認知症基本法の概要

 

 

はじめに、内閣府の「令和五年版高齢社会白書」によると、2025年には75歳以上の後期高齢者人口が2155万人に達すると予測されています。

超高齢社会の進行とともに、認知症の患者数も増加しています。

日本における認知症の高齢者人口の将来推計に関する研究の推計では、2025年に高齢者の5.4人に一人が認知症になると予測されています。

 

 

このような状況に鑑み、昨年に認知症基本法が制定され、2024年1月1日に施行されました。正式名称を「共生社会の実現を推進するための認知症基本法」といいます。

 

基本法とは、国政に重要なウエイトを占める分野について、国の制度政策・対策に関する基本方針・原則・準則・大綱を明示したものであると一般的に言われています。

基本法は、国の制度政策に関する基本方針を示すとともに、それに沿った措置を講ずべきことを定めているのが通常です。

政策の方向付けを行い、他の法律や行政を指導・誘導する役割を持ちます。

 

 

認知症基本法の目的は、認知症の人が自身の尊厳を保ちながら希望を持って暮らすことができるように、国・地方公共団体等の責務を明らかにし、認知症施策を総合的かつ計画的に推進し、認知症の人を含めた国民が相互に人格と個性を尊重しつつ、支え合いながら共生する活力ある社会の実現を推進することにあります。

 

 

認知症の定義 この法律において、認知症とは「アルツハイマー病、その他の神経変性疾患、脳血管疾患、その他の疾患により日常生活に支障が生じる程度にまで認知機能が低下した状態として政令で定める状態をいう」と定義されます。ここでは、介護保険法第五条の二第一項と同じ認知症の定義が用いられています。

 

 

基本理念 認知症政策の基本理念として、これらは認知症の人が尊厳を保持しつつ希望を持って暮らすことができるようにするためのものです。基本法で掲げられている理念は、のちに個別法等が定められた場合の理解にも資する大切なものです。

 

 

  1. 本人の意思尊重: すべての認知症の人が基本的人権を享受する個人として、自らの意思によって日常生活及び社会生活を営むことができる。
  2. 国民の理解による共生社会の実現: 国民が共生社会の実現を推進するために必要な認知症に関する正しい知識及び認知症の人に関する正しい理解を深めることができる。
  3. 社会活動参加の機会確保: 認知症の人にとって、日常生活または社会生活を営む上で障壁となるものを除去することにより、全ての認知症の人が社会の対等な構成員として地域において安心して自立した日常生活を営むことができるようにするとともに、自己に直接関係する事項に関して意見を表明する機会及び社会のあらゆる分野における活動に参画する機会の確保を通じ、その個性と能力を充分に発揮することができる。
  4. 切れ目のない保健医療・福祉サービスの提供: 認知症の人の意向を充分に尊重しつつ、良質かつ適切な保険医療サービスおよび福祉サービスが切れ目なく提供される。
  5. 本人、家族等への支援: 認知症の人に対する支援のみならず、家族等に対する支援により、認知症の人および家族等が地域において安心して日常生活を営むことができる。
  6. 予防・リハビリテーション等の研究開発推進: 共生社会の実現に資する研究等を推進するとともに、認知症および軽度の認知機能の障害にかかる予防・診断および治療、並びにリハビリテーション及び介護方法、認知症の人が尊厳を保持しつつ希望を持って暮らすための社会参加のあり方及び認知症の人が他の人々と支え合いながら共生することができる社会環境の整備、その他の事項に関する科学的知見に基づく研究等の成果を広く国民が享受できる環境が整備される。
  7. 関連分野への総合的な取り組み: 教育、地域づくり、雇用、保健、医療、福祉、その他の関連分野における総合的な取り組みとして行われる。

 

 

 

責務 国・地方公共団体・国民・事業者に対して以下の責務があることとされています。

  1. 国・地方公共団体: 基本理念にのっとり、認知症施策を策定・実施する責務を有し、政府は認知症政策を実施するために必要な法制上または財政上の措置その他の措置を講ずること。
  2. 国民: 共生社会の実現を推進するために必要な認知症に関する正しい知識及び認知症の人に関する正しい理解を深め、共生社会の実現に寄与するよう努めること。
  3. 事業者:公共交通事業者等:、金融機関、小売業者などの日常生活や社会生活を営む基盤となるサービスを提供する事業者は、国及び地方公共団体が実施する認知症施策に協力し、サービス提供の際には事業の遂行に支障のない範囲内において、認知症の人に対して必要かつ合理的な配慮をするよう努めること。
  4. 保険医療サービスまたは福祉サービスを提供する者: 国及び地方公共団体が実施する認知症施策に協力するとともに、良質かつ適切な保険医療サービスや福祉サービスを提供するよう努めること。

 

 

認知症施策推進基本計画 政府による「認知症政策推進基本計画の策定義務」と、「都道府県・市町村による認知症施策の推進計画の策定努力義務」が定められています。

前者については、認知症の人および家族等により構成される関係者会議によって計画案が作成され、後者については認知症の人および家族等の意見を聞くよう努めなければならないとされ、当事者の政策形成過程への参画が図られています。

 

 

基本的政策 基本的施策として次のものが掲げられています。

関係法令の整備や運用改善が進められる。

  1. 認知症の人に関する国民の理解の増進
  2. 認知症の人の生活におけるバリアフリー化の推進
  3. 認知症の人の社会参加の機会の確保
  4. 認知症の人の意思決定の支援、および権利・利益の保護
  5. 保健医療サービス及び福祉サービスの提供体制の整備等
  6. 相談体制の整備
  7. 研究等の推進等
  8. 認知症の予防
  9. 認知症施策の策定に必要な調査の実施
  10. 多様な主体の連携
  11. 地方公共団体に対する支援
  12. 国際協力

 

 

認知症施策推進本部 内閣総理大臣を本部長とする認知症施策推進本部が設置されます。認知症施策推進本部は、認知症施策推進基本計画の案の作成・実施の推進等を司ります。

 

 

最後に、本法は基本法であることから、施行されたその日から私たちの生活に変化があるというものではありません。共生社会の実現に向けた様々な動きが着実に進められているため、今後の法令等の整備や運用の改善等に注視しておくことが肝要です。