ある事象に対する受け止め方は十人十色である。これは、ある男が見た一つの世界、一つの真実の物語である。
請求書の押印不要の話は前回した。押印不要となったので、支出命令書の証拠書類としての請求書の地位は、大きく低下した。極論を言えば、誰でも請求書を作り出すことができる。押印という真正性を示すものがなくなったので、これは請求書だといえば請求書になってしまう。正当な債権者からの請求書かどうかの最終判断は、押印見直し前は、会計課審査係が行っていた。だから、その意味で「最後の砦」であった。しかし、押印なしの請求書を見せられて(しかも、PDF化されている。)、これが真正なものであると、審査係では確証も持って言えないようになった。請求書の真正性の判断は、初めに請求書を受理する各課の担当者のみができる。各課の担当者が「最初で最後の砦」に変わった。
ところが、どうしても審査係を「最後の砦」としたい職員は、請求書の発行者を審査すれば良いという。
この見解に対する反論は、次のようになる。押印なしの請求書は誰でも作成できるので、請求書の発行者の審査は無意味だ。むしろ、契約して業務をさせた各課の方で、請求書の発行者の真偽を判断すべきだ。従来から、会計事務規則に規定されている。
それでは、支出命令書の支出内容に関して、最も価値がある証拠は何かということが問題となる。答えは、一択。各課の検査担当者が検査合格させたことだ。新財務システムでは、ベンダーが用意した支出命令書の仕様に、検査日・検査者を入力するように一部事項を追加した(これは、カスタマイズの範囲外)。
これよりも実現させたかったのは、定期一斉支払案である。これは、何か。支出命令書の5割強は、年間契約を締結した案件で、毎月支払をするものである。単価契約を除き、概ね各月の支払予定金額は、年度当初から決まっている。従来の方法は、各課が毎月請求書を支出命令書に添付して会計課に送付していた。各課が作成し、会計課が審査するという事務処理にかかる時間は、年間かなりの時間数になる。そこで、このような単価契約を除く、毎月払いの支出については、原則支出とし、履行確認ができないものについて、支払を拒絶する仕組みを財務会計システムに組み込めば良い。もう、少しわかりやすく言えば、各課が毎月支払う経費のリストに、各課の担当者が一定の期日前に、履行確認ができないものに限り、「×」を入力し、その月の支払リストからはずす。そして、各課の入力期日が経過したら、会計課出納係があらかじめ定めた特定の一斉支払日に、業者が事前登録した振り込み口座へ送金する。一斉の支払日を決めておけば、会計課の資金管理(支出に必要なお金は、定期預金から決済用にあらかじめ取り崩す必要がある。)もやりやすくなる。
ここで問題となるのは、地方自治法上、長の支出命令(実務では、課長に権限が委譲されている。)がなければ、会計管理者は支出ができない。そのため、支出命令書という書面を各課が作成し、会計課に送付していたのだ。上述の方法では、支出命令書の出番がないので、違法だという反論が起きる。
これに対しては、支出命令作成権者の課長が、電子上1通の支払リストを支出命令として、決裁すれば良いことだ。違法性を回避できる。何も、1件1件支出命令書を作成する必要がない。ちなみに、M区役所は、年5万件程度の支出命令書を作成している。この4割を上記の方法に変えれば、支出命令書は、年3万件に減る。各課や会計課審査担当の事務量も4割減が見込まれた。
しかし、この案は提出しなかった。このような考えは、他の自治体では先例がないので、完全なカスタマイズである。開発経費がどのくらいかかるかわからないし、今回の財務更改では、ベンダーが用意した仕様をそのままカスタマイズなしで受け入れるという上部の方針が決まっていたからである。
この私の発想は、DXなのかはわからない。M区役所では実現しなかったが、これを読んだ他の自治体の会計担当の方で、共感された場合は、ぜひ実現して欲しい。
次回は、「支払額調書添付省略、負担行為併合支出整理票及び精算一覧表とは」を掲載する。これらは、今回の財務更改で、事務処理の軽減化を図るために、私が考案した方策である。おそらく、先例はない。