【前回】
アリマ裁判(?)が終わり、
物の数分でレイシャが注文した料理が運ばれてきた。
オアも後からギルドガールに“三人と同じ物”を注文したらしい。
「‥‥はいきたよ“しゅ”、
ウマイ米とコロコロッケとビックリシチューとポッコリフライとドッカンスープとランランサラダ」
「‥‥‥‥‥‥‥」
「‥‥‥‥‥‥‥」
「‥‥‥‥‥‥‥」
レイシャがアリマのセンスで適当に付けたかのようなメニューの名前を
サッと説明してくれたが、三人は無言だった。
「どうしたの三人とも?食べないの?」
不思議そうなレイシャ。
「‥‥‥今の結局何だったんだ?
なんか途中リセにまで裏切られたような‥‥?」
疲弊した様子で不穏な事を呟いているアリマ。
「‥‥‥俺、何しに来たんだったかな‥‥?」
数分前までノリノリだった癖に、
我を見失っていた事を自覚したオア。
「お酒の席の事ですから~‥‥無礼講ですから~‥‥無礼講です~‥‥」
すっかり乗せられてしまったが
良く考えたらアリマを軽く裏切った事が恐ろしくなってきたので、
面と向かわずに姑息に予防線を張る自分。
「フレンダ~。“しゅ”と私のノンアルコールビール追加、お願い」
「ファッ!!?!?」
レイシャ今なんて!!??
「‥‥‥‥ん?“しゅ”と私はアルコールの入ってないビールだよ?
アルコールはお酒の酔わせる成分。
法律やギルドの取り決めじゃないけど、
何かアリマが後三年くらいは駄目って」
「‥‥そうだなリセ、別に酒の席の無礼講だから、許してやるけどな。
酔ってないはずだけどな。無礼講だもんな。
アルコールだろうがナイコールだろうが関係無いよな」
ヒィィィィィィィ。根に持ってる。絶対根に持ってる。
「‥‥そりゃ置いといて、
クソモブ‥オアは何か用か?どっちにしろ食ってから話すか」
不穏な空気を残してそのまま話を切るのはむしろやめてほしい。
「そうだな、うん。ってか明朗に最後まで聞こえたぞ今」
ホント彼は何をしに来たんだろうか?
別に用が無くても良いのだろうが、
用があるなら大分時間を無駄にした気もする。
「はい、お待ち」
微妙な空気の中結構な早さでフレンダが
ビール(ノンアルコール)を2つ運んできた。
「あ、フレンダ、ビール二つ頼む」
「俺も」
オアとアリマも立て続けに注文する。
食事前なのに二人ともまだまだ飲み足りないらしい。
「さぁ、今度こそ食べるよ。“しゅ”食事中は静かにね、
目の前の食事に全神経を研ぎ澄ますの」
「う、うん」
レイシャがさっきから乗り気だ。食べ物の前では普通かもしれないが
帰還中は割と見る度にこんがり肉にかぶり付いてた記憶がある。
見た目に反して大食かん‥‥いやたいしょっこ(?)なのだろうか。
とりあえず忘れた頃にアリマの逆襲もあるのかないのか分からないが
確かに自分もお腹は減った。
「「「「それでは‥‥」」」」
「はい、お待ち」
絶妙なタイミングでフレンダがビールを持ってきた。
四つもあるのに早い早い。
只でさえ、あまり大きくないテーブルに
四人分の料理が盛り付けられた皿が所狭しと並んでいるのに、
アリマは欲張るなあ‥‥‥。
「‥‥‥」
「‥‥‥」
‥‥どうも違うらしい。
さっきアリマのジョッキが空なのを見たオアが
気を利かせて“ビール二つ”と注文したのに
アリマはアリマで“俺も”と言ったから四つ来たようだ。
間違えたアリマも何故か指摘し損ねたオアも微妙な表情をしている。
アリマの反応を見るまでリセは
(あ、二人とも自分の?そんな欲張らなくても‥‥)
と勘違いして口出ししなかったが、レイシャは下を向いて肩を震わせていた。
「ええ~と、気を取り直して‥‥」
アリマがもう一度音頭をとり仕切り直す。
「「「「いただきま~す」」」」
ガツガツゴキュモグモグバクン!
シャキーン!!
うん、上手かった。
ハンターの食事風景を表現するならこんな物だろう。
そもそも全員が食べ終わるまで時間にして五分ほどだ。
一番遅い自分ですらその時間で、
レイシャに至ってはどう食べたのか分からない速さだ。
こちらのコロコロッケ、衣はサクサク中はホクホク、
とろけるような柔らかさのジャガイモ本来の風味を充分に生かしつつ
挽き肉からは滴る肉汁が旨味を醸し出し、
玉葱の甘みも程良いアクセントとなっていてとても美味しく頂けました!!!
なんて考えて食べてるハンターは多分いない。
「「「「御馳走様でした!!!」」」」
リセ達は食べる前と同じように、全員で声を揃えて食後の挨拶を交わした。
フェイロンでもこんなものだったし、
ハンターと言う人種はとてつもない御馳走でもなければ
味わって食べることなど無いのだろう。
「どうだった、リセ?」
対面に座るアリマがリセに料理の感想を求めると、
レイシャも隣から覗き込んできた。
ここはやはり張り切るべきなのだろうか?
「まずはこちらのお皿にありましたコロコロッケ衣はサクサク中はホクホク、
とろけるような柔らかさのジャガイモ本来の味を充分に生かしつつ、
挽き肉からは滴る肉汁が旨味を醸し出し、
玉葱の甘みも程良いアクセントとなっていて
とても美味しく頂きました!!!!!!!」
「んんっ!?!?唐突にどうしたお前!?」
やはり今のは変らしい。
「いや、全部旨かったよ。
量も凄いからお腹も一杯だし。別にランクとかグレードどうでもいいや」
今度は普通に感想を述べたが、
何だか遠くからマスターの咳払いが聞こえ、オアが隣で笑っている。
「リセ、なんかやっぱお前は面白そうだな」
「えっ?アリマとかレイシャのが面白いと思うよ」
初日からアリマによる部位破壊(壁)とか
レイシャの暴走とかレイシャの暴走とか色々あったが、
良く考えたらオアはあの二人と良く一緒にいるはずだ。
「まあ二人はそうだけどよ、お前もなかなかハマってそうだぜ」
聞き慣れない単語がオアの口から飛び出した気がして、
リセは思わず聞き返す。
「俺が破魔って僧?
いや俺《森羅教》とは関係無いけど二人は森羅教なの?」
訳が分からない。
まあ大陸最大の宗教らしいけどどう考えても話の脈絡がおかしい。
「‥‥えっ?何で森羅教が出て来るんだ?」
言ったオアも混乱している。
森羅教以外の宗派だと思われたのだろうか?
「“しゅ”しゅ、魔を打ち破る僧侶じゃなくて、
私達とあなたの相性が良さそう、私達の型にハマってそうって意味だよ」
「ああ!そう言う意味か!」
何だかレイシャはふわふわしてるのか冷静なのか分からないが、
掛け違えた会話のボタンを直す修正力があるのは分かってきた。
「レイシャに‥‥勘違いを正された‥‥だと‥‥」
オアは驚いている。珍しいことなのだろうか。
「これから私も先輩だから、姉貴分の働き」
レイシャが腰に手を当て胸を反らせる。何だか誇らしげだ。
「姉気分?まぁ今までアリマと二人だったのに
初日にしてリセと上手くやれそうな感じらしいな。
良かった良かった、偉いぞレイシャ」
「エフン!」
え、エフン?エヘン、フフンの略だろうか?オッサンがやったら只の咳だ。
通り掛かりのフレンダも静かにレイシャの横に水を置いていった。
ついでにフレンダはもう一人のギルドガールと
食べ終わった皿を片してくれた。ついでにと言うかその為に来たのだろう。
これでテーブルが随分とスッキリした。
残されたビールジョッキを見て思うが、
アリマもオアも結構飲んでるのに全然酔っている感じがしない。
むしろ最初のテンションが妙だったオアも今は冷静だし、
見てるとレイシャの扱いも上手い感じだ。
さっき多分“姉貴分”と“姉気分”を聞き間違えていたが。
「ふんふん、まぁいいやオア、
要するにお前は今後組むかもしれないリセの手腕に興味津々な訳だな?」
段々世間話ムードになってきたところで、アリマが話を切り出した。
「お、そうそう。
と言っても軽く聞かせてくれりゃいんだが、リセはやってけそう?
まだ分からんか?」
なるほど、そう言う事か。
自分の登録騒動の時の二人の雰囲気に
クエスト後の帰りがてらにも少し聞いたが、オアは良く二人と組むらしい。
確かに今までこの二人と組んでたなら、俺の事が気がかりなわけだ。
足を引っ張る可能性、大だし。
「「大丈夫大丈夫、いけるいける」」
軽ッ!!!
少し嬉しいが一応今後の職業、
人生に関わる命題かもしれないのに二人揃って異様に軽い返事だ。
まぁ自分が足を引っ張ってもこの三人なら大丈夫なのだろうか。
「おっ、やっぱり俺達の目に狂いはなかったようだな!」
ん?自分はオアから見てもハンター適正がありそうだったのだろうか?
オアは見る目がありそうだから悪い気はしない。
「うむ、というわけだよオア君。
で、後は何か良いクエスト入ってきたとかヤバいのとかあったか?」
「いや違うんだが、大事な話はある」
「‥‥大事な話?珍しいな」
アリマが呆気に取られたような顔をしている。
レイシャも何も思い当たらないように首を傾げている。
「アリマ、レイシャと俺とリセ。
チームの最大数の四人揃ったしこの際だから
お前がリーダーになって《猟団》立ち上げたらどうよ?」
このオアの言葉に、
意味を理解していないリセも周囲のざわつきを感じとる。
周囲のハンター達から「遂に切り出したぜ‥‥」とか
「アリマが猟団‥‥マジでやるなら人流れんじゃねぇの?」とか
「いや~‥‥アイツは柄じゃねぇんじゃ‥‥」なんて囁きが聞こえてくる。
「‥‥‥猟団、ねぇ」
オアが持ちかけたこの話に、アリマは心中複雑そうな顔を見せる。
(レイシャ、猟団って何かな?)
「猟団‥‥ちょっと難しい。ギルド内の部族みたいな?」
「えっ」
ギルド内の部族って‥‥。
まあ部族って元々悪い意味の言葉でもないんだよね。
レイシャが珍しく説明に詰まると、オアが引き継いだ。
「そもそもリセ、猟団の説明の前にハンターの狩猟は
基本的に最大四人編成のチームなのは知ってるか?」
「ああそれそれ!
本で見たから知ってるけど理由が書いてないから気になってたんだ」
リセのいたフェイロンではもっと大人数で狩りをするのが一般的だった。
「あれはまず報酬が最大の理由だ。
依頼人が払える額には限度があるし
狩猟で手に入る素材の量も限度がある」
‥‥どうも思い当たる話だ。
「‥‥あ、こっちじゃ俺みたいな下っ端まで良い素材回って来なかったし、
上は上で取り合ってたな‥‥」
リセの脳裏に、
フェイロン内部の醜い争いが昨日の事のように浮かんだ。
「それと大人数でのゴリ押しばかりじゃ優秀な人材も育たないし、
未熟な奴が油断して結局死亡率が上がっちまう。
ハンターに資格がいらないからって、闇雲に数が増え過ぎるのも良くない」
(ま、まるでフェイロンの現状だ‥‥)とリセは人知れず冷や汗を流す。
「そんでギルドの設けた上限が四人。
例外的に《古龍級生物》相手なら総力戦も許可されるが、
ハンター全員を統率する能力がある奴なんてそういないから、
数十人規模でも四人を一チームとして行動する。
だから普通のモンスター相手に五・六人でないと勝てないようじゃ
その“いざという時”単体を戦力として見れないだろ?
他にも験担ぎとか色々あるがそんなとこだな。
でもそりゃあくまで狩場での話」
「‥‥狩場での?」
「‥‥まあハンターは上下関係は無いし
基本行きずりの相手との狩猟ってのも多いが、
互いの腕が分からないってのも困りもんだし、
気の合う連中同士自然と連むようになる。
その延長上にあるのが猟団だな」
ふむふむ、ここから猟団の話に?
「つまり組織の中のチーム分け的な?
そう言うのフェ‥‥俺達の所にもあったけど
“適当な奴と組め~”ってなると、いっつも兄貴が余ってたなぁ」
「「‥‥‥‥サイブス‥‥」」
「“しゅ”‥‥‥今のは聞かなかったことにするね」
何だか微妙な空気になってしまった。
「‥‥ま、まぁサイブスは気難しい感じだから敬遠されんだろっ!」
ああ兄貴、ミナガルデの街で
よもやオアからぼっち体質をフォローされてるとは夢にも思うまいて‥‥。
「‥‥で猟団のメリットと言うか意義を説明すると、
二・三人だけで連む場合折角良い依頼が舞い込んでも
誰かの都合がつかないだけで戦力不足に陥るし、人が抜けた時も困る。
段々休み辛い抜け辛い雰囲気も出来上がり個人の自由が失われる。
かと言って慣れた面子に一人行きずりってのもお互いやり辛い。
そこで四人以上のハンターが
チームを交代しながら親交や連携を深めとけば色々捗る、
それが猟団の成り立ちって訳だ。一般的には七・八人の猟団が多いな」
「なーるほどね!仲良くなった一定のメンバーの中で回して行くわけだ」
「そう。次にベテランが未熟な連中の面倒を見る。
新人は行きずりにゃ頼みにくい素材集めを手伝って貰ったり、
ベテランはベテランで狩りの道連れが強くなるに越したことはないし」
ふんふん、既にアリマ達と自分の関係がそんなだけど。
「後は顔見知りだから
その時必要なアイテムの貸し借りが気兼ね無く行えるな。
必需品を切らした時に美味しい依頼が舞い込んでくるのも良くあることだ。
そんでその依頼、猟団ってのは多いと数十人規模になったりもするんだが、
自分が集会所を離れてても
猟団の奴らに今行きたいクエストの傾向を伝えとけば、
情報がすぐ伝わるしある程度はキープしといてもらえる」
ほほう。
猟団の仲間なら例の“ハチミツ下さい”もオーケーな感じなのだろうか。
「何よりハンターは仕事だからな。
報酬とリスクのバランスから
“自分の相手はコイツらだ”と決めたモンスター、
主なターゲットが被ってる連中同士で連むってのは自然な成り行きだよな。
ひたすらイャンクックを狙う“赤鳥の翼”なんてのもいるが、
奴らも昔は強力な飛竜を狩りまくってたベテラン連中だぜ?」
「なのにイャンクックばっかり狙うの?」
「ああ、でも当然慣れてるから赤鳥のイャンクック狩りは兎に角速いぞ。
要はどんな凄腕でも一瞬の油断や
些細な不運が命取りなるのがこの職業だからな。
リオレウスを狩猟出来るからって
いつもリオレウスばっか相手にするのも危険だろ?
ハンターだって骨を一本折っただけでもしばらく仕事にならん。
だから長い狩猟生活の中で
自分に合う相手を定めるのも一流のハンターの務めだ」
「‥‥そっかぁ。ハンターはとにかく
強いモンスターを狩猟して名を上げようって人が多いのかと思ってた」
「そだな、それが一般的な認識で間違ってないが
俺に言わせりゃ大抵の奴は“生き急ぎ過ぎ”ってやつだ。
まぁ後は“気が合う”ってか狩りの方針が合う者同士ってのも大事だな。
例えばターゲットを狩る前に
採取や採掘を一通り行ってからやろうって奴もいれば、
何より速さが優先って奴もいるし、やたら捕獲したがる奴もいる」
ハンハン、大体概要は飲み込めてきたぞ。
「ところで赤鳥の翼の他にはどんな猟団があるの?」
「一般的なハンターが嫌う《フルフル》とか
《ガノトトス》みたいなモンスターばっか相手にする《ディスライク》とか、
百人規模の最大勢力で実力至上主義の《レギオン》とか」
「百人!?多すぎじゃ!!?流石にそんな必要!?」
さっき聞いた説明を思い返してもそうは思えない。
「いらないと思うぞ」
アリマがバッサリと切り捨てた。
それだけいるなら多分周りで聞いてるメンバーもいる気がするけど‥‥。
「後は~‥‥ああ、猟団が名を上げれば外部にも名がしれるから、
その猟団を指名した依頼なんかも来るようになる。
アリマやレイシャくらいの凄腕なら名指しは良くあるが、普通は無いからな。
指名の依頼は好条件な事が多いが凡百のハンターじゃまずない。
それが猟団に所属してれば回ってくるチャンスがあるってこった」
なるほどなぁ。指名制度もあるんだ。
「うんうん、大体分かったよ。でもさ‥‥」
今のオアの説明は良く分かったが、どうにも引っ掛かると言うか‥‥。
「‥‥アリマって猟団立ち上げる必要あるの?」
「ないな」
アリマは即答。
「ないな」
オアも即と‥‥。
「いやいやいや!!!オアが否定するのおかしいよね!!?」
「いや、今の説明じゃそうだからよ」
うん‥‥そうだよな。
リセは自分の認識が間違ってないよなと思い返す。
「リセ、ちょっと顔貸してくれ」
隣のオアが身を乗り出しテーブルの中央に寄った。
リセがそれに倣うとアリマとレイシャも近くに身を寄せる。
そしてゴツンと言う鈍い音が響く。
「いたっ」
「あ、ゴメン“しゅ”」
「いや大丈夫だよ」
レイシャが近くに寄り過ぎてリセとアリマと頭をぶつけ合ってしまった。
アリマは石頭なのか気にしていない様子だったが、
レイシャは頭装備を付けたままなので
正直リセからすれば(頭抉れてないよね?)と思うほど痛かった。
気を取り直して皆でもう一度身を寄せ合い、オアが再び口火を切る。
「‥‥リセよ、お前は馬鹿正直だが中々頭が切れそうだ。
今の話で、何か気に掛かった点は他にないか?」
【続き】
「‥‥えっちぃことをしました」
【前回】
芝居掛かった動作で瞳を閉じ、ゆっくりと首を横に振るオア。
「えっちぃ?‥‥‥‥ええぇぇぇぇぇーーーー!!?!?」
響き渡るアリマの絶叫を皮切りに。
アリマ裁判、開幕 ――。
「原告・レイシャ。“えっちぃこと”とは具体的にどのような行為ですか?」
相変わらず妙な口調のオア。
少し似てるがもしかしてアズの物真似だろうか?
「アリマは‥‥‥私に
“言うこと聞かないならお尻ペンペンかおっぱいモミモミだぞ”って」
まぁ、それは確かに言っていたけども‥‥。
突然だが、レイシャは外見だけでなく声も綺麗で良く通る。
リセはいつでも、彼女の言葉に思わず耳を澄ましてしまう。
それはまるで泉に一滴の雫が落ち波紋がゆっくりと広がるように。
大きな声ではなくとも確実に周囲に伝播していく。
集会所に先程までの喧騒とは少し違うざわつきが巻き起こる。
「‥‥‥‥あれ確かに‥‥‥いやいやいや!!!??
ちょっと待てレイシャ!!!」
一瞬何か納得し掛けたアリマは当然だが慌てた様子でレイシャを呼ぶ。
「レイシャさん、その後実際に何かされましたか?可能な範囲でお話下さい」
しかしオアがそれに被せるようにレイシャに質問を始めた。
「はい。ベースキャンプでは後ろから羽交い締めにされ、
体中をまさぐられました。
その後は人気の無い所まで連れて行かれて‥‥
それで‥‥私は必死に叫んだけど‥‥‥グスン」
‥‥真顔でッ!!?
台詞は大分アレな感じだがレイシャはビックリするほど大根役者だ。
大体“グスン”って実際に口で発音するものだっけ?
それにこっちはこっちで口調が微妙に変だ。
いやいつもの口調が特徴的で今が普通なのか?
リセの頭はこんがらがってくる。
「被告人アリマ、この事実を認めますか?」
オアがこれでもかと言うほど仕切る。
リセもいまいち状況についていけない。
“何この茶番?”といったスタンスだ。
「いや認めるって言うかまぁ事実ではあるけど、
それより今のレイシャメッチャ誰かに似てたぞ誰だっけなぁ」
「認めるんですね?」
「いやそうじゃなくて何か妙な編集されてるし
体中まさぐるも何も鎧着てたし
レイシャだって仮になんかされても構わぬって言ってたし
‥‥‥だぁもう!まずリセに聞いてくれよ!!」
「‥‥んん??!ぼくですか?!?」
傍観者に徹していたリセは、突然矛先を向けられ動転する。
「リセシアスさん、よろしいですか?
レイシャさんはアリマ被告の発言通り、
合意の上で淫らな行為をされたのですか?」
「待てオアクソ野郎表現がおかしい」
あまりに酷い口振りにアリマが間髪いれずオアを罵倒し、
そのテンポの良さがウケたのか、集会所の方々から笑い声が聞こえた。
そしてこの時。
先程まで混乱していたリセも、
ここに来て正直アリマの狼狽え様が若干面白く思えてきてしまった。
「ええと‥‥はい。レイシャは
“アリマは恩人だから何をされても歯を食いしばって耐え忍ぶしかない”
とかなんとか‥‥‥」
‥‥やってしまった。
まぁ後で何か言われたらお酒の席での無礼講だとか言って乗り切ろう。
「オーシット!クソダ!!コイツラミンナクソダ!!」
アリマがどこぞの城下町で兵士に連行されて行く
外国人みたいなリアクションを見せる。
こういう反応をするからからかわれるのでは‥‥‥。
「リセシアスさん、アリマ被告が
人気のないところにレイシャさんを連れて行ったと言うのも事実ですか?」
「はい。レイシャは必死に叫んでました。
今考えると“いやだおぉぉぉぉぉぉぉーー”って聞こえたような‥‥」
遂に虚偽スレスレの証言まで行ってしまった。
流石に不味いだろうか。隣でレイシャは机に突っ伏して肩を震わせていた。
「ジーザス!!サイバンチョ、コイツウソイテルヨ!!!
ショウニントシテ、ランポスノシュッテイヲヨウキュスルヨ!!」
まあ確かに、目撃者はランポスくらいしかいないけど来れる訳ないね‥‥。
「クェェェイッ!クェェェイッ!」
ランポスさん??!!
「ランポスさん、ありがとうございました。
折角お越し頂きましたが通訳が用意出来なかった為証言は無効とします」
レイシャの唐突な上ハイクォリティーな
ランポスの物真似がツボ過ぎて笑いそうになるが、
一応法廷(?)なので俯いて堪える。
周囲のハンターは腹を抱えて笑ったり警戒したりしていたが。
ついでに表情を変えず対応したオアの対処能力も大したものだ。
「はい、ビールお待ち」
そんな混乱と言うか混沌の中、
一人のギルドガールがビールを二人分運んでくる。
ブラウンのショートカットが良く似合う小柄の美人だ。
それにしてもギルドガールは外見が整った人が多い。
「証人2・フレンダさん、お尋ねします。
貴方は以前被告から何か猥褻な行為を受けた
または嫌がらせを受けたことはありますか?」
フレンダと言う名前らしい。
アリマやレイシャは別格として、隣のオアも彼女も美男美女。
何だか場か華やかだ。
「ん~‥‥まぁ、胸は触られたことあるかも」
アリマェ‥‥‥‥。
とうとう至る所から野次やブーイングが飛んでくる。随分喧しい傍聴人達だ。
「あれは偶然じゃないか!!ってかこんだけ居てなんで弁護人いないの!?」
「それはつまり胸に触れた事実は認めると?」
「クッ!!!」
アリマもいよいよ余裕が無くなってきたのか
片言でふざける余裕すら無くなっていた。
やがて集会所の端々から同じような声が挙がりだした。
「そう言えば私も‥‥」
「私はお尻を‥‥‥」
「ドハハハハ!ア゛タ゛イ゛もあんなことやこんなこと‥‥」
「バハハハハ!ウ゛チ゛もされたことあるわ~」
若干変なのも混ざっていた。混ぜるな危険。
「オイコラそこっ!地獄姉妹(ヘルシスターズ)とか気色悪いぞ!!
っていうか飯まだ!?絶対この茶番のせいで遅れてんだろ!!」
確かに今やアリマ裁判は周囲の空間を巻き込み、
厨房らしき一角からも視線を感じる。
「被告人は静かに!!傍聴人に対する侮辱は許されませんよ!」
傍聴人の野次は許されても被告人は駄目らしい。
「絶対おかしい!あれ‥‥?
俺コレ知ってるぞ、魔女裁判‥‥‥
そうだ、過去に行われたと言われる魔女裁判だコレ!!!」
「当法廷に対する侮辱は貴方の罪を重くするだけですよ。
素直に罪を認めなさい」
「信゛じてくれよ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!!
俺は無実なんだよ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ーーーー!!!!」
ある意味逆襲なのかアリマの酷い声音の絶叫が集会所に木霊した。
リセの視界の端で何人かのハンターが飲み物を吹き出したり
食事を喉に詰まらせている。
「‥‥しかしアリマ被告、
貴方は過去にこの集会所を爆破した前科があります」
「裁判で過去の罪を持ち出すなんて公平性を欠いてるぞ!!」
どちらかといえば其方の方が重罪と言うか実際に罪な気もする。
「では証人3、ベティさん。
貴方はかつてアリマ被告に部屋に連れ込まれたと仰っていましたね?
その時何かされましたか?可能な範囲でお話下さい」
被告側の孤立無援に比べて原告側の証人喚問多過ぎだろ‥‥
もう無茶苦茶じゃないか。
「‥‥えっ私!?ええと、不適切な関係を迫られたような~‥‥」
アリマェ‥‥。
しかしベティならこう言う時嬉々としてノってくると思ったが、
言い淀むとは少し意外な気がした。
アリマの部屋に連れ込まれたところで
もう一人の住人の話し相手が関の山じゃ‥‥。
「おいあれはベティが‥‥‥‥いや、何でもないです」
あれ?アリマまで口を閉ざした?これでは逆に気になる。
「よろしい、弁解は無いようですね。それでは裁判長、判決を願います」
「お前裁判長じゃねーのかよッ!!!
確かに全然中立的な立場じゃなかったけどな!!
これ以上登場人物増やすなアホらしい!!」
確かに良く考えたらオアの立ち位置はレイシャ側の弁護人か検察官だが
アリマの突っ込みは尤も過ぎだ。
そんな中、カウンターから勢い良く“カン!カン!”という音が響く。
見ればマスターが厳しい顔でアリマを見つめていた。
これはまさか‥‥。
「主文、被告人を極刑に処す!!以上!!!」
「アンタかよッ!!?つーか重っ!軽っ!極刑なのに主文で終わった!!!」
遂に裁判長から判決が言い渡された。
もはやアリマの極刑は免れないだろう。
「勝訴~」
「やりぃ~」
レイシャが席から立ちフレンダと手を取り合って万歳をしている。
勝っても何もないだろうに‥‥。
更には敗訴したアリマのうなだれ様。
そもそも負けたところで何のペナルティがあるんだコレ‥‥。
だが誰もがそう思ったであろう場面で只一人、この男は諦めていなかった。
「異議あり!!」
ババーン!と効果音が鳴りそうな明朗さで、
アリマ本人が高らかに宣言した。
あまりの理不尽に耐えきれなくなったのか、
とうとう被告兼弁護人になってしまったようだ。
「アリマ被告?既に判決は言い渡されたはずですが?」
意地の悪い笑みを浮かべ、オアが尚も畳み掛ける。
レイシャは大根だが彼は彼で役になりきり過ぎだ。
ここでアリマがカッ!と目を見開き声高に叫ぶ。
「レイシャ、フレンダ!後で一つ何でも好きなモン買ってやるぜ!!!」
「イヤそれ異議じゃないから!!買収だから!!!」
あまりの展開に再び傍観者に徹していたリセは
思わず声に出して突っ込んでしまった。
この発言を受けレイシャとフレンダは
座ったままのアリマの左右に回り込み、それぞれの腕を持ち上げた。
「「訴訟取り下げ!!無罪!!」」
「逆転判決!!?いやこんなのもう裁判じゃない!!!」
酷すぎる。あろう事か傍聴人と裁判官の前で買収が成立してしまった。
「俺はどんな勝負であれ、負けるのが嫌いでな‥‥」
アリマはやたら清々しい顔で決め台詞みたいなのを口走っていた。
馬鹿馬鹿しくもあるが本当に良い顔なので目に焼き付けよう。
これが“負けて何も失わない”事よりも
“勝って何かを失う”事を選んだ男の顔だ。
そう表現すると少しカッコ良く響く気もするか‥‥‥?
リセが何となく集会所を見渡すと、
同じ様にそんなアリマを見て皆が微笑んだり腹を抱えて笑っていた。
元々集会所のハンターは大抵楽しそうだが、
アリマ裁判が始まってから一層場の空気が熱を増したような気がする。
リセはこの時、アリマはまるで皆を照らす太陽のような人だと思った。
どう考えても不毛だったこの長いやりとりで、
アリマが如何にこのミナガルデの集会所で愛されているか分かった気がする。
彼としては散々だっただろうが、
新参者の自分にだけは少し意味があるイベントだったのかもしれないと、
リセは一人そんな風に考えていた。
アリマ裁判、閉廷 ――。
【続き】
【前回】
芝居掛かった動作で瞳を閉じ、ゆっくりと首を横に振るオア。
「えっちぃ?‥‥‥‥ええぇぇぇぇぇーーーー!!?!?」
響き渡るアリマの絶叫を皮切りに。
アリマ裁判、開幕 ――。
「原告・レイシャ。“えっちぃこと”とは具体的にどのような行為ですか?」
相変わらず妙な口調のオア。
少し似てるがもしかしてアズの物真似だろうか?
「アリマは‥‥‥私に
“言うこと聞かないならお尻ペンペンかおっぱいモミモミだぞ”って」
まぁ、それは確かに言っていたけども‥‥。
突然だが、レイシャは外見だけでなく声も綺麗で良く通る。
リセはいつでも、彼女の言葉に思わず耳を澄ましてしまう。
それはまるで泉に一滴の雫が落ち波紋がゆっくりと広がるように。
大きな声ではなくとも確実に周囲に伝播していく。
集会所に先程までの喧騒とは少し違うざわつきが巻き起こる。
「‥‥‥‥あれ確かに‥‥‥いやいやいや!!!??
ちょっと待てレイシャ!!!」
一瞬何か納得し掛けたアリマは当然だが慌てた様子でレイシャを呼ぶ。
「レイシャさん、その後実際に何かされましたか?可能な範囲でお話下さい」
しかしオアがそれに被せるようにレイシャに質問を始めた。
「はい。ベースキャンプでは後ろから羽交い締めにされ、
体中をまさぐられました。
その後は人気の無い所まで連れて行かれて‥‥
それで‥‥私は必死に叫んだけど‥‥‥グスン」
‥‥真顔でッ!!?
台詞は大分アレな感じだがレイシャはビックリするほど大根役者だ。
大体“グスン”って実際に口で発音するものだっけ?
それにこっちはこっちで口調が微妙に変だ。
いやいつもの口調が特徴的で今が普通なのか?
リセの頭はこんがらがってくる。
「被告人アリマ、この事実を認めますか?」
オアがこれでもかと言うほど仕切る。
リセもいまいち状況についていけない。
“何この茶番?”といったスタンスだ。
「いや認めるって言うかまぁ事実ではあるけど、
それより今のレイシャメッチャ誰かに似てたぞ誰だっけなぁ」
「認めるんですね?」
「いやそうじゃなくて何か妙な編集されてるし
体中まさぐるも何も鎧着てたし
レイシャだって仮になんかされても構わぬって言ってたし
‥‥‥だぁもう!まずリセに聞いてくれよ!!」
「‥‥んん??!ぼくですか?!?」
傍観者に徹していたリセは、突然矛先を向けられ動転する。
「リセシアスさん、よろしいですか?
レイシャさんはアリマ被告の発言通り、
合意の上で淫らな行為をされたのですか?」
「待てオアクソ野郎表現がおかしい」
あまりに酷い口振りにアリマが間髪いれずオアを罵倒し、
そのテンポの良さがウケたのか、集会所の方々から笑い声が聞こえた。
そしてこの時。
先程まで混乱していたリセも、
ここに来て正直アリマの狼狽え様が若干面白く思えてきてしまった。
「ええと‥‥はい。レイシャは
“アリマは恩人だから何をされても歯を食いしばって耐え忍ぶしかない”
とかなんとか‥‥‥」
‥‥やってしまった。
まぁ後で何か言われたらお酒の席での無礼講だとか言って乗り切ろう。
「オーシット!クソダ!!コイツラミンナクソダ!!」
アリマがどこぞの城下町で兵士に連行されて行く
外国人みたいなリアクションを見せる。
こういう反応をするからからかわれるのでは‥‥‥。
「リセシアスさん、アリマ被告が
人気のないところにレイシャさんを連れて行ったと言うのも事実ですか?」
「はい。レイシャは必死に叫んでました。
今考えると“いやだおぉぉぉぉぉぉぉーー”って聞こえたような‥‥」
遂に虚偽スレスレの証言まで行ってしまった。
流石に不味いだろうか。隣でレイシャは机に突っ伏して肩を震わせていた。
「ジーザス!!サイバンチョ、コイツウソイテルヨ!!!
ショウニントシテ、ランポスノシュッテイヲヨウキュスルヨ!!」
まあ確かに、目撃者はランポスくらいしかいないけど来れる訳ないね‥‥。
「クェェェイッ!クェェェイッ!」
ランポスさん??!!
「ランポスさん、ありがとうございました。
折角お越し頂きましたが通訳が用意出来なかった為証言は無効とします」
レイシャの唐突な上ハイクォリティーな
ランポスの物真似がツボ過ぎて笑いそうになるが、
一応法廷(?)なので俯いて堪える。
周囲のハンターは腹を抱えて笑ったり警戒したりしていたが。
ついでに表情を変えず対応したオアの対処能力も大したものだ。
「はい、ビールお待ち」
そんな混乱と言うか混沌の中、
一人のギルドガールがビールを二人分運んでくる。
ブラウンのショートカットが良く似合う小柄の美人だ。
それにしてもギルドガールは外見が整った人が多い。
「証人2・フレンダさん、お尋ねします。
貴方は以前被告から何か猥褻な行為を受けた
または嫌がらせを受けたことはありますか?」
フレンダと言う名前らしい。
アリマやレイシャは別格として、隣のオアも彼女も美男美女。
何だか場か華やかだ。
「ん~‥‥まぁ、胸は触られたことあるかも」
アリマェ‥‥‥‥。
とうとう至る所から野次やブーイングが飛んでくる。随分喧しい傍聴人達だ。
「あれは偶然じゃないか!!ってかこんだけ居てなんで弁護人いないの!?」
「それはつまり胸に触れた事実は認めると?」
「クッ!!!」
アリマもいよいよ余裕が無くなってきたのか
片言でふざける余裕すら無くなっていた。
やがて集会所の端々から同じような声が挙がりだした。
「そう言えば私も‥‥」
「私はお尻を‥‥‥」
「ドハハハハ!ア゛タ゛イ゛もあんなことやこんなこと‥‥」
「バハハハハ!ウ゛チ゛もされたことあるわ~」
若干変なのも混ざっていた。混ぜるな危険。
「オイコラそこっ!地獄姉妹(ヘルシスターズ)とか気色悪いぞ!!
っていうか飯まだ!?絶対この茶番のせいで遅れてんだろ!!」
確かに今やアリマ裁判は周囲の空間を巻き込み、
厨房らしき一角からも視線を感じる。
「被告人は静かに!!傍聴人に対する侮辱は許されませんよ!」
傍聴人の野次は許されても被告人は駄目らしい。
「絶対おかしい!あれ‥‥?
俺コレ知ってるぞ、魔女裁判‥‥‥
そうだ、過去に行われたと言われる魔女裁判だコレ!!!」
「当法廷に対する侮辱は貴方の罪を重くするだけですよ。
素直に罪を認めなさい」
「信゛じてくれよ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!!
俺は無実なんだよ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ーーーー!!!!」
ある意味逆襲なのかアリマの酷い声音の絶叫が集会所に木霊した。
リセの視界の端で何人かのハンターが飲み物を吹き出したり
食事を喉に詰まらせている。
「‥‥しかしアリマ被告、
貴方は過去にこの集会所を爆破した前科があります」
「裁判で過去の罪を持ち出すなんて公平性を欠いてるぞ!!」
どちらかといえば其方の方が重罪と言うか実際に罪な気もする。
「では証人3、ベティさん。
貴方はかつてアリマ被告に部屋に連れ込まれたと仰っていましたね?
その時何かされましたか?可能な範囲でお話下さい」
被告側の孤立無援に比べて原告側の証人喚問多過ぎだろ‥‥
もう無茶苦茶じゃないか。
「‥‥えっ私!?ええと、不適切な関係を迫られたような~‥‥」
アリマェ‥‥。
しかしベティならこう言う時嬉々としてノってくると思ったが、
言い淀むとは少し意外な気がした。
アリマの部屋に連れ込まれたところで
もう一人の住人の話し相手が関の山じゃ‥‥。
「おいあれはベティが‥‥‥‥いや、何でもないです」
あれ?アリマまで口を閉ざした?これでは逆に気になる。
「よろしい、弁解は無いようですね。それでは裁判長、判決を願います」
「お前裁判長じゃねーのかよッ!!!
確かに全然中立的な立場じゃなかったけどな!!
これ以上登場人物増やすなアホらしい!!」
確かに良く考えたらオアの立ち位置はレイシャ側の弁護人か検察官だが
アリマの突っ込みは尤も過ぎだ。
そんな中、カウンターから勢い良く“カン!カン!”という音が響く。
見ればマスターが厳しい顔でアリマを見つめていた。
これはまさか‥‥。
「主文、被告人を極刑に処す!!以上!!!」
「アンタかよッ!!?つーか重っ!軽っ!極刑なのに主文で終わった!!!」
遂に裁判長から判決が言い渡された。
もはやアリマの極刑は免れないだろう。
「勝訴~」
「やりぃ~」
レイシャが席から立ちフレンダと手を取り合って万歳をしている。
勝っても何もないだろうに‥‥。
更には敗訴したアリマのうなだれ様。
そもそも負けたところで何のペナルティがあるんだコレ‥‥。
だが誰もがそう思ったであろう場面で只一人、この男は諦めていなかった。
「異議あり!!」
ババーン!と効果音が鳴りそうな明朗さで、
アリマ本人が高らかに宣言した。
あまりの理不尽に耐えきれなくなったのか、
とうとう被告兼弁護人になってしまったようだ。
「アリマ被告?既に判決は言い渡されたはずですが?」
意地の悪い笑みを浮かべ、オアが尚も畳み掛ける。
レイシャは大根だが彼は彼で役になりきり過ぎだ。
ここでアリマがカッ!と目を見開き声高に叫ぶ。
「レイシャ、フレンダ!後で一つ何でも好きなモン買ってやるぜ!!!」
「イヤそれ異議じゃないから!!買収だから!!!」
あまりの展開に再び傍観者に徹していたリセは
思わず声に出して突っ込んでしまった。
この発言を受けレイシャとフレンダは
座ったままのアリマの左右に回り込み、それぞれの腕を持ち上げた。
「「訴訟取り下げ!!無罪!!」」
「逆転判決!!?いやこんなのもう裁判じゃない!!!」
酷すぎる。あろう事か傍聴人と裁判官の前で買収が成立してしまった。
「俺はどんな勝負であれ、負けるのが嫌いでな‥‥」
アリマはやたら清々しい顔で決め台詞みたいなのを口走っていた。
馬鹿馬鹿しくもあるが本当に良い顔なので目に焼き付けよう。
これが“負けて何も失わない”事よりも
“勝って何かを失う”事を選んだ男の顔だ。
そう表現すると少しカッコ良く響く気もするか‥‥‥?
リセが何となく集会所を見渡すと、
同じ様にそんなアリマを見て皆が微笑んだり腹を抱えて笑っていた。
元々集会所のハンターは大抵楽しそうだが、
アリマ裁判が始まってから一層場の空気が熱を増したような気がする。
リセはこの時、アリマはまるで皆を照らす太陽のような人だと思った。
どう考えても不毛だったこの長いやりとりで、
アリマが如何にこのミナガルデの集会所で愛されているか分かった気がする。
彼としては散々だっただろうが、
新参者の自分にだけは少し意味があるイベントだったのかもしれないと、
リセは一人そんな風に考えていた。
アリマ裁判、閉廷 ――。
【続き】
翌日。
朝になり狩りから帰還した一行は報告のため受付カウンターを訪れる。
「はい、確かに依頼品の納品を確認しました。
お疲れ様です、クエストは無事達成となります!」
ベティから激励されるが、
リセとしては(キノコ狩りだしな‥‥)と少し大袈裟にも思えてしまう。
「これが報酬金と報酬素材の一覧です」
ベティから一枚の書類を渡された。
一応文字の読み書きは出来るが、これは何だろう?
「あ、ベティ。ちょっとリセには色々と俺から説明する」
「あらそう?私の仕事なんだけど」
「只でさえ忙しいアイドルを独り占めは出来ないしな。
よしリセ、適当な席に座ろう」
「うん」
アリマに手招きされ、席に移動する。
「私ビール頼んでくる。先行ってて」
レイシャはそう言うとホールのギルドガールの方へ歩いていく。
気を利かせてくれたようだ。
「よし、ここらでいいな。さっき道すがら説明したが、
モンスターから剥ぎ取った素材や採取した素材は、
持ち切れなくなったらベースキャンプに運び込む。
そもそも切り出した飛竜の翼を持ち運びながら狩りとか論外だしな」
席に着いたアリマが説明ついでに兜を脱いで床においた。
「うん、それでクエストから戻る時素材専用の荷車があって、
ギルドが持ち帰ってくれるんだよね」
リセも倣い頭装備を足元に置きながら会話を続ける。
「そう。で、その素材が何処に行くかというと、
ギルドの巨大な貯蔵庫に保管されてるわけだ。
特に希少価値の高い素材はハンター毎に完全に仕分けされてるが、
《薬草》やら《アオキノコ》なんかは
数が膨大だし出入りが激しいので一括管理らしい。
そして必要に応じて引き出したい素材を《ギルドガール》に伝えれば、
ギルドが必要分だけ持ってきてくれるわけだな。
ギルドは二四時間体制で応対してくれるが、当然どのハンターに
どれだけの貯蓄分があるかは厳格に管理されてるから、
保有数以上には引き出せない」
「ほえ~、凄いんだなぁ」
ミナガルデには確か数千人のハンターがいたはずだが、
そのハンター達が持つ素材を完璧に管理するとは恐れ入る。
フェイロンは正直、その辺りの管理も行き届いているとは言い難かった。
「お前が今ベティから手渡された書類は、
お前が今の狩りで得た報酬金と報酬素材の目録ってわけだな。
因みに金もギルドが預かってて、金を管理してるのは預金口座、
アイテムの方は貸金庫と呼ばれてる」
「もくろく?よきんこうざ?かしきんこ?」
リセは人生において全く聞いた事のない言葉に戸惑う。
“きんこ”は“金庫”なのだろうが。
「言葉は別に覚えなくていいぞ、
まぁそう言うモンなんだなと流れだけ知れば。
とりあえずその紙を見てみろ」
「どれどれ‥‥報酬金300ゼニー、
素材は薬草2個・アオキノコ2個・毒テングダケ1個
・マヒダケ1個・ハチミツ1個・砥石1個‥‥‥コレ全部貰えるの!!?」
「おう」
これは素晴らしい。正直初めは“キノコ狩りなんて‥‥”と思っていたが、
これならしばらく
キノコ狩り専門ハンターになっても良いと思えるレベルである。
「‥‥‥“しゅ”、貴方は私とアリマと一緒にモンスターハンターを目指すの。
キノコ狩り専門ハンターになろうなんて思っちゃ駄目だよ?」
「あれぇレイシャ居たの!??てか今思わず声に出しちゃってたかな!!?」
慌てて視線を声が聞こえた斜め上に移すと、
両手と頭にビールジョッキを持った(?)レイシャが立っていた。
「レイシャ‥‥?頭のソレ良く落ちないね」
「うん。バランス感覚には定評があるの」
そう言うとレイシャは、
屈んで両手のビールをアリマとリセの前に置いた後、
頭の上のビールを手にした。
「サンキュー」
「ありがと」
とりあえず礼を言ってみたものの、リセはあまりビールが好きではない。
微妙な表情でビールを眺める横で、レイシャが着席する。
しかし彼女の頭装備は別に被ったままでも
食事の邪魔にならない形状なのでそのままにするようだ。
「“しゅ”、狩りの後のビールで乾杯はハンターの通過儀礼。
とりあえず初日だから今日の所は嫌でも我慢」
「‥‥あれ?レイシャって人の心が読めるのかな?」
何故かさっきから考えていることをズバズバと当てられてしまう。
肉の件もあるからか、何だかほんのりレイシャが怖くなってきた。
「あと料理も適当に頼んどいたよ。今回はリセのグレードに合わせてみた」
「グレード?グレード‥‥ああ、
アリマとかレイシャはいつも凄い豪勢な物食べてるんだね」
これは説明を受けなくても何となく部屋の違いを思い出せば理解できた。
「おう、良く分かったな。
新人ハンター達を奮起させる目的もあって、
少し安くするからなるべくトンデモねぇ料理を注文してくれって
マスターにも言われてんだが、たまには初心に返るのも悪くない」
トンデモねぇ料理‥‥?
どんなものなのか想像も出来ないが見てみたかった気もする。
「ねぇ‥‥因みにそれってどんくらいすご‥‥‥」
言い終える直前、リセの周囲に影が差す。
「まあ飛竜の狩猟一回分の報酬金が一度にぶっ飛ぶような御馳走さ」
「ええぇぇぇぇぇぇぇーー!!?そんなものを二人は毎日‥‥‥‥あれ?」
アリマでもレイシャでもない第三者に頭の上から説明され、
リセは座ったまま振り向いた。
そこに立っていたのは‥‥。
「オアじゃないか!!いつ来たの!?」
ビールジョッキを片手に持ったオアだった。
三人と違い相変わらずの軽装である。
「いつ来たか?今でしょ!‥‥‥ってな。三人共空いてる席良いか?」
まずアリマが気のない返事をする。
「お~好きにしろ」
レイシャもそれに続く。
「うん」
オアはレイシャの対面側に腰掛けた。
丸いテーブルを囲むのはアリマから時計回りに
レイシャ、自分、オアと言った席順になる。
この集会所に入った時からリセは少し気になっていたが、
時折周りの喧騒に紛れ此方のテーブルを伺うような視線を
ハンター達からちらほらと感じる。
やはりこの三人、ミナガルデのハンターの間で注目の的のようだ。
文字通り“一目置かれている”というやつだろうか。
「‥‥‥‥オア、相変わらずモブ‥‥‥いや景色に溶け込んでるな。
乾杯の前でタイミング的にはピッタリだが、
目の前にくるまで気付かなかったぜ」
「だからモブいってなんな「じゃあみんな揃ったところで、かんぱ~い」
オアがアリマに何か聞いていたが、
流れを断ち切りレイシャが乾杯の音頭を取る。
マイペースだ。
「「「‥‥か、かんぱ~い!!!」」」
男三人は少し呆気に取られつつも、大人しくそれに従った。
それが終わると三人がジョッキの底が真上に向くような凄い勢いで
ビールを飲み干していくのでリセも三人に倣う。
「「ぷはぁ~!」」
「‥‥ふう」
三人から少し遅れ、リセもビールを飲み終える。
「‥‥ういっぷ」
やはり苦い。
しかし前に口にした時よりは幾分マシに思える。
少し味覚が大人に近づいたのだろうか?
「どう?“しゅ”」
右隣のレイシャが顔を覗き込むように聞いてきた。
これまた近可愛い。
「苦い。でも前よりは悪くないかな」
しかしそれとは関係ないのでリセはあくまで正直な感想を述べた。
「なぁ~んだ、狩りではそれなりに使えると思ったが、
やはりお子様だなぁリセ坊」
「むっ」
話を聞いていたアリマがからかってきた。
「ビール追加で~!!」
「こっちもお願いね~!!」
アリマはオアとリセなど気にせずビールの追加を注文している。
ここでリセの悪戯心に火が着いた。
「‥‥爆弾魔」
「ファッ!!?」
その呟きにアリマが反応した。
「お?リセももう聞いたのか?アリマの爆破生活記」
オアはケラケラと笑いながら話に乗ってきた。
「爆破生活記・集会所編、私が話した。
“しゅ”は調合上手だったからちょっと拗ねてた」
レイシャが(多分意図せず)追撃すると、
オアが笑いながらアリマをからかう。
「おいアリマ、
初日から教え子の前でボロとかボヤとか出すんじゃないぞ?
お前一応凄腕ハンターである事は間違いないんだからな」
「うるさいうるさい!!レイシャも余計な事は言わなくて良いから!」
レイシャはあまり悪くない気がするので、怒られて少し気の毒に思う。
いや事の発端だから悪いのか?
「‥‥‥ふぅん。言ったら、またああいう事するんだね」
唐突に。
レイシャが伏し目勝ちに、アリマから視線を逸らすように呟いた。
何だか今までにない雰囲気だ。
「レイシャさん?貴方はアリマ被告に狩場で何かされたのですか?」
オアがテーブルに両肘を付き口先で両手を組んだポーズを取り、
妙な口調で尋ねた。
ナンダコリャ?
「アリマは、狩場で私に‥‥‥」
何なんだこの空気。リセは困惑する。これから一体何が始まるというのか?
「おいおいお前ら、一体何の話をしてんだよ」
アリマは少し呆れ気味に見える。
しかし次にレイシャが放った決定的な言葉により、
集会所はアリマ追及の場へと変貌する。
「‥‥えっちぃことをしました」
【続き】