若原正己氏著「ヒトはなぜ病み、老いるのか」
ゲノムの構造は、私には難しかったですが、病気と遺伝子の関係等、興味深く読めました。
第1章 病気と進化 ダーウィン医学
第2章 感染症と免疫系
第3章 病気と遺伝子
第4章 ガンと遺伝子
第5章 心の病
第6章 老化のしくみ
第7章 寿命の生物学
第8章 いかに生きるか
少し抜粋させていただきます。
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「第6章 老化のしくみ」
<老化と遺伝子>より
ヒトの細胞には30億塩基対という膨大なDNAがあるが、
細胞分裂のたびにこの30億塩基対すべてを複製する。
10時間くらいで30億を複製するので、単純計算によれば1時間あたり3億個、
つまり1分間に500万個の塩基を複製するから、どうしても間違いは起こる。
平均すると10の7乗塩基対(1000万塩基対)を複製すると、どうしても1個はミスをするという。
しかし、細胞にはそれを修復する機能もあり、間違いがあればそれを直して
できるだけ正しいDNAを引き継ぐしくみがある。
その修復をしても10億個に1個は間違ってしまう。
どうしても突然変異は避けられない。
DNAはいろいろな原因で変異・変化するが、それらの変異が積み重なって動物は老化をし、
寿命を迎えるという仮説が突然変異蓄積説だ。
2万3000個というさまざまな遺伝子が突然変異を起こすことで老化が進行し、
寿命が尽きるという考えだ。
その遺伝子に特別な種類はなく、どんな遺伝子でも確率的に変異が起きて、
それが蓄積すると老化する、寿命を迎えるという説だ。
それに対して、寿命に関連した遺伝子があるという考えもある。
その遺伝子が変化すると老化し、寿命を迎えるという早期老化遺伝説だ。
つまり、寿命そのものが特定の遺伝子に書き込まれている、という考えだ。
きちんとした働きを持っている遺伝子が突然変異を起こすと老化が加速し
寿命が早まるという遺伝子が見つかっている。
いわば遺伝子に時計の働きがあって、時を刻んでいるというものだ。
(症例:ウェルナー症候群、プロジェリア症候群)
「第8章 いかに生きるか」
<寿命を決める複合要因>より
ヒトの寿命は、
テロメア(細胞老化)、
ミトコンドリア(酸化ストレス)、
免疫能力、
サーチュイン遺伝子、
分子修復能力、
再生能力、
そのほかに心理的な要因も重要だろうと考えられる。
こうした要因の一つひとつが総合的に寿命に関係していて、
そのすべてが満足されれば120歳という寿命を迎えることができるが、
そのうちのいずれかが欠けていくと命が尽きるという考えだ。
細胞の寿命や老化、酸化ストレスやガンなどの病気によって、長生きできる臓器もあれば、
短い寿命の臓器もあり、ヒトの個体としての寿命はその一番短いものによって決まってしまうというものだ。
「あとがき」より
細胞が老化すること、個体には寿命があることは生物学的にしくまれているということだ。
老化や寿命にはさまざまなしくみがはたらくが、細胞分裂には限界があり、それが個体の老化と寿命に関係している。
だから不老不死はないというもので、当たり前と言えば当たり前だ。
死んで当たり前なのだ。
運命に逆らうことはできないので、天命に従うことも大事だろう。
一番大事なことは、思うがままに好きなことをやって生きることだ。
好きなことをやり、残りのちょっとした時間を社会に尽くすくらいのスタンスが好きだ。
🍀「ヒトはなぜ病み、老いるのか」より
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遺伝子治療の研究が進んで、難病に苦しんでいる人々が助かるといいな、と思う反面、
色んな問題も含んでいるように感じます。
寿命がある、ということは、種を保存していくためには必要なことなのだと思いました。
動物には、それぞれ独自の「時計」がある、という話も興味深いです。
本川達雄氏の「ゾウの時間 ネズミの時間」が紹介されていたので、
機会があれば読んでみようと思います。

