澤田瞳子さん著 「輝山」 (2021年)
小説の舞台は江戸時代の石見銀山。
私は若い頃に行ったことがある。
坑道を見学したけど、
暗いイメージしかなかったような…。
危険な金山や銀山で働くのは、
罪を犯した人たち、と思ってたしね(笑)![]()
けれど、そういう人たちばかりではない。
小説は、当時の銀山での過酷な労働の様子が
手に取るように描かれている。
迷路のように入り組んだ間歩(坑道)内での事故や、
堀子たちが必ず罹患するという気絶(けだえ)。
気絶とは
地中の毒気やそこここの壁から沁み出す水気、
更には間歩に持ちこまれた
螺灯(サザエの殻て作った燭台)の上げる油煙や、
採掘時に出る粉塵を吸い込むうちに罹るもので、
これを患うと咳を繰り返し、煤の如きものを吐いた末、
十人のうち九人までが死に至るという。
(本文より)
小説を読んでいると、苦しくなりそう![]()
それでも、一気に読めたのは、
お上の小出と石見代官の岩田の対決が
面白かったから。
小出は部下である金吾に、
岩田の身辺を探るよう、命じる。
いわゆる潜入捜査っていうやつ。
金吾は、堀子たちと親しくなるうちに、
短命を承知で働く人々の生き様に、
心を打たれる。
金吾が堀子頭の与平次を看取る場面が、
心に残りました。
少し抜粋させていただきます。
*
人の世に不滅なものなぞ、何もない。
もう何百年も昔から
多くの堀子たちの生死を眺め続けてきた仙ノ山とて、
いずれはすべての銀を掘り尽され、
人の立ち入らぬただの岩山と変わるのだろう。
そして今、この時間がほんの瞬きほどであると知ればこそ、
堀子たちの笑顔は眩いほど光って映る。
見下ろした与平次の顔が、輪郭を失って揺らめいた。
あわてて拳で目元を拭いながら、
ああ、そうか、と金吾は奥歯を食いしばった。
去り行く人を見送ることは、確かに辛い。
だがその苦しみは
いずれは自分もこの世を去る事実を忘れたがゆえの、
不遜な苦しみなのだ。
誰もが死の定めを逃れられぬ世であればこそ、
残された者は限りある命を慈しまねばならぬ。
そしてその輝きを目にすることで、
此岸を去る者たちは自らの生の美しさをはっきりと悟り得る。
「輝山」より

