美術ACADEMY&SCHOOLより
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※しばらくアーカイブとしてこの記事たちは残しますのでお役立てください。
新設したブログ、少し記事が溜まるまでご案内を延ばしてしまいましたが、何卒ご了承くださいませ。
美術ACADEMY&SCHOOL のブログ出動!!! ⇔2011年3月よりアメブロに引っ越しました♪
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現代に受け継がれ飛躍する技巧を堪能
2014年に明治工芸の極みを見せつけ、話題となった「超絶技巧展」が、さらにパワーアップして日本橋・三井記念美術館に帰ってきています!
明治工芸の技と美の続編ともいうべき内容は、近年新たに確認された作品に加え、その技術を継承し、現代の感覚で新しい作品を生み出している若手アーティスト15名との競演という、エキサイティングな空間を造っています。
まもなく終了、未見の方はぜひ!の作品たちを一部ご紹介します~。
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会場は、「七宝」「漆工」「象牙」「木彫」など、素材とジャンルに分けられ、明治の作品と現代のアートが並びます。
まずは、各々のハイライトを楽しむ部屋からスタート。古今の精緻な技がその美を競う空間へと誘われます。
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入り口で迎えてくれるのは、初代宮川香山の壺。
高浮彫で牡丹と猫があしらわれています。
こちらと並ぶのは、高橋賢悟の鋳金作品《origin as a human》。
髑髏が花に覆われている、というか、花で髑髏ができているというか・・・。
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生花から鋳型を造り、一度それを焼成して中の植物を焼き、その空洞にアルミニウムを流し込む「焼失原形法」で造られているそうです。
そこに生きていた花の残骸が形成する髑髏…。
「最新技術を使って今しかつくれない超絶技巧を」という、現代の工芸師の生と死をテーマにした、究極の美の体現です。(他の作品は、【金工】コーナーで観られます!)
【七宝】
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現代では、アクセサリーなどによく見られるこの技法は、明治期に研究が進み、制作の大転換が起こります。
「ふたりのナミカワ」といわれた並河靖之(京都)の有線七宝と濤川惣助(東京)の無線七宝です。
高い技術と洗練された表現で、世界で高く評価され、人気の輸出品として一世を風靡しました。
有線の驚嘆の文様の細やかさや、無線の七宝とは思えないほどの自然なぼかしの技を楽しめるラインナップです。
清水三年坂美術館蔵 |
清水三年坂美術館蔵 |
有線七宝の雄 並河靖之の作品は、あでやかな草花も、淡いグラデーションの紫陽花も、極細の銅線の中に色が埋め込まれています。
紫陽花が際立つ漆黒の釉は、並河特有のものです。
2017 展示風景から。 |
現代からは、春田幸彦のユニークが作品が。(→)
皮革製品ではありません。
すべて七宝で造られた「バッグ」は、質感の再現と、素材のギャップとともに、首をもたげる蛇の頭が、消費社会への皮肉も含み、楽しくハッとさせられます。
同じく皮財布を造った作品にもシニカルな仕掛けが。ぜひ、会場で!
【金工】
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江戸時代には、刀装具を制作していた金工師たちは、明治の廃刀令により、生活のたつきを喪うことになります。
しかし、金銀や赤銅などさまざまな色金を用いたり、細やかな象嵌を施す高い技術は、世界的にも他になく、輸出向けの花瓶や香炉などに活かされて、日本の重要な産業に発展します。
豪華な金工細工の品々は、素材とともに。
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左:正阿弥勝義の銀製香炉は、多様な象嵌で庭の鶏を描きます。
会場には、同型のものが二つ並んでいます。
それぞれの蓋のモチーフとつまみにご注目。細部まで工夫された意匠です。
右:宗金堂の、それとは思えなくらい大きな香炉です。
あらゆる日本的なモチーフがこれでもか、と装飾されたにぎやかさは、輸出品ならでは、と言えるかもしれません。
てっぺんのお猿の金眼が迫力ながらもユニーク。
現代の金工で魅せるのは、先の高橋賢悟に加え、本郷真也と鈴木祥汰です。
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「生命を形にしたい」と、本郷が選んだのは、薄い鉄板をひたすら叩く、鍛金での造形。
錆びたり朽ちたりしやすい鉄を敢えて選択、酸や自動車工場の廃油などを使って、実物大の動物を、その質感とともに表します。
作品は、金属でありながら、それとは異なった重量感や触感を感じさせて。
こちらのオオサンショウウオは、今年の新作。
いまにも動き出しそうです。
また、羽根を一枚いちまい制作して重ねたという、鴉の《暁》や、彫物かと思わせる、小さな虫の作品も見ごたえ満点です。
鈴木の作品は、実に繊細で優美。
銀や真鍮、銅といった金属素材が、彼の手にかかると、美しくはかなげな生命を宿します。
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こちらは、タンポポの綿毛が、飛び立とうとする、その瞬間を表わしたもの。
写真のようなストップモーション、植物の柔らかさ、その揺らぎまでを再現し、ため息ものの美しさです。
【漆工】
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奈良時代から多彩な装飾技法を重ねて発展してきた日本の漆芸。
江戸期には、武家と、台頭してきた商人たちの趣味とに支えられて、豪華で洒落っ気のある意匠が多く生みだされました。
明治期は、そうした伝統を研修し、新しい技法で新しい表現の可能性を見出した柴田是真や、細部にこだわった蒔絵師・赤塚自得などが活躍します。
この頃彫漆も、四国中国地方で開花していたそうです。
何層もの漆を塗り重ね、そこに文様を彫り出していくこの技法は、中国の高い技術が知られますが、神崎軒水などが日本の技術を引き継ぎました。
華やかな蒔絵や象嵌の美や、精緻な彫漆の技を堪能します。
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柴田是真の印籠は、古い墨をそのまま細工したような風合い。
一見地味な作品ですが、これが漆製と知った時、その洒落っ気は、江戸人の粋を残した、通人好みと言えましょう。
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見た目にも豪華な螺鈿と蒔絵がふんだんに施された提箪笥。あまりの華美さが、実際よりも重そうな印象さえ…(笑)。
会場では中の様子も観られる展示になっています。
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現代からは更谷富造の作品を。
現在オーストリアで活動する彼の漆工は、伝統的な技法を使いながら、不思議なオブジェとして存在します。
それは、従来の素材だけではなく、石や麻布なども使用すると同時に、まさに現代感覚を活かした自由な発想で造形しているから。
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そこには、19世紀末の装飾文化を誇るオーストリアの経験も潜んでいるように思います。
(←)石にへばりついた妙に平たい亀たち。
甲羅のさまざまな螺鈿の表現が楽しく、かわいい一作です。(持って帰りたくなります…)
【木彫・牙彫】
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江戸末期、彫刻は仏師や根付師が主でしたが、明治期には「美術」としての彫刻が確立します。
日本的な置物として、海外で人気を博し、木材はもとより、象牙や鹿角などの牙彫の秀作も多く生み出されました。
一躍注目されるようになった安藤緑山をはじめ、木彫の代表的作家・高村光雲や旭玉山などのベテランたちの安定した技を楽しみます。
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旭玉山の文庫は、木地を活かした上に、鳩と銀杏が、上品な彩色で彫られています。中の盆にはアケビの図柄。
伝統的な花鳥の、伝統的な構図ながら、どこかモダンさを感じさせるのは、木目も露わな本体のせいかもしれません。
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こちらは緑山でも初公開作品!近年の見直しを機に、新たに発見された逸品です。
その色彩、質感、そして安定した形態ともに、圧巻です。
このほか、茸尽くしの《松茸、占地》も初公開で、野菜・果物が並ぶ緑山のケースは、とにかく驚嘆、美味しそうなコーナーです(笑)。
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小さな動物たちもまたかわいいです。
しかし、現代アーティストも負けていません!
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前原冬樹は、プロボクサー、サラリーマンを経て、32歳で東京藝術大学油画科に入学しながら、卒業後には木彫に転じたという、異色の経歴を持つアーティスト。
驚くべきは、作品がいずれも一木から彫られていること。
お皿とサンマ、元はひとつの木材だったと、信じられません!
《一刻:有刺鉄線》と《一刻:空き缶、ピラサンカ》 展示風景から。 |
また、錆びた有刺鉄線とそこに絡みつく雑草のこちらに至っては、もう神業か?としか…。
どことなく昭和の面影を残した作品のモチーフは、それでもやはり現代に生きるからこそ見出されたユニークな視点です。
ぜひ間近で驚かされてください!
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橋本雅也は、鹿角から、これまた美しい花を造形します。
独学で習得した彫刻は、実際に冬山で猟師が仕留めた鹿の肉を食べ、毛皮を保存し、骨と角から造りだすのだそうです。
生きることと創作することを一体に生まれた優雅な花は、そのたおやかな姿の奥に、深い命の循環が込められているのです。
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一作は美術館の茶室に設置されています。
枯れたたたずまいの床の間なのに、こんこんと生命の泉が涌き出ているようです。
いずれも彩色されず白いままであるがゆえに、あらゆる色を内包している強さが印象的。
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欄間などを制作する江戸木彫師に弟子入り、その後高村光雲の流れをくむ仏師の元で修業を重ねたという加藤巍山。
光雲の工房で活用されていた技法を受け継ぎ、仏像や歴史的な題材から作品を創作しています。
歴史的エピソードから想を得た、若き日の家康や文覚聖人の姿は、とても人間的で、古くて新しい造詣の面白さを獲得しています。
展示風景から |
大理石から蛇や龍を彫り出す佐野藍は、最若年での出品。
精緻に彫られた鱗には、大理石のほのかな色味が、それぞれに生物としての温度を加える絶妙なアクセントになっています。
西洋的な彫刻と、日本の超絶技巧が一体になった、現代でこそ生まれた量感と迫力のある作品です。
【自在】
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江戸中期から明治に制作された、各部位が動く彫刻、自在。
現代ではすっかり忘れられた感があったこの造形も、近年改めて注目されてきました。
今回も明陳や高瀬好山、宗義らの逸品が並びます。
同時に、現代にこの技術を再現した若き自在師(?)たちのみごとな精華が競います。
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銀製の鶴の香炉は飛翔しながら香りをただよわせるという、優雅な作品。嘴と羽根が動くそうです。
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明珍の蛇と対峙するのは、満田晴穂の骨格になった蛇。
彼は好山の向こうを張るかのように、《自在十二種昆虫》も制作しています。
いずれもその精緻な技とさまざまな素材の組み合わせで、「現代の自在」の技をユニークな視点とともに提示していて、頼もしいです。
いまひとり 木彫家の大竹亮峯は、驚くべきことに木材で自在を制作しています。
宗義の海老と並ぶ大竹のそれは、黄植製。月長石の眼が光る、すべてオリジナルの技法です。(会場で!)
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こちらは木彫の藤の豆に、孵化したばかりの蝉が。
豆は一木、蝉は自在という、明治工芸の極みを融合したような作品は挑戦的ですら。
木の質感を活かしながら、すばらしい写実と自在の仕組み。
新しい「リアル」と「技巧」をもたらしています。
【陶磁】
展示風景から。 |
陶磁器は明治期の主要な輸出品でした。
海外の嗜好に合わせ、大ぶりな高浮彫ものや、豪華な金彩、和の文様が、過剰ともいえそうな装飾で、日本の繊細で高い技術力をアピールしたのです。
香山の大胆な高浮彫や精巧山らの息をのむ細密金彩の茶碗などを楽しみます。
現代からは稲崎栄理子のオブジェを。
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陶磁にガラスや石を組み合わせて、細やかで静謐な雰囲気を湛えた作品を造ります。
「理想郷」の名が冠された白いオブジェは、穢れのない化石が静かに降り積もったかのよう。
黒い作品は、地球の内部から生成されたような温度を感じさせて・・・。
限りなく繊細な要素が積み重なって形をなしているところには、深々とした時が封じ込められているのかもしれません。
とても余韻のある作品群です。
の展示風景。 |
陶磁ではありませんが、ガラスを使った、楽しいオブジェを制作するのは臼井良平です。
私たちにとって当たり前のようにあるペットボトルやビニール袋。そこに入っている液体までをガラスで表現しています。
視覚と物の本質を裏切るポップな作品は、その技術と面白さに加え、現代社会の問題までを含み、シニカルにわたしたちの認識に「?」を突きつけます。
【刺繍絵画】
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西洋には絵画を織物にするタペストリーがありますが、明治期の日本でも、文様としてではなく、刺繍や染色などで「絵」を表す作品が、やはり西洋市場を見込んで制作されました。
刺繍絵画、繍絵(ぬいえ)、美術染色などと呼ばれ、絵師とのコラボレーションで、豪華な贈答品として人気を博したそうです。
絵画と見まごうほどの刺繍や染色作品、ぜひ近くで確認して。
現代の“刺繍師”ともいうべき青山悟は、旧式の工業ミシンを使用して、刺繍を使った作品を生み出します。
絵画や写真のように精緻なものだったり、印刷物の一部を刺繍で立体的に見せたり、刺繍という技法による表現の可能性を拡げ続けています。
そこには常に、歴史的に小さなものや、見逃されてきてたことへの視線があり、美しさとともに社会への鋭い問いかけが、静かに、しかし強い印象をもたらします。
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UVライトが当たることで、文様が浮かび上がる作品は、東北地方の伝統工芸であるこぎん刺しやアーツ・アンド・クラフツ運動の指導者 ウィリアム・モリスのパターンなどから着想を得た文様を表します。
ここにも工芸と美術、現代技術と旧来の技術、そして機械と手わざなど、相対する問題が重層的に含まれて、視覚の楽しみとともに、メッセージを発しています。
視覚を裏切る現代の超絶技巧のひとつとして、山口英紀も紹介されます。
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一見写真では…?と思われるモノクロームの風景は、なんと和紙に描かれた水墨画!
高層ビルと道路の風景は、左右で微妙に違いがあります。
テーマと、驚愕の和筆による技巧は、現代ならではの新しい超絶技巧といえるでしょう。
明治の匠はもちろん絶句ものですが、そうした技術を継ぎ、あるいは新たに開発し、今の感覚で「超絶技巧」を生み出している現代若手アーティストたちの作品が、創意にあふれ、とても刺激的です。
工芸とアート、そんな境界を軽やかに飛び越えて、わたしたちを魅了する、彼らに出逢えるのが嬉しい展覧会。ぜひお見逃しなく!
(penguin)
開催期間 :~12月3日(日)
会場:三井記念美術館(日本橋)
〒103-0022 東京都中央区日本橋室町2-1-1 三井本館7階
アクセス:東京メトロ銀座線・半蔵門線「三越前」駅A7出口徒歩1分
東京メトロ銀座線・東西線、都営浅草線「日本橋」駅B9出口徒歩4分ほか
開館時間:10:00~17:00 (金曜日は19:00まで開館)※入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜日
観覧料:一般1,300円(1,100円)/ 大学・高校生800円(700円) / 中学生以下無料
*70歳以上は1,000円(要証明)
*ナイトミュージアム(金曜17:00~)は一般1,000円、大高生500円
*( )内は20名以上の団体料金
*障がい者とその介護者一名は無料
入館の際に障がい者手帳などをご提示ください。
お問い合わせ :Tel.03-5777-8600(ハローダイヤル)
展覧会公式サイトはこちら
ディエゴ・リベラと20世紀スペイン美術に触れる
埼玉県立近代美術館では、ディエゴ・リベラの画業を、同時代のメキシコの美術とともに概観する展覧会が開催されています。
20世紀メキシコを代表するリベラは、ヨーロッパからの帰国後、革命後のメキシコで公共空間に壁画を描く文化運動に参加し、その代表者として世界的な評価を獲得します。
日本では、自身と社会の傷みを描き出した女流画家 フリーダ・カーロのパートナーとして知られていますが、なかなか彼の作品をまとめて観る機会はありません。
このたびメキシコ国立芸術院(INBA)との共同企画として、本国の作品と国内のものが集まり、彼の画業をその置かれた時代環境とともにたどれる、貴重な機会です。
「壁画運動」の画家としてのリベラだけではなく、肖像画や風俗画においても優れた作品を遺していた、その姿が感じられるセレクト。
まもなく終了ですが、会場に沿って一部ご紹介です!
1章 プロローグ |
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1886年、教師である両親の元に生まれたディエゴは、幼年時から画才に恵まれていたそうです。
10歳のころからメキシコ市で美術学校に通い、9年間を過ごします。
スペインから多くの移植者がいたこの地では、伝統ある美術学校も彼の地から来た教師により指導され、神話や宗教など、伝統的な西洋絵画が教授されていました。
しかし、時は19世紀末、西洋では印象派など、新しい絵画表現の動向が生まれ、メキシコでも屋外での制作や外光を活かした表現などが表れてきます。
まずは、こうした動向からメキシコの風景や現実の世界をいち早く描いたホセ・マリア・ベラスコや、彼に
師事したリベラの学生時代の作品で、開かれていくメキシコのアートシーンに触れていきます。
Museo Nacional de Arte, INBA, Mexico City/ Reproduction Authorized by INSTITUTO NACIONAL DE BELLAS ARTES Y LITERATURA 2017. |
リベラが尊敬していた先生の作品。
俯瞰の広大な風景は、メキシコの象徴的な遺跡が描かれています。
こちらはリベラ18歳の時のもの。
明るい色彩の中、農民と馬の後ろ姿が、先住民時代からの信仰の対象である火山 ポポカテペトル山へと視線を促がします。
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また、当時国内に広く流布したホセ・グアダルーペ・ポサダによる大衆版画は、アーティストたちに多くの刺激を与えたそうです。
メキシコの祭典「死者の日」のシンボルである骸骨をモチーフに、ユニークかつシニカルな批評表現も確認します。
2章 ヨーロッパ時代のディエゴ・リベラ
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1907年にリベラはヨーロッパに留学します。
初めの2年はスペインで、ゴヤやベラスケス、エル・グレコからクラナッハやボッシュなどを学んだようです。
その後、パリに渡り、そこを拠点としてヨーロッパ各地を巡り、近代絵画の流れに沿って画風を変えながら、自らの表現を模索します。
やがてスペインの古都トレドで、エル・グレコの表現を通して、現実を写実的に描くことから大きく飛躍、
キュビスムへと傾倒していきます。
そこには、パリで交流を深めたモンドリアンも大きく影響していたのだとか。
ここでは、ヨーロッパ留学時代の作品を観ていきます。
小品ながら、特に研究したキュビスムの作品が、多く出ているのが注目です。
印象派にも通じる彩色で描かれたブルターニュの少女の素朴な雰囲気がよく出ています。
グレーのトーンでまとめた全体は、落ち着きとどことなく憂いを漂わせます。
キュビスムの手法で描かれた水兵は、魚の食事中。
それぞれの色面は筆触を変えて多様な質感を感じさせ、抑え目の彩色の構成の中、帽子の赤い飾りだけが発色と奥行きを持っていて印象的です。
とても丁寧に構成された画面です。
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この作品の奥には、彼が制作した壁画作品を映像で観られるコーナーも設置されています。
さすがに壁画は持ってこられない中、これは嬉しい空間。
3章 壁画へ
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そして、いよいよ壁画制作時代へ。
キュビスムの後、ふたたび表現の模索期に入ったリベラは、ふたりの重要な人物と出会います。
ひとりはフランスの美術評論家 エリー・フォール。
西洋の美術史の理論にとどまらず、広い視野で造形芸術を考える彼との交流は、ヨーロッパでは異邦人であるリベラにとって、励みにも、認識を拡げる契機にもなりました。
いまひとりは、同国人の画家 ダヴィッド・アルファロ・シケイロスです。
メキシコ革命の活動に10代から参画していた彼は、革命と芸術を一体化することを企図していました。
彼に壁画の可能性を示唆したのがリベラだったのです。
以後、フィレンツェやラヴェンナで壁画を研究したリベラは、その表現の可能性に想いを募らせます。
1921年にメキシコに帰国し、時の公教育省大臣・バスコンセロスにより進められていた、文化でその精神の高揚と自国のアイデンティティの確立を目指す壁画運動に協力しました。
故郷では、精力的に運動に携わり、大きなプロジェクトをいくつもこなしていきます。
これにより、リベラの名は、世界的に知られていくようになるのです。
この時期はまた、最初の結婚、フリーダ・カーロとの出逢いなど、私生活でも忙しかったようです。
壁画運動時代の資料や関連したアーティストの作品とともに、充実した活動の空気を感じます。
たくましい腕、どっしりとした体躯、単純化されたフォルムでとうもろこしを引く女性をクローズアップに
した、力強い作品です。
集中する姿からは、石臼の音すら聞こえてきそうです。
なんということもない、さりげない日常の風景ながら、自国の民族や風俗が深く捉えられています。
《テワンテペクの水浴》《ピノレ売り》と併せておススメ3点。
ティナ・モドッティによる、メキシコ公教育省壁画の写真も強い民族性を感じさせる画面の雰囲気を伝えてくれます。
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シケイロスの絵画《奴隷》やホセ・クレメンテ・オロスコによるリトグラフ作品も、革命後の新たな息吹をより感じさせて・・・。
また、版画も、民衆の姿を的確に、かつ象徴的に捉えた秀作が並びます。
4章 野外美術学校/美術教育/民衆教育
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革命の気運は、美術教育の在り方にも大きく影響を及ぼしました。
「自由な美術教育」を掲げて、野外美術学校を新設した、ラモス・マルティネスをはじめとし、1920年代に活性化します。
多くの教育書や素描の教科書も発行されました。
当時の美術教育の空気を作品から感じます。
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ここで注目は、この方針に強い刺激を受けた日本人画家・北川民治の作品です。
1921年にメキシコに渡った北川は、この野外美術学校で学んだ後、教育にも従事、自ら学校の運営もしますが、30年代に教育方針の変更もあり、帰国します。
タヒチ時代のゴーギャンを思わせる、平面的リズミカルな画面構成に、メキシコの人々の生活が描き出されています。
Museo Nacional de de Arte, INBA, Mexico City/ Reproduction Author by INSTITUTO NACIONAL DE BELLAS ARTES Y LITERATURA 2017. |
アドルフォ・ベストマ ウガールが提唱した、もうひとつの児童美術教育として隆盛した素描法を学び、注目されながらも19歳で早世したアンヘルの作品です。
鮮やかな黄色い衣装と青い空が、紫がかった大地と強烈なコントラストを持っています。
空に呼応する青に塗られた目が強い意志を感じさせるメキシコ女性をみごとに描き出して印象的な一枚。
5章 メキシコの前衛―エストリデンティスモから ¡ 30-30 !へ
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壁画運動に集約されがちなこの時期のメキシコ美術には、それとは別にさまざまな動向がありました。
その中から「エステリンデンティスモ(喧騒主義)」と呼ばれた、若手芸術家たちによって進められた新しい芸術運動と、その後継ともいえる「トレインタ・トレインティスタス(¡30-30!)」が紹介されます。
未来派やダダから直接影響を受けた文化人たちがもたらしたこの運動は、既存の芸術の在り方や、価値の破壊、保守的な社会への抗議として、複製メディアである版画や雑誌を多用して、アグレッシヴに展開されたそうです。
それは、都市的なものと野性的なものの双方を武器に、教養主義的なものを否定しながら、表現を追求したものでした。
ラモン・アルバ・デ・ラ・カナルやガブリエル・フェルナンデス・レデスマらの版画が表現主義的であったり、構成主義的で興味深いです。
野外美術学校で教師をしていた北川もこの活動に参加していたそうです。
6章 ディエゴ・リベラをめぐる日本人画家
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ヨーロッパへの留学中に葛飾北斎の作品を画中に描いたり、構図を参考にしたのが、リベラと日本との関わりの始まりでした。
また、そこでは川島理一郎と藤田嗣治とも知り合いになったそうです。
藤田は中南米を旅した時に、こうしたパリ時代のネットワークを活用していました。
メキシコ滞在中、リベラとの再会は果たせなかったようですが、このたび、彼がリベラの知人たちと交流していたことがわかってきたのだといいます。
ここでは、そうした資料とともに、日本人画家とリベラとの関係を作品で追います。
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藤田が描いたリベラの肖像や、メキシコ人の家族を描いた作品や、彼がリベラの家の前で撮影したと考えられる友人たちの写真など、これまで詳細が分からなかった藤田の中南米時代の足跡をたどれる、新しい発見を含んだ展示です。
北川が描いたリベラの邸宅や、イサム・ノグチが制作したリベラの肖像もお見逃しなく!
7章 肖像―人間への眼差し
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リベラの重要な画業は、壁画以外に、肖像画が挙げられます。
公共的な要素が強い壁画とは異なり、限りなく個人的なものを表わす必要のある肖像画は、彼のもうひとつの大切な思考作業であったのでしょう。
さまざまな手法で、それぞれにアプローチを変えて作品を遺してました。
こちらも秀作揃い、リベラの肖像作品たちと関連するアーティストたちの作品で、メキシコ美術における肖像画のかたちを観ていきます。
数ある肖像の中でも、圧倒的なパワーを放っているのがこちら。
輝くような褐色の裸婦が、咲き誇るひまわりを抱くように描かれた画面は、生命力にあふれています。
フリーダ・カーロがリベラを描いたものです。
何度も別れたりよりを戻したりを繰り返したふたりですが、カーロの死までその関係は続きました。
半面がリベラ、半面がフリーダの顔がひとつになり、絡みながらそこから延びる木の根、太陽と月、相対する要素が、愛しくも複雑なふたりの関係を表しているような、切ない作品です。
8章 普遍性と多様性
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メキシコ美術は、土着性やアイデンティティなどの民族主義的な要素がフューチャーされますが、一方でこうした潮流とは一線を画し、純粋に美やその表現の多様性を追求する動きもありました。
最後の章は、こうした普遍性を求めたアート動向から、リベラの作品にその一端を観る試みです。
この活動を支えた代表的な雑誌『ファランヘ(方陣)』や『コンテンポラオネス(同時代人)』の紹介から、それらがいち早く取り上げたシュルレアリスムとの関係を感じさせる作品が並びます。
壁画運動とは異なる系譜にいたルフィーヨ・タマヨや、フランスのシュルレアリスト アンドレ・ブルトンによって見出されたマヌエル・アルバレス・ブラボの写真、そしてリベラの作品などに、主義としては定着しなかったシュルレアリスムが、メキシコ美術の中に共鳴していることが感じられます。
擬人化した野菜(大根?)が聖書のいちシーンを演じたリベラの一枚。
誰かの夢を画にしたようなシュールな世界は、しかし、どこかメキシコ的なものを湛えて、民族主義的なものと普遍的なものを結びつけていく、もうひとつのリベラの表現世界がそこに現れています。
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強烈でたくましい土着の要素と、それとは異なる革新の芸術的活動、そしてそこに通底するシュルレアリスム的要素…。
20世紀メキシコにひしめいた芸術家の熱意満載の会場は、濃厚な内容で、メキシコ美術への興味を誘います。
その中で、ディエゴ・リベラという画家の遺したものの力と柔軟性、そしてその意義に触れられる、なかなかにない空間は、12/10まで。
お急ぎください!
(penguin)
開催期間 :~12月10日(日)
会場:埼玉県立近代美術館(北浦和)
〒330-0061 さいたま市浦和区常盤9-30-1
アクセス:JR京浜東北線北浦和駅西口より徒歩3分(北浦和公園内)
開館時間:10:00~17:30
※入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜日
観覧料:一般1200円(600円)/ 大高生960円(770円)
*( )内は20名以上の団体料金
*中学生以下と障害者手帳をご提示の方(付添い1名を含む)は無料
*併せてMOMASコレクションも観覧可能
お問い合わせ :Tel.048-824-0111
美術館サイトはこちら
「日本の仏像」を創出した天才彫刻家を堪能するチャンス
日本の仏像彫刻史の中で、最も知られている仏師・運慶。
大陸から渡ってきた仏教を参照に飛鳥時代から、多くの仏像が遺されていますが、平安末期から鎌倉時代、武家勢力の台頭を背景に、新しいかたちの仏像が生まれてきます。
みなぎる肉体を持ち、躍動感あふれるそれらは、内面をも感じさせる写実性を獲得し、時代を反映して各地に安置されていきました。
この最大派閥「慶派」の中でも、特にその才を謳われたのが、運慶です。
東大寺南大門の阿形像で多くの人が記憶するこの運慶の作、あるいは可能性の高い仏像は、現在31体とされているそうです。
うち、22体が集結する空前の規模の展覧会が、東京国立博物館 平成館で開催中。
すでに後期展示に入り、連日たくさんの人が訪れています。
運慶の父・康慶や、息子・湛慶、康弁など、父子3代にわたり、ほとんどが国宝か重要文化財という名品で、一時代を築いた「慶派」を堪能できる貴重な機会です。
第1章 運慶を生んだ系譜―康慶から運慶へ
(展示風景から) |
最初期の運慶の作品から始まる第1章は、父・康慶との競演です。
生年は不明ながら1150年頃と考えられる運慶は、興福寺周辺を拠点とした奈良仏師の康慶の長子として生まれます。
奈良仏師・定朝から、3つに分かれた系統の中で、院派、円派の京都仏師に比べ、当時の中心部からはやや距離を持っていたこの流派は、だからこそ新しい造詣でのチャレンジ精神が培われたのかもしれません。
奈良・円成寺蔵 写真:飛鳥園 |
現存する最も早い運慶の作と知られている作品です。
まだ若干硬さは残っていますが、丁寧な造作が感じられます。
身体の厚みがしっかりと捉えられているのを確認して。
奈良・長岳寺蔵 ※前期展示 (展示風景から) |
こちらは運慶が生まれた頃の奈良仏師の制作と考えられている阿弥陀如来と両脇侍(勢至菩薩)の坐像。(→)
肉付きの張りや、衣文の自然な表現が、鎌倉彫刻への兆しを感じさせます。(すみません、前期展示です)
制作年代がわかるものとしては、眼に玉眼と言われる水晶がはめ込まれた、最初期でもあるそうです。
(展示風景から) |
(展示風景から) |
ここでのおススメは、お父さん・康慶の《法相六祖坐像》と《四天王立像》の一堂展示!
それぞれの個性的な容姿と表情の創造がみごとです。
運慶は、父の想像力と写実の技を受け継いだのだなあ、と。
第2章 運慶の彫刻―その独創性
運慶の独創性を感じさせる初めての作品、願成就院(静岡)に安置される5軀のうち、《毘沙門天立像》に迎えられる2章は、豪華な個展のような空間です。
静岡・願成就院蔵 写真:六田知弘 |
精緻な鎧の直線と衣の曲線が美しく、キリリとした表情も非常に品格のある毘沙門天。
時の執権、北条時政の発願により造られたことがわかっています。
左足に重心を置き、腰をひねった立姿は力強く、それでいて静謐でもあり。
内面にみなぎるパワーを彫り出しているのがすばらしいです。
両足にそれぞれ邪鬼を押さえつけているのも珍しいかも。
神奈川・浄楽寺蔵 写真:鎌倉国宝館(井上久美子) |
運慶作の三尊像。
1章の先達の作品と比較できる嬉しい展示です。
やや古典的な雰囲気ですが、はちきれんばかりの肉感が印象的です。
脇侍の片足をちょっと浮かせて腰を曲げた線がきれいです。
このお寺からは、《毘沙門天立像》と《不動明王立像》も来ています。(ともに重文)
(展示風景から) |
そして見どころのひとつ。
《八大童子立像》のうち、運慶作の6点が揃い踏みです。
(残りの2躰は後補とのこと)
鎌倉時代・建久8年(1197)頃 和歌山・金剛峯寺蔵 写真:高野山霊宝館 |
童子の面影を残しつつ、仏の随身としての聖なる気品も兼ね備えた傑作たち!
それぞれのポーズと容姿、衣装のバリエーションのすばらしいこと。
当時の彩色もかなり残っており、細やかな衣の文様や持物もしっかりと楽しめます。
貴族の女性、八条女院の発願、武士からの注文とは異なる細やかで上品な作品となっています。
(展示風景から) |
(展示風景から) |
展示もそれぞれをじっくり観られる造り。ご堪能あれ。
もうひとつの見どころは、晩年作のこちら。(↓)
ともに運慶作 鎌倉時代・建暦2年(1212)頃 奈良・興福寺蔵 写真:六田知弘 |
5世紀のインドに実在した学僧は、無著が兄の兄弟像です。
2mに近い大きさ、がっしりとした体格にシンプルな衣で、存在感たっぷり。
すばらしいのはその表情。
思慮深さを感じさせる落ち着いた無著の「静」と、内面の激しく厳しいものが表出しているような世親の「
動」、ふたりの聖人のタイプの違いが、それぞれの聖性とともに表されています。
仏像であるとともに、圧巻の肖像彫刻といえるでしょう。
奈良・興福寺蔵(南円堂安置) 写真:飛鳥園 |
こちらは四天王のうち「多聞天」です。
仏を守る眷属も、勇壮でかっこいいのですが、中でもこの多聞天のポーズが独特です。
五輪塔を持つ手の位置が腰、肩、頭上とある多聞天ですが、これほどに高く持ち上げ、しかも見上げている像は他に現存していません。
伸び上がるような肢体の表現が、革新を感じさせる1点です。
ちなみに、この四天王は現在南円堂に安置されていますが、本来は仮講堂のものが置かれていたことがわかってきました。
これらは北円堂にあったものではないかという可能性が言われているのだそうです。
北円堂ならば、運慶を大仏師として、4人の子が1軀ずつ分担したという記録があるため、彼の作かも・・・という、いまホットな論議がなされている作品です。
鎌倉時代・正治3年(1201)頃 愛知・瀧山寺蔵 写真:六田知弘 |
寺の外での公開が初めてという聖観音菩薩は、運慶・湛慶の父子合作。
源頼朝供養のために造られ、内部には彼の髪と歯が収められていると記録にあり、実際にX線写真で、納入品も確認されているだとか。
彩色は後年のもの。ちょっと彫りの詳細が観られないのは残念ながら、いずれの仏像も彩色されていた時にはこんな感じなのかな、という参考にもなって・・・。
このほか、同時期の厨子や光背が残る貴重な《大日如来坐像》では、如来を囲む飛天の細やかみごとな造作も、運慶の創意によるものとのこと。 (↓)
(展示風景から) |
右側光背近く。(展示風景から) |
第3章 運慶風の展開―運慶の息子と周辺の仏師
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運慶には6人の息子がいて、いずれもが仏師になったそうです。
うち、単独の名で作品が遺されているのが、湛慶、康弁、康勝の3名。
最終章では、彼らの作品と、「慶派」の作風のうち、運慶に近いもので、その継承を確認します。
湛慶作 高知・雪蹊寺蔵 (展示風景から) |
湛慶作と判明している毘沙門天と吉祥天・善膩師童子像です。(←)
いずれも彩色が落ちて、彫りの様子がよくうかがえます。
力みなぎる、というよりは、沈静した雰囲気の毘沙門天はやや丸顔(笑)。
印象的なのは善膩師童子像(写真左)です。
首をかしげ、上方に視線を向ける姿は、子どもらしさが強く出ていて、神像ながら、愛らしい作品です。
「迦楼羅」「夜叉」「執金剛神」 湛慶作 京都・妙法院蔵 (展示風景から) |
湛慶の作品では、こちらも。(→)
京都・妙法院の千手観音菩薩坐像の光背の、《迦楼羅》《夜叉》《執金剛神》が来ています。
普段は観音さまの千手の後ろでなかなか拝めない小像をじっくり観られるのは嬉しいです。
独特な異形の神々の造詣を楽しんで。
ここでの注目はこちら。(↓)
奈良・興福寺蔵 写真:六田知弘 |
迫力とユニークさが一体となった傑作。龍燈鬼は康弁の作と判明しています。
燈籠を上目づかいに見上げている表情がなんとも滑稽で、唸り声が聞こえてきそう。
眉毛は銅板、牙は水晶という凝り方にも、工夫を感じます。
後姿 (展示風景から) |
《天燈鬼立像》の後姿 (展示風景から) |
どちらも、筋骨隆々の鬼は三等身なのに、しっかりとしたバランスを持っています。
ぜひ背後からも。 どっしりとした腿から足の力強さが、ちょっとかわいく見えます(笑)。
後期には、東大寺伽藍の再興に尽力した重源の肖像彫刻も出ています。(《重源聖人坐像》(国宝))
息づかいまで感じられそうな迫真の写実で彫られた老境の姿は運慶か?と言われているものです。
慶派とは深いかかわりのある人物の傑作は必見です。
モリモリの肉感的な力を味わったところに、ホッと和ませてくれるのが、鹿と子犬の彫刻。
|
特に仔犬!このカワイイこと!!
鹿は神の使いであり、奈良にも多く放たれているので納得ですが、ワンちゃんが遺されたのはちょっと不思議。
作者不明ながら、いまにも尻尾が動きそうな活き活きとした作品です。丸々とした姿が、連れて帰りたくなります・・・。
(展示風景から) |
最後の空間を飾るのは、《十二神将立像》たちです。(←)
静嘉堂文庫美術館と当館の二か所に分蔵される12軀が揃って展示されるのは42年ぶりという、それだけでも貴重な機会。
東京国立博物館蔵 |
小像ですが、それぞれの干支を頭に冠し、勇壮なポーズに多様な表情の神将たちが並ぶのは壮観です。
自分の干支がどんな姿で表されているか、確認してみては?
下段左から「巳神」「午神」「未神」「申神」「酉神」「亥神」(京都・浄瑠璃寺伝来) (展示風景から) |
お寺で拝むのとは異なり、ほぼすべての像を360度から観ることができ、その表情も近くでじっくり確認できる、展覧会ならではの空間には、近年の最新調査研究の成果も紹介されています。
運慶という天才が生まれた素地と波及、そして継承の中で、改めてその魅力を体感できる、集大成の内容をお見逃しなく!
(penguin)
開催期間 :~11月26日(日)
会場:東京国立博物館 平成館(上野)
〒110-8712 東京都台東区上野公園13-9
アクセス:JR上野駅公園口・鶯谷駅南口より徒歩10分
東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅、千代田線根津駅、
京成電鉄京成上野駅より徒歩15分
開館時間:9:30~17:00
金曜日は21:00まで開館
※入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜日
観覧料:一般1,600円(1,300円)/ 大学生1,200円(900円)/ 高校生900円(600円)
中学生以下無料
*( )内は20名以上の団体料金
*障がい者とその介護者一名は無料
入館の際に障がい者手帳などをご提示ください。
お問い合わせ :Tel.03-5777-8600(ハローダイヤル)
展覧会公式サイトはこちら
めったに公開されない皇室の美に触れる
大正から昭和最初期にかけて、皇室の御慶事に際し、当代を代表する美術工芸家たちにより、献上品が制作されました。
それは、制作者にとっても最高の栄誉であり、日本の伝統技術の継承と発展に寄与した国家的な文化政策でもあったのです。
しかし、献上された作品は、宮殿などに飾り置かれたため、一般に公開されることがほとんどなく、現在ではこのプロジェクトの存在を知る人がほとんどいなくなってしまいました。
およそ100年前に、皇室が支えたこの知られざる文化プロジェクトを、平成の今に紹介する展覧会が、東京藝術大学大学美術館で開催されています。
|
藝大の前身である東京美術学校は、初めての国立の美術学校として、このプロジェクトにも深くかかわってきた歴史があります。
東京藝術大学創立130周年の記念の一環としてもふさわしい展覧会。
近代美術工芸を支えた芸術家たちのめったに観られない皇室コレクションとともに、東京美術学校ゆかりの皇室に関わる名作が並ぶ、貴重な機会となっています。
なかでも、皇居外では初公開のものは見逃せません。
会期が短いのですが、一部ご紹介です!
第一章 皇室をめぐる文化政策と東京美術学校
由木尾雪雄の台による《萬斎楽置物》 大正4年 宮内庁三の丸尚蔵館蔵 (展示風景から) |
明治時代以後、近代国家の一員となるべく、国内では美術工芸の分野でも国家主導での継承と育成が進められていきます。
博物館の建設、さまざまな展覧会の開催、そして美術学校の創設など、次々と施策が打ち出されました。
古くから日本文化の中心を担ってきた皇室も、展覧会への行幸啓や作品の御買上げ、宮殿の室内を飾る作品の依頼などで、この文化振興に寄与します。
東京美術学校もこうした皇室の奨励を励みとし、実際の委嘱制作にも携わっていきます。
本校ゆかりの作家の絵画絵となった作品や、委嘱された制作品を追います。
高村光雲や石川光明の木彫から始まる会場は、まずそのみごとな写実の彫りに感嘆します。(会場で!)
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フロア中央を占めるのは大きな衝立、《東京名勝図・萬斎楽図衝立》です。
大正4年の大礼(即位式)に際し、東京市より皇室に献上されたという作品は、一面には東京市の地図と周囲に東京市在住の工芸家15名による扇面名勝図がはめ込まれ、裏面には金地の布に萬斎楽の舞姿が刺繍されています。
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横山大観が紀元二千六百年奉祝美術展覧会に出品後、天皇に直接献上した大作。
この後、彼の富士図が皇室に献上されることはなかったという、集大成ともいえる作品です。
明治38年 東京藝術大学蔵 |
《綵観》の展示風景。 |
《綵観》は、日本画、彫刻、工芸の各界を代表する当時の帝室技芸員とその候補者、東京美術学校教授ら18名による合作。
木製のつづら折りになる小屏風には、それぞれの技法や画題で製作された花鳥風月が配されています。
描かれたもの、その技法、ひとつひとつをじっくり楽しみたい、豪華な作品集です。
(展示風景から) |
このほか、
やはり大礼に献上された、鳳凰と旭日を銀器に浮かび上がらせた彫金師・海野勝珉の対の花瓶、
州浜を銀で現した金工家・平田宗幸による大饗の儀の祭の調度など、
きらびやかな意匠も見ごたえがあります。
宮内庁三の丸尚蔵館蔵 |
那智の滝をテーマに、第7回帝展に出品された山口蓬春の意欲作。
古典の名作を踏まえながらもあくまで近代的感覚で挑んだ大作は、ふんだんに使用された絵具の鮮やかさにも圧倒されます。
絵画では、あでやかな彩色の結城素明による《鳳凰之図》や、伝統的な大和絵から一線を画し源氏物語を描き出した松岡映丘の《住吉詣》などが印象的です。
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第二章 大正十三年、皇太子御成婚奉祝
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本展覧会のハイライト、大正13年の皇太子(のちの昭和天皇)御成婚に関わる品々が公開されます。
前年の関東大震災により新しい都市として復興のさなかにあった東京では、奉祝会が催され、東京市中を10台の花電車が走るなど、明るいムードをもたらしました。(↓)
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そしてさまざまな献上品が制作されます。
当時の日本を代表する芸術家たちの、技と美と気概の競演の空間です。
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展示風景から。 |
ここでも入り口にある高村光雲の《松樹鷹置物》が圧巻です。
いまにも飛び立ちそうな勇猛な鷹、ぱりぱりとはがせそうな松の木肌も、すばらしいです!
本展注目の飾り棚。
右:《御飾棚》鶴桐文様蒔絵(香淳皇后へ献上) 昭和3年 宮内庁三の丸尚蔵館蔵 |
各分野の美術工芸家130人あまりが5年をかけて完成させたという大作。
全体を蒔絵で装飾したものとしては、最大規模のものだそうです。
菊の花枝をくわえた鳳凰が舞う、夢のような文様は、棚板の裏にも、そして棚の裏面にも施されています。
360度から観られる展覧会のための特別ケースでの展示は、ぜひ裏側からもご堪能あれ!
周囲にはこの棚に置かれ、飾られたさまざまな調度が展示されます。
こちらもまた、技巧だけではなく、使用された素材も、豪華絢爛のひとこと・・・。
金銀はもちろん、象牙や鼈甲などは、その大きさにも驚愕です。
(展示風景から) |
(展示風景から) |
驚愕のサイズの鼈甲の文具箱など。 (展示風景から) |
|
皇居外では初展示。
繊細な線で表された鳳凰と唐獅子の文様は、古美術の修理と研究に携わった経験と、漢代の遺跡から出土した漆器の研究から、紫水が獲得したものです。
箱の縁と稜線の銀板も細やかで美しい文様がレリーフになっています。
おなじく付属品として制作された屏風も面白いです。(こちらも皇居外では初出品)
宮内庁三の丸尚蔵館蔵 |
(屏風の展示風景) |
さまざまな工芸により作られた扇面と色紙をはめ込んだ二曲一双の屏風は、昭和天皇と香淳皇后それぞれに献上されました。
陶磁、鋳金、彫金、木彫、象嵌、蒔絵、漆、螺鈿などが織りなす吉兆の図像は、まさに当時最高峰の美術工芸の工夫と粋が集められています。
絵画の方では、《瑞彩》を。
右:《瑞彩》のうち上村松園 《雛祭》 大正13年 宮内庁三の丸尚蔵館蔵 |
ご成婚奉祝に東京府が献上した画帖には、東西の日本画壇を代表する画家たち総勢73名の作品が集められました。
|
装丁と納める容器を東京美術学校の教授たちが中心に制作したそうです。
関東大震災の復興の歩みと重なるように制作に尽力した日本の美術工芸家たちによる競演。
ややもすると、「献上」という気負いが先に感じられて、主題や技巧に寄りがちなものもありながら(汗)、時代の最高峰の集大成であるのは間違いなし。
その熱意が生み出した、簡単には拝めないこの精華の数々、100年前の時代の空気とともに感じてみませんか?
(penguin)
『皇室の彩(いろどり) 百年前の文化プロジェクト』
開催期間 :~11月26日(日)
会場:東京藝術大学大学美術館(上野)
〒110-8714 東京都台東区上野公園12-8
アクセス:JR上野駅公園口、東京メトロ千代田線根津駅より徒歩10分
京成上野駅、東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅より徒歩15分
JR上野駅公園口から循環バス「東西めぐりん」(東京芸術大学経由)で、4分、
停留所「東京芸術大学」下車(30分間隔)
開館時間:9:30~17:00(ただし金・土曜日は20:00まで)※入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜日
観覧料:一般1,300円(1,100円)/ 大学・高校生800円(600円)
中学生以下無料
*( )内は20名以上の団体料金(20名につき1名の引率者は無料)
*障がい者手帖をお持ちの方とその介助者1名は無料
お問い合わせ :Tel.03-5777-8600(ハローダイヤル)
展覧会公式サイトはこちら
東京藝術大学創立130周年記念特別展
『皇室の彩(いろどり) 百年前の文化プロジェクト』
招待券を10名様へ!!(お一人様一枚)
応募多数の場合は抽選の上、
当選は発送をもって代えさせていただきます。
《申込締め切り 11月17日(金)》
お申し込みは、ticket@art-a-school.info まで
!!希望展覧会チケット名、お名前、送付先のご住所を忘れずに!!
美術ACADEMY&SCHOOL チケットプレゼント係
〒102-0083 千代田区麹町6-2-6 ユニ麹町ビル4F
03-4226-3009
050-3488-8835
空間とともに人技の精緻の美を味わう
「運慶」展でにぎわう東京国立博物館ですが、その手前、片山東熊による明治洋風建築の表慶館では、ステキな空間が表れています。
日本の「重要無形文化財保持者」(通称「人間国宝」)に倣い、1994年にフランスで制定された「メートル・ダール(Maître d'Art)」。
フランス伝統工芸の最高技術者に与えられるこの称号は、まさにフランスの人間国宝です。
2016年現在で124名を数え、工芸界にその巧みな技術と新しい革新をもたらしつつ、さらに後継者へそれらを伝承する義務を負い、活躍するアーティストたちなのです。
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彼らを中心に、現在のフランス工芸を代表する15名の匠たちの作品、約230件が、「フランス人間国宝展」で、その技と美を競っています。
それぞれの作品がすばらしいのはもちろんですが、おススメがこの展示空間。
レバノン出身でフランスを拠点に活躍する女性建築家 リナ・ゴットメによる空間デザインと、表慶館の室内とが共鳴した、8室を楽しめます。
せっかくなので、15名、ちょっとずつご紹介です~。
※( )内の年号が称号に認定された年です
第1室 陶器(ジャン・ジレル 2000)
第1室展示風景 |
中国・宋時代の陶器に魅せられて、妻とともに試行錯誤を繰り返し、独特の陶芸作品を生み出しています。
会場では曜変天目の40年の探究で生み出された茶碗約100件が、壮大な宇宙を創ります。
それぞれに異なる色と輝きを放つ、妖しい魅力・・・。
これらを1点1点観てるだけでも時を忘れそうです。
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周囲には窯の熱によって浮かび上がる風景画の円板や壺が並び、これもまた不思議な西洋と東洋の融合した作品に仕上がっています。
第2室 鼈甲細工(クリスティアン・ボネ 2000)、革細工(セルジュ・アモルソ 2010)、金銀細工(ロラン・ダラスプ 2002)
第2室の展示風景 |
明かりが明滅して雰囲気たっぷりな部屋に浮かび上がるのは、とても繊細な日用品たち。
三代にわたる眼鏡職人の家を継ぎ、フレーム製作をきっかけに鼈甲細工に取り組んできたボネは、ワシントン条約で規制されるこの素材を無駄なく使用するために、小さな欠片を圧着するオリジナルの技術を開発しました。
同時にウミガメの保護活動にも参加しているという、自然派アーティストです。
フランス人に似合いそうな(笑)、シンプルで無駄のないフォルムと鼈甲の相性をご堪能あれ。
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|
革細工のアモルソは、エルメスの工房での経験を積み、現在パリにオーダーメイドの作品を創る自身工房を開いているそうです。
合気道を極めるため、日本を旅したという、親日家でもあり。
すべて手縫いで仕上げられた同じ形の9件のバッグは、それぞれに異なる皮革で作られており、その皮の持つ表情や色合いで、多様なイメージを醸し出しています。
女性ならば、ちょっとコレクションしたくなる、美しい作品(笑)。
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金銀細工の伝統技術を後世に伝える職人は、フランスでも現在希少なのだとか。
ダラスプはその数少ない伝承者のひとり。
展示風景から |
伝統とともに、さまざまな技法や素材の組み合わせを考えるなど、革新的な試みから生み出された銀器の数々が輝いています。
独特の繊細な曲線や、量感を持ちながらも軽やかなフォルムの器たちは、日本の住居でも置いてみたい魅力にあふれています。
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第3室 麦わら象嵌細工(リゾン・ドゥ・コーヌ 1998)、壁紙(フランソワ=グザヴィエ・リシャール)、真鍮細工(ナタナエル・ル・ベール)
第3室展示風景から |
一転して明るい部屋には、壁いっぱいに美しい壁紙が装飾され、そこに、家具やオブジェが並びます。
壁紙は、メートル・ダールの第一候補であるリシャールのもの。
舞台芸術家として活動した後、20世紀半ばに忘れられつつあった手刷り木版による壁紙印刷を再興したアーティストです。
さまざまな文様を魅せる壁紙には、歴史的建造物の壁紙修復から、その時代の技術を再発見し、道具や技法を再発明した成果が盛り込まれています。
とにかくきれい・・・。
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ドゥ・コーヌの麦わら象嵌が生み出したチェストは、「えっ?これが麦わら?」と思わせるほどに硬質な光沢を持ち、アール・デコ風の模様が上品な光を放っています。
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(展示風景から) |
平面から立体的な形態と空間を生み出す金属細工に魅せられたル・ベール(彼もこの分野でのメートル・ダールの第一候補)は、楽しいテーブルと、オブジェの出品です。
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(展示風景から) |
テーブルはぜひ、脚の部分から覗いてみてください!
実に細やかな装飾がなされていて、見ごたえがあります。
オブジェは、彼の内なる世界の表象だそうで、不思議なフォルムとともに、その薄さと、カラフルな金属的な輝きの組み合わせが印象的です。
第4室 傘(ミシェル・ウルトー 2013)、扇(シルヴァン・ル・グエン 2015)
第4室展示風景 |
暗い空間にあでやかな傘と扇が舞うプロムナードになっている第4室。
スポットライトがそれぞれの作品の魅力を引き出しています。
幼少期から傘に魅了され、自身も熱心なコレクターであるというウルトーの創る傘は、すべて独学で習得した技術だそうです。
そのファッション性は高く、映画や舞台、世界の王族からも指名されるほど。
あるものは妖艶に、あるものは清楚に、あるものはコケティッシュに、傘の美しさを魅せてくれます。
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最年少38歳でメートル・ダールの認定を受けた扇作家のル・グエンの作品は圧巻です。
羽根で作られた華麗なもの、黒地に金の線が入った渋いものから、アシンメトリーな形のもの、日本の折紙に着想を得た立体的なもの、果ては雑誌の切り抜きなどを使用したキッチュなものまで、その独創とアイデアの幅広さに感嘆します。
©Stephen Jackson |
©Stephen Jackson |
展示風景から |
壁ごと全部持って帰りたいくらい(笑)。
第5室 折り布(ピエトロ・セミネリ 2006)
第5室展示風景 |
家具製作やインテリアデザインを学んだ後、プリーツ技術や幾何学模様の表現から、折紙を応用したセミネリの新しいテキスタイル「折り布」の空間。
まずは中央に掛けられた巨大な折り布に圧倒されます。
渋い彩色に鈍い光沢を持ったテキスタイルは本当にみごとな“折り布”。
思わず触ってみたくなる質感と、パターンを持っています。ちょっと重量感にも気圧されて…。
暗い中に浮かび上がるそれらは、蔵の中で光る鎧を想像させ、時間や手わざの積み重ねを感じる思索的な空間になっています。
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(展示風景から) |
第6室 銅板彫刻(ファニー・ブーシェ 2015)、紋章彫刻(ジェラール・デカン 2006)、エンボス加工(ゴフラージュ)(ロラン・ノグ 2011)
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19世紀に開発された銅板と感光性のゼラチンで画像を印刷するエリオグラビュールという銅板印刷。
ユネスコ無形文化遺産にも登録されるこの伝統技法を、デカンから学んだブーシェは、この技法で、アート作品を創ります。
単なる印刷にとどまらず、新しい工芸美術として立体作品にも挑戦した彼女の、今回のテーマは日本の侍の鎧だそうです。
内側から光を当てられたそのオブジェは、いかめしい鎧とは裏腹に、非常に繊細で美しい女神のように見えました。
オブジェとしてだけではなく、ぜひこの印刷技術の美しさを、近くで堪能してください!
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紋章彫刻の第一人者デカンは、メソポタミアで紀元前400年頃に生まれた円筒印章に触発されて制作した円筒印章が展示されています。
自然界への敬意を示したというこの印章からは、さまざまな動物たちの姿が浮かび上がります。
小さくて可愛らしいのに、壮大なイメージが広がります。
(展示風景から) |
(展示風景から) |
また、今回初の試みであるというガラスの表面に刻印を施した作品にもご注目!
ガラスの絵本を観ているような気持になります。
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印刷業を営む一方で、エンボス加工や箔押しの技術の保存と再生、そして新しい作品を造り、多くの高級メゾンからのカードやコフレの注文を受けているノグ。
日本の製紙メーカーと協力してさらに高い技術を必要とする作品制作にもチャレンジしているそうです。
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こちらは日本の特殊加工紙「パチカ」を使った、盲目のひとが触れて読むことができる本。
このほか、日本の浮世絵を思わせる箔押しの小作品の連作も素敵です。
第7室 羽根細工(ネリー・ソニエ 2008)
一室を飾るのは、一見、花や樹、鳥の巣のようなカラフルなオブジェ。
こちらも近寄ってじっくり観てください!
展示風景 |
近撮(展示風景から) |
ソニエが制作した美しい花や鳥、ちょっと怖い龍の顔は、すべて軽やかで繊細な羽根で造られているのです。
ふわふわと頼りなげな羽根が、その色と合せ方によって、しっかりとした物質を表している、その驚嘆の技術を、美しい自然を表した作品で楽しんで。
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第8室 ガラス(エマニュエル・バロワ 2010)
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最後の部屋は、ガラス作家バロワの作品で。
農学を学び人道援助セクターで勤務後、写真家となり、そこで出会ったガラス職人をきっかけに独学でガラス細工を学んで、協会のステンドグラスの修復に携わったという、変わった経歴を持つバロワ。
伝統的な職人技術と最新の工業技術を結びつけて新たなガラス製造技術を創り上げたそうです。
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出品作は、「光のカーテン」といえそうな、大きなオブジェです。
縦にも横にも波打つような曲線を持つ半透明のガラスの薄板が連なってひとつの軽やかな壁を創っています。
作品に沿って歩いていくと、それは表情を変えていきます。
ガラスが発している光の強さも変化し、多様な印象をもたらして・・・。
硬さと柔らかさ、光と影、透明と不透明、物体と空気、あらゆる相対するものが共存した、幻想的な空間になっています。
伝統の継承という、日本でもなじみある技術の在り方。
そこには、日本のものや東洋のものとの共感や協働もありました。
同時に、彼らはいずれも、自然や人道、社会的責任を強く意識した生き方の中で、作品を生み出していることも印象的でした。
そして、喪われつつあるものをつなぎながら、現代に生きる革新性を、その精緻な美に昇華させているのです。
とにかくいずれも美しくて魅力的。
卓越した技とセンスが集約された空間を、ぜひ体感してください。
(penguin)
『フランス人間国宝展』
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現代アートで考える、現在の世界と未来への指標
今年6回目となる現代アートの国際展「ヨコハマトリエンナーレ 2017」が開催中です。
テーマは、「接続性」と「孤立」。
インターネットをはじめとする驚異的なテクノロジーの発達でグローバル化する世界は、一方で、クローズされた小さな集団も生み出しています。
対極的なふたつの方向が併存して、これまでの価値観や社会の枠組みが大きく揺らぐ現代を、ふたつのキーワードから考え、未来へ向けての新しい視点を発信します。
タイトルの「島と星座とガラパゴス」は、そのコンセプトを受けて、孤立した存在としての「島」を「星座」のようにつなぐことで見えてくるものや、独自の豊かな生態系の発展をみた「ガラパゴス島」のような変容が生まれることを示すのだそうです。
撮影:加藤健 写真提供:横浜トリエンナーレ組織委員会 |
世界から厳選された38アーティスト+1プロジェクトを、それぞれ小さな個展形式で紹介、それらが星座のように連なったとき、「いま」の姿を見いだせるように構成されています。
この現代アートの祭典も、残りわずか。
まだ~!という方に、見どころをいくつかご紹介します。
横浜美術館
今年のメイン会場で、最も多くのアーティストの作品が観られます。
どうしても時間が限られる方は、ココをチェック!
ヨコハマトリエンナーレ2017展示風景(横浜美術館) 撮影:加藤健 ©Ai Weiwei Studio 写真提供:横浜トリエンナーレ組織委員会 |
(展示風景から) |
美術館正面を飾る(?)のは、アイ・ウェイウェイ(中国)。
拠点をヨーロッパに移した2015年から取り組んでいる難民問題がテーマです。
建物を包むように設置されているのは、実際に使用された救命ボートと救命胴衣。
その匂いも含めて、使用の跡が残るボートと胴衣は、その数(それでも一部でしかない)とともに、圧倒的なインパクトで、世界のひとつの姿を表しています。
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会場にはもう1点、3000個の磁器でできた淡水に棲む蟹のオブジェが山積みに。
中国語で「調和・協調」の意味と、ネット上の隠語である「検閲」の意味の同音異義語をかけた作品だそうです。
自身もネットでの発信を精力的に活用し、大量であることをひとつの力とする、アイ・ウェイウェイらしい、諧謔とユーモアに富んだ、深い作品です。
ヨコハマトリエンナーレ展示風景 撮影:田中雄一郎 写真提供:横浜トリエンナーレ組織委員会 |
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エントランスでこれまたその巨大さに絶句するのが、ジョコ・アヴィアントの注連縄をモチーフにした作品。
日本のものよりしなやかで耐久性のあるインドネシアの竹を独自の方法で編み上げ、喪われつつある自国の伝統文化や、人間と自然との共生を考えてきたアヴィアント。
今回は、日本古来の神事に使用される注連縄を造ることで、そこに国の違いという要素を重ねます。
360度はもちろん、2階からもぜひ鑑賞を。
観る角度で、怖くもなり、キュートにもなり、神々しくもなる、サイズにも拘らず、どこか愛おしくなる作品です。
©2016 Mr./Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved. Courtesy Perrotin |
エスカレーターを上がると、そこは“妄想の世界”。
ミスター(日本)による、“ジャパニメーション”の空間が創られています。まさに日本独自のガラパゴス
的進化?
オタクカルチャーや“萌え”要素を、アートに取り込み、変容させるその作風が全開のインスタレーション
は、“かわいい”少女たちの画やフィギュアが、どこかいびつさを伴って、不穏な空気も漂わせています。
人気のリクリット・ティラヴァーニャ(アルゼンチン)は、カールステン・ヘラー(ベルギー)、トビアス
・レーベルガー(ドイツ)、アンリ・サラ(アルバニア)とのコラボレーション・プロジェクトで参加。
アンリ・サラ&リクリクット・ティヴァーニャ 《ジルバ タンゴフライ タグプラント》など (展示風景から) |
前の作家が制作した作品のほんの一部を手がかりに、そこから自分の制作を開始、こうして4人がリレーしてできあがった版画作品の展示室。
1920年代に、シュルレアリストたちが創作で遊んだ「優美な死骸」というゲームへのオマージュになっています。
一定の制約は設けながらも、思いがけない作品の共演から生まれる、緊張感や意外性を楽しんで。
個人的におススメが以下のふたり。
プラバワティ・メッパイル(インド)とケイティ・パターソン(イギリス)です。
展示風景(細いワイヤーが張られています) |
白い壁の上部に張られた細いワイヤーやそのワイヤーを施したパネル。
金細工師の家系に生まれたメッパイルの、伝統技術を現代アートに活かした、非常にミニマルな作品です。
繊細で静かに空間を変貌させる、その美しさと力にうっとりです。
の展示風景 |
©Katie Paterson. Courtesy James Cohan, New York. |
一見、何の変哲もない石を連ねたネックレスは、世界中から集められた170個の化石で造られています。
拡大鏡がそばに置かれていますので、ぜひ一つひとつを確認してみてください!
パターソンの生み出す小さな世界に内包されているのは、時空を超えた宇宙なのです。
その物語性とスケールを、可憐なネックレスに表した洗練の造詣に魅了されます。
タチアナ・トゥルヴェ(イタリア)は、「居住すること」を突き詰めた、新しい「家の形」を提示します。
扉もなく、内と外の境界もない構造物は、その形態と配置の調和が心地よく、無愛想な素材の集積なのに、魅力的な空間を造っています。
「どんな環境においても家に住まうこと」という、イタリアの建築家の思想への共鳴から生まれたこの「家」は、未来への可能性のひとつを感じさせます。
マレーシアのアーティスト、アン・サマットは、日常的な素材とビーズなどを編みこんで、酋長のオブジェを。
Courtesy: Richard Koh Fine Art and the Artist |
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作品には、それぞれ性別があります。
社会でのヒエラルキーや、性差といったジェンダーの問題と、伝統と現在をつなぎ、そこへの思考を促がします。
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写真かと見まごうほどの写実を、さまざまな濃さの鉛筆で描き出す木下晋(日本)は、「孤独を生きる人」へのまなざしから、元ハンセン病患者の肖像や、年月を刻んだ手や足をモチーフにしています。
巨大な鉛筆画は、有無を言わさぬ強さを持って、人間が持ちうる「尊厳」をダイレクトに訴求します。
さすがは、本展出品の最長老、シンプルな作品が、強烈な力を放ちます。
そして個人的にもうひとつのおススメが、ワエル・シャウキー(エジプト)。
©Wael Shawky; Courtesy Lisson Gallery |
操り人形を使って、「十字軍」の物語を映像にしています。
本来は3部作ですが、本展では、そのうちの第3部が紹介されます。ムラーノ・ガラスで作成された操り人形は、それだけでもちょっと不気味な雰囲気です。
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人形たちが動き、語る「十字軍」は、非西洋社会からの視点で描かれています。
国家、民族、宗教、芸術を、歴史や社会背景とともに、活劇として見せる壮大な映像作品。
とてもすべて見通すことは難しいかもしれませんが(約2時間!)、立ち去り難い空間です。
とってもこわ面白い映像の後は、カラフルで愛らしい「熊ちゃん」と遭遇。
ヨコハマトリエンナーレ2017展示風景 撮影:田中雄一郎 Courtesy the Artist and Perrotin 写真提供:横浜トリエンナーレ組織委員会 |
従わずにはいられません(笑) |
パオラ・ピヴィ(イタリア)の作品です。
現在拠点としているアラスカで神聖とされる動物を、鮮やかな彩色の鳥の羽で造っています。
うずくまっていたり、小熊が母熊にしがみついていたり、その姿態はとにかくかわいいのですが、タイトルと併せて考えたとき、そこには、自然と芸術、動物と人間の営みという、想いが見えてきます。
「Green light─アーティスティック・ワークショップ」の展示風景 |
オラファー・エリアソン(デンマーク)は、参加型のワークショップでの出品。
シンプルな素材でできるランプを、難民や地元民、観客など、さまざまな人と共同制作することで、身近な視点から社会問題を考えるきっかけを創出しています。
参加できなくても、そこにリアルタイムで作られていく、ランプの美しいこと。
光のメッセージを受け取ることも参加を意味しているはずです。
各部屋をつなぐ通路の作品もお見逃しなく。
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Photo: Attilio Maranzano Courtesy: Maurizio Cattelan's Archive and Perrotin gallery |
壁に並ぶ顔の一群は、マウリツィオ・カテラン(イタリア)の分身。
不気味でユーモラス、皮肉たっぷりに、「自分」という存在の在り方への問いかけを突き付けてきます。
実は、さみしげに全身をぶら下げている展示も会場に。こちらは探してみて!
(展示風景から) |
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メッパイルのもうひとつの作品も通路にあります。
ボルトやナットを思わせる金属を壁に並べただけですが、これもまた美しく、印象的です…。
吸い込まれそうな空間がそこにあるかのよう・・・! |
とても面白いのが、マーク・ステファニー(フィリピン)の《穴》。
ハシゴで降りていけそうな、ないはずの空間が、あらわています。
ヴァーチャルな異空間の出現は、改めて私たちの視覚認識を考えさせられます。
さて、異動には無料バスが巡回しています。
こちらのバスにもご注目。
言葉をアート作品にして、メッセージの浸透を図り続けてきたジェニー・ホルツァー(アメリカ)の作品に
なっています。
どんな言葉に出逢えるか、そこから何を受け取るかは、現地でのお楽しみ♪
横浜赤レンガ倉庫1号館
まずは日本のアーティスト小沢剛から。
歴史上の人物を事実とフィクションから物語を作り、インスタレーションにする近年の「帰って来た」シリ
ーズを。
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今回の主人公は岡倉覚三(天心)。
実際に彼のインドでの足跡をたどり、現地スタッフで作成した音楽と映像と看板絵で、岡倉の思想を現代につなげます。
曲と詩のリフレインが記憶に残る、彼らしいちょっとユーモアをこめつつも、現代への憂いが感じられる作品です。
看板にもなっているクリスチャン・ヤンコフスキー(ドイツ)の作品は、映像と写真とパフォーマンス。
身体と公共彫刻の関係性から、私たちの生命そのものと、歴史とを改めて見直すきっかけを提供しています。
Photographer: Szymon Rogynski Courtesy: the artist, Lisson Gallery |
この会場でのおススメは、近年活躍が著しい青山悟(日本)。
(マリーヌ・ル・ペンとエマニュエル・マクロン両者に 反対するフランスの学生たち) 》 2017 (展示風景から) |
《フランス大使館へ(2008年11月4日)/パリ》 2010 (展示風景から) |
「刺繍」という手段で、ジェンダーの問題や社会思想を訴える彼の作品は、小さくて、決して声高ではないのですが、その中に奥深い視線を感じられます。
100年前の印刷物に施された刺繍が浮かび上がらせる女性像や、各国で活躍する女性政治家たちを銀糸で描いた肖像は、精緻な技術にも感嘆します。
今回は、画家であった祖父の作品と背中合わせに展示、現在の孤立と接続を、時間軸でも示します。
横浜美術館の入り口にも作品が展示されています。こちらもチェックを。
もうひとり、注目の若手アーティスト、ドン・ユアン(中国)を。
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区画整理のために解体される祖母の家を、絵画だけで再現しています。
家財道具から、テーブルの料理まで、すべて描いたキャンバスで作り上げた空間は、中国の伝統的な民家の風景。
二次元と三次元の問題、描かれたものと現実の関係、記憶と現存の差異、それらを人の営みと社会性のあやうさに込めてメッセージする、多層性がみごとです。
横浜市開港記念会館
ここに展示されるのは、柳幸典(日本)の3点。
地下の空間全体を活かしたインスタレーションです。
《Project God-zilla ―横浜市開港記念会館の地下室》 2017 (光っているのがゴジラの眼です・・・) |
《Article 9》 2016 |
国旗の砂絵に放たれた蟻によって、そのイメージが壊れていく「ブラック・アンド・ファーム」シリーズか
ら、《蟻と日の丸》と、憲法9条をLED電光で表示する《アーティクル9》。
そして瓦礫の中からゴジラが眼を光らせる《Project God-zilla》。
いずれも日本の現在を鋭く問いかける、強い作品になっています。
ゴジラは、いかにもタイムリーですが(笑)。
多くのアーティストの作品に触れる展示も魅力ですが、今回のように一人ひとりの作品を複数観られる空間は、それぞれのアーティストの創造世界により深く接することができるのが嬉しいです。
閉幕までの6日間は夜間開館もあり!
気になる作品とじっくり向かい合いながら、彼らのメッセージをつないでいく楽しみを味わってみてください。
(penguin)
視点を変えて、仏画に近づく楽しみ
仏教が日本にもたらされて以来、その教義を伝え、聖なる姿を拝むべく、多くの仏画が描かれてきました。
経典に従い、あるいは人々により解りやすくするため、多種多様な「ほとけ」の姿が生まれます。
根津美術館では、この仏画の図様を「支えるもの」から観ていく、興味深い展覧会が開催中です。
ほとけが何に座し、あるいは立ち、何に乗り、何を踏みつけているのか。
衣装やポーズ、持物と並んで、それらを知ることで、その像の名や意味を知るヒントをくれます。
「支えるもの」を4つのカテゴリーに分け、当館コレクションから7件の重要文化財、4件の重要美術品を含む選りすぐりの仏画約40件で、仏画の魅力を魅せてくれます。
蓮華
(展示風景から) |
泥の中から伸び、白や淡紅色の美しい花を咲かせる蓮の花は、仏教を象徴する花です。
多くのほとけがこの花の上に座ったり、立ったりしています。
花の中心で平らになっている部分を花拓(または花床(かしょう))といい、この蓮台が動物や雲の上に乗ると、霊獣座や雲座と呼ばれます。
ここでは、生きたまま悟りを得た釈迦が宝床に横たわる姿を始まりとして、蓮華座に坐す釈迦如来を観ていきます。
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彩色も美しい釈迦三尊像は南北朝時代のもの。
脇侍が乗る白象と獅子にも注目です。
霊獣
(展示風景から) |
ほとけを乗せる動物としては、白象と獅子がよく知られます。
六本の牙を持つ白象は普賢菩薩を、獅子は文殊菩薩を乗せます。
普賢菩薩は慈悲と理知をつかさどり、文殊菩薩は智慧をつかさどると言われます。
彼らは三尊として、釈迦如来の脇侍に、時には単独で描かれ、信仰の対象となりました。
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やや幼い面影を残す文殊菩薩。
後光から蓮台、獅子の眼などに配された金が、荘厳さを出しています。
(展示風景から) |
また、普賢菩薩の眷属に、十羅刹女がおり、彼女たちの母である鬼子母神も眷属とされます。
こうした女神がそばにいることもあり、普賢菩薩は多く女性の信仰を集めたといいます。
重要文化財の《普賢菩薩十羅刹女像》もぜひ会場で!
天部
(展示風景から) |
天部とは、天界に住むほとけの総称です。
輪廻転生の思想では、六道のうち、天道に住んでいます。
仏教以外の古い神々が仏教に採りいれられて(帰依して)、ほとけを守る護法神となった、梵天、帝釈天、四天王や吉祥天、弁才天から毘沙門天、金剛力士、十二神将など、優美なものから勇猛な武将姿のものまで、個性豊かな像が描かれました。
鎌倉時代の《愛染明王像》(重文)をはじめ、毘沙門天や十二天像のうち、梵天、帝釈天、火天、水天の4像など、さまざまな天部のほとけの姿を楽しめます。
邪鬼
日本・平安時代 12世紀 根津美術館蔵(展示風景から) |
天部の中でも、四天王などの武神たちが踏んでいるのが邪鬼です。
仏法を犯す邪心として踏みつけられ、苦悶の表情を浮かべているのですが、どこかユーモラスな愛嬌があります。
鎌倉時代の《不動明王像》でも、その姿を立体でも確認できます。
弁財天などの女神は蓮台に乗り、阿弥陀如来や地蔵菩薩の出現は、雲に乗る形で表されました。
末法思想が興った平安時代以降、極楽浄土への転生を祈って如来の来迎や、衆生を救う地蔵菩薩は多く描かれるようになります。
密教のほとけを支える ―霊獣・岩・宝瓶・天・荷葉・氍毹
(展示風景から) |
空海や最澄が日本にもたらした密教は、ヒンドゥー教の神々を取り込むことで、ほとけとそれを支える台座の種類を飛躍的に増やします。
この複雑な相関図を一枚に表わしたのが、「曼荼羅」です。
ほとけの姿や持物、彼らを守り、支えるモノに注目して、《金剛界八十一尊曼荼羅》(重文)を解説するコーナー。
どうしてもその細やかさに漫然と観てしまいがちな曼荼羅を、その要素で分類、分かりやすいカラー・パネルとともに展示されていて、楽しくたどれる趣向になっています。
(展示風景から) |
絹本着色 日本・鎌倉時代 13世紀 根津美術館蔵 (展示風景から) |
(展示風景から) |
岩の上には不動明王、蓮華座の下に宝瓶(ほうびょう)を置く愛染明王、十二天や弁財天などの守護神の台座には、丸く広がった蓮の葉である荷葉(かしょう)や毛織の敷物である氍毹(くゆ)など、なんだかとても身近に感じられてきます。
絹本着色 日本・鎌倉時代 13世紀 根津美術館蔵 (展示風景から) |
また、密教が生み出した五大明王のうち、俗世の主を降伏する憤怒尊である《降三世明王像》(重美)も。
炎を背負い、三面六臂の明王が、左足に大自在天の顔を踏み、持ち上げた右足を彼の妻である烏摩妃の手が支える、という、ちょっと不思議ながら、迫力の一作。
いずれも、本展覧会の見どころです!
観音菩薩が住む・現れるところ ―補陀落山・さまざまな場面
(展示風景から) |
衆生救済のほとけである観音菩薩は、特に広く信仰されました。
その図像も、観音浄土である補陀落山にくつろぐ姿、救済のために現世に現れる姿、月輪の中に表される密教絵画の中でも岩が補陀落山を象徴するなど、さまざまなバリエーションが生まれます。
ここでは、観音菩薩像に注目、その場面の多様さを観ていきます。
二十八部衆とともに描かれた千手観音、月の中に浮かぶ聖観音、そして北斗七星の中に聖人が描かれた如意輪観音の珍しい図像など、いずれも美しく、うっとりです。
特異な台座 ―現実的なかたち
(展示風景から) |
通常の尊像は、経典や先例にしたがって描かれます。
しかし、中にはそうしたルールに則っていない特異な形の台座や光背を持っているものや、実際の彫像を忠実に写しとったものありました。
お約束からは離れた、ある意味現実に基づいた台座や光背を持つ作品が紹介されます。
ここでの見どころは、法勝寺にある彫像を写した画像として貴重とされる《愛染明王像》(重文)です。
その描写とともに、美しい彩色も堪能して。
このほか、やはり重文指定の《善光寺縁起絵》に描かれた秘仏の金銅阿三尊像や《大日如来》など、これまた見ごたえたっぷり。
ほとけの飛行 ―雲
(展示風景から) |
最後に、ほとけの移動を表すのに使用された雲の表現を確認します。
日本・鎌倉時代 14世紀 根津美術館蔵 |
(←)鎌倉期の阿弥陀如来の来迎図。
25体の菩薩を引き連れて、死者を迎えにくる様子が、きらびやかな金で描かれ、いま観ても神々しい一枚です。
雲のたなびく様子が、いかにも今降りてきたスピード感を表します。
どっしりとしながら、その重さを感じさせない聖なる姿には、雲というのりものは、ぴったり。
軽やかで荘厳な顕現に、思わずこちらの心も浮遊しそうです。
いつもとはちょっと異なる仏画へのアプローチは、これまでとは異なる新しい魅力や楽しみを与えてくれるはず。
【同時開催】
展示室5 水瓶(すいびょう)
(展示風景から) |
仏画でのほとけの持物にちなみ、水瓶が特集されています。
水や酒を入れて、使用する水瓶は、聖なるものにとどまらず、人々の生活の中で、先史から使用されてきました。
中国は漢時代の青銅器、唐時代の白磁、宋時代の青磁から江戸時代の陶磁器、煎茶に使用された急須まで、祭事から日用使いまで、その展開と多様な素材、表情の水瓶を楽しみます。
景徳鎮民窯 中国・明時代 16世紀 根津美術館蔵 |
根津美術館蔵 (展示風景から) |
左:
景徳鎮窯で焼かれた、豪華な金襴手の水瓶です。
金属器の形を写した瓶は、主に日本へ輸出されていたのだそうです。
右:
オランダから贈られた急須は、教皇年号の入った箱に入っていたそうです。
展示室6 菊月の茶会
(展示風景から) |
九月を表す菊月(すみません、すでに長月ですが…汗)。
風もひんやりとして、澄んだ空の月は青く美しい季節。
茶道具約20件で、秋の景色を感じます。
日本・室町~桃山時代 16世紀 根津美術館蔵 |
「又たくひあらしの山の麓寺杉の庵に有明の月」という夜明けの月を詠んだ和歌に因んだ銘を持つ茶入。
釉薬の気配が、肌寒さを増してくる秋の夜明けを感じさせます。
ころりとした丸みを帯びた肩が「芋子」の由来です。
日本・江戸時代 17世紀 根津美術館蔵 (展示風景から) |
千利休作の花入を孫の宗旦が写したものだそうです。
利休の作品(東京億立博物館蔵)の銘「園城寺」の通称である「三井寺」と銘されています。
(penguin)
北斎のもうひとつの魅力と才能を楽しむ空間
昨年のオープン以来、早くも30万人を超える入場者でにぎわうすみだ北斎美術館。
妹島和世による大胆な建設と、ピーター・モースおよび楢﨑宗重の優れたコレクションを擁して、研究成果を発信しています。
江戸時代に、数え90歳を超える長寿を、画を描くことに費やした稀代の天才、葛飾北斎。
彼が名古屋の西本願寺で描いた大ダルマから200年になる記念として、当時の彼の行動をたどる展覧会が開催されています。
なぜ名古屋だったのか?どうしてそんなイベントが開催されたのか?
貴重な作品や資料約150点からうかがえる北斎の意外な計略を、空間として楽しく魅せる造りになっています。
1章 江戸と名古屋のにぎわい
(展示風景から) |
将軍のお膝元・江戸は人口100万人を超える、世界でも有数の一大都市となっていました。
同じく徳川御三家の筆頭、尾張徳川家の城下町であった名古屋も、7代目藩主宗春の時代に文化新興が進められ、江戸・大坂・京都に並び四都に数えられるまでに成長していたそうです。
いずれの都市も、庶民の生活は安定し、芝居見物や大道芸、寺院の開帳や祭礼から、郊外への行楽、夜の歓楽など、余暇を楽しむ文化も発達します。
そうした町のにぎわいを表し、時には宣伝を目的とした摺りものも多く制作されました。
まずは両都市の活況の様子を遺された資料から感じます。
そこには、北斎をはじめとする絵師たちが活躍する機会が浮かび上がります。
江戸―芝居町 吉原 見世物天国 浅草・両国!
すみだ北斎美術館蔵 ※前期展示 |
芝居小屋の並ぶ通りは、ひしめく人々の期待と熱意が画面いっぱいに描かれ、当時の人々にとってどれほどに人気で楽しみにされていたのかが伝わってきます。
「浮絵」という、遠近法を導入した構図も、新しいものを試みる北斎の先見性を伺わせて・・・。
※後期は、歌舞伎とともに「二大悪所」と言われた吉原の風景が見られます。
すみだ北斎美術館蔵 ※前期展示 |
隅田川沿岸の散歩も、江戸っ子には楽しく、粋な行楽でした。
沿道に並ぶ店を冷やかし、橋を渡るいっぱいの人々が描かれます。
こうした絵本は、江戸の観光ガイドとして重宝されました。
彩色もきれいに残っていて、見ごたえ十分な冊子です。
※後期には「東都勝景一覧」から、名所の姿を楽しめます。
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当時は、海外から輸入されたものも、見世物として人気を博しました。
両国で行われたヒトコブラクダのお披露目が大評判だったようで、好奇心旺盛な北斎のこと、きっと出掛けての描写ではなかったか、と。
珍しいもの、怖いものを観たい心理は、いつの時代でも人間の共通の欲望です。
化政文化爛熟期には、こやや皮肉や歪んだ嗜好のものがブレイクします。
もちろん我らが北斎もその空気をいち早くキャッチ。
のちに代表作のひとつとなる「百物語」のシリーズもこの頃生み出されます。
すみだ北斎美術館蔵 ※後期展示 |
鶴屋南北の「番町皿屋敷」に基づいた幽霊図。
皿をつないだ先についたお菊の頭が蛇のようにも見える、独創的な姿は、恐怖とともにどこかユーモアを持っていて、彼の造形力とともに、江戸人の洒落っ気をいかに把握していたかを感じます。
名古屋―大坂城下に花開く見世物文化
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北斎の名声は全国に響き渡っていた時代。名古屋にも多くの弟子を抱えていたようです。
こちらは北斎の孫弟子と言われる森玉僊の作品。名古屋のメインストリートの様子が描かれています。
みごとな藍染の暖簾は伊藤呉服店(のちの松坂屋)のもの。
(展示風景から) |
彼の作品はほかに、名古屋の名所を団扇絵にしたものがあります。
全22図のうち原本は5図しか残っていないそうですが、昭和になってから復刻した、鮮やかな色彩のものが、一部紹介されています。(→)
遠近法を使用した俯瞰で表わされたシリーズは、江戸期の名古屋を知る、貴重な資料でもあります。
このほか、復古大和絵の画家として知られる大石真虎による「開帳夕涼夜景図」(前期展示)や、尾張藩士でもあった高力猿猴庵種信の「御鍬祭図略」などでも、そのにぎわいを確認できます。
(展示風景から) |
また、名古屋では、籠細工で奇抜なオブジェ(?)を制作することがブームだったようで、当時の資料から、見世物として展示されていた獅子の籠細工が復元されています。
高さ212cmもある、巨大な獅子は、今見ても迫力と楽しさ満載です!
2章 北斎漫画の誕生
(展示風景から) |
北斎が関西旅行の道すがら、名古屋で出会った牧墨僊との交流が『北斎漫画』誕生のきっかけとなります。
半年間墨僊宅に滞在した北斎がスケッチした人物や動植物を、名古屋の版元永楽屋東四郎が絵手本として出版しました。
いまもさまざまな版で出版され続けているこの書は、名古屋で生まれたのです。
『北斎漫画』誕生に関わる人びとやその事績を追っていきます。
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何よりも見どころは、当時の『北斎漫画』全15冊の一堂展示!
しかも、通常は捨てられてしまうため、なかなか遺されない、「袋」と呼ばれる販売時に版本を包んでいた包紙まで揃っての紹介です。
まず再会は難しいだろう、大判ふるまいの展示は必見です。
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北斎の一筆書きの教本が入っていた袋。
内容も、思わず真似してみたくなる面白さです。(会場で!)
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後期はページ替えがありますが、『北斎漫画』の一ページ。
画力は言うまでもないことですが、何よりもこの本が魅力的なのは、描いている北斎自身が楽しんでいる様子が伝わってくること。
自分でページをめくれないのは残念ですが(笑)、じっくりご観覧あれ!
大ヒットを飛ばした『北斎漫画』。
これを手本に、あるいは触発されて、さまざまな後継が模写や新たな「絵本」を制作します。
それは工芸にもおよび、『北斎漫画』からモティーフを採った茶碗なども生まれます。
その影響力を感じさせる作品も見られます。
3章 大パフォーマー北斎、大ダルマを描く
(展示風景から) |
さて、いよいよ一大イベントして歴史に残る、大ダルマを描く北斎を追います。
これまで活字でしか知られていない活動を、できる限り視覚的に魅せる空間。
そこには、世界で1点しかないものや、近年あまり公開されていなかった希少な肉筆画なども展示される、本展の目玉コーナーです。
北斎が自らを宣伝媒体に、パフォーマーとしてふるまったのは、まずは江戸でのこと。
音羽護国寺開帳時に大ダルマを描き、両国回向院では布袋の大画と米粒に雀を描き、あらゆる技を持つこともアピールしています。
また、史実かは定かでありませんが、将軍家斉の御前で鶏を使って絵を描いたという逸話も残っています。
会場では、それらを図付きで伝える文献とともに、現代アーティストによる実演の結果も展示されます。
(展示風景から) |
(展示風景から) |
拡大鏡で観られる米粒に雀の画と、将軍の御前で披露したという「竜田川に紅葉の図」の再現映像と、完成品。
「竜田川に紅葉の図」の制作映像と完成品。 (展示風景から) |
チャボの足跡で、川に散る紅葉を表すまでの過程は、(その苦労も含めて)面白く、(完成度はともかくとして)こんなエピソードまで残り、いままたアーティストを刺激する、北斎のキャラクターに改めて感服です。
そして、名古屋でのパフォーマーぶりを。
名古屋市博物館蔵 ※前期展示 |
『北斎漫画』販促のために準備されたこちらはなんと!北斎自らが描いた宣伝ポスター!!
(前期展示でした・・・すみません)
イベント告知ですから、当然終了後には廃棄されてしまい、現在ほとんど遺っていない貴重な作品。
一枚20銭で販売された引き札になっています。
名古屋市博物館蔵 ※後期展示 |
後期には、高力猿猴庵によるパフォーマンスの実況記録が!
前日の期待高まる城下の様子から、当日開始前の状況、実演の終始に、その後の作品の展示まで、まさに独占密着レポートは、現在の週刊誌などを先取りしているといえましょう。
(展示風景から) |
さらに。
会場には、その大きさを実感してもらうため、実寸大の復元図も置かれています。
あまりの大きさに、一部展示であるのはご愛嬌(笑)。
個人蔵 (展示風景から) |
また、同時期に描かれた肉筆の達磨図からは、時と場合によって、多様に使い分ける北斎の画力を改めて感じられます。
賛は太田蜀山人のこちらも、貴重な公開です。
4章 名古屋に残した北斎の足跡
(展示風景から) |
こうした画と行動ともに、反響を呼んだ北斎は、名古屋をどのように捉えていたのか。
そして彼に影響を受けた絵師たちがどのようにそれを継いでいったのか。
最終章では、北斎の視線と、名古屋で活躍した門下生たちの作品を観ていきます。
文化(1804-18)中期 名古屋市博物館蔵 ※前期展示 (展示風景から) |
天保5(1834)年~文久年間(1861-63) すみだ北斎美術館蔵 ※前期展示 (展示風景から) |
(展示風景から) |
『北斎漫画』誕生のきっかけとなった牧墨僊の弟子であった森玉僊の肉筆。
美人画には、北斎の影響がみてとれます。(※後期は別の作品が展示されます)
キュートな相撲人形のひと品も玉僊のもの。ただし、署名は森高雅となっています。
墨僊没後、幕末の変遷の中で名古屋の絵師たちは、次第に浮世絵から離れ、大和絵へと移っていったそうです。
絵に生きた北斎が、自身と自分の制作物『北斎漫画』の売り込みをかけて仕組んだ、一大パフォーマンス。
そこに見える、お茶目でしたたかな彼の宣伝マンとしての才能を見られるチャンスです。
すでに後期展示に入って、終了間近。見逃さないで!
(penguin)
江戸から現代へ。美人画の変遷を良作で堪能
明治から昭和にかけて、清廉でかつ凛とした中にも、女性としての情念や揺らぎまでを表した美人画を描き、いまなお人気の上村松園。
女流画家の先駆けとして、時代とも戦いながら彼女が遺した数々の美女たちは、鑑賞されるものとしての「美人」から、一個の「女性像」の理想として、美人画の系譜に大きな改革をもたらしたといえます。
それらはいずれもたおやかな色香と内面からにじみ出る品格を併せ持って、わたしたちを魅了します。
この松園の美人画を多く所蔵する山種美術館では、コレクション18点全点を一挙公開するとともに、江戸から現代へ、美人画を辿る、華やかな展覧会が開催中です。
浮世絵から現代の油彩画まで、さまざまな画家による多彩な女性像を4つのテーマで魅せています。
第1章 上村松園―香り高き珠玉の美
上村松園《夕照》、《桜可里》、《新蛍》、 《夕べ》、《春のよそをひ》。 はじまりは松園コレクション。(展示風景から) |
まずは、当館が誇る上村松園コレクションを堪能します。
山﨑種二の妻がことに好んだこともあり、松園とのつながりは生前から深かったそうです。
このため、彼女の代表作である《蛍》や《砧》、《牡丹雪》を含んだ充実の所蔵作品17点が一堂に並びます。
武家や上流階級の女性から、市井の母・娘、芸妓、物語や歴史上の人物までさまざまな層や年齢の女性たちは、いずれが菖蒲か杜若か。光が画から放たれているような華やかさ。
ふとした時に見せる女たちのしぐさや表情が、細やかに写しとられ、指先や足先にほんのりと添えられた朱が、やわらかい色気を加え、うっとりの空間です。
自身も日本髪を研究し、着物で過ごしたという松園。
それぞれの階層や時代を反映した髪形や着物の模様や袷せの妙、調度品への心配りも見どころ。
また、画にとどまらず、表装も大切にしており、取り合わせを楽しんだそうです。
それぞれの表装の裂地の美しさもお見逃しなく!
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蚊帳を吊る女性が迷い込んできた蛍にふと目を留めた瞬間。
季節感とともに、風流な日常をストップモーションで捉えます。
絞りの着物は藍のグラデーションで百合が浮かび、女性の清冽な色香を示します。
ほのかな蛍の光には金泥が施されています。近くで確認してみて!
1912-26年頃(大正時代) 絹本・彩色 山種美術館 |
1935(昭和10)年 絹本・彩色 山種美術館 |
左:
元禄時代の島田髷の女性は、女歌舞伎をイメージしたのでしょうか。紫の頭巾が町屋の女性の紅葉狩りの姿と知らせます。
菱川師宣の「見返り美人図」を思わせる美しい風俗画です。
右:
簾をちょっともたげて覗く夏の庭。
やや砕けた着こなしから覗く襦袢の赤が効いています。
ちらりと見える足先が見せる色気が納涼にふさわしい一枚。
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鹿の子絞りの髪飾りが若い女性を表します。
くつろいで読書する姿には、少女から女への、爽やかな女らしさが捉えられています。
浅黄の着物と朱の帯、抑えめの桜と豪華な金地の蝶文の合わせがモダンです。
第2章 文学と歴史を彩った女性たち
川崎小虎《伝説中将姫》、月岡栄貴《鉢かつぎ姫》 物語とともに楽しむ美人画たち (展示風景から) |
日本では古くから神話や伝説、文学を「物語絵」として描いてきました。
絵巻がその代表例ですが、その中の登場人物や、情景を描き出すことも画家の想像力を刺激し、画にも遺されます。
画家たちの創造力を刺激し、その姿をとどめてきた物語や歴史上のヒロインたちの姿を、さまざまな作品で楽しみます。
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上村松園の18作品めがここに。彼女の代表作の一枚です。
九州で、京に上った夫の帰りを待つ妻が、中国の故事に倣い、砧を打ってその音を遠地の夫に届けようとする、謡曲に取材したテーマ。
「いざいざ砧を打たんとて…」、いままさに砧打ちを始めようとする妻の夫を想う遠いまなざしと、決意を感じさせる凛とした立姿。
そこには、恋しさとともに、音信のない夫への恨みの念も込められているようで、ハッとさせられる秀作です。
このほか、
恋しい若僧を追って大蛇になってしまう、清姫を描いた小林古径の《清姫》、
平清盛の娘徳子の晩年の姿を描いた今村紫紅の《大原の奥》、
気品と美貌に和歌や琴の才も恵まれたスーパーレディ、三十六歌仙のひとり《斎宮の女御》を描いた松岡映丘、
歌舞伎の創始者、出雲の阿国を屏風に描いた森田曠平、北斎の娘おゑいを描いた片岡球子など、盛りだくさん。
上村松園《砧》 (展示風景から) |
小林古径《小督》(左幅)、今村紫紅《大原の奥》 (展示風景から) |
(展示風景から) |
それぞれの時代の物語を、それぞれの時代の表現で描き出した、多様なヒロインたちを、エピソードとともに楽しめば、時間を忘れます。
第3章 舞妓と芸妓
《舞》、《秋意》、北沢映月《想(樋口一葉)》。 (展示風景から) |
江戸時代から、花魁や芸者など、夜の世界に生きる女性たちは、その美しさとともに多く描かれてきました。
近代に入り吉原が閉鎖されると、美人画には、舞妓や芸妓が姿を表してきます。
華やかな衣装、艶っぽさや婀娜っぽさに、秀でた芸を持つ存在は、描く側だけではなく、観る側にとっても楽しく、魅力的な存在です。
近代から現代にかけて描かれた美人画のうち、このふたつの職業に就く女性たちの表現を観ていきます。
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くっきりとした輪郭線と平面的で鮮やかな彩色がひときわ目を引く橋本明治の作品は、ひとつのコーナーになっています。
こちらはポーズを家のお手伝いをモデルにし、次いで浅草の舞妓さん、最後に実在する京都の有名な舞妓さんをモデルに仕上げたものだそうです。
タイトルの庭は見えず、青白い舞妓さんの姿と、薄の屏風で秋の月を暗示しているのがにくい演出。
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同じく平面的ながら、やわらかい線で捉えられた舞妓さんは、まだあどけなさやちょっと生意気な様子もあって、愛らしいです。
黒地に金の鶴の袂の着物と、金糸を織り込んだ白地の帯が、シンプルながら豪華な衣装であることを教えてくれます。
このほか、清冽な上品さと色っぽさを併せ持つことでは松園に並ぶ伊藤深水の美しい《雪中美人》や、小倉亀遊の豪華絢爛な舞妓、芸者の対作品《舞う》など、こちらもあでやかな競演です。
お気に入りの舞妓さん、芸妓さんを見つけてください。
第4章 古今の美人―和装の粋、洋装の華
最後に江戸から現代まで、「美人」の系譜を風俗画の視点から概観します。
喜多川歌麿《青楼七小町 鶴屋内 篠原》 江戸期の美人は浮世絵で。(展示風景から) |
それらは単に容姿の美しさだけではなく、その時最先端のファッションや憧れの対象という、アイコンとしても描かれました。
時代を反映しつつ、各々が工夫と創意を凝らした「美人画」の変遷を作品で追います。
江戸時代は人気を博した浮世絵から。
山種美術館 ※後期展示9/26-10/22 |
江戸中期に活躍した鈴木春信は錦絵の創始者のひとりです。カラフルな多色木版に、若い男女の姿を、淡い色香で描き出し、一世を風靡しました。
ふたりの少女が塀の外から庭の梅の花をこっそり手折る姿。
まだまだおきゃんな娘たちは、開花する梅により、これから美しくなっていくことが暗示されます。
塀の横組みのラインに、肩車(?)する少女の躯体が縦に浮かび上がる、絶妙な構図。
大判錦絵 山種美術館 ※前期展示-9/24 |
春信を継ぐ美人画の絵師と自らも宣言した喜多川歌麿は、さらに女性たちの色っぽさを引き出し、一大スターとなりました。
小野小町の伝説にちなんで吉原の人気花魁の姿を描いたシリーズのうちのひとつ。
現在、後期は展示替えの《美人五面相 犬を抱く女》になっています。
1888(明治21)年 大判錦絵 ※後期展示9/26-10/22 |
幕末に活躍し、最後の浮世絵師と言われた月岡芳年は、市井の女性をクローズアップで描きます。
「~そう」という様子を表す言葉に寄せて、さまざまな表情を浮かべる明治の女たち。
活き活きとしてそれでいて妖艶な美女たち、32面相のシリーズから前後期計16点がセレクトされています。
こちらは猫の心から描いています。猫がかわいくてつい頬ずりする娘、どちらの心理にも共感できて、思わずクスリ、となってしまうウィットに富んだ作品です。
明治・大正期は近代日本画壇を創った人々から。
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元禄時代の風体の美人たちが花見を楽しむ、典雅な一幅。
3人の女性の肢体の曲線と着物の色彩が柔らかく、美しい構図です。
右端から顔を出しているのは犬でしょうか?イタチでしょうか?なんともユーモラスな表情で、楽しいです。
山種美術館 |
髪を解いた女性が足を水に浸けて涼む、清涼感あふれる一枚。
淡く滲むような川の流れの描写が、その姿を浮かび上がらせる効果を生んでいます。
奥村土牛の旧蔵品として知られる作品だそうです。
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二曲六双に描かれた江戸の夕立の風景。
舞台のひとシーンを描いたような人物のポーズが印象的です。
このほか鏑木清方による雑誌の口絵や彩色画も、明治の空気を伝えます。
昭和に入ってからは、油彩画も含めて個性的な美人像が並びます。
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弟子の娘を描いたという一作は、赤い背景に、黄色いワンピースが眩しい油彩画。
陽に焼けた肌のつやが健康的で、焦点の合わない瞑想的な表情が、少女と女のあわいを浮かび上がらせています。
このほか、伊藤深水のステキな3点もおススメ。(ぜひ、会場で!)
現代の日本画家による女性像も。(展示風景から) |
第2室では、現代アーティストの作品も紹介されます。
北田克己の《ゆふまどひ》や京都絵美の《ゆめうつつ》は、山種美術館の幅広い日本画収集の現在をも感じさせて、興味深いです。
ただ観ていても、その美しさが悦びをもたらす美人画。
テーマと時代の中で画家が何を追い、何を表してきたのか、見比べるのもまた一興です。
【おまけ】
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恒例のお菓子も、松園をはじめ、古径や明治の作品をイメージ。
美人の要素、味覚でも味わって(笑)!
(penguin)
『[企画展] 上村松園 ―美人画の精華―』
招待券を10名様へ!!(お一人様一枚)
応募多数の場合は抽選の上、
当選は発送をもって代えさせていただきます。
《申込締め切り 10月14日(土)》
お申し込みは、ticket@art-a-school.info まで
!!希望展覧会チケット名、お名前、送付先のご住所を忘れずに!!
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