一連の検査が終わり、いよいよその結果が来週出る。
それは、あたかも単位を落とすことなく無事に進級できるかと気をもみながら通知表を待つ心境に似る。
が
結果がどうあろうと、それはそれ。
気をもんだからといって変わるわけではないので、待つしかない。
病院からの帰りに、「お久しぶりです」と地元の男に声を掛けられた。
彼は、昔から近所でも評判の美男子だった。
が
久しぶりに会うと、彼も後期高齢者となり年相相応に老い、醜くなっていたので、それを言った。
昔の色男も形無し。
オマエも老けたなぁ~。
どちらかへお出掛けだったんですか?
病院の帰りよ。
何せ、この歳だから、あっちこっち具合の悪いところが出てきてな。
それ伝わっていますよ。
大事にしてください。
バカヤロー、そんな心配をしてくれるより、知っていたなら見舞いを持ってこい。
これだからなぁ~。
その元気だったらまだ当分くたばりそうもありませんね。
彼は、実弟と同じ年で親友でもあったので、こんな軽口で別れた。
帰ってから旧宅のデスクに向かっていると、暫くしてドアフォンが鳴った。
出ると、よく知る老婦人。
どうされました?
申し訳ありませんが、トイレを貸していただけますか?
今日は、先生はご一緒ではないのですか?
今、NYなんです。
もう仕事は済んでいるので、今頃は、好きな美術館巡りでもしているのだと思います。
相変わらず、先生はお忙しくしているんですね。
このご主人は、元日銀総裁。
リーマンショック、東日本大震災、EUの債務危機などが前後して、世界が金融危機で揺れた頃の日銀総裁で円高とデフレ退治に有効な手立てを講じることのできなかったと評されることも多く、その功罪の評価が分かれる人。
このご夫妻と知り合ったのは、仕事の関係ではなく、カミさん同士が親しくしていたでけで、ボクが知った時にはすでに日銀の総裁を退いていた。
年齢は、おそらく、ボクより10歳くらいは若い。
初めてお会いした時は、ご挨拶程度のことしか言葉を交わさなかったが、その静かな物腰と腰の低さにすっかり魅了された。
以来、何度かお目に掛からせていただいているが、全く、そのキャリアや社会的な地位など、おくびにも感じさせることはなく、謙虚で口数少なく、ちょっと品の良いシルバー紳士というところ。
そして
なによりも、奥様に優しく、大変な愛妻家らしい。
で
そのお人柄には惹かれてやみません。
NYで美術館巡りをしている氏の姿を想像しながら、思った。
実るほど頭を垂れる稲穂かな。
ほんとうに強いヤツは、力を誇示しない。
金持ちケンカせずの古い教えもこれに似ているか。
で
言った、言わない。
正しい、正しくない。
屁理屈だ、いや正論だ。
こんなやり取りの応酬と互いの力の誇示で、険悪になる一方の日中関係のあれこれを思ったが、これは書かない。
で
奥様に申し上げた。
先生とお話しできる機会を楽しみにしています。
どうぞよろしくお伝えください。
アラッ、ARKさんにそんなことを言われたら、きっと主人は大喜びですよ。
たわいもない会話に、しばし、通知表を忘れた。
余韻を引きずりながら、柄にもなく一編の詩を思い出し、それを探した(覚えていなかったので)。
ねえ 不幸だなんて
溜息をつかないで
陽射しやそよ風は
えこひいきしない
夢は
平等に見られるのよ
私 辛いことが
あったけれど
生きていてよかった
あなたもくじけずに
ご存じ、柴田トヨさんの詩である。
無粋で詩心など全く持ち合わせぬ野暮天だが、こういう、素朴で飾らぬ言葉には少なからず心に響きます。
東京ドームの周辺を歩いていると、三人連れの女性の声が耳に入った。
綺麗だったわね。
よく手入れされていたわね。
ドームに隣接する小石川後楽園のことだと知った。
で
久しぶりに入園してみた。














