに、画像が反転する鏡像化に対する自身の優位性を見いだし、主に版画や挿絵の作品を生み出します。

 

 そしてコブラのメンバーと知り合い、パリを主軸にしていたその活動に積極的に参加していきます。

 

 「左手は絵を描く手、右手は文字を描く手」として、その共通点と相違点を意識していたというアレシンスキー。

 

 人びとに文字とイメージでメッセージを訴える広告という手法、左手から右手への移行、コブラの理念である因習の打破と新しいものへの挑戦、そのための勢いある筆致など、この時期に培った感覚は、その先の彼の表現の根幹を形成したのでしょう。


 まずは、第1回コブラ展に出品された版画作品から、油彩表現へと開花していく、若き日のアレシンスキーを観ていきます。

 

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展示風景
すでに独特の表現を持つ《職業》の連作版画


 9点のエッチングの連作は、それぞれの職業に特徴的なモティーフを活かしながら、不思議な容姿で表した《職業》

 

 ファンタジックな雰囲気の職業の「記号」となった人物たちは、どこか詩的なユーモアも湛えています。

 

 

 

 

 

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展示風景
読み解きが楽しいリトグラフの連作
 

 


 「ネオン」や「太陽」、「漆喰」などの事象の名がつけられたリトグラフ作品は、タイトルによってそこに描かれている世界が改めて浮かび上がってくる面白さがあります。

 

 

 

 

 

 

 

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《夜》1952年 油彩、キャンバス 大原美術館蔵 © Pierre Alechinsky, 2016


 この頃の油彩作品。
 コブラ解散(1951年)後、日本の書と出逢ったころに描かれた1枚です。

 

 象形文字のような記号のような白い線が闇に浮かび上がります。
 それは固定化されず、今でも次々と動いてその姿を変えていきそうです。
 読めそうで読めない画面には、静けさと賑やかさが共存しています。

 


 2.「書く」から「描く」へ

 

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制作中のピエール・アレシンスキー 1986年
© Agnés Bonnot, 1986
 

 コブラの解散の年、さらなる表現を求めてパリに移っていた彼は、通い始めていた版画学校で日本の前衛書道誌『墨美』と出会い、その動きと造形の勢いに魅せられ、日本の書の世界へ急速に近づいていきます。

 

 現代書家である藤田子龍との文通を始め、55年には念願の来日も果たします。


 その際には「日本の書」というドキュメンタリー・フィルムも作成、その作品も会場で観られます。

 

 やがて軽やかな水墨画で庶民へ禅の教えを説いた禅僧・仙厓を師とも仰ぎ、絵と文字の独自の関係性を作品にしていくのです。

 

 同時に、中国人アーティストから中国式の描き方を習い、その時から床に紙を置いて身体全体で描き、その後キャンバスに貼る、彼の制作スタイルが確立しました。(こちらも制作風景がビデオで観られます!)併せて画面も大きくなっていきます。

 

 ここでは書が持つ、記号的な造形要素、文字・言葉が表現するもの、そして筆の勢いから生まれる動きのある線を追求し、表現として獲得していく様子を、油彩・墨画の両作品で確認します。

 

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展示風景 油彩作品の2点。
《新聞雑報》 1959年 油彩、キャンパス いわき市立美術館蔵(左)
《誕生する緑》 1960年 油彩、キャンバス ベルギー王立美術館蔵(右)


 油彩作品の《誕生する緑》(右)。

 

 緑から青が激しくうごめく画面は、いままさにその空間に“緑”という存在が生まれ出る瞬間をとらえたようです。

 

 その線は人の顔を浮かび上がらせ、蛇のような生物を生み出し、かと思うと瞬く間に溶解させる、生命のるつぼにも見えてきます。

 

 

 

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展示風景
オレンジの皮を描いた墨画連作
 

 


 アトリエを共有していた彫刻家がもたらしたオレンジの皮をさまざまにバリエーションとして墨で描いたもの(→)。


 具象的なオレンジの皮が、抽象的な形象にもなっていくゆらぎが観られます。

 

 

 

 


 3.取り囲まれた図像

 

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展示風景 版画作品にもコミックのコマ割りの影響が…
《紙と墨の城壁》 1979年 墨、和紙 ベルギー王立美術館蔵
《中庭への窓》 1977年 アクリル絵具、和紙 ベルギー王立美術館蔵

 65年からアメリカに長期滞在したアレシンスキーは、そこでアクリル絵具とコミックに出会います。

 

 乾くのに時間がかかる油絵具は、作品に即興性を求める彼にとっては、扱いにくい素材でした。

 

 それに代わり、速乾性のあるアクリル絵具を使用することで、創作スピードもアップし、画面もより巨大になっていきます。

 

 また、コミックは、そのコマ割りの表現方法が、即興性とともに物語性も籠めたい創作意図に合致したようです。

 


 以後、西洋絵画の伝統でもあった「下部挿画(プレデラ)」形式を採用し、画の周りにコマ割りの画面をつける、彼のもう一つのスタイルが生まれました。

 

 ますます色彩もその勢いも増していく表現と、そうした作品を取り囲むコマ割りの枠が描き込まれた、「アレシンスキー」を代表する作品たちに出逢います。

 墨画、版画、アクリル画とさまざまな手法で自在に表現を拡げていく、エネルギッシュな姿を感じられます。

 

 

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《写真に対抗して》 1969年 アクリル絵具、キャンバスで裏打ちした紙
ベルギーINGコレクション © Pierre Alechinsky, 2016


 人間か化けものか判然としない生物めいたものが蠢動する赤い大画面の下には、象形文字か、記号か、マンガのようなコマが並びます。

 

 タイトルと合わせた時、その画面は私たちに、物語か主張の読み取りを促します。でも読めそうで読めない…。ここにも、突き放しながら魅了する、彼の作品の面白さがあります。

 

 

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《肝心な森》 1981-84年 アクリル絵具/インク、キャンバスで裏打ちした紙
作家蔵 © Pierre Alechinsky, 2016

 

 中央のカラー画面は「森」を示す植物の繁茂を表しているのでしょうが、その周囲を取り囲むモノクロームのコマたちは、やはり物語を持っているように感じます。

 

 処々に見える蛇や人物のような影、昼と夜の大地のような風景は、森の生成の神話にも捉えられて、どこか聖性をも思わせる作品です。

 

 

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《至る所から》 1982年 インク/アクリル絵具、キャンバスで裏打ちした紙
ベルギー王立美術館蔵 © Royal Museums of Fine Arts of Belgium, Brussels/
photo : J. Geleyns - Ro scan © Pierre Alechinsky, 2016


 「至る所から」出て行こうとしているのでしょうか?それとも引き込もうとしているでしょうか…?

 

 風景とも生物とも見える中央画面の拮抗する緊張感に、周囲の鮮やかな色彩のにぎわいが、ザワザワとした喧騒となって、さらなる緊張のバランスをもたらします。こちらもまた、強烈なインパクトとともに不思議な美を放ちます。

 


 4.記憶の彼方に

 

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展示風景 古地図の上に描かれた作品たち
《氷の目》 1982年 (左)
《真上から見たニューデリー》 1982年(右)
2点ともインク、キャンバスで裏打ちした空港図 作家蔵
 

 3章の作品にも確認できますが、アレシンスキーは62年頃から、古い手紙や使用されなくなった地図、不要になった書類や証券などの反故紙を多く使用するようになります。

 

 それは、キャンバス作品のプレデラ部分に使用されることもありますし、スケッチやデッサンの支持体にもなります。

 

 文字とそれが意味するもの、そして描かれる画という関係性にこだわったとても彼らしい作品たち。

 カラフルで美しく、勢いの中に軽やかさを併せ持ったステキな作品が多いです。

 

 ある時は意味深に、ある時はロマンティックに、またある時はコミカルに、時間と意味と記憶について、そして言葉と遺された文字、その形としてのあり方、さまざまな要素がこめられているのを感じます。

 

 

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《あなたの従僕》 1980年 水彩、郵便物(1829年12月17日消印)
ベルギー王立美術館蔵 © Royal Museums of Fine Arts of Belgium,
Brussels/photo : J. Geleyns - Ro scan © Pierre Alechinsky, 2016


 誰かの手紙の上に描かれた人物。
 宛名の飾り文字の曲線もうまく活かされた、愛らしい小品です。
 このシリーズが並んだ壁は、ユーモラスでポエティックで、うっとりします…。

 

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展示風景
反故紙の上に描かれた作品は詩的空間に…
 
展示風景
左の2点。ユーモアと地の文字を活かした人物像
 

 

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《ローマの網》 1989年
インク・アクリル絵具、拓本、キャンバスで裏打ちした紙
作家蔵 © Pierre Alechinsky, 2016


 こちらは、拓本(フロッタージュ)の周りに彩色したもの。


 ニューヨークやローマのマンホールの蓋の拓本や、ガス栓など、日常の街にある、普段は無視されがちなものに、それぞれの土地の記憶や歴史、風景が配されます。


 3点のバリエーションが観られる嬉しい展示です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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《ボキャブラリー Ⅰ-Ⅷ》 1986年 アクリル絵具、キャンバスで裏打ちした紙 作家蔵
© Pierre Alechinsky, 2016


 8連画の巨大な作品。
 火山、滝、城壁、風景、木や海など、タイトルにあるとおり、表象と言葉を追求するアレシンスキーの辞書ともいえるもの。

 

 各々の画面は切り取られたひとつの世界(ないしはことば)ですが、大画面として構成されたとき、それは彼が捉える「世界」を生成します。

 読み解いていくのが楽しく、魅力的な作品です。

 


 版画作品にもご注目!

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展示風景 美しい彩色のエッチングは中国紙に描かれています
《無音の返答》 1988年 エッチング、中国紙 作家蔵(左)
《プリズム》 1988年 エッチング、中国紙 作家蔵(右)
 
 

 

 火山や森をモティーフにすることの多い彼の、もう一つの題材が「滝」です。


 右側は滝をイメージした1枚。カラフルな周囲は、季節の移り変わりや水のイメージでしょうか、まるで日本の描表装のようです。

 

 

 

 

 

 

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展示風景
《ヴォワラン印刷機》の連作(2003年リトグラフ、アルシュ紙 作家蔵)
は部屋に飾りたい美しさ
 

 

 

 (←)20世紀初頭のリトグラフ機械製造の大手であったヴォワラン社へのオマージュといえる連作。


 オフセット印刷の流通により、リトグラフ産業は消滅します。


 いまでは数人しか創作に使用していないこの機械を、アレシンスキーは「絵を描く機械に徹し」ているとして愛しました。


 そのプレス機で刷られた美しい配色の3枚は持って帰りたくなります…。

 

 


 5.おとろえぬ想像力

 

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展示風景 色彩を抑え、構成的になる近年作
《直観的な廊下》 2001年 アクリル絵具(左)
《雄山羊》 1999年 インク/アクリル絵具(右)
2点ともキャンバスで裏打ちされた紙 作家蔵
 

 多様な支持体、さまざまな素材、そしてバラエティ豊かな制法と、常に新しい表現と変化を求めるアレシンスキーの創作の情熱は、89歳になる現在でも衰えることなく、次々と作品を生み出しています。

 

 最終章では、最新の作品に、コブラから延々と引き継いできたもの、彼のこだわり続けてきたもの、そして新たに生み出しているものを確認します。

 

 宇宙や自然、世界の生成のエネルギーを捉え続けてきた彼は、「円環」にたどり着きます。

 

 新しい作品では、キャンバスを丸くした作品たちが印象的です。

 

 

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《デルフトとその郊外》 2008年 アクリル絵具、キャンバスで裏打ちした紙
作家蔵 © Pierre Alechinsky, 2016


 デルフト焼きの青を思わせるブルーで描かれるのは、デルフト郊外の風景。
 円という一つの完結した空間に現わされる街は、それだけで充足し、過去と今、そして未来の姿をわたしたちの前に示します。

 

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《鉱物の横顔》 2015年 アクリル絵具、キャンバスで裏打ちした紙
作家蔵 © Pierre Alechinsky, 2016


 コブラの継承を感じさせる蛇(?)は、モザイクのようなカラフルな縁取りが、ワッペンみたいでちょっとユニークな作品。


 しかし、蛇のレンガのボディと、その体を囲う白い升目が壁に見えてきたとき、タイトルと相まって、どこか社会的な意味合いも感じられて…。

 

 

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展示風景 円形作品が並ぶ空間は印象的です
左から
《最終攪拌》 2011年 インク/アクリル絵具、《デルフトとその郊外》 2008年 アクリル絵具
《鉱物の横顔》 2015年 アクリル絵具、《それを納得する》 2010年 アクリル絵具
4点すべてキャンバスで裏打ちした紙 作家蔵

 

 会場ではこの円形の作品が壁に一堂に並びます。
 このように円形作品をまとめて展示する形はこれまでになかったのだとか。

 

 海外キュレーターもそのインパクトに驚いたという展示空間は必見です!

 

 


 勢いのある筆致と色彩で新しい作品を生み続けるアレシンスキー。
 なにを捉え、なにを感じるかは、それぞれ観るものに託されています。

 

 しかし、変わらないのは、画と文字、イメージと言葉、具象と抽象、ストーリーと即興、過去と現在、色彩と黒白、世界と生物、あらゆる境界の“ゆらぎ”を描き出していること。

 

 ほとばしる情熱の中にその“ゆらぎ”を感じてください!

 

 

(penguin)

 
 
 
『ピエール・アレシンスキー展 おとろえぬ情熱、走る筆。』

 

開催期間:2016年10月19日(水)~12月8日(木)

会場 :Bunkamura ザ・ミュージアム (渋谷)
    〒150-8507 東京都渋谷区道玄坂 2-24-1

アクセス :JR「渋谷駅」(ハチ公口)より徒歩7分
       東京メトロ銀座線、京王・井の頭線「渋谷駅」より徒歩7分
       東急・東横線、東急田園都市線、東京メトロ・半蔵門線、
       東京メトロ・副都心線「渋谷駅」(3a出口)より徒歩5分
     * お車の場合、専用駐車場はありません。東急本店駐車場(有料)をご利用ください

開館時間 :10:00~19:00
       (毎週金・土曜日は21:00まで、入館は閉館の30分前まで)

休館日 : 無休

観覧料 : 一般 1,400円(1,200円)/高校生・大学生 1,000円(800円)/小・中学生 700円(500円)
     *( )内は20名以上の団体料金(電話での予約必要 Tel.03-3477-9413(Bunkamura))
     * 学生券をお求めの場合は学生証の提示が必要
     *障害者手帳の提示で割引料金あり。詳細は窓口でお尋ねください

お問い合わせ :Tel.03-5777-8600(ハローダイヤル)

公式サイトはこちら
 
 

 

『ピエール・アレシンスキー展 おとろえぬ情熱、走る筆。』
招待券を10名様へ!!(お一人様一枚)


応募多数の場合は抽選の上、
当選は発送をもって代えさせていただきます。


《申込締め切り 11月24日(木)》


お申し込みは、ticket@art-a-school.info まで 手紙


!!希望展覧会チケット名、お名前、送付先のご住所を忘れずに!!
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