ため息ものの、うるしの競演。
![]() |
静嘉堂文庫美術館の秋は、しっとりとした“うるし”の艶やかさときらびやかな技の妙に満たされています。
当館の漆芸コレクションは、飲食器や調度品から、伝世の茶道具、多くの印籠と、幅広く、豊かで、そのクオリティも半端なし!
その900点を超える所蔵から特に優品をセレクト、なんと10年ぶりの一斉公開中です。
(※会期中展示替えがあります)
※会場写真は美術館の許可を得て撮影しています
特に見どころは
●近世初頭の漆芸の傑作《鞨鼓催花・紅葉賀図密陀絵屏風》(重文)が、修復後の初公開!
あらゆる漆芸技法を駆使したその技の冴えもよりはっきりと確認できる、嬉しいお披露目です。
●静嘉堂の貌、ふたつの天目茶碗が、その品格にふさわしい天目台に乗せられた状態でお目見え!
静嘉堂でもめったにない展示の形だそうです。本来の使い方を観られる嬉しい企画です。
●日本、中国、琉球、朝鮮、それぞれの漆芸作品が一堂に集結!
各地域、各時代の特徴もあらわに、その美を競う空間は、豪華そのものです。
入り口から、驚愕の作品のお出迎え。
![]() | ![]() |
大きな画面は、漆と密陀絵(一種の油絵)の技法で描かれた、超一級の工芸品。
作者も、注文主も、旧蔵者もいまだ不明、日本の漆芸史上でも類を見ないミステリアスな屏風に描かれるのは、中国玄宗皇帝と楊貴妃の故事と『源氏物語』の「紅葉賀」の風景。
漆絵に蒔絵、金貝、縁には螺鈿もほどこされ、それまで漆では表現できなかった白を密陀絵によって実現した、漆芸の集大成のような作品です。
修復を終え、表面の汚れも落とされて、人物の顔や花々の微妙なグラデーションも細やかなところまで観られます。
もっとも美しい状態での展示は必見!
片隻ずつ展示替えがありますが、11/8(火)~11/20(日)は、2隻そろって観られるチャンスです!
第一展示室で、最初に漆芸の技術とその名称を学びます。
![]() |
蒔絵、螺鈿、金地、金貝、針描、目地といった、それぞれの技が組み合わされた香炉や小箱、大棗などのみごとな作品でその効果を確認できる、目で見て学べる嬉しいスタートです。
中央にあるのは、静嘉堂の至宝たち。
![]() | ![]() |
前期は、《秋草蒔絵謡本箪笥》(重美)。
撫子や薄などを金銀の蒔絵で描き、光悦風の書体で謡曲の題名を螺鈿で散りばめた箪笥。
薄の先に光る露にご注目!銀鋲をはめ込んである細やかな意匠を確認してください。
後期には、尾形光琳の《住之江蒔絵硯箱》(重文)が出品されます。
私淑した光悦の硯箱を模して制作したと光琳自らが箱に記している、大胆かつ豪華な硯箱です。
さらに。
その風格と精緻さによって《油滴天目》(重文)と《曜変天目》(国宝)に合わせるべく選ばれた、天目台の逸品が、まさにその相方を乗せて順次公開されます。
![]() | ![]() |
前期は《油滴天目》と《花卉堆朱天目台》。
牡丹や菊の豪華な花々が彫りだされた、重厚な朱漆の天目台。茶碗の黒とよい対比をなしています。なんと合わせて1.5kg以上!!
後期は《曜変天目》と《黒漆天目台》。
黒漆に縁を金が囲うシンプルで優美な天目台。対照的にスマートなたたずまいで、茶碗内部の妖しい輝きを引き立てることでしょう。
通期では《灰被天目》も《屈輪堆朱天目台》とセットで展示されています。
壁面展示は日本の漆芸から。
日本の漆芸を代表する技術である蒔絵は、平安時代から始まり、鎌倉時代には高蒔絵、平蒔絵の技術などがほぼ出そろったそうです。
戦国期までには朝鮮半島や琉球から螺鈿や密陀絵、箔絵などの技術が輸入され、南蛮漆器などの華やかな作品が作られます。
江戸時代には、さらに大胆な意匠や素材使いも登場し、それらは、洒落者の必須アイテムとなった印籠などにも職人の名とともに刻まれていきます。
![]() |
清水九兵衛の銘が入った《浪月蒔絵硯箱》。(→)
金銀の波濤の上に冴えわたる三日月が、とても日本らしい、繊細で情緒ある風情を出しています。
古満安匡の銘が入った《四季山水蒔絵棚》の引き戸部分。(↓)
![]() |
漆黒の中に日本の四季が色彩豊かに浮かび上がります。
なんと豪華な棚であることか・・・。全体像が写真でも紹介されています。
そして原羊遊斎と柴田是真。
![]() |
オランダ輸入の顕微鏡で観察された雪の結晶をモチーフにしたもの。(左)
黒漆に金蒔絵であしらわれた結晶は23種もあるそうです。いまでもモダンな当時最先端のデザインはさぞかし通人を喜ばせたろうと…。
もう一方は金銀の高蒔絵の秋草に金銀赤銅の象嵌で秋の虫をあしらったもの。(右)
下絵は江戸琳派の祖、酒井抱一のデザインで、当代アーティストのコラボレーションという、贅沢な作品。
このほか、印籠だけを集めたケースもあります。
さまざまな技法とデザインの工夫、職人たちの技の競演は、根付のユニークさも含めて楽しんで。
![]() |
幕末から明治にかけて活躍した柴田是真は、本来は分業であった下絵から蒔絵の制作をひとりで行い、明治期には漆絵も多く残しています。
重箱は、5段それぞれに地色を変え、雰囲気も変えながら、流れる川の移り変わりが描かれます。
蓋にも注目。光沢を持った櫛目の波は、製法が不明になっていた「青海波塗」を彼が復興したものです。
是真の作品は、伊万里金襴手の丼(10客)の上にのせるために作成された、すべての塗りと意匠を変えた《変塗絵替丼蓋》も。10枚全作が並んでいるもは壮観です。
また、戦国から江戸にかけてその名を馳せた塗師・藤重父子のコーナーでは、大名物の《唐物茄子茶入》が、彼らの作品とともに展示されます。
![]() |
前期は「松本茄子(紹鷗茄子)」。後期は「付藻茄子」。
いずれも陶磁器ではなく漆器。その形も、漆黒の艶も、手に包みたい愛おしさです。
大坂夏の陣で罹災し、破片となったものを、家康の命により藤重父子が繕ったもの。
その期間わずか3カ月だったそうで・・・。
400年前を経てもなお、その艶やかさを失わず、ヒビも見られない、その腕は、家康も「古今不思議之手涯(てぎわ)」と激賞、そしていまなお驚愕の技術なのです。
そして大陸からもたらされ、「唐物」として日本人に愛された唐物漆器へ。
![]() |
「天目台」も唐物のひとつですが、ここではちょっとユニークな《唐物瓢箪茶入「稲葉瓢箪」》に付属している《人魚箔絵挽家》を。
蓋には2つの尾を持つ人魚が描かれていて、西洋を感じさせる面白い茶入のケース。
学芸員さんに指摘されて、アメリカの某有名コーヒーチェーン店のロゴマークが浮かびます・・・(笑)。
江戸はいまよりもよほどモダンな目を持っていたのかも・・・。
第二展示室では、中国漆器の名品たち。
![]() |
日本漆器は特に「黒」の艶とそこに浮かび上がる文様や風景を愛し、中国では、「朱」の鮮やかさとその彫の美が愛でられていたように感じます。
堆朱、堆黒、屈輪(ぐり)から、線刻に金箔を埋め込む鎗金(そうきん)など、螺鈿に加え、明時代にはほぼ出そろっていたといいます。
その頃には官営工房も設営され、作品は厳重な管理のもとで制作されていくようにもなります。
![]() |
官製であることを示す「大明永楽年製」の銘が入った盆。
幾重にも塗り重ねられた漆を彫って浮かび上がる牡丹が花型の形とともにゴージャスな一枚。
展示室では鏡で外側の彫りも確認できるようになっています。
![]() |
同じく官製がわかる「大清乾隆年製」の銘がある合子(ごうす)。
螺鈿や色漆も美しい中国漆器たちの中で、ひときわ存在感を放っています。
菊花をあしらった形成の精緻さと鎗金で描かれた花蝶たちの繊細さは息をのみます。
学芸員さん曰く、「金糸の刺繍のよう」という、蓋の意匠はぜひ実物で!
このほか、やはり「大明宣徳年製」銘のある九龍が彫り込まれた《雲流堆朱盒》(通期展示)も、みごと。
![]() |
(←)カラフルな象嵌でさまざまに舞う蝶をあしらった《蝶嵌装入隅四方組皿》(10枚揃)は、大ぶりなものが多い中国漆器の中では可憐で、ちょっとホッとします(笑)。
続いて琉球の漆芸です。
地域的にも大陸に近い琉球では、その王国時代に、多彩な技術や意匠を取り込んで、多様な漆芸作品を生み出しました。
それらは大量に中国に輸出され、薩摩藩下に置かれた17世紀以降は日本への献上品としても造られるようになったそうです。
![]() |
第二展示室の中央に置かれた大きな屏は、台座に至るまで、びっしりと螺鈿装飾に覆われています。
描かれているのは唐の詩人・杜牧の七言律詩にうたわれた風景の蘇州版画を写したもの。
これまた見ごたえ十分。
このほか箔絵や堆金のカラフルなお盆(揃えもの)を楽しめます。
最後は朝鮮の漆器を。
朝鮮の漆器は黒漆地に螺鈿装飾をほどこしたものが主流です。
玳瑁(たいまい)や金属の縒線をほどこしたり、大ぶりの貝に意図的に亀裂をつくって、輝きに表情を出す割貝などの技法が見られます。
全面を螺鈿で飾られた作品は、七色の光を放ち、かなりあでやかながら、唐草文様や矩形の貝を張り巡らせた箱は、抽象的なシンプルさを持ち、もっとも現代的な印象を与えます。
![]() |
こちらは鮑を用いて牡丹唐草と竹や花模様を表したもの。李朝時代の割貝の技法を駆使した名品です。
![]() |
出口では、東南アジアの漆芸がちょこんと並んで見送ってくれます。
《独楽香合》が、ほんとうに独楽のようにくるくると回りそうなかわいらしさで、笑みを誘います。
![]() |
ロビーは、古九谷、有田の陶磁器が、漆とは異なった質感と色彩で、もうひとつの工芸の技を魅せています。
うるしの名品たちに当てられた目には、また鮮烈に感じられ、リフレッシュできるかも(笑)。
いずれも劣らぬその「名品」ぶり、疲れたらちょっとここで一休みして、庭園の秋の風情も楽しんで、また会場に戻るのもよいかと。
ゆっくり、しっかり味わいたい展覧会です。
(penguin)
※サイト内の文章・画像等の内容の無断転載及び複製等の行為はご遠慮ください
『漆芸名品展 ―うるしで伝える美の世界―』
※一部展示替えがあります(前期:10/5-11/6/後期:11/8-12/11)
〒157-0076 東京都世田谷区岡本 2-23-1
アクセス :東急大井町線・田園都市線(地下鉄半蔵門線直通) 「二子玉川」駅下車、
駅前④番バス乗場より東急コーチバス「玉31・32系統」で「静嘉堂文庫」下車。徒歩5分
または二子玉川駅からタクシーで約10分
小田急線 「成城学園前」駅下車、南口バス乗り場から「二子玉川」行きバスで「吉沢」下車
徒歩10分
*駐車場が美術館前に20台分あります。美術館入館のお客様は無料でご利用いただけます
開館時間 :10:00~16:30 (入館は16:00まで)
休館日 :毎週月曜日
入館料 : 一般 1,000円/大高生 700円(20名以上団体割引)/中学生以下無料
お問い合わせ :Tel.03-5777-8600(ハローダイヤル)
公式ホームページはこちら
『漆芸名品展 ―うるしで伝える美の世界―』
招待券を10名様へ!!(お一人様一枚)
応募多数の場合は抽選の上、
当選は発送をもって代えさせていただきます。
《申込締め切り 10月31日(月)》
お申し込みは、ticket@art-a-school.info まで
!!希望展覧会チケット名、お名前、送付先のご住所を忘れずに!!
美術ACADEMY&SCHOOL チケットプレゼント係
〒102-0083 千代田区麹町6-2-6 ユニ麹町ビル4F03-4226-3009
050-3488-8835