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アロウのノート





【神の手の造形者(ゴッドハンド・クリエイター)】

数百年前から世界中でその名を知られる芸術家『ロウエン』を指す言葉。

彫刻家として広く知られている人物ではあるが、絵画の世界においてもその道の人間ならば誰もが知るほどの腕前と言われ、残された作品は彫刻、絵画問わず一国の国宝に値するほどの価値が認められている。

中でも最も有名な作品はミナガルデを始めシュレイド大陸各地に残された【武神像】だが、武神像に施された緻密な加工とその素材の性質上、龍の鱗を引き裂き思い通りの造形に仕上げる事が可能な、異次元の加工技術を有した人物であったと語られている。




【修羅龍樹(しゅらりゅうじゅ)】

『森羅教』教祖の本名を出身である東方の読みに直したもの。

森羅教は世界中に三千万人の信徒を擁する最大宗派であり、中でもシュレイド大陸の何処かの山奥には、その教祖を祀る神殿とそれを守護する屈強な山伏達の集団が存在すると言われ、森羅教中枢勢力はハンターズギルド同様各国より危険視されている。

信徒らの間では、教祖シヴァ=ナーガルジュナが千年の時を生きる現人神と信じられていると言う。




【深き森の幻影(ふかきもりのげんえい)】

旧シュレイド時代、極めて優秀な頭脳と謎の秘術の数々を併せ持ち『魔女』の異名で畏れられた謎多き宮廷錬金術師ミヅハ、もしくはその襲名者を指す。

ミヅハが深き森の幻影と呼ばれる由来は、古くから現代に至り大陸に根強い「優秀な頭脳と革新的な理念を持つ女性」への差別により迫害され、行き場を無くした者達が辿り着くと伝わる地『虚影迷森(ホロウ・フォレスト)』に因む。

そして虚影迷森とは実際の森では無く、ミヅハの元に集った者達により結成された宗教団体を表す隠語とされており、大陸の権力者達からは森羅教中枢勢力と並ぶ危険因子と見なされている。

その理由は、ミヅハを初めとする虚影迷森の信徒達が、何れも屈強な戦士すら幻惑する不可解な秘術の数々を操る事による。

現在も教主の名はミヅハであるとされているが、初代から数えて何代目に当たるかは不明であり、虚影迷森自体の信徒総数も明らかでは無く、森羅教と比べ極めて閉鎖的かつ排他的な団体組織である。




【神の踊り手(かみのおどりて)】

シュレイド大陸に広く伝わる東方大陸出自の舞踊の型『夢幻扇陣』。その開祖に極めて近しいと伝わる双子の尊称。

「夢幻」に例えられるその舞いは優雅にして流麗、時に力強く時に繊細な美しさは見る者悉くを魅了し、戦場に在って戦士に戦いを忘れさせる魔性を秘めると語り伝えられてきた。

双子は少なくとも数百年以上前の時代に生きた人物であり、現代での夢幻扇陣は嗜む者こそ多くあれど、正当な伝承者はおらず舞踊としての奥義は失われ、源流である武術『無限閃刃』としての技術は完全に途絶えたと言われている。




【一なる皇剣(いちなるこうけん)】

シュレイド大陸に古くから伝わる東方の剣術『皇一刀流(すめらぎいっとうりゅう)』の開祖を指す尊称。

現在の皇一刀流は数多の分派に枝分かれし、その流れを汲む剣術使いは世界に数百万人存在すると言われるが、源流は既に途絶えたと伝わる。

その一方で、正当な継承者ではないかと噂される凄腕の達人が現在に至るまでシュレイド大陸にて度々目撃されており、当代は今尚健在なのではないかとまことしやかに囁かれている。

しかし不可解な事に、数百年の時を跨ぎ目撃された達人は何れも竜人の身体的特徴は一切見られ無いながら、一様に200cmを優に越える巨躯の持ち主だったという。




【武御火土(タケミカヅチ)】

火の国にて信仰される焔と土を司る神。現在より千年ほど前、政争により国を追われ尚も命を狙われていた多くの人々を救い、本来人が住めない過酷な火山地帯での移住の基礎を築いた。

甲冑では活動すら困難な火山地帯に逃れられた上、堅固な要塞まで建てられ地の利を完全に失った追っ手は追撃を断念し、人々は過酷な灼熱の大地でようやくの平穏を手にした。

時が移ろい守護の要塞が王都へと姿を変えた頃、神は名も告げず密かに国を去ったと言う。

その後、建国の際に最も尽力した建国王と妻子もまた「我らは神の御前へ馳せ参ぜねばならない」と言い残し、忽然と姿を消した。

武御火土は残された人々が献上した尊称であり、武御火土に続き間もなく去った建国者についても、その治世は無きに等しいが、民は畏敬の念を込め建国王として歴史書にその名を刻んだという。




【ロストシュレイド家(ろすとしゅれいどけ)】

千年前、世界を制覇したと伝わる古シュレイド王国の建国王と、彼に連なる一族を指す言葉。主に現シュレイド王家と区別する目的で古シュレイド王家に対し用いられる名称。

伝承によればシュレイド王国が世界を制した僅か十数年後、建国王は裏切りによってあえなく命を落とし、国家自体もその混乱に次ぐ【大いなる龍の災厄】に見舞われ滅亡、世界大国シュレイドは一代にして早過ぎる終焉を迎えたという。

そして現在より百年ほど前、大陸外より「シュレイドの正当なる王家は既に断絶しており、現在の王家は偽りの家系である」との情報が持ち込まれ、大陸中に多くの血が流れる変事に発展した。

今では現シュレイド王家により徹底した情報統制が行われているものの、ギルドや大陸外の勢力の歴史書の流入より、一般にもある程度知られた公然の秘密として扱われている。

また情報源はなく完全に風聞の類ではあるが、「ロストシュレイド家は今尚存続しており、世界は彼らによって影から支配されている」との説話も存在する。




【崩王(ほうおう)】

古シュレイド王国建国王の異名。

元は自称であるらしく「古き世を打ち崩し、新たな摂理を打ち立てる王」との想いを込めて名乗ったとされる。

出自は山深い寒村の貧民でありながら己の腕一つで成り上がり、僅か数十年で大陸はおろか、世界をも征する超大国の王として君臨した空前絶後の人物故に、その自称は正に相応しいものだと古今東西の学者達から広く支持されている。

世界各地に残された文献からその実在にはほぼ疑いの余地がないと結論付けられているが、現シュレイド王国領内で彼やロストシュレイド家の名を口にしようものなら忽ち罪に問われる為、何れもシュレイド大陸においては存在しない歴史として扱わねばならない。

そんな彼も、最期は裏切りによって命を落とすという、数多の権力者同様のある意味順当な死を迎えたという。

この時何処とも無く赤衣の詩人が現れ、彼の有名な“黒龍伝説”を謳ったと伝わる。




【赤衣の詩人(せきいのしじん)】

シュレイド大陸の歴史書の中に度々その名が記される怪人物。

その名が初めて記されたのは古シュレイド王国の滅亡の際であり、ロストシュレイド家との関わりも指摘されているが、厳密には断定出来ない為この人物に対しては現在の東西シュレイド領内における箝口令は敷かれていない。

また、千年に渡り目撃されてはいるものの、何れもその面貌は目深に被ったフードで覆われていたとされる為、全てが同一人物とは考え難く、襲名者か模倣者とされる。








【紅の龍騎士(あかのりゅうきし)】

世界各地に存在するハンターズギルドに所属するハンターの中で、現状最強と言われるハンターの異名。

『三界制覇』をも成し遂げたその功績は彼の名高きスカーレット・チルドレンの面々に匹敵する程のものであり、ギルドの重鎮達を以て「数百年に一人の逸材」と謂わしめる。

一方で学術院や古龍観測所等では、ハンター登録を行ってから僅か五年余りの彼ばかりが何故、通常のハンター達では勝敗以前に生涯出会う事すら叶わないような“大物”と立て続けに邂逅を果たすのかと疑問が頻出、頻繁に議論が重ねられているが以前謎のままである。

現時点では、有力な仮説の立てようも無く調査の目途が全く立たない事もあり、彼自身に要因がある筈はなく、あくまで持って生まれた天運、星の巡り合わせのようなものだろうとの結論で一応の決着は付けられており、そもそもここ数年シュレイド大陸における古龍級生物の出現頻度そのものが異常である為、現在の調査議論は其方が主である。




【ココットの英雄(ココンドール・コルコット)】

ココット村の村長の異名。彼は数百年のハンター黎明期、彼の有名な“一角竜”モノブロスが猛威を振るい、現在のココット村周辺に当たる地域の人々を脅かした際、現代のハンターの装備とは比べるべくもない脆弱な装備と己の知恵だけを頼りに、一人果敢にモノブロスに立ち向かい見事これを打ち取った逸話を残す。

この一件はシュレイド大陸において、ハンターという職業が世間に認知、確立される切っ掛けにもなったと言われるほど有名な出来事である。

その後彼は仲間達と共に数多のモンスターを狩猟し歴史にその名を刻んだが、とある龍の討伐を最期に、その肉体の衰えを待たずしてハンターを引退した。

やがて彼が腰を落ち着けた地に彼を慕う人々が集まり、自然と集落が形成され現在のココット村が生まれたという。

因みに彼の歩んだ歴史については“始まりの狩人”を狩人の始祖とする文献との矛盾点があり、今尚学者達の間で盛んに議論が重ねられているが、当の本人は多くを語ろうとはしない。




【始まりの狩人(アンセスター・オブ・ハント)】

現代より遡る事約千年前、世界を巡る中でモンスターの驚異に脅かされる地域にハンターズギルドを創設し、現在のハンターの礎を築いた人物の通称。

その力は正しく神の如く、左右の手に持つ二振りの龍大剣で、災い為す双璧の竜をそれぞれ一刀の下に斬り捨てたと語られる。身に纏う血染め黒龍紋の甲冑も相俟って、戦姿はさながら太古の【龍をも凌ぐ人々】を連想させるものだったと言う。

カリスマ性、指導力、技術力においても凡庸ならざる能力を有し、ギルド拠点を建築する際の総指揮、ハンターの武具の考案と作製、更にはモンスターの生態調査、生息状況の管理、国家、有力貴族とギルド間の軋轢を避ける為の交渉などあらゆる点でその才覚を如何無く発揮した。

生没年は不詳とされる。




【偉大なる龍師父(いだいなるりゅうしふ)】

大いなる竜人達(体高ではなく無くここではハンターとしての功績を指す)の集い【スカーレット・チルドレン】を教導した人物に対し、スカーレット・チルドレンの面々が用いる敬称。

実際に面識のある当事者達が詳細を語らない為、その実像には謎が多い。

一般に知られているスカーレット・チルドレンのメンバーは【天地無双】ことギルドの大長老、【龍殺し】ことココット村の村長、【天災穿ち】ことポッケ村の開祖、【煉獄の鎮魂者】ことタンジアの初代灯台守、【陰陽の導き手】ことシナト村の十二代目大僧正の五名であり、何れも一時代を築いた英雄であると同時に、高齢または故人である。

龍師父について大長老が只一つ周囲に語った事は「在りし日の我ら全員の力を結集しても、片手間にあしらわれるほどの強さだった」という俄には信じがたい逸話である。




【災厄の戦士(さいやくのせんし)】

現在の飛竜族『フェイロン』の酋長、黒炎を指す異名。酋長の座についたのは現在より二十年ほど前とされているが、それより遙か以前からフェイロンを牛耳っていたとの異説が存在する、謎の多い人物。

一説によるとスカーレット・チルドレンの面々と幾度と無く衝突したという話もあり、長命な竜人族であると言う説が現在主流である。

ただし、ある「極めて鋭敏な感覚」を持つハンターの見解として「甲冑の中から人の息遣いが聞こえない。人の気配もしない。がらんどうみたい」との発言があり、情報源となったハンターの信頼性の高さに加え、フェイロンが持つ不可解な技術力への懸念もありギルドが目下調査している。




「‥‥リセよ、お前は馬鹿正直だが中々頭が切れそうだ。
今の話で、何か気に掛かった点は他にないか?」


前回



 馬鹿正直とは痛い所を突かれたが、褒めてくれたので悪い気分ではない。
そして確かに、気に掛かった点はある。

「‥‥なんて言うか、レギオンってトコおかしくない?
他にも数十人規模の猟団があるって言ってたけど、
逆に俺みたいな新人がやり辛い環境なんじゃないかな?
俺はアリマ達に拾って貰えたから良いけどさ」

と言うわけでとりあえず言ってみた。正解か知らないけれど。
 するとオアが“ヒュウッ”と口笛を吹く。
やはり何かキザな人だ。いや様になってはいるけど。

「着眼点が良い、正解だ。
要するに最近な、ギルドが猟団を問題視してるらしいんだよ」

「問題視‥‥まぁそうだろうな」
 アリマも話に入ってきて、オアは更に続ける。

「端的に言えばまず、
本来上下関係の無いハンターの間に生じた特権階級と下層の差。
聞いた話じゃ上納制度なんてのを設けたトコもあるって噂だ。
次に力のある猟団による利権の独占と奪い合い。
んでそうなれば猟団同士の軋轢‥‥
下らねえ意地の張り合いも最近悪い方向に行ってる。
リセが言ったように右も左も分からない新人に対する悪質な勧誘、
特に有望株の取り合いが大事になったのも一度や二度じゃあない」

 うんうん。
リセはオアの話に頷きながら、
今は古巣となったフェイロンに思いを馳せた。

 必要に迫られて生物は群れを為す。
獣の世界は割と単純だが人はあれこれ考える生き物。
組織が巨大になればなるほどその中で派閥が生じ、
それに纏わる諍いが起こり組織の歯車を軋ませる。

 これにはリセ自身、若輩と言えど苦い経験があった。

「‥‥‥そういえば四日くらい前にもあった気がするね」

 首を傾げるレイシャにアリマが突っ込みを入れる。

「そういえばも何もレイシャが
“ケンカ良くない”とか言って仲裁‥‥いや喧嘩してたレギオンと
《スタンピード》の幹部を顔面パンチで気絶させたんだよな?
俺ゃ居なかったが
両者の取り巻き達が蜘蛛の子を散らすように逃げたとか聞いたぞ」

「‥‥てへっ」

 真顔の照れ笑い(?)入りましたー。
って言うかレイシャ怖い。
しかしオアがナイスなフォローをする。

「ありゃあヒートアップした誰かさんが、
近くにいたフレンダを突き飛ばしたからだけどな」

 前言撤回!怖くない!むしろ「レイシャ先輩カッケー!‥‥じゃなくてオア、
それとアリマに猟団結成を持ち掛けるのとどんな関係があるのさ?」

「ああそうだ、そのレギオンだのスタンピードだの
所謂《大規模猟団》ってのの連中はどうも天狗になってるつーか、
例えば俺らも一通りの所から勧誘されてるが‥‥」

「団の名声を高めるためだね?」

「そうそう。だが俺はあれがそもそも気に食わねえ」

 オアが静かに語彙を強めた。彼から何かただ事じゃない風を感じる。
“アリマんモス事件”(命名:リセ)にも似た不穏な気配だ。

「良いかリセ、覚えとけよ?誰が何と言おうとな‥‥」
彼はそこで一度言葉を切り、椅子を後ろに引き立ち上がった。
そしてドンッ!!とテーブルに両手を勢い良く叩きつける。

 何事かと驚くリセの眼前で、
オアは身振り手振りまで加えて声高に宣言した。

「ミナガルデ最強のハンターはアリマだ!!!
この街のどんな猟団が束になっても足下にも及ばねえッ!!!
ソイツが黙ってるからって良い気になって
上納だの特権だの何様だっっって話よ!
自分より遥か格上を差し置いてデカい面して踏ん反りかえって、
まして勧誘だなんて片腹痛いぜッ!!!」

 シィン‥‥と静まり返る集会所。此処に来てから初めて見る光景だ。
どうにも芝居掛かっているようにも見えるがこれは‥‥‥‥
まさか“気に食わない猟団”への宣戦布告!?
 て言うかココット村でうっすらと聞いてはいたけど、
アリマってホントにミナガルデ最強だったの!!?

 リセが呆然としているのを余所にオアのこの行動を受けたアリマは、
テーブルへ添えていた両手を支えにする形でゆっくりと立ち上がる。

「‥‥オア、要するに俺にこの街のハンターの手綱を締めろって事か?
俺が今まで猟団を作らなかった理由は分かってんだろ」

 オアとは対象的に、アリマの声は静かだった。
それでも今は静まり返った集会所、隅々まで聞こえているだろう。
 だが高ぶりこそ感じられないが、
今のアリマの風はあの時ととても似ている。
リセはすっかりその雰囲気に呑まれているが、
オアは流石に怯んだ様子はない。

「分かってるさ。だがなアリマ、
力ある者には相応の義務が伴うモンだと思わないか?
お前がそういう堅苦しい考えが嫌いだとは知ってるけどよ」

 随分と重い話になってきた。
もはやリセが口を挟める空気ではなさそうだ。
レイシャも感情の読めない顔で二人を見守っている。


「‥‥‥‥‥」

「‥‥‥‥‥」

 無言で見つめ合う二人。
注目しているのは当然リセやレイシャだけではない。
それどころか集会所全体の時が止まってしまったかのようだ。

 次の瞬間。
なんとアリマが装備を着たままの右の拳を
オアの顔面に向かって振り抜いた!

 左足を一歩後退させながら上体を反らせたオアが、
アリマのパンチをかわし左のカウンターを合わせる。
 その時既にアリマの左の拳も放たれていた。
互いの左拳が、互いの顔の手前スレスレでピタリと止まる。

 息を呑む集会所。
ハンター同士の喧嘩は日常茶飯事だろうが、
この二人がやれば事の重大さが全く違うのだろう。

 今の攻防からして、
先程まであれだけの量の酒をかっくらっていた人間の動きでは無い。
その上どちらも本気では無さそうだったが、
それでもリセの目に追えるギリギリの速度だった。

「‥‥‥ハン!酒に酔った訳じゃないみたいだなオアさんよ」

 アリマが先に拳を引くと、オアも拳を収める。

「ああ、今日の俺は本気も本気超超大マジだぜ」

 いやいやちょっとふざけてるじゃないですかー。
リセは内心突っ込んだが未だ場を沈黙と重苦しい空気が支配している。
そこに勇敢にもベティが駆け寄ってきた。

「ちょっとちょっと!!二人とも一体どうしたのよ!?
貴方達が人前でこんな事するの初めてじゃない!」

「ハハッ、悪いなベティ。ちょっと鬱憤が溜まってたのかな」

 特に威圧的な態度もとらず、オアが申し訳なさそうに弁解した。
 アリマは考えを纏めているのか無言だがやはりバツが悪そうだ。

「ハハッ‥じゃないわよもうっ!他の人なら良いけど、
貴方達二人が暴れたら私やレイシャだって止められないんだからね」


 ‥‥‥‥ん?レイシャは分かるけどベティさんもしかして強いの?

「ベティは仲裁の達人。ここのハンターはみんな頭が上がらない」
「えあ‥‥ああ、そゆこと」

 何気にまたレイシャに心を読まれた気がするがもう気にしない。
気にして‥‥なるものか‥‥ッ!

「そして人の意識を絶つ当て身の達人」
「ええっ!?こわっ!!!」

 物腰の柔らかい彼女のイメージとかけ離れていて、
今はそっちのが衝撃的だった。

「止してよレイシャ。みんな勝手に酔っ払って寝ちゃうだけじゃない」

 口元に手を当ててホホホと言った感じに笑うベティ様がなんだか怖い。
正直初めて会った時から、ただ者ならざる風は感じていただけに‥‥。
 しかし確かに彼女のお陰で、
緊迫した場に一定の和やかさが戻った気がする。
すると何やら考え込んでいたアリマが、唐突に口を開いた。

「‥‥ベティ、騒がせて悪かったが、また騒がしくなる。先に謝るぜ」
「え?別に謝らなくても良いけど‥‥?」

 謎の先回り謝罪にベティはすっかり困惑気味だ。

「‥‥てなわけでギルドマスター!!
ハンター・アリマをリーダーとする狩猟団結成の許可を申請請う!!!!」

 うん、確かに宣言通りデカい声だ。
‥‥‥‥って何だってッ!!??

 この衝撃的な一言に、集会所もざわめく。
流石のアリマも一度熟考するのかと思っていたリセは、
レイシャと顔を見合わせた。

「‥‥‥なんとまぁアリマよ、今この場でか?
本当にもう少し考えんで良いのか?」
 マスターも同様の見解だったようだ。

「即断即決が俺の信条だ!
メンバーはレイシャ、オア、リセ、俺の四人。マスター、返答は如何に!!」

 いやいやいや即断即決にもほどがある。
さっきのオアの話を要約すると、アリマが猟団を結成する事は
今現在存在する猟団のパワーバランスを著しく崩壊させる行為のはずだ。
 迅速過ぎるアリマの行動に受け手もすぐには答えられず、
代わりに口からプカプカと輪っか型の煙を吐いた。

 その煙が消えるのを見届け、パイプをカウンターに打ち付ける。
カンッ!!カンッ!!と小高い音が、
何故か遠い昔のように思えなくもない謎裁判の時より強く響く。

「よろしい、申請を受理しよう。猟団名は後日決定するか?」

「いいや今で構わない!!猟団名は《アムニス》!!!!」

 ‥‥即断即決が信条なのは分かるけど、
何で猟団名までスラスラ出てくるんだろう。

「確かに承った。それでは狩猟団・アムニスを
此処ミナガルデギルドを拠点とする猟団として登録しよう。
猟団ランクは‥‥‥‥え~‥‥現状では‥‥‥‥283じゃ!
尚、今後低ランクのハンターが十名以上増員された場合は
その都度審議するものとする!!」

 マスターのこの言葉を受け、集会所中からどよめきやら歓声が沸き起こり、
場がたちまち物凄い熱狂の渦に飲まれてしまった。

 興奮で立ち上がる者に紛れ、
不穏な風を発しながら集会所をそそくさと後にしたハンターが数名いたのも、
リセは見逃さなかった。
多分それぞれの“猟団の上の人”っていうのに告げ口しに言ったのだろう。
 ‥‥‥それにしてもランクって?良く分からないがハンターランク的な?
座ったままのリセが首を傾げていると、
オアがテーブルに片手を付き顔を近付けて説明を始めた。

「猟団の規模は与えられたランクの十倍までの人員を許される。
当然一つの依頼を受注出来る人数は四人までだけどな。
そんでまっ、
今あるアムニスに次ぐ猟団のランクは、結成から十年で13だな」




 ‥‥‥‥‥‥‥なんだって?
たった今立ち上げたアムニスに次ぐ猟団が、十年目で、13?
‥‥‥じゅう、さん?

「うええぇぇぇぇぇーーーーーー!!??!?!?!?」


 ヤバい。アリママジヤバい。
だって今までのトップが13だよ?十年かけてだよ?
多分百人規模って言ってたトコだよ?
ランク13でも百三十人だからそれでも充分凄いって事でしょ?
それがたった今突然オアと喧嘩して
「フッ、ヤルナ」「オマエモナー」みたいに格好つけ合って?
騒がせてまともに怒られもしないで?
何故かその流れから「はーい猟団結成しまーす」っつって??
にひゃくッ!はちじゅうッ!さんッ!って何よ!?ランク283!!!
団員約三千人までウェルカム!!ナニゴト!??
大体ハンター歴五年って大して長く無いじゃん!!
アリマっていよいよ何者なん?!?ついでにオア、アンタもだよ!!!
これは角立つ絶対角立つ
リオレイアの顎先のトンガリくらい鋭利な角がッ!!
もはや角じゃなくて棘ッ!剣山ッ!!
ルーキーの分際で彼らに深く関わる俺は
きっと怪奇・針のムシロ男ッ!!!!!


続くッ!!!!!!



 ‥‥と言う感じで混乱している頭の中、
必死で思考を整理し今一番気になることだけオアに聞き返す。

「どう算出されたのさあのデタラメな数字ッ!!!!」

 リセが思わず立ち上がってまで詰め寄ると、オアは上体をちょっと引いた。
文字通りそのテンションの高さに若干引いたのだろう。

「今回のケースはベテラン三人新人一人での結成だから、
俺とレイシャとお前とアリマのハンターランクを足して割ったんだな。
新人が多かったらまた話は別だが‥‥にしてもマスター計算早いよな」

 ハンターランク?
ああクエストに出る前に一悶着あったあれかな‥‥‥‥んん?

「だって俺ランク一桁ってか、正真正銘1の雑魚だよ!??」

 中腰のリセは“オーマイガッ!”とでも言いたげに
両腕を顔の斜め前から胸先まで下げる動作を行うと、
それを繰り返しオーバーアクション気味に訴える。

「いや、雑魚も何も一桁は普通だ。説明されてないか?
ランク7に到達出来るのは大体千人に一人、
ランク8なんつったら押しも押されぬ超一流よ」

 いやいやおかしい。絶対おかしい。

「何かケタおかしくない?みんなはいくつさ?」
「俺が66、レイシャは確か64。
アリマのランクは‥‥禁則事項ってやつだ。まあ今大ヒントやったけどな」

「何をサラッといってるんだ‥‥‥‥ヤバいよヤバいよ、
8で超一流でしょ?7まで行けるのが千人に一人でしょ??」

 おかしいぞ‥‥??
ランク8で超一流ならランクは10が最高かと思った自分からしたら
相当ヤバい高さの二人ですらランクは二桁だ。
ていうかオアは自分で超超超超超一流って言ってるようなもんだけど
事実っぽいしそれはこの際置いといて、
となるとアリマのランクは間違い無く‥‥‥。

「‥‥そんな訳で事後承諾だが、レイシャもリセもそれで構わないか?」

 計算の途中で当のアリマに話しかけられてしまった。

「えっ、あ、良いも悪いも俺は拒否権無いでしょ?てか良いと思うよ、うん」

 リセはブンブンと縦に首を振った。

「おお、そうか。突然な話で悪かったな。レイシャは?」

 返答を促されたレイシャは、何も言わずアリマに優しく微笑み掛ける。
それはまるで「貴方のお好きなように」と促す、
長年彼に連れ添った妻のように慈愛に満ちた表情で、
正直リセは少し羨ましい。


 ‥‥この二人には言葉などいらないのだろうな。
 リセはぼんやりとレイシャを眺めながら、そんな風に考えていた。
やがてレイシャが、
口の動きだけで言葉が読みとれるほどゆっくりと口を開く。











 ダ・メ。



 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥。



 熱狂の渦冷めやらぬ急加速の展開の中
予想外過ぎるフルブレーキングが掛かり、
アリマを始め集会所の皆が比喩ではなく
本気でズダァーーンッ!!!!!!!!!!と
とんでも無い勢いでズッコケた。

 この時その場に居合わせた少年Lは、事件を後にこう語る。

「人がコケる衝撃で建物が崩れるとは夢にも思わなかった」‥‥‥と。

 猟団アムニス、結成後数分にして解散の危機到来。