The treat -嵐妄想恋愛小説- -2ページ目

The treat -嵐妄想恋愛小説-

嵐さんの妄想恋愛小説です。
(BLは取り扱っておりません)



「あ!ココだ。ははっ、すげー!」

俯いて足下ばっかり見ていた私の視界で彼の足が止まり一際はしゃいだ声に顔を上げたら、チケットと座席番号を見比べてから『荷物どーする?』と尋ねる。

『足下に置くから大丈夫』と首を振ると、スッともう一歩進んだ彼が窓際を私に譲った。

――いや…別に窓際じゃなくても…むしろ通路側希望です――と、口にするのは憚られる。

だって、こんなにスマートにエスコートされたら、ね。

『ありがと』って一応言いながら奥に入ると、彼は隣の席で早速シートをチェックしてる。

さすが座り心地が良いとか、ヘッドホンのブランドがどうだとか、電動リクライニングだとか――前の席のポケットから説明書を取り出して手当たり次第にスイッチを弄って、いちいち『おぉ!』とか『すげぇ!』とか、子どもみたいにはしゃいでる。

「…初めて?」

「ん?何が?」

「プレミアム…なんだっけ?」

「あぁ…前に仕事で一度だけ。でも、全然進化してっからさー」

そう言いながら、こんなに広くもなかったし、ってデニムに包まれた足を無造作に放り出した。

なんだ、ラウンジにいる時から落ち着いているし、随分慣れてるんだと思ってたけど、ちょっと安心。

無邪気さから見て取れる純粋な好奇心に思わず唇を緩めれば、ほんの少し肩を竦めて照れ隠しの苦笑い。

「いやさー、顔バレすんのも面倒だし。
座り心地良い方がなんとなく揺れなさそうじゃん、ちょっとでも安心感ある方が良くね?」

私の方を見て、得意のどや顔。

「だから、マイルも貯まってたし…たまにはって思って奮発してみたんだけど…一石二鳥でしょ?」

そんな風に当たり前みたいにさらりと言われたら、『ありがと』としか言えないじゃない。

おまけに『ペアシートだしさ』って。

確かに彼の無いに等しいプライベートを思えば、このぐらいのラグジュアリーを満喫しても罰は当たらないんだろうけれど、私に言わせれば不相応な立場に思えちゃって肩身が狭い。

だって、気を使わせるばかりで、こんな素敵な空間を共有する相手として役割を果たせてない気がする…ちっとも楽しませてあげられない。

漸く上昇しかけた気分は離陸の準備が整っていくほどにやっぱり急降下。

――そもそも、いつからこんなに苦手なんだっけ?

あれ?そう言えばエコノミーよりもいくらかエンジン音が遠い気がする…

身体に伝わる振動も少しだけ小さいかも…

と言っても、緊張するのは変わらないよね。

そもそも、サインが消えるまで安全ベルトを外すな、って言われてること自体が心細いし…こんなベルト一本でそんなに安全とはどーやっても思えな――

「大丈夫そ?」

独特な気圧の変化にもう既に耳が痛くて、固く目を閉じた私に心配そうな彼の声。

全然大丈夫じゃないけど『うん…』って小さく頷いた私の表情は、きっと誰にでもわかるくらい大丈夫じゃなかったと思う。

楽しい旅の始まりに、なんかゴメン…でも……ああぁもう!

耳だけじゃなくて、頭まで痛くなってきたっ。

「…毎日乗っても、事故に遭うのは438年に1回だってさ」

「え、なに?」

「ヒコーキ。その位安全なんだって」

「ああ…車の方がよっぽど、てヤツね」

飛行機嫌いの人間に、飛行機好きな人がよく言う話ナンバー1だよね。

何度も聞いたし、何度も自分に言い聞かせた。

だけど、その僅かなコンマゼロ何パーセントかの確率にこのフライトが当たらない確率はゼロじゃない。

しかも、当たっちゃったらアウト、っていうかそもそも苦手なんだから確率の問題じゃないの。

「多分さ…慣れたら平気になんじゃね?
車も同じでしょ」

「だと良いけど…なら翔さん、慣れたらフライング好きになれる?」

「うっ…慣れないかも…」

「だよね」

滑走路に向かってゆっくり動く機内で二人、顔を見合わせて苦笑い。

「ねぇ、逆に翔さんはなんで飛行機平気なの?」

高いとこ苦手なのに。

ゴオォ――

空気が鳴って、『当機はまもなく離陸致します』のアナウンスは私にとって重大な宣告と同じ。

なるべく考えないように、と彼の大きな瞳に、ふっくらとした唇に意識を集中させたら、グンッと肩にのしかかる重力に彼は唇を綻ばせた。

「俺、この瞬間が好きなの。
テイクオフの為に思いっきりエネルギーを溜め込む、この感じ。
人間も同じかなって思うから…」

そう言えば、彼は前に認めてるっけ、

“より高く飛ぶ為に低くしゃがむ事だって僕らには必要”

自ら綴るその言葉通り、彼は沢山のエネルギーを使って何度も離着陸を繰り返して、その度に素敵な人になっていく。

「…あー、分かるかも」 

「でしょ?」

「うん」

あなたを見てると良く分かる――人の成長って意外と急激で、緩く長い登り坂の先のある地点で唐突に大きな段差を一段上がるって感じることが多いけど、彼の場合は全然違う……長い長い滑走路から、ふわりとテイクオフする飛行機みたい。

ある日突然、なんかカッコ良くなったな…って思って悔しくなったりして。

分厚い雨雲を抜ける間、いつもより余計に揺れても不思議と怖く感じないのは、言われてみれば彼みたいだなって――彼もこんな風に、時として悪天候の中、揺れながら成長してるのかなってそう思ったから。

「ちょ…待った
それはお互い様だろ」

『何が?』って首を傾げたら――ちょっと合わない間にすげー綺麗になってたり、いつの間にか仕事で重要なポスト任されてたり、報告もなく勝手に良いオンナになってさー、しょっちゅう俺だけ置き去りみてぇじゃん!

その度に、おいおい大丈夫か?って、ちゃんと帰ってくんのか?って、いつか飛び立ったきり帰ってこなくなんじゃねーの?って、結構焦ってっから、俺。

そう言って、拗ねたみたいに鼻を擦る。

「だからさ…飛ぶ度に、毎回思う。
あなたみたいだなーって、負けねーって、いつも思うよ」

――この空の果てに同じ景色がありますように。
――この旅の先にあなたが待っていますように。

「…なんか…好きになれそうかも」 

「ん?」

「なんでもない―
あっ!虹!!」

「え、どこドコ?」

「ほら、あそこ!
うわ、すごーい…キレー」 

「あ、ホントだ」

「ね、ちゃんとアーチになってる」

「雲の上だからね。
なんも邪魔しねーし」

「凄いね-。
今、虹の上を越えてるんだよ?凄いよね!」

はしゃぐ私の肩越しに小さな窓を覗き込んで、耳元で――、

「ねー、知香。
楽しい?」

「ん?」

「今、楽しい?」

『うん』って大きく頷いたら『良かった』って、安心したように彼が笑った。

だって…地上からなら手を伸ばしても届かないあの虹のこっちから向こうまで、あなたと一緒に超えられるなら、ね……

飛行機も悪くないなぁ…なんて。


fin.






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