The Waveウェイヴ(Die Welle) | 一言難盡

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Ture courage is about knowing not when to take a life,but when to spare one.



『The Waveウェイヴ(Die Welle)』
2008年 ドイツ

原作 モートン・ルー

監督 デニス・ガンゼル

出演
ベンガー(ユルゲン・フォーゲル)
ティム(フレデリック・ラウ)
マルコ(マックス・リーメルト)
カロ(ジェニファー・ウルリッヒ)


独裁制の実験で最も有名な出来事は、1971年に起こった「スタンフォード監獄実験」。
これは、ドイツ「es(Das Experiment)」・アメリカ「エクスペリメント(The Experiment)」と題して、それぞれ映画化されている。
この「ウェイヴ」は、その数年前の1968年、アメリカ カリフォルニア州の高校で実際にあった、こちらも独裁制の実験を元に映画化したものである。

あまりにも大きなドイツの歴史を考えると、表現の仕方一つで批判を浴びかねない、このような微妙なテーマの作品を、ドイツ人が、ドイツを舞台に制作するのは結構勇気のいる事なのではないだろうか。←ドイツ人ではないので実際は分かりませんが。

ネタバレ


舞台は、かつてナチスドイツと呼ばれていたような独裁的な世界は微塵も見られない現代のドイツ。
独裁制をテーマに授業を行っていた教師のベンガーだったが、現代を自由に生きている生徒たちにとっては絵空事の様であり、なぜ人間が人間を支配したり、支配されたりするのかが全く理解できない。
そこで、生徒たちに様々な規則を課することで独裁の形態を取り、実験を行うことにする。

授業の序盤は嫌々だった生徒たちも、有り得ない速度で支配されることに感悦するようになり、実験の2日目には自主的に規則を作り、それに従い、3日目となると授業以外の場所でも活動するまでになっていく。
たった5日間の実験だったが、瞬く間に独裁のコミュニティが出来上がり、自主的に他の者に規則を強要し、反対する者を排除しようという恐ろしい構図が広がったのである。
もちろん、生徒たちは独裁制のサイクルにはまっていることに気付くこともできない。


この構図が出来上がる様は、映画とはいえど、段々と己の行動に酔っていく生徒たちに、寒気がするほど恐ろしくなってしまう。

物事や人を優劣で分けたがる人間の性質の弱点を付いた心理コントロールに、やはりまんまと引っかかるのが人間で、さらにコミュニティに参加し、同じ敵または目標を作り、その中での優劣の境界をなくすことで、コミュニティ外の人間たちを見て優越感を感じるという、全ては劣等感から来る心理なのではないか、という気持ちにさせられる作品であった。支配する者も支配される者も同様にである。
自分は絶対にこうはならないと思っている人もいるだろうが、絶対などまず有り得ないことであり、誰しもがこのような心理に陥る可能性があることを、痛烈に表現した代表的なテーマといっていい。

この映画を元にするなら、客観的にこの異様な光景を見ている者は、明らかに女性が多い。
男性の方が陶酔感が強いのは、やはり、社会的重圧が大きいせいなのかもしれない。


※最後に、ティムが生徒の一人を銃で撃ち、自分の頭もぶち抜くシーンがありますが、その部分は脚色らしく、実際にはそこまでには至らなかったようです。