前日から荒れ模様の空はフライト当日になっても機嫌を直すどころか益々不機嫌になっていった。
ただでさえ、慌ただしく決めた旅行。
荷造りはもちろん、心の準備をするに十分な時間を確保できなかった事も手伝って、テンションだだ下がりの私と反比例するように、久しぶりのオフに久々のプライベートでのフライトにテンション急上昇の彼。
交わす会話の全てがなんとなくすれ違っているのはそのせいだ。
最も昨日から既にテンションが低くておざなりな返答しかできない私の相手をしながら、本当なら一緒に思いっきり浮かれたいのに非難の言葉を口にすることなく、我慢をしているのは彼も同じなんだろうけど…。
でも、彼がなんと言おうと私は飛行機が好きになれない。
移動手段として適当であることも、長い時間をかけて安全性を追求し続けていることも理解しているけれど、感情的に納得できるのは別の話で――嫌いなものは嫌い。
内心、できれば今からでも帰りたいなぁ…、こんなに天気が悪いんだもん、いっそのこと全便欠航にでもなれば諦めてくれるかな…なんて不吉なことを考えながら、口に出すのは辛うじて思い止まった。
っていうか、そんなこと口にしようものなら、隣の彼のせっかく上機嫌を空模様以上に盛大に損ねてしまいそうだ。
そもそも滅多にないオフに二人で過ごそうと考えてくれただけで幸せすぎるくらい幸せなんだもの。
少しでも彼に楽しいって、誘って良かったって思って貰いたい。
いくらプライベートとは言え……完全プライベートだからこそ、なのかな。
普段なら足も踏み入れたことのない様なプレミアムラウンジで搭乗時間がくるのを待っていたら、口数が減る私を気遣ってか、彼が黙ってコーヒーを差し出してきた。
缶じゃなくて、カウンターでドリップしてるやつ。
ありがと、と小さく呟いてカップを受け取ると、どう致しまして、と彼が応えた。
「大丈夫?」
柔らかな笑顔が少し苦い。
濃い目のコーヒーと同じ味だ。
『うん、もちろん』って頑張って笑顔を作ろうとするのに、たぶん上手く笑えてはなくて……その証拠に隣に腰掛けた彼が続く言葉を探しあぐねている。
「雨、止まねーな…」
「ん…」
「少し揺れるかも…天気悪りぃし」
「ん…」
覚悟はしてるの。
我慢できないわけじゃないし、逃げ出すつもりもない。
だって、無事に目的地に着けば、最高のオフが約束されてるんだから。
彼がいれば、それだけで大丈夫。
「あー、のさ…」
たぶん私の気を紛らわせようと、気の利いた言葉を続けようと彼が口を開いた瞬間、優先搭乗のアナウンスか流れて、続く言葉は『っし、行くか』に変わった。
バックがふわりと上がり、立ち上がりたくない膝が軽くなる。
「ほら」
「…ありがと」
差し出された手は、きっと気乗りしない私に勇気を分けてくれようとしてて――そんなに気を使われたらかえって緊張しちゃう…。
プレミアムに相応しく、慣れた仕草で先を行く彼の肩は頼りがいが有り過ぎて、なんだか別の人みたい。
なのに、私は俯いたまま。
――あーぁ…楽しみにしてたんだよ…今だって、十分楽しいんだけどな…これじゃ伝わらないだろーな。
なんて、考えている間に搭乗口なんかあっけなく通過して…さすがプレミアム。
一般客とは別のゲートから入れるんだ…セレブみたい。
『マイル貯まってるから使わせて』って言われて、格安チケット分くらいしか払ってないけれど、大丈夫なのかな…?
彼にとってはこれが普通?
やっぱり自分じゃ釣り合ってないかもしれない――って、結構ヘコむ。
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