(1)儀式が始まるまで静かに待つ

 

京都旅行4日目。

 

本日の夕食は日本料理「むろまち加地」さん。

 

 

こちらは、路地裏の目立たないところに店を構える小さなお店。

 

カウンターが8席と奥の座敷というこじんまりとした店内。

 

大将と若い見習いさん。それと2人の女性の、合わせて4人で切り盛りしている。

 

家族経営? という雰囲気のアットホームな空気感があって、昨日の祇園の料亭では緊張したけれど、今日はだいぶくつろげた。

 

事前に予習しておいたので、この店の特別のルールに合わせて、急いで食事の注文をすることなく、まずは飲み物だけを頼んで、儀式が始まるのを待つことにした。

 

ほかのお客さんも常連さんか、この店のルールを知っているらしく、じっと大将の準備ができるのを静かに待っている。

 

ルールとは、次のような流れを言う。

 

①客はまず飲み物だけを注文する。

②しばらくして八寸が到着。これがこの店の お通しにあたる。

③大将が今日の食材をドーンとカウンターの上に置いて、準備作業に入る。

④その間、説明はないが、八寸を食べながら、大将から合図があるまで客はしばし待つ。

⑤やや時を置いて、ようやく大将のほうから本日の限定メニューに使う食材の説明と料理法をレクチャー。

⑥客が料理を注文する。

 

この流れのよいところは、

 

その日ごとに旬の食材を変えていること。

 

食材ごとの料理法のバリエーションをある程度客が選ぶことができること。

 

食材が客の目の前にあるので、食材の実物を確かめて見た目で鮮度がわかること。

 

そして、これがちょっとしたパフォーマンスになっていることなど、面白いスタイルだと思う。

 

(2)ユニークな釜めしがこの店の売り

 

限定メニューの食材と料理法のブリーフィングは大将が早口なので、即座に理解することが難しい。

 

でも、私は用意したメモ帳に漏らすことなく素早く書き留めた。

 

一番初めに入店した特権を生かして、私はすかさず4品を注文した。

 

隣の4人組のお客さんは、口早の説明についていけず、混乱しているようだ。

 

もうひとつ、この店のルールというか、攻略法がある。

 

それは、炊き込みご飯を作るのに時間がかかるので、一番最初に注文することだ。

 

私は、限定メニューである「氷魚の炊き込みご飯」を頼んだ。

 

炊き込みご飯とは、要するに釜めしのこと。

 

食べログの口コミでは、「うなぎの炊き込みご飯に感動した」とあった。

 

「煮穴子の炊き込みご飯」もあって捨てがたいが、私の直感は「氷魚の炊き込みご飯」のほうにアンテナが向いていたので、迷わずに行った。

 

ほかにも季節ごとに様々な旬の食材で炊き込みご飯を作るのがこの店の売りであるらしい。

 

 

(3)お通しだけで興奮の鼻息が荒くなる

 

「氷魚の炊き込みご飯」の食レポは一番最後に書くことにして、まずはお通しの「八寸」の説明から。

 

 

右上から時計回りに

 

「ホタルイカと菜の花」「鯛の寿司」「タラコの塩漬けでまぶしたコンニャク」「花団子」「桜エビのかき揚げ」そして、器に蓋を被せたものが「新玉ねぎとホウレンソウの和え物」。

 

どれも酒のアテにちょうどいい。

 

「ホタルイカと菜の花」はカラスミで和えてあり、酒飲みには垂涎の的。

 

お通しにしてはレベルが高く、これからどんな料理が出るんだろうと、ワクワクの期待感で胸が高鳴り、興奮してきた。

 

(4)「お造り」で興奮はマックスに

 

注文1品目は「お造り」。


 

中央の上から順に「鯛」「信州サーモン」「ヒラスズキの昆布〆」「初ガツオのたたき」「マグロのトロ」

 

左列上から「鯛のシュトウとアカガイ」「サバの棒寿司」

 

結論から言うと、このお造りで興奮はマックスに高まった。

 

記憶に強く残った順から書くと。

 

まずは「信州サーモン」。

 

「信州サーモン」とは、ニジマスとブラウントラウトをバイオテクノロジー技術を用いて交配した一代限りの養殖品種のこと。

 

※写真と解説は長野県水産試験場ホームページからお借りしました。

 

大将によると、海外のサーモンに比べて脂はスッキリとしているとのこと。

 

私が食べた感触は、喉に通ったあと、しばらくサーモンのさわやかな残り香が口の漂っていた。

 

なんだこれは? という初体験をした。

 

それから、「初ガツオのたたき」は高知で食べたものと遜色ない。

 

脂がよく乗っていて、濃厚な風味と身のコクに、もだえてしまう。

 

この店では、刺身を醤油だけでなく、梅のソース、魚のキモで作ったソースの3種で食べさせるところに特色がある。

 

関東モンは「バカのひとつ覚え」みたいに刺身を醤油で食わせて、せっかくの食材の甘さを台無しにしている。

 

兼ねてから、私はこの不満をこぼしていたのだけれど、「塩で食べさせる鮨屋があるよ」ぐらいの反応だけで、なかなか周囲に理解してもらえなかった。

 

私の愚痴を大将はわかってくれていた。

 

それだけで嬉しくなった。

 

3種のソースになかでも魚のキモで作ったソースが一番印象的だった。

 

臭みはまったくなく、淡い甘さ、それも嫌な甘さではなく、さわやかな旨味で、これが刺身と出会うと不思議なハーモニーを奏でる。

 

(5)このアジフライただものではない

 

注文2品目は「シマアジのアジフライ」。

 

 

アジフライというと、皆さんは尻尾がついたアレを想像するでしょう。

 

ところが、このアジフライには尻尾がない。

 

サイコロ状にコロンとした立体形が2つ。

 

そして、これをソースとタルタルで食す。

 

きちんとタルタルを付けてくれるところが、なんとも嬉しい。

 

口に含むとホロホロと身が崩れる。

 

ほっこりとした食感は私が普段食しているアジフライとはわけが違う。

 

肉身が厚いので、アジフライよりマグロカツに食感は近いのかな。

 

でもマグロカツよりサッパリしている。

 

これは、毎週の食卓で食べたい。

 

お皿を下げてくれるとき、お姉さんに美味しかったと笑顔で感想を言ったら、ニッコリを返してくれた。

 

注文3品目は「ハモの天ぷら」

 

 

京都と言えば、やっぱ鱧(ハモ)でしょう。

 

ということで頼んだが、揚げ物がふた品続いたせいもあって、こちらは一番印象に残らなかった。

 

どこかの料理屋で食べる普通の「ハモの天ぷら」

 

紫蘇か何かの葉を巻いていたが、あまり風味は感じられず、詳細は不明。

 

(6)感動のクライマックスへ

 

そして、本日の食事の掉尾を飾るのが、「氷魚の炊き込みご飯」。

 

「氷(こおり)魚(さかな)」と書いて「ひうお」と読む。

 

氷魚は12〜3月の冬にだけとれる小鮎になる前の稚魚のこと。

 

写真と説明は「滋賀のおいしいコレクション」さんからお借りしました。

 

 

外見はシラスにそっくりです。

 

これを中型の釜に入れた2合のお米で炊き込むので、注文を受けてから提供されるまで、小一時間はかかる。

 

そうして、いよいよ釜ごと運ばれてきたのがこれ👇

 

 

下に一面に敷き詰められているのが氷魚。

 

その上に刻んだ九条ネギと潰した梅干しが乗っている。そして風味付けの桜エビが少々。

 

これをお姉さんがしゃもじで混ぜてくれて、お茶碗によそって提供される。

 

 

氷魚自体はほとんど味がしないが、梅のほのかな酸味が隠し味となっている。

 

味がしないと書いたが、ほんのりとした風味が際立っている。

 

シラスのえぐみを獲った感じ、と表現したらいいのかな。

 

とにかく優しい味で、これならお酒をたくさん飲んでも〆で十分にいける。

 

ご飯茶碗3杯食べたが、食べきれずに残した分は、お姉さんがお握りにしてくれて持たせてくれた。

 

最後まで行き届いたサービスには頭が下がる。

 

私は禁酒でしているので、今日はアイスウーロン茶を3杯のんだ。

 

それでお会計は8,500円。

 

これだけ満足した食事が取れて1万円でお釣りがくるのは、観光地料金京都の割にはリーズナブルだ。

 

今度は季節を代えて再訪し、別の食材で炊き込みご飯を食べてみたい。

 

帰りにお見送りしてくれた大将に、「感動した」「興奮した」と伝えたら、満面の笑みで深々とお辞儀をしてくれた。

 

この大将、ロン毛を頭の上で玉結びにしていて、料理人というより、ちょっとしたアーティストやヘアメイクの人に見える。

 

ほとんどワンオペに近い形でテキパキと仕事をこなしているが、こういう事情で、注文してから料理が届くまでに時間がかかること。

 

お客は全部食べ終えて料理のない状態で待つ時間がかなりあること。

 

本日の限定品はすぐに売り切れてしまこと。

 

この2点だけはご留意ください。

 

でも、次の料理を待つ時間、目の前で行われる大将の包丁さばきを見ているだけで時間がつぶれるから、個人的には苦にはならなかった。

 

ていうことで、「むろまち加地」さんは星4つです。ちなみに星4つからは「また行きたい」という評価になります。

 

 

明日はいよいよ京都旅行最後の夕食。

 

高級ホテルでイタリアンを食します。