やっとのことで整骨院を開業してまだ何もわからぬころ、営業や治療の方法を習うには多くの友人を作る必要がありました。マッサージの業界とちがって、整骨の業界はほとんど全員が健康な人ばかりです。各県に支部、中央に本部があり、関東ブロック、九州ブロックなど地区のブロック単位で研修会や懇親会などが行なわれています。

とくに九州ブロックの会合などは、九州地区の同業者が一堂に集まり、友人を創るには絶好のチャンスでありました。ところが、会議に出席しても、目が悪いために人の名前と顔がよくわかりません。友達を作るには自分から積極的に挨拶に行けぱよいのですが、私の視力では皆さんの胸の名札を読むことができないので、つい声を掛けることができず、会合などで友達になることができません。なんとか自分の名前を知っ

て頂く方法はないかと考え、一つの方法を思いつきました。

それまで比較的地味なスーツを着て会合に出席していましたが、地味なスーツでは目立たないと思い、さっそく洋服屋さんに行って、白のスーツに力ラーのワイシャツ、真っ赤なネクタイ、白の革靴を新調し、何処にいてもすぐにわかる、派手な格好で会合に出席しました。まるで芸能人がステージに立つ時の様なスタイルです。そんな珍しい格好で会合に出席するので、出席者全員がいやでも私に注目し、私の名前をおぼえてくれる様になり、向うから挨拶に来てくれる様になり、友人がどんどん増えて行きました。そして、各地の整骨院の先生とのお付き合いを通して、経営のイロハをならいました。特に、福岡の田中整骨院、長崎の浜口整骨院の院長先生には技術や経営のやり方を、佐賀県の富永整骨院の院長先生には学術的な指導や技術面の指導を頂き、何もわからなかった私が経営を行う事が出来る様になって行きました。この白のスーツも一年間でお役御免となり、白のスーツも必要ないくらいに皆さんに覚えていただきました。私にとって、自分からは声をかけることができなかったのですが、白のスーツが皆さんに声を掛けてくれたような気がします。

人にはいろんな自己表現の仕方があり、私にとってのこの時の自己表現は白のスーツでした。しかし最近になって感じることは、真の自己表現は何も目立つ服装ではなく、存在するだけで周りに自己表現できるような人間性を持つことが、真の自己表現であるということです。