ローマ帝国の混乱の中で、ほとんど何も語られないまま消えていった皇帝がいる。
ゴルディアヌス2世である。
ゴルディアヌス2世はゴルディアヌス1世の息子として生まれ、元老院階級に属する人物だった。
その生涯は戦場ではなく、統治と文化の中にあったとされる。
文学に親しんでいたとも伝えられるが、確かな人物像はほとんど残されていない。
彼について語られることは少ない。
だがその沈黙こそが、彼の立場を物語っているのかもしれない。
238年、北アフリカでの反乱の中で父が皇帝に擁立されると、彼もまた共同皇帝として即位する。
当時すでに45歳前後と考えられ、父の高齢を補う存在でもあった。
それは準備された即位ではなかった。
軍事的な基盤も、戦争に耐えうる体制も整ってはいなかった。
やがてヌミディア総督カペリアヌスが軍を率いて進軍する。
彼は正統皇帝マクシミヌス・トラクスに忠実であり、アフリカにおける正規軍を指揮する存在だった。
戦いは避けられなかった。
ゴルディアヌス2世は自ら軍を率いてこれに応じる。
その軍は、地元の人々を中心とした即席のものであり、訓練や統率において大きく劣っていたと考えられる。
勝てる戦いではなかった。
彼自身、それを理解していた可能性もある。
元老院階級に属する彼にとって、ローマ軍団の強さは常識だったはずである。
それでも彼は退かなかった。
戦いは短く、そして一方的に終わる。
ゴルディアヌス2世は戦場で命を落とす。
彼は臆病だったわけではない。
むしろ逃げることなく、自ら戦場に立ち散っていった。
■TKC054 未取得
彼は語られることの少ない皇帝である。
だがその最期だけは、はっきりしている。
彼は逃げなかった。
コインだけが彼の物語を覚えているかもしれない。
