改めて見渡すと辺りは大分落ち着いては来たが、未だに瓦礫を撤去する人、
岩を何処かへ運び出す人、医療班らしき人達に怪我人と、
まだまだ沢山の人で賑わっている。
まだ正午前だが、今日はこのまま日が暮れてしまいそうだった。
リセが
(今日ってギルドの業務どうするんだ?
てか狩りに行ってるハンターは戻ってきたら集会所潰れてるんだよな‥‥)
などと考えながら立ち尽くしていると、
そこへ作業が一段落したのかレイシャがやってくる。
「‥‥“しゅ”ごめんね。大丈夫だった?」
「あ、レイシャ!フレンダも無事だし、
アズに聞いたんだけど崩落はズッコケが原因じゃないみたいだよ!!
何か向こうの金ピカさんが関係してるらしいよ」
とにかく、真っ先にレイシャに言わなければならないニュースを伝えた。
「‥‥そう、教えてくれてありがとう。
向こうの金ピカさん‥‥って“せっちゃん”?
何かさっきからいる感じはあったね」
「せっちゃん?知り合いなの?」
またレイシャの例の癖が発動しているようだった。
あの厳つい外見から察するに、絶対そんな愛称の人物ではないはずだ。
「‥‥“せっちゃん”ってのは《ラセツ》の事だな。
奴も元はミナガルデの凄腕ハンターだ」
そこにアリマもやって来て代わりに答える。
「ラセツ?元?今は違うの?あの格好で?」
リセは事情が飲み込めず一遍に質問してしまう。
「‥‥奴は二年前ミナガルデを追放され、今は牙獣族《ジェヴォーダン》の族長だ。
本人と少し話したがどうも奴がこの近く、
と言っても街から三百メートルくらい離れた場所で黒炎と出くわして戦闘、
丁度集会所の真上辺りにぶっ飛ばされたのが崩落の一番の原因らしい。
傍迷惑な話だな」
‥‥‥‥‥え???なんだって??それはそれで一体どういうことなんだ。
難解な言葉や難しい単語は無かったが、
リセの常識に照らし合わせると大分理解し難い内容だ。
「‥‥‥ってあの人が牙獣族の族長!?若くない!!?
‥‥でも牙獣族って二年以上前からなかったっけ?」
「二年前トップが代わったんだ。
まぁそれ以前から奴は奴で牙獣に繋がりがあったらしいが」
「言われてみればそうか。フェイロンや甲殻族もそうだったらしいし‥‥」
リセの出身フェイロンこと飛竜族、
後は甲殻族も長がリセの知る限り数十年代わっていないが、
確かに父が若い頃は別の人間がトップだったと聞いた気がする。
そこはまぁ良いとして‥‥。
「三百メートル飛ばされた???人が人に?????
いくらあの黒炎が相手でも‥‥‥‥いやあの人も大分元気そうだよ?」
三百メートル飛ばされた先でおもむろに瓦礫の撤去‥‥。
「黒炎がどんな攻撃をしたのか知らんが、
アイツはアイツで威力を相殺する為に何かしたんだろう。
ラセツもラージャンと肉弾戦を繰り広げるような化けモンだ」
今、何か聞き捨てならない事をサラッと言われた気がした。
「‥‥‥はあ?!!!??
ラージャンて確か片手で10トン級のアプトノスくらいなら
軽々と投げ飛ばす怪力でしょ!?!?」
何か今日は自分の世界の常識がもの凄いインフレーションしてる気がする。
「一応《破砕拳》ってハンターの武器に匹敵する威力の手甲型武具は使ってた。
多分今も」
ああ‥‥一日で色んな知識が脳内辞書に増えて整理出来そうにない。
でも気になるから聞くしかない。
「はさいけん?全然聞いたこと無いんだけど‥‥‥」
「ああ、知らなくて良い。俺も良く知らんから。
ところで、今はそんな事よりお前さ‥‥‥」
「え?俺が何?」
アリマが凄く不思議そうな顔で見つめてきた。
右手で口元を覆い、考え込むような仕草まで。出会ってからあまり見た事無い表情だ。
関係ないけど手がおっきいなぁ‥‥それとも顔が小さいのかな?
さっぱり訳の分からないリセがそんな事を考えていると、
アリマは一度首を傾げ、左手で何やらリセの右足の方を指差した。
「‥‥‥‥なんか右足折れてね?変な方向にくにゃってるぞ‥‥?」
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥。
‥‥‥‥‥折れてる?誰の足が?足が、折れてるって?くにゃってる??何???
‥‥足が折れてる!?俺の!!??
すぐに足下を見る。右足をヒョイと上げる。
ブラブラ、ブラブラ。
オレノアシ=オレテラッ!?!
「うびゃあっ!??!!!??!!」
アリマの言葉を理解した瞬間、リセは全身に響く凄まじい激痛に襲われた。
そのままその場にしゃがみ込み右足を両手で押さえる。
「‥‥ハッ!?‥‥足が、足の骨が折れたぁ~!!!」
あまりの痛さに凄く当たり前の事実を口走ってしまう。
「いやいやいやいやいや!?はあぁぁぁぁぁぁっ!!??お前気付くの遅いよ!!
何で普通に救助加わってたんだよ!!?お前今んとこ一番重傷だぞ!!!」
そういうとアリマは即座に俺をおんぶしてイッタァァァァァァッ!!?
治療班のところまで運んでくれてるイテテテテテテッ!!?
「イタイヨーー!!!イタイヨーー!!!」
「気をしっかり持てーー!!!さっきまでの金剛の精神はどこいったーー!!!」
こうなったらもう恥も外聞もな痛いイタイイタイ!痛いモンは痛い!
すぐに即興で組まれたテントの近くに運び込まれた!
沢山の人で賑わってる!
活気あるね!怪我人だらけだけど!
でも自分が明らかに重傷過ぎて浮いてると言うか、なんかみんなの視線が痛いッ!
‥‥‥わ、笑うなぁぁぁぁぁぁーーーーッ!!!!!
こっちは死ぬほど痛いんだかんね!!!!
‥‥ハッ!?しまった今の口に出してないよな!?
キャラ崩壊とか言われちゃ‥‥いや周囲を敵に回してしまう!
只でさえ怪奇・針のムシロ男だのにッ!
「あ~左肩の打撲もあるね。ていうか全身鞭打ちな感じかなぁ。
とりあえず痛み止めの服用と折れた足の固定からかな」
何か医者らしき人がノンキ‥いや冷静に語っている。
「はい、苦いけど我慢我慢」
更に見覚えのある面々がちらほら、口々に話し掛けてくる。
「リセ、お前やっぱ素質あるな!相当なクレイジーだ」
「‥‥今までどうやって動いてたの?」
「私なんてさっき抱っこされてた」
「ドハハハハ!お前みたいな馬鹿は大成するぞ!」
「バハハハハ!さっすがアリマの目に狂いはねぇな!」
ほぼ地べたの粗末な布の上に寝かされて、
首にも少し何か巻かれたから周りが良く見えないけど、
まあ大体誰に声を掛けられてるか分かる。
‥‥けどどうでもいいし!返事どころじゃないし今!
‥‥‥‥?
‥‥‥‥‥んん?
おおお??
ああ~‥‥なんかちょっとだけ楽になってきたぞっ。
ついでに何か下半身の感覚も鈍くなってきた。
これが鎮痛剤ってやつの威力なんだぁ‥‥。
「‥‥早速落ち着いてきたようだな、リセ。ハンターに纏わる薬品は速効性だ」
「あ、アリマ?うん‥‥‥それにしても鎮痛剤ってすごい‥すご‥‥‥
ん?あれは‥‥?」
その時だった。
仰向けに寝ているリセの視界が何かを捉えた。
遙か上空に煌く“流星のような何か”を。
しかし今は昼間‥‥流れ星なんて‥‥ん!!?あれ!??
‥‥間違いない!此方に迫ってきている!!
リセが咄嗟に上体を起こすと、アリマやレイシャが異変を感じ取り身構えていた。
そしてリセの優れた視力は、未だ高空にあるその物体の正体を看破する。
あれは巨大な岩石か?!!?マズいッ!!!!広場に直撃するッ!!!!
理解が辛うじて追いついたその時。
「雷轟ッ!!!!!!!!!!羅刹撃ッッッ!!!!!!!!!!!!!」
ズドォォォォーーーーーン!!!!!!!!!!!
パラパラパラ‥‥‥。
「‥‥‥‥はいっ?」
せっかく理解が状況に追いついたと思ったら、
状況は更に加速し光の速さでリセから遠ざかっていってしまった。
‥‥‥説明しようッ!多分無理だがッ!
凄い上空から崩落とは関係無い感じの巨大な岩が広場めがけて降ってきたのだッ!
その時何やらアズとせっちゃんさんのいる辺りから眩い閃光が迸り、
直後巨大な光の玉?が岩石に向かって高速で飛んでいき、これを迎撃ッ!
寸での所で木っ端ッ!!!!微塵にッ!!!!
粉ッ砕ッしたのだァァァーーッ!!!!!!
‥‥って?マジで何今の?人間って手からあんなん出せんの?
リセはパラパラと降り注ぐ巨岩の欠片と粉塵を浴びながら、
起こした体ごと思考までも固まってしまう。
何か岩が崩れた瞬間、破片に混ざって黒い粉末が舞った気がした。
「こらラセツ!!!それを此処で使うなと‥‥」
混乱の中怒鳴り声が聞こえてくる。
どうもアズの声らしいが、何だかいつもと雰囲気が違うような‥‥?本当にアズ‥?
「うっせぇな、助けてやったんだから良いだろぉ?
ってな訳でこれで今回の件はチャラって事で!!
アリマ兄貴オアレイシャベティその他、またなっ!!!!!」
「待ちなさっ‥‥‥!!!」
「お~う、またな~」
のんきに手を振るアリマと慌てた様子のアズを後目に、
金色の人物が両腕を地面に打ち付けた。
ズドォォォン!!!!!!!
地面を揺らす衝撃と轟音を伴い、
金色の人は一気に飛び上がってそのまま山肌から山肌に飛び移り、
あっという間に見えなくなった。
去った後に残されたのは無残に砕かれた石畳。
‥‥ああ、これが例の?こりゃ確かに‥‥。
一度は納得しかけたリセではあったが、
やはりミナガルデ滞在一日半ほどのリセの情報量キャパシティは、既に限界を迎えていた。
‥‥もう、どうでもいいや。
どうせ分かりたくても分からないので、リセは、考えるのを止めた。

