(1)ピーターパンの冒険

 

私は子どもだ。

 

外見は年をくっているが、中身はおこちゃまだ。

 

大人は世間の常識で動く。そしてお約束や権威、格式を尊重する。

 

でも、私は子どもだから、そんなことはお構いなしだ。

 

だから思ったことは何でも口にするし、ときには非常識なこともつい書いてしまう。

 

このブログの競馬記事のように。

 

私は素人だ。

 

恥知らずにもほどがある素人の私は、怖いもの見たさで、恥も外聞も恐れずに玄人の界隈へズカズカと足を踏み込んでゆく。

 

素人の癖に血統論をかましているのだから、みなさんもこのブログ主の厚顔無恥ぶりには既にお気づきのことだろう。

 

そんな、おこちゃまで素人の私は、今回、食通達が通う、京都は祇園の料亭に足を踏み入れて、図々しくも食レポをする。

 

もちろん、今まで京都の祇園、特にこうした路地の裏で食べたことは一度もありましぇ~ん。

 

いつまでも大人になれないピーターパンは、今回の食レポで空に向かって羽ばたくことができるのか?

 

 

(2)春はやっぱ貝だよ♪ っていう前奏曲から始まった

 

今回、訪れたお店は「祇園なん波」さん。

 

ある 食通を自称する youtube 動画で紹介されていたので、予約を入れた。

 

その youtube 動画 の主は、食通を鼻にかけて、金にものを言わせて、高級店で豪遊して権威に盲従している。

 

私の最も嫌うタイプだ。

 

今回「祇園なん波」さんをチョイスしたのは、その実力を試してみようという意味もある。

 

 

さっそくカウンターに通されて、日本酒を注文した。

 

 

香りが高くてフルーティーなお酒は何ですか、と訊ねて女将に選んでもらったのが「英勲」。

 

齊藤酒造さんのもので京都のお酒だ。

 

一口目からフワッと芳醇に香りたち、食欲が刺激される。

 

今回は13,310円コース【全9品】を頼んでみた。

 

この金額は貧乏世帯の私が1回の食事に出せるギリギリの上限になる。

 

1品目の先付けはトリ貝とタイラ貝にミョウガや山菜などを添えたもの。

 

 

個性の異なる食材を餡が絶妙にまとめている。

 

タイラ貝が甘い。春先は貝がいい具合に旬の風を運んでくる。

 

プレリュードとしては、いい予感を演出している。

 

(3)上品で淡泊って、どうよ。

 

2品目は椀物で、鯛が主役。

 

 

インゲンの真ん中にポツンと乗っている白いものは、柚子の花だと女将が教えてくれた。

 

気づかなければ見過ごしてしまった。

 

口に含むと爆弾が破裂したように柚子の香りがブワッとくる。

 

これはいいサプライズ。

 

柚子の実を散らすのではなく、こんな手があったのか、と感心。

 

3品目はお造り。

 

こちらは写真を撮り忘れた。

 

ケンサキイカ、マグロ、ブリ、鯛。

 

ケンサキイカと鯛は塩でいただく。

 

ブリはおろし大根に醤油で。

 

ケンサキイカが甘くて柔らかい。

 

これは当たり。

 

そのほかは、まあまあ。

 

この13,310円というお値段では、すべてが美味い、というのは無いものねだりなんだろう。きっと。

 

ここまでは味は悪くないが、少しおとなしい印象。

 

いい意味で上品。いじわるに見ると淡泊で少し物足りないかな。

 

でも、全体的によくまとめられていて、完成度は高い。

 

’4)最近は手抜きする店が多いと女将が言った

 

4品目は八寸。

 

 

手前が琵琶湖のアマゴと鯖寿司。右奥がトマトを使った料理。

 

イタリアンの風情を感じるのは私だけか。

 

変化球で来て、少し面白い。

 

鯖寿司は美味いに決まってる。テッパンの味。

 

アマゴはちょっと塩が多い。けれど酒のアテだから仕方ないか。

 

ここで、女将からひと言が入る。

 

最近、八寸を出す店は少なくなっている、とのこと。

 

手間をかけて4品も出さずに、多くの店が簡略化している。

 

お造りも4品ではなく、1品、2品で済ましている。

 

これは、私がお造りでマグロに違和感を覚えて、変なことを板さんに尋ねたことが伏線になっているようだ。

 

このマグロを食べて、以前食べた近畿大学の養殖マグロのことを急に思い出した。

 

まさか、この老舗で養殖を使っているわけがない、とは思ったが。

 

養殖ものは妙に脂が乗っているが、ここのマグロは赤身で全然違う。

 

そこで、近大の養殖マグロについてどう思いますか、と質問を振ったのだ。

 

ここらへんが、私がおこちゃまたる所以だ。

 

もっと洗練された話題を出せばいいのに。

 

板さんは「うちは天然ものを使っているけれども、養殖マグロは否定しない」というご意見だった。

 

さすがに受け答えは大人だ。

 

(5)コース後半から速球がくるようになった

 

どんどん食レポを進めよう。

 

5品目は焼き物。

 

キンメダイ。

 

こちらは今回提供された料理でナンバーワン。

 

脂がよく乗っていて、旨味がジュワッとくる。

 

日本酒も進んで、酒飲みにはたまらない。

 

日本料理はやっぱり素材が命だね。

 

6品目は炊き合わせ。

 

 

筍の火の通し加減が素晴らしい。

 

筍は京都各所で旬の時期が異なり、時期ごとにベストの産地から仕入れているという。

 

今まで食べた筍料理のなかで、これが生涯ベスト。

 

コース後半でどんどん加速していく感じがいい。

 

7品目は炊き込みご飯。

 

 

筍ご飯と赤だし。

 

私は京都の料亭で出される赤だしがどうも苦手だ。

 

美味いと思ったためしがない。

 

これは習慣と文化の違いか。

 

8品目はデザート。

 

 

スイカのジェラート。

 

さまざまな素材が複雑に組み合わされていて、味の織り成すハーモニーが素晴らしい。

 

渾身の力が籠った逸品。

 

9品目は抹茶と和菓子。

 

 

これだけの品数でクオリティも高い。

 

それで13,310円は決して高くはない。

 

(6)懐石料理の伝統とは

 

でも、もう少し品数を減らして、サプライズと遊び心がもっとあってもいい。

 

これが素直な感想。

 

でも、京都は祇園の伝統と格式があるなかで、これはとうてい無理な注文だろう。

 

コース料理はストーリーとコミュニケーションだと思う。

 

なぜ、この順番でこの料理がくるのかの文脈が大切で、なおかつ、サプライズや駆け引きといった料理人が込めたメッセージをこちらがきちんと受け止めることができたとき。

 

ああ、この店に来て本当によかったなあ。

 

そう思う。

 

でも、それが今回は感じられなかった。

 

懐石料理はすでに文脈や料理の順番の意味が確立されているから、料理人はオートマチックにつくるだけなのだろう。

 

あるいは、料理人のメッセージや意図があるのに、私は素人だからそれを読みとることができなかったのかもしれない。

 

いや、柚子の花の仕掛けやイタリアン風のトマトの処理など、京の伝統から一歩、二歩抜け出しつつあるところもあった。

 

そんなことをいろいろ考えながら、今回は星3.5です。

 

 

ピーターパンは窓枠につっかえて、飛び立とうとしたけれども、ずっこけた。

 

明日も京都の和食をレポします。