真アゲハ ~第67話 白浜 恵介4~ | 創作小説「アゲハ」シリーズ公開中!

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「アゲハ族」
それは現在の闇社会に存在する大きな殺し屋組織。しかし彼らが殺すのは「闇に支配された心」。いじめやパワハラ、大切な人を奪われた悲しみ、怒り、人生に絶望して命を絶ってしまう…そんな人々を助けるため、「闇に支配された心」を浄化する。



『…さすがお兄ちゃんね!また学年で1位だわ!』
『やめてよ母さん、他の奴らがバカなだけだから』
『いやいや、よくやったと思うぞ。それに比べて…お前は何をやってもダメだな』

…私の“前”の家族は、大学教授の父と多国の言葉を話す母のおかげで、英才教育が当たり前の家だった
だから頭が良いことが当たり前だった
けど私は…先に生まれた兄よりも劣っていた

『なんで1位を採れないのかしら?やっぱり部活なんてやってるからじゃない?』
『そうだな、そんなことしてる時間がもったいない。すぐに辞めてきなさい』

凪『で、でも…!学校の先生は良くできているって…!』

『おいおい、お前は馬鹿か?先生の話を鵜呑みにすんなよ。だからお前はダメなんだよ』
『お兄ちゃん、何が食べたい?今日は外でお食事にしましょう!』
『そうだな!お祝いだ!』

凪『あの…私は…』

『何?あんたは家で勉強よ。まさか、お兄ちゃんと同じ扱いされると思ってるの?』
『なんて卑しくて図々しいんだ、出来の悪い妹のクセに!』
『俺達の子のハズなのに、なんで出来が悪いんだろうなぁ…』

…いつもこんな調子だった、私はいつも邪魔者、優秀な兄ばかり可愛がられた
だから私は一生懸命負けないように勉強した
少しでも褒められたいから、認めてもらいたいから
でもそれでも兄に届かなくて、私はまた家族から酷い目に遭ってばかりだった

『…ハァ、お兄ちゃんが留学するためのお金、高いわね』
『借金するか?でも後で膨れ上がるのも嫌だ』
『父さん母さん、なら良い方法知ってるよ?お金がすぐ手に入る方法が』

…私はその場にいなかったから、詳細は分からない
でも兄が提案したのは、残酷な物だった

『こんにちは~、娘さんをもらいに来ました~』

凪『…え?』

…突然家に柄の悪い男達が現れ、私はその男達に連れていかれた
両親も兄も助けてくれない
私は、お金のために売られた
その事が分かったのは男達に連れてかれた時だった

…男達は俗に言うAVを撮る仕事をしていて、主演の女優を探していたらしい
私はその女優として連れてこられたけど、家族に売られ、知らない男達に強姦され、絶望した

…何のために今まで頑張ってきたのだろう?
何のために家族に認められたかったのだろう?
認めてくれると思っていたのに、そんな家族が私を売った
もうここには、私の居場所なんて無いんだ…

…ドロッ…!

『お、おい!やべぇよ!』
『し、死んでる…!』
『なんで見てなかったんだよ!くそっ!』

…撮影用のバスタブに水をはって、中でカミソリを使って左手首を切った
男達が気付いた時にはもう手遅れで、私は死んだ

…そう思っていたのに、次に目が覚めたのは海の中だった
男達が死体を処理するために、車を走らせて、私を海へと放り投げたのだろう
突然海の中にいて私は驚いたけど、何故か苦しくなかった

凪『なんで……!?私、死にたいのに…!』

…私は死にたかった、この世に未練なんてない
底に足がつかない海で、命を絶ちたいのに出来なくて、死ねなくて私は何度も試した
けどそれが出来ない、もう嫌だ

…そう思った時、あの人が飛び込んできた

凪『……だ、誰…?』

…眼に入ったのは、私を見て必死に手足を大きく動かしている男の人だった
でも明らかに進んでいないし、呼吸も荒い
この人、もしかして泳げないのかな…?
泳げないのに、私を助けようとしているの…?

凪『…』

…強姦された事もあったから、男なんて嫌いになりかけていた、死にたかったし、放っておこうと思った
でもなんでだろう…
私どうして、この人の事を助けたいって思ったんだろう…
あぁ、そうだ…
私が死ぬのに、この人まで巻き込みたくない…!

恵介『…ゲホッ!ゲホッ!ハァッ、ハァッ…!』

…それが、白浜恵介さんとの出会いだった
恵介さんは、私が溺れていると思って、飛び込んだみたい
自分がカナヅチだと言うのに、私のために飛び込んでくれた
近くの砂浜に上がると、恵介さんは呼吸を取り戻す

凪『……なんで助けたりしたの?私は死にたかったのに……』

恵介『し、死ぬなんて……簡単に言うなよ』

凪『…簡単にって言うけど…っ』

…出会ったばかりだと言う恵介さんの前で、ボロボロと涙を流した
結局死ぬことは出来なかったし、生きていくにも居場所なんて無い
私は死んでいるんだ、死なせて欲しい…

…ギュッ

凪『…!』

恵介『…何があったかは知らないけど、俺こーゆーのしか出来ないから。だから、死にたいなんて言うな』

…恵介さんは、私の事を後ろから優しく抱いてくれた
冷たいハズなのに、優しく抱いてくれた
見ず知らずの他人にいきなり抱かれたら、普通の人はびっくりするだろう
でも、恵介さんの体温はすごく温かくて、私の身体にジュワ~…と溶けてく感じがして、それがとても居心地が良かった
その温かさが伝わったのか、私は子供みたいに泣きじゃくった

…私は自分の過去と身分を打ち明けた
案の定驚かれたけど、恵介さんは理解してくれて、恵介さんも瀬戸組と言うヤクザの人間だと話してくれた
それ以来私と恵介さんは一緒に過ごすことになった
瀬戸組の人達にも紹介されたが、瀬戸組の人達はすごく良い人達ばかりで、安心した

…私の身体の事を調べてくれる研究所が名古屋にあって、検査の結果、私は「水の中に長時間潜れる」力を持っていると判明した
だから海の中で死ねなかったんだと理解し、私はネクロと言う種族だと分かった
自分がネクロだと言うことは、恵介さん以外は知らない

恵介『凪、俺と結婚して欲しい』

凪『…!』
 
…恵介さんと時間を過ごし、去年プロポーズを受けた
だけど結婚しても恵介さんがヤクザである限り、狙われるかも知れないし、ネクロと結婚なんて聞いたことが無いから、不安でいっぱいだ

恵介『俺は、どんな状況だろうと凪を支えたい…!凪は俺にとって大切な存在で、俺は凪にとって…凪を幸せにする男になりたい…!』

凪『恵介さん……っ』

…恵介さんのプロポーズを受け、私達は結婚した
それからは恵介さんと、別居をすることにした
私が狙われないためにも、名字を旧姓にして、家から少し離れたところで会うことを決めている
恵介さんの方も、仕事を頑張っているみたいで、会った時はいっぱい癒してあげたいって思っている
この前も久し振りに会って、一緒にお出掛けして癒してあげたかった…





凪「…フゥ…ッ」

5日前、凪と白浜は出掛けていたのだが、その時に鮫津組の連中に捕まってしまった
鮫津の姿もあり、「助けたければ瀬戸組の金をうちに入れろ」と脅された
目の前で凪の手足を石に変えられ、恐怖を抱いた白浜は従うしか無かった
それ以来、凪は鮫津組のアジトで監禁されている

手足を石に変えられ、感覚がない
まるで自分の手足がない状態に、人形の手足を付けられたみたいな感覚で気持ちが悪い
大事な人質と言うことで、食事は与えられていたが、先程鮫津組の組員が白浜の悪口を言ったことで、心の底から怒って噛み付いた
腕に歯形が残るくらい強く噛み付くことが出来たが、振り払われ、殴られ、手足を拘束された
2度と噛み付くことも出来ないように口も塞がれ、今に至る

凪(……恵介さんは裏切り者だと言うけど、恵介さんは私のために動いているだけ…!あの時、私を助けたように、ただ必死にもがいているだけ…!)

絶望的な状態だとしても、凪は決して折れなかった
白浜が絶対助けに来ると、信じているからだ

凪(…恵介さん…っ!)