(1)四万十川の鰻を食べるぞ

 

四国旅行の3日目は室戸岬から一気に四万十川を目指した。

 

四国の南辺を東から西へ横断する。

 

朝6時半の始発バスに乗り、室戸岬から奈半利に出て、そこから四国くろしお鉄道とJRを乗り継いで、高知へ行き、さらに高知から特急列車で四万十市の中村駅に着いたのが11時30分だ。

 

高知県の東から西へ移動するのに5時間かかる。

 

東京羽田から飛行機で高知龍馬空港に行くのに約1時間30分。

 

ということは、羽田から高知へ1往復半するのと同じだけ時間がかかる。

 

いやはや、高知県の広いことよ。

 

室戸岬を始発のバスで発ったのは、四万十でランチに鰻を食べたかったからだ。

 

四万十川というと天然鰻で有名だが、各方面からの情報によると、天然鰻は身が固くて美味しくない、とのこと。

 

養殖よりも値が張るのに、味で劣るのでは、あえて天然にこだわる意味はない。

 

私は最初から天然をあきらめて養殖でいく所存だった。

 

 

やなせたかしは高知県出身。

 

高知駅ではアンパンマン電車を見ることができる。

 

(2)四万十の鰻のお味は?

 

四万十市の中村駅を降りて、レンタサイクルを借りて目的地の鰻屋に向かってひたすらペダルを回す。

 

四万十は春たけなわ。

 

 

 

沈下橋のたもとでは菜の花が風に揺れていた。

 

到着したお店は鰻の専門店S.

 

 

お値段は東京で食べるよりは幾分割安に感じる。

 

私はうな重を注文した。

 

 

 

見た目は、とても美味しそうに見える。

 

ところが。

 

一度蒸す関東の鰻を食べなれている私にとっては、この鰻には違和感があった。

 

第一に焼き加減の問題。

 

見た目通り、焦げている。

 

この焦げ目の苦さが全体の味を損なっている。

 

もちろん、うな重の鰻が焦げているのは関東、関西にかかわらず日常茶飯のことだ。

 

この焦げ目の香ばしさが食欲をさそる。

 

でも、このSの鰻の焦げ目は苦いだけだ。

 

同じ焦げ目でも苦くなるか、香ばしくなるかは紙一重といってよい。

 

その火加減が鰻職人の技となる。

 

料理はすべてにおいて火加減が命綱だが、特に鰻はそこが味の生殺与奪となっている。

 

残念だが、ここの鰻屋は焦げ目がすべてを殺している。

 

違和感の2つ目。

 

鰻の付けダレがしょっぱい。

 

およそ風味というものを感じられない。

 

値段が東京よりも安いのは、そういうことか。

 

(3)京都の懐石料理店で穴子の炭火焼きを食べる

 

焼き加減や付けダレなど鰻料理のキモはいろいろあるが、やはり何といっても肝心かなめは鰻そのものの品質だろう。

 

脂の乗った鰻は断然美味しい。

 

そうでないものは、醤油の付けダレや山椒である程度ごまかせる。

 

お金がない私がたまに奮発して食べている鰻はたいてい、その手の類の鰻だ。

 

それでも、ある程度満足はできる。

 

鰻の名店で食べた経験がない私が鰻を語るのも変なので、少し変化球で、穴子の話で蘊蓄(うんちく)を語ってみたい。

 

私は去年、京都で穴子の白焼きを食べた。

 

京都河原町通りの浜町という懐石料理店でのことだ。

 

このお店は注文が入ると炭火が客の目の前に運ばれてきて、お客が自分で穴子を焼く。

 

 

 

こんな形で運ばれてきたものを網の上に乗せて焼いてゆく。

 

 

 

最初は綺麗な白身の姿であったものが。

 

 

焼き進めてゆくうちに、焦げ目がついてきて、香ばしい香りが漂ってくる。

 

 

炭火の熱で、くるんと身が反り返るのが、なんとも楽しい。

 

先ほど、料理は火加減が命と書いたが、素人に調理させて大丈夫かと、読者のみなさんは心配されていることだろう。

 

そこは、店の大将が仕事をしながら横目でチェックを入れていて、要所でアドバイスをくれる。

 

炭火でじっくりと火を通すことで、余分な脂を除きながらじっくりと中まで火が通る。

 

 

こうして焼きあがった穴子を梅、ワサビなどでつけて食べる。

 

食べてみた感想は、焦げ目が香ばしくて美味いということ。

 

それから、タレを付けずに白焼きすることで、本来の穴子の白身が持つ微妙な甘みを実感できること。

 

 

よく鮨屋で煮穴子を食べる。

 

あれもそこそこ美味しいけれど、やはりタレにごまかされていたということが、この店の白焼きを食べてわかった。

 

穴子は本来繊細な魚で、醤油ダレをつけるとせっかくの脂の繊細さが損なわれる。

 

だから、穴子はやはり炭火でじっくり白焼きで食するに限る。

 

(4)通の鰻の食べ方

 

この京都での経験から考えると、鰻も同じだと思った。

 

鰻も穴子と同様、白焼きで食するほうがよりダイレクトに鰻の鮮度や脂乗りが実感できる。

 

だから、おそらく食通は、その店の鰻の品質を測るために、最初に訪れた鰻屋では白焼きから注文する。

 

これは間違いない。

 

ちなみに、食通ではない私は、今まで鰻屋で白焼きを頼んだことは一度もない。

 

ていうか、うな重やうな丼があるのに、なんでわざわざ味の付いていない白焼きなんか頼むんだろう、とさえ思っていた。

 

繰り返しになるが、鰻や穴子は付けダレである程度味をごまかせる。

 

鰻について言えば、私の人生ぶんずっと騙され続けてきた。

 

この旅が終わり、帰宅したら、浦和にある鰻の名店に行って白焼きを食べてみようと思う。

 

読者のみなさん、どこか美味しい鰻屋があれば教えてください。