仕事が終わり、そそくさと家に帰る。

突然寒くなったせいか、歩き慣れた道に人は少ない。

強い空腹感の為、どこかに食事に行こうかとも思ったが寒過ぎて億劫だった。

もう出前で良いか。

ホンマ我ながら横着やな。

自宅に帰ってから自虐的に呟き、携帯をポケットから取り出す。

いつもの中華に電話。

すいません、出前お願いしたいんですけど。

大丈夫ですよ~。

いつものおばさんの良く通る声。

じゃあ、鳥の唐揚げとライスの大。唐揚げのレモンと塩を2つずつでお願いします。

はい分かりました~。

一体、これまでにこのやりとりを何度繰り返しただろうか。

もしかして俺はこの店のエースなのではないのか?
などと思ったが、人気店なのでそう甘くは無いかもしれない。

20分もせずにチャイムが鳴る。

この早さもこの店の魅力だ。

インターホンのモニターにいつものお兄さんが映る。
ものすごく薄着だが大丈夫だろうか。

こんな寒い日に呼んでしまい、少し申し訳ない気持ちになった。

オートロックを解除すると同時に彼がくしゃみをしている。

やっぱり寒いんだろう。

少しでも早く帰らせてあげたくなり、お釣りが出ない様に1150円キッチリ用意する。

外から激しいくしゃみの声が聞こえ、やがて玄関のチャイムが鳴った。

嫌な予感がした。

急いで玄関を開けてお金を渡す。

また彼がくしゃみをする。

中華屋さんが良く使う出前の入れ物を彼が開け、唐揚げを取り出す。

ご注文の鳥の唐揚げです。




唐揚げです。




の、す、ぐらいで彼がまた、くしゃみをする。

手には俺が間も無く食べる予定の唐揚げ。

彼がくしゃみで放出した唾液がシャワーの様に唐揚げに降り注いだ。

もちろん彼もくしゃみの際に顔をそらしていたが、微妙に間に合っていなかった。

それは当の本人も絶対に気付いていた。

…ご注文の唐揚げと…ライスの大です。

俺に渡しながら、今度は完全に目をそらしていた。

あ、ありがとう。

腹の底から絞り出す様に何とか答えてドアを閉めた。

外からは、またくしゃみの音が聞こえた。

部屋に戻り、俺はいつもより多めにレモンを絞った。

いつもよりすっぱいのは、多分レモンのせいだけでは無かった。