…僕は、男に生まれて後悔したことがある。
父『…いいか?ベンジャミン。男は弱いままでは行けないぞ。弱いままだと、他の奴に舐められてしまうからな。俺の息子として産まれてきたからには、俺が鍛えてやる。絶対弱音を吐くんじゃないぞ?吐いたら、どうなるか分かってるな?』
ベンジャミン『で、でもお父さん…』
父『反論は無しだ。いいな?』
ベンジャミン『…はい…』
…我がジャレット家は、代々体育会系の家系だ
ひいお祖父様が、第二次世界大戦の時に鬼軍曹と呼ばれていたが、戦争で負けて、死を遂げた事が原因で、その代から、「男は強くなくてはならない」と言う伝統が伝わってきた
ベンジャミン『ハァ…!ハァ…!』
父『ベンジャミン!いつまでそうしてるんだ⁉︎早く立て!次は走り込み100本だ!』
ベンジャミン『こ、これ以上は無理だよ…!僕、走れない…!』
父『弱音を吐くな!やる前から無理だと決めつけるな!男だろ!』
ベンジャミン『でも…ウップ!オエェ…!』
父『吐くな!筋トレぐらいで情けない男だ!グズグズするな!ほら早く!』
…祖父も、父も、叔父さんも皆、男の親戚達は、体力に自信があった。祖父は元警察官、父は自衛隊の現役中将、叔父さんや親戚にはアスリート選手など、とにかく周りを見れば、嫌と言うほどの鍛えられた肉体ばかりだ。
運動が嫌いな僕にとって、それは地獄だった。
父『ベンジャミン!なんだこれは!?』
ベンジャミン『!そ、それは…僕が描いた絵…』
父『そんなのは知ってる!なんでこんなものを描いてるんだ!?男なら外に出て運動しろ!こんなものは必要ない!』
ベンジャミン『あ!ぼ、僕の絵…!酷い…!』
父『酷くない!お前のためを思ってやってるんだ!ほら!早く外に出ろ!』
…運動より、部屋で絵を描いたり、読書をしたり、ボードゲームをした方が心が休まった。
けどそれを父は許さなかった。見つけては目の前で破ったり、ゴミ箱へ捨てたりなんて、よくあった。
ベンジャミン『も、もういらない…』
父『ベンジャミン!まだ1皿しか食べてないじゃないか!そんな事だから、トレーニングについていけないんだ!』
ベンジャミン『で、でもお腹いっぱいだし…』
父『口答えするな!食べる事もトレーニングなんだ!ほら、皿を寄越せ!』
母『あなた、もうやめてちょうだい。食事の時くらい、好きな様にさせて?』
父『うるさい!大体お前がベンジャミンを弱く産んだのが悪いんだ!俺の息子なのに、どうしてこんな女々しいんだ!あぁ、情けない!』
…母は元々身体が弱く、それでも僕を産んでくれた。けど父はいつも、弱い母さんを罵っていた。弱くても、逆らえなくても、命を賭けて僕を産んでくれたのに、感謝どころか、僕の体力の無さは、母さんのせいだと言う。
その言葉にいつも、イライラしていた。
ベンジャミン『お母さん、ごめんなさい。僕が弱いから…』
母『ううん、そんな事無いわ。いけないのは母さんの方よ。貴方を強い子に産んでやらなくて、ごめんね』
ベンジャミン『母さん、そんな事言わないで?僕、頑張るから。強くなるために、頑張るから…!』
…イライラしていたけど、母さんが辛そうな顔をするのはもっと嫌だった。
だから僕は、母さんに心配させないと、父の言いなりになるしか無かった。
でもそれが、余計に苦しくて、毎日やりたくもない運動ばかりで、ストレスになっていた。
母『…ねぇベンジャミン、今日はお母さんとお出かけしようか?』
ベンジャミン『お出かけ?』
…父が自衛隊の仕事で遠い国に出張中の時、母が一緒に出掛けようと誘ってくれた。
母に連れられ、やって来たのは、大きな植物園だった。
ベンジャミン『…すごい…!』
…初めて来た植物園は、とても綺麗だった。
南国の木に、色とりどりの花、甘酸っぱい香りを放つ果物までもあった。
その素晴らしい景色に、僕は心を撃たれた。
母『いつもベンジャミンが、植物をスケッチしてるでしょ?植物、好きなのかな?って』
ベンジャミン『!…う、うん…!』
母『やっぱり、でもどの花も綺麗ね』
ベンジャミン『うん…!すごい綺麗だ…!』
…次々に植物を見つめ、心が洗われる気分だった。
普段から父に隠れて、綺麗な植物をありのまま、絵にするのは好きだったが、こうしてたくさんの種類の植物を見るのは初めてだ。
だからこそ、興奮した。世界にはもっと、色んな植物があるんだと。
母『ベンジャミンは…将来何になりたい?』
ベンジャミン『え?えっと…警察官か自衛隊員に…』
母『それは、自分で考えて決めたの?』
ベンジャミン『!え、えっと…』
…自分で決めてない。そう言わないと、父が怒るから。
ベンジャミン『……本当は、運動なんて嫌い。こう言う、植物の研究がしたいんだ』
母『うん、良いと思うよ』
ベンジャミン『でも、父さんは反対する…。前に外で、間違えて花を踏んじゃったことがあったけど、それを見て…“そんな雑草なんて気にするな”って言ったんだ。小さい花だったけど、可哀想だった』
母『ベンジャミンは、優しいのね。そうね、あの人はそう言う人だわ。植物を“弱い”と決めつけている。どんなに小さい花でも、元気に生きてるのだもの。弱くなんてないのにね』
ベンジャミン『父さんも…分かればいいのに』
母『それを証明してみせたら?植物だって、強いんだって』
ベンジャミン『!…フフフ、それいいね』
…初めて母に背中を押され、自分がやりたいことが出来た気がした。