TKC COIN COLLECTION

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古代ローマ・地中海世界のコインを中心に、個人コレクションの記録と公開を行っています。
本ブログでは、日本ではまだ馴染みの薄い古代ローマのデナリウスを含め、小さな銀貨に刻まれた歴史や思想の背景を紹介しています。

283年、カルスは長男カリヌスを共同皇帝(アウグストゥス)に任じ、自らは次男ヌメリアヌスを伴ってサーサーン朝遠征へ向かった。

カリヌスは西方帝国を任され、ガリアやライン国境の防衛にあたる。
皇帝となったばかりではあったが、その責任は重く、ゲルマン諸族の侵攻を防ぎながら広大な西方領土を統治しなければならなかった。
古代史料には、カリヌスは放蕩な皇帝だったと記されている。
贅沢を好み、多くの女性と関係を持ち、部下の妻にまで手を出したため最後は将校に暗殺されたとも伝えられる。
しかし、これらの記録の多くは、彼を倒したディオクレティアヌスの時代以降に書かれたものであり、どこまで事実なのかは分かっていない。
一方で確かなこともある。
カリヌスは西方国境を守り、侵攻してきたゲルマン諸族を撃退している。
軍の支持を失っていた皇帝であれば、このような戦果を挙げることは容易ではなかっただろう。
やがて東方から父カルス急死の知らせが届く。
さらに弟ヌメリアヌスにも悲劇が訪れ、東方軍は新たな皇帝としてディオクレティアヌスを擁立した。
その詳しい経緯については次章で紹介する。
しかし、西方にはすでに正統な共同皇帝カリヌスが存在していた。
帝国には二人の皇帝は必要なかった。
カリヌスに残された道は、皇位を守るため戦うことだけだったのである。
285年、両軍はモエシアで激突する。
戦いはカリヌス軍が優勢だったと伝えられる。
だが勝利を目前にして、彼は側近の将校によって殺害された。
私怨だったのか、陰謀だったのか、その真相は今日でも分からない。
皇帝を失った軍は抵抗をやめ、ディオクレティアヌスを唯一の皇帝として認めた。
こうしてカルス王朝は終焉を迎え、ディオクレティアヌスの新しい時代が幕を開ける。

■TKC076 RIC 326

アントニニアヌス / 銀化青銅貨
皇帝:マルクス・アウレリウス・カリヌス(Carinus, AD 283–285)
発行年:AD 282–283年、アンティオキア造幣所
重量:3.87 g
サイズ:20.96 mm
ダイ軸(Die Axis):7h
状態:Nice VF
表銘文
IMP C CARINVS P F AVG「インペラトル・カエサル・カリヌス、敬虔なる幸運のアウグストゥス」
図像(表)
放射冠を戴き、胸甲をまとったカリヌス帝の胸像、右向き。→ 軍人皇帝らしい力強い姿を強調。
裏銘文
VIRTVS AVGG
「二人のアウグストゥスの武徳」
図像(裏)
右に立つ皇子(カリヌス)が笏を持ち、左に立つユピテルから地球儀上の勝利像を授かる。二人の間にB、下部にXXI。→ 皇帝の徳と、神々から授けられる正統な支配権を示す。



カリヌスは長い間、「悪帝」として歴史に刻まれてきた。
しかし彼は、最後まで軍を率いて戦い、勝利まであと一歩というところまで迫った皇帝でもある。
もしあの日、戦場で命を落としたのがディオクレティアヌスだったなら、「帝国を救った名君カリヌス」と「簒奪者ディオクレティアヌス」という歴史が語られていたのかもしれない。
歴史は、常に勝者によって書かれるのである。