37セカンズ(37Seconds) | 一言難盡

一言難盡

Ture courage is about knowing not when to take a life,but when to spare one.

『37セカンズ(37Seconds)』

2020年 日本・アメリカ

 

監督 HIKARI

 

出演

ユマ(佳山明)

ユマの母、恭子(神野三鈴)

俊哉、ヘルパー(大東駿介)

舞、風俗嬢(渡辺真起子)

藤本、編集者(板谷由夏)

 

コロナで自粛態勢に入った頃の、微妙な時期に公開された作品で、気にはなっているけど観に行けなかった方もいらっしゃって興行的には振るわなかったかもしれない、、、

幸い、Netflixで配信が始まったので、視聴者にとってはありがたい動きとなっている。

 

 

ネタバレ

 

生まれた時に37秒間息をしていなかったことで、脳性まひとなったユマが23歳になった今、「生きる」ことを意識し、それを探索してゆく物語。

 

ユマの仕事が漫画家のゴーストライターという設定のため、序盤は漫画のカットやイラストなどが登場し、日本の強みのようなものを表現する演出があるが、全編を通してみると、これはやはりアメリカの映画だなという感覚に陥る。日本では障がい者の「性」をこれほど大胆に、そしてリアルに描けるかなというとそこが疑問だからだ。

台詞のみの無音で始まる開幕から既に目が釘付け状態になる。母親に過保護に介護されながら生きてきたユマの23年。おそらく漫画家の家、病院、自宅くらいしか行き来してなかったユマは「生きる」ことをあまり意識してなかったように見える。

 

漫画を持ち込みした先の出版社の編集者から「なんていうかリアルさがないのよねぇ、やっぱ実際体験しないとリアルには描けないんじゃない。」という言葉を受け、体験することを模索するようになる。

この編集者の目線がやはりお互いに理想なのだろうと思う。「なんで車椅子なの?」と、障がい者ということを意識せず、素朴に尋ねているシーン、最後の「新人の漫画家さんの作品みてさー、結構いいのよー。」の部分も、車椅子なんだけどさー、ともわざわざ言わない。言わないというより意識していないのだ。

この感覚は天性なのかもしれない。意識してないと言いながらそれでも人間は、やはりそういうところを意識してしまい、逆に変な気を使ってしまうからだ。

 

ユマの動向が変わったことに気づき、部屋の中を漁る母親の姿は、おそらく我が子が障がい者でなくてもままある事だろう。バイブレーターを見つけて「ヒエッ!」となるのも普通の反応だと思う。違うのは、「私がいないと何もできないでしょ。」と思いすぎているところくらいか。

母親の気持ちも分かるのだ。子供はいつまでたっても母親にとっては子供だという。ある意味ユマをお世話する事が生きがいとなっていた母親としては、急に自立心の芽生えた子供に面食らってしまい、障がいを持っているからという理由で心配になる気持ちに余計に拍車をかけているのだ。

しかし、この母親は話が分からない母親ではない、良かれと思ってやっていたことがユマの自立を妨げていることに気づいていなかっただけなのだ。

 

急なタイへの旅路は、やはり、日本とは違うもっと生命力溢れる土地での生き生きとした人間の姿とユマの心理的な生きる躍動感を重ねて表現したのかもしれない。

母親に反発していたユマの心と、自立を認識した母親の新たな親子の姿にもゆるやかに涙がこぼれる演出になっている。

 

私としては、ヘルパーの俊哉の存在が不思議すぎて(だってあんな良い人いる?笑)、いつユマに飛びかかるのだろうとヒヤヒヤしていたが、最後まで紳士であり、え?何者?というくらい立派な男であった。てっきり、抵抗力の弱い者を食い物にするポジだと思っていたので、、、←私の心が薄汚いだけでした。

 

とてもいい映画を観た。

板谷由夏はここでも最高の演技でした。