(1)ソールオリエンスの不甲斐なさ
ネットの1口馬主掲示板では、次のような書き込みをよく目にする。
「キタサンブラック産駒は成長力がない」
これは主にソールオリエンスのことを指してデイズっていると思われる。
思うところは愚痴なのか、やっかみなのか。
あるいは事実なのか(キタサンブラック産駒が欲しい人の)ネガキャンなのか。
いずれとも取れる。
匿名のインターネットなので、真に受けるのも危険だ。
でも、確かにソールオリエンスは3歳春の皐月賞を優勝して以来勝ち星から遠ざかっている。
それでも、ダービー2着、菊花賞3着は卑下する成績でもない。
獲得賞金4億8,668万円(2024年5月5日現在)は1口150万円(総額6,000万円)の馬としては、1口馬主冥利に尽きる。
ただ、古馬になってからG2中山記念4着(1番人気)、大阪杯7着(5番人気)という成績は3歳クラシック馬としてみるならば、正直不甲斐ない。
こうしたことから考えると、「キタサンブラック産駒は成長力がない」という言説はイクイノックスがいるとしても、検討に値するテーマであることは間違いない。
(2)「馬体重が増えないからレースパフォーマンスが上がらない」は正しいか
ていうわけで、キタサンブラック産駒の成長力について調べてみた。
この場合、成長力という言葉の意味は2つある。
ひとつは、競走馬としてのレースパフォーマンスの向上。
ふたつめは馬体の成長。
仮説としては、キタサンブラック産駒がデビュー以来、体重が増えていない、つまり馬体の成長がみられないから、ソールオリエンスのように早熟で3歳でしぼんでしまうという、単純な理由付けがあてはまるのか。
データ分析として、取り上げるキタサンブラック産駒を獲得賞金1億円以上(2024年5月5日現在)の馬に限定した。
そして、デビュー時の馬体重と1年後(正確に1年後にレースに出ることは難しいので、デビューから1年以上経過した初めのレース)の馬体重とを比較して、それがその間の競走成績とどのように相関しているのかを調べてみた。
確かにソールオリエンスはデビュー1年後の体重はでぶいーじよりもプラス体重ではあるものの、わずか4kgということからみると、馬体の成長はほとんど見られない。
直近の大阪杯では456㎏と競走生活での最小馬体重を記録し、成長というよりも萎んでしまっている。
こうした馬体重が同馬の競走成績と何らかの相関関係を持っていると考えることは自然ななりゆきだ。
また、コナコーストも3歳春の牝馬クラシック戦線において、トライアルのG2チューリップ賞2着、本番のG1桜花賞2着と頑張ったが、オークス7着から明けて4歳の東京新聞杯16着まで成績はどんどん下降している。
この馬はデビュー1年後にはマイナス体重で、東京新聞杯も秋華賞時と同じ468kgと、馬体面での成長に乏しい。
ただ、馬体の成長力がそのままレースパフォーマンス低下の直接的な原因となっているか、と断定できるか、と言われると反論材料もある。
上の表には掲載されていないが、キタサンブラック産駒のラヴェル(メス4歳)は2歳に新馬→アルテミスS(G3)と2連勝を飾り、牝馬クラシック戦線に参戦したが、桜花賞(11着)、オークス(4着)と馬券圏内から外れ、その後も惨敗を繰り返している。
このラヴェルは2022/07/10の2歳デビュー時の馬体重444㎏から1年後の2023/09/17のローズS(G2)14着時では460kgを記録し、プラス16kgと成長を見せている。
それでも、レースでは惨敗した。
この場合、馬体重が増えないからレースパフォーマンスが上がらない、という単純な相関関係では説明できない。
(3)結論は保留
もちろん、競走馬の成長とは、単純な馬体重だけに反映されるものではない、フィジカル面においても馬体重には直接表れない内面的な、つまり筋肉の質的な成長・向上があり、もちろん精神的な成長も馬の成長面を見る場合に大きい。
それでも、なぜか社台&サンデーのクラブ馬(ソールオリエンス&コナコースト)のキタサンブラック産駒は3歳で活躍が止まってしまう、いわゆる早熟早枯れが目立つ。
なぜだろうか。
生まれ月を調べてみても関係なさそうだし、調教師の技量も大きなファクターとは考えられない。
早熟早枯れの要因として一番に考えられるのは、その馬固有の成長曲線の問題があるだろう。
第二に、レースや調教を重ねるにつれて馬にストレスが溜まり、前進気勢が衰えること。
これは、ディープインパクト産駒やドゥラメンテ産駒、そして牝馬に多く当てはまる。
父のキタサンブラック自体はむしろ晩成であったのに、産駒はその逆というのも不思議だ。
馬は生き物なので、人間の了見で何もかも説明できるわけではないことを最後に書いて、本稿を締めくくりたい。