『間もなく~、東山公園~、東山公園~』
同時刻
『東山公園』の地下鉄駅に1台電車が止まった
電車からたくさんの人々が降りるが、その中でも1人だけ目立つ男がいた
右目を覆うように長い前髪と、編み込みがされた黒い髪をし、黒い薔薇の髪飾りをしている
ヴァイオレットカラーのアイシャドウと黒い口紅を施したヴィジュアル系メイクも決まっており、衣装も黒みがかかった紫色のスーツを着ているが、襟や袖部分は葉っぱをイメージしたかの様なファーが付いている
そして黒いネイルをしたその手には、黒いリボンでまとめられた17本の黒い薔薇のブーケを手にしていた
?「…ふぅ…ようやく臭い人間の場所から抜け出せたよ」
ブーケを見ながら、男は駅の外へと向かう
外は曇りがかっており、良い天気とは言えない
ある場所へと向かっていた
それは、『東山公園』駅から歩いて3分の場所にある観光名所の『東山動植物園』だ
全国2位の来場者数を誇る動植物園で、飼育・展示する動物の種類は国内最多を誇る
子供も生まれ、親子で人気のアジアゾウや長い首が特徴のキリン、かわいい仕草のコアラにイケメンと話題なゴリラが揃っている
動物園もそうだが、植物園も人気だ
自然の地形をそのまま活かした形で植物を展示しているため、四季折々の情緒を楽しめる
?「植物園に入りたいのですが…」
受付「はい、では500円になります」
?「500円?…本当に?」
受付「え?は、はい…」
男は受付の女性スタッフに質問する
するとどこからか、甘い香りが漂ってきた
その香りが鼻に付くと、頭がボゥ~…とする
受付(あ、あれ…?なんか…フワッとする…。それにこの人…)
?「どうしようかなぁ…。お金、持ってないんだよね。入れない…かな?」
受付「……どうぞ、お入りください」
すると女性スタッフは入場料をもらってもいないのに、男に入場券を渡してしまった
ボーッとしてしまっているみたいだ
?「…ありがとう」
それを手にした男は、動物園の正門に難なく入る
正門に入ると、動物園が迎えてくれるのだが、動物には目もくれず、奥の植物園まで歩いて行く
「あれ…?良い香りだね…」
「あの人からじゃない?」
「かっこいいけど、すごい派手だね…」
歩いていると、女性に良く目立つ
男はと言うと、それを無視して進んでいく
?「…黒い薔薇は、いかがかな?」
少し動物園の本園を歩いて行くと、アジアゾウがいる場所に辿り着いた
男はその前にしゃがみ込み、ブーケから1本だけ黒い薔薇を取った
そして、柵の前の地面に刺したのだ
その行動は1ヵ所だけで止まらず、アカカンガルーやワラビーがいる檻、ベニイロフラミンゴがいる檻、ユキヒョウやラーテルなどの猛獣や、カリフォルニアアシカやゴマフアザラシがいる檻、ゴリラや猛禽類、コアラが展示されている建物や爬虫類や両生類を展示している自然館などの根本にも、刺し込んだ
不思議なのは、柔らかい土ではないのに、薔薇がピンッ!と刺さったことだった
?「よし、全部刺さったぞ」
スタッフ「あの、ちょっとすみません」
男に男性スタッフが声をかけてきた
スタッフ「貴方…先程から何をしているんですか?その薔薇は…」
?「あぁこれ?とても美しい黒薔薇でしょ?」
スタッフ「いや、そうでは無くてですね。先程から色んな場所に薔薇を刺していると他のお客様から声が上がってるんですよ。申し訳ありませんが、その様な行為は…」
?「花を“植えて”はいけないのかい?」
スタッフ「植えて…?そうだとしても勝手に困りますよ。ここは花を植えて良いところではないです。それに匂いも強いですし、何より黒い薔薇なんて不吉なので、他のお客様の気分を害します。すぐに回収を…」
?「ハァ?今なんて言った?」
スタッフの言葉に不満を持ったのか、ギロリと睨み出す
その顔にスタッフはビクッとなった
スタッフ「え?ですから他のお客様の…」
?「その前だよ、“黒い薔薇なんて不吉”って言った?」
スタッフ「え?えぇ…な、何なんですか…?」
?「ハァ…黒薔薇の良さが分からないなんてつまらない男だな。そんなお前は、花より上に立つ資格なんてないからな」
ズズズズ…!メキメキ…!
スタッフ「な、何だ?この音は…」
突然大きな音が聞こえた
音がした方を見てみると、なんと木の根っこがコンクリートの地面から力強く出てきたのだ
次の瞬間、硬い根っこが鞭の様にしなやかに動き出し、男性スタッフの脚を捕らえた
スタッフ「う、わわわっ!」
脚を捕られた次は身体に巻き付き、逃げられないようにする
木が動いたことにスタッフが怯え驚いている隙に、男はスタッフの口に何か種の様なものを入れた
スタッフ「…!?ゴクンッ!」
?「飲み込んだか…さぁて、君は“どんな花を咲かせる”のかなぁ?」
スタッフ「は、花…?」
種の様なものを飲み込んでしまい、男にそう言われたその時だった
…ドクンッ…!
スタッフ「…!?ぐ、がががが…!」
なんと突然、スタッフが苦しみだした
それもタダの苦しみ方ではない
何かに吸い取られている様に、身体から水分が無くなり出したのだ
顔や身体も、ハリのある肌から、しわだらけの肌になっていく
まるでそれは、身体中から水分が抜けて、枯れ木のように干からびる様に…
スタッフ「が………!は…」
水分が抜けたスタッフは、立ったまま死んだ
その直後、口から何かが出てきた
…パアァッ…!
それは、黄色の薔薇だった
それも1輪だけじゃない
口からだけじゃなく、耳や目、へその部分や尻の穴からも黄色の薔薇が生えたのだ
?「ふぅん、『ルミナス』か。似合わない花を咲かせるね」
そう呟いた男は、動物園の奥にある植物園へと向かった
その後ろで、身体から花が生えたスタッフを見て悲鳴の様な声が聞こえるが、それも無視する
もう気付いているだろう
彼が最近取り上げられている『人間植木鉢事件』の真犯人『黒薔薇男(ブラックローズ)』なのだ
ー猟奇殺人鬼『黒薔薇男(ブラックローズ)』
ベンジャミン・ジャレット(31)ー
ベンジャミン「…黒薔薇の花言葉は『滅びることのない愛』、そして17本の薔薇の花言葉は『絶望的な愛』…。これから僕は、その2つを実現させて上げるよ。『滅びることのない、絶望的な愛』をね…!」
ベンジャミンがそう言い、両腕をオーケストラの指揮者の様に振り上げる
その瞬間だった
地面に刺していたすべての黒い薔薇の茎が枝分かれになり、動物園全体を網のように覆いだしたのだ
それも細い茎が太くなり、トゲも大きくなって危険が増す
突然の事に他のお客や動物達も騒ぎ出す
ベンジャミン「今日で動物園は閉鎖かな?明日からは植物園1本で営業するんだね。アハハハハ…!」