真アゲハ ~第19話 森口 絵麻3~ | 創作小説「アゲハ」シリーズ公開中!

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「アゲハ族」
それは現在の闇社会に存在する大きな殺し屋組織。しかし彼らが殺すのは「闇に支配された心」。いじめやパワハラ、大切な人を奪われた悲しみ、怒り、人生に絶望して命を絶ってしまう…そんな人々を助けるため、「闇に支配された心」を浄化する。



土曜日の警備の依頼を受け、依頼人達は出ていく
出ていく前、パティシエの甘利はつまらない物と称して、自身の店の洋菓子を置いていった
ケーキの箱を開けると、そこには白い生クリームが塗られたパステルカラーのシフォンケーキが3カットも入っていた

栗栖「わぁすごいな~!こんな綺麗な模様初めて見たよ!」

輝人「うーわ、不味そう…栗栖食っていいよ」

栗栖「いいのか?」

輝人「言ったよな?甘い物苦手だって。それにしても…よくこんな変な色のケーキが売れてるな」

日奈子「ちょっとー?もういい~?」

栗栖「あ、ごめんごめん」

ガチャッと住宅へ続く扉が開く
そこには勉強道具を手で持った日奈子がいた
顔は不機嫌だ

日奈子「てかなんで隠れなきゃならないの!?私もここのスタッフなのに!」

輝人「テスト勉強してたやつが何言うか。依頼人の気が逸れたらどーするんだよ」

実は今度花巻女子学園で、前期の中間テストがある
日奈子はそのテスト勉強をしていたのだが、突然依頼人達が現れたため、隠れることになったのだ
輝人は日奈子から、英語の教科書を奪う

輝人「しっかしブツブツ言ってたけど、発音も全くなってなかったなぁ。何?英語のつもりか?」

日奈子「あんたに教えてもらおうなんて思ってないもん!どうせあんただって分から」

輝人「“Now! We got rid of the rats! Let's get the promised reward!” The piped man said.But the mayor didn't pay. “I've changed my mind, I don't want to pay so much for something outsider!” When the village chief laughs out loud, the villagers laugh too.The deceived Pied Piper got angry and said. “You liar!If that's what you want, I'll steal your precious things! ”The Pied Piper blew the flute again.」

日奈子「……へ?」

輝人がスラスラと英文を読み出し、日奈子は唖然とする
絶対に読めないと思っていたのだろう
だがよく考えれば、中国語だって話せる輝人だ
読めないハズがない

栗栖「あ…言ってなかったっけ?輝人って5ヶ国語話せるって」

輝人「…んで?何か言ったか?w」

読みきった輝人はドヤ顔で日奈子を見る
日奈子は下唇を噛み、悔しい悲鳴を上げる

日奈子「もういい!英語終わり!ケーキ食べる!」

輝人「なんでだよ」

悔しかったのか、もう英語の勉強が嫌になってケーキをやけ食いし始めた
フォークを使わずにフィルムをはがし、大きな口を開けて食べる
口の回りに生クリームが付いても気にしない

日奈子「ううう…甘くて美味しい…っ」

輝人「よく食えるよなぁ…」

栗栖「それにしても、脅迫状に載っていた名前見たか?」

輝人「あぁ、“ハーメルンの笛吹き男”だろ?随分マニアックな名前を出すよな」

日奈子「何それ?有名なの?」

輝人「はぁ?お前知らないの?テスト範囲なのに?俺がさっき読んだのに?w」

日奈子「うるさい!」

栗栖「まぁまぁ、日奈子ちゃんは本当に知らないんだろうし…勉強のつもりで俺が話を教えてあげるよ」

日奈子「わぁい!栗栖さん大好き!」

輝人「ハァ…甘やかすなっての」

呆れる輝人を無視して、栗栖は『ハーメルンの笛吹き男』の話をした



『ハーメルンの笛吹き男』
それは昔、ドイツのハーメルンと言う町で、ネズミが大量発生したところから始まる
どこから沸いて出てきたのかは分からないが、ネズミ達は毎日色んな食べ物を貪っていたため、町の人々は大変困っていた

そんな時、町の偉い人が
「どんなやり方でもいいので、すべてのネズミを追い払った者に、金貨がたくさん入った袋をやろう!」
と言った
その依頼を引き受けたのは、他所から来た笛を持った旅人だった

旅人はすぐ笛を吹き出した
するとネズミ達が、旅人の笛に反応し、旅人に近寄ってきたのだ
旅人は笛を吹きながら町を出ていくと、ネズミ達も付いていく
ネズミ達はその後、旅人の笛につられて、何処かに消えて行ってしまったのだ



日奈子「へぇ…なんだ良い人じゃん。ネズミを町から追い払ってくれるなんて」

輝人「でも本題はここからなんだぜ?」

日奈子「え?ネズミを追い払って、報酬貰って、はい終わり!じゃないの?」

栗栖「その報酬が、払われなかったんだよ」

栗栖は続きの話をした



ネズミをすべて追い払った旅人は、町の偉い人から報酬を貰おうとした
ところが、町の偉い人は
「まさか本当にやるとは思わなかった!それも町の余所者が!報酬を払うわけがないだろう!」
と言って、旅人を町から追い払った
町の偉い人は嘘を付いたのだ

これに怒った旅人は
「許さない!こうなったらお前の大切なものを奪ってやる!」
と言って、笛を吹き出した

すると、町にいた子供達が笛の音につられて、進み出した
それも100人以上だ
旅人は吹きながら進んでいくと、子供達は町を出ていってしまった
町から子供達がいなくなり、焦る大人達だが、旅人と共に子供達は、姿を消してしまったのだった…。



栗栖「…それで後に、この旅人が『笛吹き男』って呼ばれるようになったんだよ。子供達も、結局どこに消えたのか分からなかったんだって」

日奈子「うっそぉ……」

栗栖からあらすじを聞いて、日奈子は驚く

輝人「しかもこれ、実際にあった話なんだよな」

日奈子「え!?これ現実の話!?」

栗栖「まぁグリム童話で、色々変えられているけどね。ある話だと、子供を連れて行ったってことから“誘拐犯”って呼ばれてる話もあるから」

輝人「脅迫状に書かれていた“人々が消える”、まさに笛吹き男と同じだな」

茜「ただいま戻りました~」

そこに茜が帰ってきた
手にはケーキの箱を持っている

日奈子「あ、茜さんお帰りなさい」

茜「まぁ日奈子様!どうしたんです?口の回りにクリームなんて付けて!」

日奈子「え?あぁ、ケーキを食べてて…」

輝人「って全部食ったのかよ!Σ((((;゜Д゜)))」

甘利からもらったシフォンケーキをすべて食べてしまった日奈子
残ってるのは剥がされたフィルムと銀紙だけだ

日奈子「あーごめん、お腹空いていて…」

茜「こんなに食べたんですか?折角ドイツのケーキを買ってきたのに…日奈子様、ケーキはお預け致します!」

日奈子「えぇ!?そんなぁ……!」

輝人「そんなじゃねぇよ、3つも食いやがって!デブるぞ?」

栗栖「そんなに美味しかったんだね…」

日奈子「あ!折角綺麗な模様だったのに、写真撮るの忘れてたぁ~!」

輝人「知るかよ…」