ある事象に対する受け止め方は十人十色である。これは、ある男が見た一つの世界、一つの真実の物語である。
支払額調書添付省略、負担行為併合支出整理票及び精算一覧表は、私が考案した事務帳票であり、先行事例はない。新ベンダーであるJ社の仕様をカスタマイズしないで使用するための、事務処理上の運用ツールである。これが、私の独自のアイデアであることは、ほぼ知られていない。会計審査事務は、カスタマイズしていないので、他の先行して同システムを導入した団体の模倣だと思われている。
まず、支払額調書添付省略であるが、これは、支出命令書に証拠書類として添付する支払額調書の添付を省略するという大技である。なぜ、大技なのか。支出命令書の証拠書類としては請求書を添付するのが原則である。この請求書を添付できない場合などにおいて、一定の要件に合致する場合に作成するのが、支払額調書である。したがって、論理的にいえば、請求書の代わりとなる証拠書類であるから、支出命令書に添付するものである。しかしながら、これは、役所の事務処理における得意技「屋上屋」の典型である。支払額調書に記載してあることは支出命令書にすべて書かれている。支払額調書は、発行者の押印が必要だったが、押印廃止で、押印もなくなった。支出命令書は、システムに入力されているデータをもとに作成するが、支払額調書は、職員が手入力する。そのため、しばしば、記載内容の不一致が起こる。これは、審査上では支払不可として、担当者に返戻することになる。支出負担行為を確認するのが、審査担当の役割であるが、支出負担行為として適法なのに、支払額調書上の誤字脱字により、返戻することが多かった。これは、建設的な仕事ではないし、支出命令書も支払額調書も作成権限は同一人物であるから、支払額調書添付を省略した。法令上、これができるというルールがなかったので、グレーな事務処理となる。そこで、会計事務規則を改正し、合法化した。これは、事務改善として効果があった。各課では、従来から負担と考えていたところが多く、歓迎された。
負担行為併合支出整理票は、個人的には事務軽減という視点からといえば、ヒット作だと思う。これは、M区の予算編成が細かすぎるので起こる現象である。J社のシステムを導入している他の自治体ではほぼ起こらない。予算科目ごとに契約依頼をして、契約は1契約となる場合に起こる。契約が1契約なので、請求書は1枚である。しかし、支出命令書は、予算科目ごとに作成するので(予算科目集合ができるものは、請求書と支出命令書の数が一致するので問題なし)、1枚の請求書に対して、複数枚の支出命令書となる。紙処理の場合は、物理的にまとめられるが、ペーパーレス処理の場合はできない。そこで、システム外帳票として作成したものである。ここの改善部分は、会計事務規則の従前の規定(紙決裁においての事務処理方法が規定されていた。)に代わるものなので、規則変更案を文書係に出していたが、何と、規定自体を削除というようにされてしまった。これは、文書係の暴挙であるが、後任の係長と相談して決めたとのことだった。しかし、文書係はひどいものだ。システム更改の2024年4月1日に間に合うように改正案をその前年の7月に提出しているのに、改正したのは、私が係長を降りた年の10月だった。約7か月は、会計事務規則を無視した事務処理を行なわれたことになる。M区が、会計事務を軽視していることがこれでよくわかるだろう。
精算一覧表は、資金前渡(企業でいえば小口現金のようなもの)した経費を精算する際に実物の領収書を添付して行なっていたことが、ペーパーレス化によってできなくなるための代替措置である。他区では、領収書が5枚以上の場合は、現物を会計課に提出とか、すべての領収書を会計課に提出というところが多い。M区の上層部の方針は、紙を無くすであり、領収書については、PDF化して精算報告書に添付して電子送付ということだった。領収書の枚数が、50枚、100枚になっても(最大は、250枚程度)すべて各課がPDF化してシステムで作成する精算報告書の添付書類として会計課に送付であった。DX担当などは、PDF化した領収書は、その時点で不要だから廃棄可能だなどと言っていた。会計課の審査担当は、画面で最大250枚の領収書を確認し、画面をスクロールしながら電卓で総計が合っているか確認すればよいというような、アンチディーセントワークを求められていた。そこで、私は、それならば、領収書を読み込み、必要項目を記載した精算一覧表にまとめられるようにし、合計が自動計算できるようなものができないかとDX担当に相談した。結果は、現代の技術では無理ということだった。現代の技術なら無理。それならば、手入力で当面の間、精算一覧表を作成し、これを各課が会計課に送付する。現物の領収書は、5年(時効に関係がある。)保存するということにした。
この精算一覧表については、実物を会計課で確認しなくても良いのかという反対意見が出てくるだろう。領収書の確認がないと、支払っていない分まで一覧に記載されてもわからないという点である。しかし、毎年1回定期監査が行なわれるので、実物の領収書と照合される。わざわざ懲戒処分になるような愚かな職員はいないだろう。精算は、複数人が関与するので、組織的に行なわれない限りは大丈夫だろうとの判断であった。仮に、PDF化したとしても、実物をみたり、会計課で領収書を取り上げてしまうのでないから、発行日を書き換えて使い回しされても審査ではわからない。したがって、精算一覧表で精算可能とした。アンチディーセントワークを無理やりさせられるより、はるかに良いと考えたのである。これも会計事務規則の変更案としたが、文書係が削除してしまった。
次回、「仕様に従わないのか」に続く。