真アゲハ ~第51話 蜂須賀 真魚4~ | 創作小説「アゲハ」シリーズ公開中!

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「アゲハ族」
それは現在の闇社会に存在する大きな殺し屋組織。しかし彼らが殺すのは「闇に支配された心」。いじめやパワハラ、大切な人を奪われた悲しみ、怒り、人生に絶望して命を絶ってしまう…そんな人々を助けるため、「闇に支配された心」を浄化する。



…私は、記事を書くのに自信があった

『真魚ちゃんの新聞、面白かったよ!』
『分かりやすくて、その場面がよく伝わるよ!』
『また最優秀賞だ!おめでとう!』

…学生の頃から、国語が得意で、新聞部に所属して、話題となるニュースを展開していた
注目を浴びて、大きな賞を獲得したりもした

母親『真魚!あんたジャーナリストになってみたら?文章書くのも上手いし、向いてるよ!』

…記者になるきっかけになったのは、母さんが背中を押してくれたからだ
自分自身も文章を書くことが好きで、友達も勧めてくれたから、ありとあらゆる情報を展開して、認めて貰おうと思っていた

…ところが、現実は甘く無かった

『つまんないね、君の記事は』
『こんな情報なんて、誰だって知ってることでしょ?』
『もうちょっとインパクトがほしいな~』
『君ってさ、一体何を伝えたいの?』

…初めて務めた出版社の『阿科賀社』で、現実を知った
学生の時は、学生にしか伝わらなかったから、「面白い」「分かりやすい」「才能がある」と持て囃された
だが社会に出たら、学生だけじゃなくて大人から老人も見ることがある
学生が書いたような記事じゃ、誰も見てくれない

蜂須賀(なら…誰も知らない様な事を書いていこう…!)

…そう思った私は、誰もが知らない記事を書き続けた
でも、そう簡単に手に入らなくて、苦戦した
誰も知らない記事を書いてみたけど、何度も何度も、ボツをくらった
犬みたいにかけづりまわった時もあった
でも、1回も雑誌に載ることは無かった

『はい!今回のゲストは、今話題の家政婦ママタレントのキリコさんでーす!』
『よろしくお願いいたしま~す!』

蜂須賀『…』

…いつしか、自分の仕事に自信を持てなくなってきた
夜の名古屋の街で、大画面のテレビに映るタレントがすごく輝いて見えるくらいに、自分の事が霞んで見えてきた

『…最後に、パセリを添えて完成で~すっ』
『わぁ!美味しそうなスープですね!』
『栄養満点で、野菜嫌いな子供でも食べられるスープになってるんです!』
『確かに!これなら栄養満点ですね!こんなに美味しい料理を食べているなんて、キリコさんの旦那さんとお子さんが羨ましいです~!』
『アハハ、ありがとうございます!』

蜂須賀『…私も記者を辞めて、転職でもしようかな…』

『やだ~、もうユウヤったら!』

蜂須賀『…ん?』

…聞き覚えのある声が聞こえ、顔を上げて私は驚いた。それは、今テレビで見たばかりの家政婦ママタレントのキリコだった
でもキリコの隣にいるのは、結婚している旦那では無く、若くてホストみたいな男だった

…私は気になって、2人の後を追った
するとどうだろう、キリコが積極的にユウヤと言う男に抱きついたり、キスをしたりしていた
すぐに分かった、これは不倫だと…

『いいのか?俺なんかと遊んでさ』
『いいのいいの!あの男とは出来ちゃった結婚で、愛なんてないから!それに産まれたガキもあいつに似て可愛くないんだよね~!』
『それ言い過ぎじゃね?w』
『大丈夫大丈夫!こんなところにあいついるわけないし!てか馬鹿だよねぇ~、雑誌の取材が朝まであるって嘘を信じてさ、こーんなイケメンと歩いている事気付かないなんて…!』

…キリコは家政婦ママタレントと世間では言われているが、この姿を見て、それが嘘だと言うことが分かった
正直タレントなんて、皆仮面をつけていると言うことは熟知していたが、この女は思いっきり仮面を脱ぎ捨て、人間として良からぬ行為をしていた

カシャッ!カシャッ!

…そう思うと私は許せなかった
こっちは必死にかけづりまわって仕事をしてるって言うのに、そっちは輝いてちやほやされて、家族もいて幸せのはずなのに、その幸せがまだ足りないのか、若い男と不倫だなんて、許せたものじゃない
許せなくて、カメラのシャッターを押し続けた
2人がラブホテルに入る最後のシーンまで、そして朝方出てくるところまで張り込んだ

蜂須賀『…この記事なら…!』

…この記事なら誰も知らない、物に出来る
私はそう思うと、すぐ行動に移した

『ママタレントKの裏の顔』

…すぐにそれを週刊“WASP”に載せた
すると、思ったよりもすぐ大反響となった

『嘘ー!不倫なんて最低!』
『同じママとして憧れてたのに…!』
『あの女の料理本なんて捨てるわ!』
『女として終わってるー!』
『ファンだったのに、見損なった!』
『何がママタレントだよ!ふざけんな!』

『おおおっ!蜂須賀くんすごいじゃないか!始まって以来の大盛況だよ!』
『編集長!“WASP”の追加発注がまたありました!』
『すげぇ!蜂須賀やるじゃん!見直したぜ!』

蜂須賀『…やったわ…!』

…キリコの記事は瞬く間に全国へと広がった
キリコの醜態をさらけ出した事で、自分自身もスカッとした
さらにそれだけでは終わらない

『毎晩子供の泣き声がしたんですよー!』
『何かママタレントなのに、1人で出掛けるからおかしいと思ったわ!』
『本当に旦那さんの子供なのかしら?もしかして…托卵!?』

…この勢いに乗じて、キリコを叩く人間が増えてきた
中にはキリコと同じマンションの住人がいて、虐待や実は托卵じゃないかと疑っていた者もいたらしい

『…この度は、も、申し訳ありませんでした…っ』

…たちまち全国からバッシングを受けたキリコは、だんだんやつれて行った。もうママタレントとして活躍していた美貌も感じられない。
最後にやつれた姿での謝罪動画を上げて、芸能界から消えたが、結局世間はそれでも彼女を許されなかった

蜂須賀『…あ、はは…アハハハハハハ!』

…だがそんなのはどうでも良かった
だってようやく分かったんだもの
悪いことをしたら、悪いことを叩けば良い
簡単なことじゃない

他人の不幸は蜜の味って言葉、本当だったのね
おかげで美味しい物をいただくことが出来たわ

悪者は、叩かれて当然なのよ!