枡野俊明氏著「人生のくすり箱」を読みました。
枡野氏は曹洞宗徳雄山建功寺住職、庭園デザイナーです。
この本は、枡野氏ご自身が修行から学んだことや、
人々の悩みを聞いてきた経験から処方されたくすり箱とのことです。
わかりやすく書かれていて、枡野氏の優しさが感じられます。
~ 何があなたを縛っているのですか?~ より
「知足」(ちそく)という禅語があります。
「足るを知る」という有名な言葉です。
足るを知ることは、
今置かれている状況や、今自分が持っているものを
最大限に生かしていくということなのです。
「足りない病」にかかっている人は、きっと自分の足元を
見失っているのでしょう。
自分の満足感に目を向けるのではなく、他人の満足感を
真似ようとしている。
満足感というものは他人を真似て得られるものではありません。
それは自分自身の心が生み出していくものです。
「足りない病」に効くくすりがあるとすれば、
「足るを知る」という心だと思います。
空気のように浮かんでいる世間の満足感に縛られることなく、
今の自分の足元をしっかり見据えて生きることです。
~余計なことを考えない~ より
私たちはみんな、不安の海の中を泳いでいるようなものです。
不安の海から逃れて陸に上がることができるのは、
きっと仏様になった時なのでしょう。
人生とはそういうものだと思います。
自分の意志や力が及ばないことはいくらでもある。
それが人生というものです。
そんな時は無駄に足掻いたりしないで、
その流れに身を委ねてしむことも大事です。
「任運自在」(にんうんじざい)という禅語があります。
世の中のすべてのことは、大きな流れによって動いている。
その流れに逆らうことは誰にもできない。
自然に身を任せて生きること。
運という大きな流れに身を委ねることを説いた言葉です。
~執着する心を捨てる~ より
歳を取るとともに、できないことがどんどん増えてきます。
「できないもの探し」が始まると、心は不安に包まれてしまいます。
「できるか、できないか」という考え方ではなく、
「やりたいか、やりたくないか」という発想に物事を考えることです。
今日という日の中に、楽しみの種を見つけながら生きていくこと。
それが豊かに歳を取るということなのです。
過去の自分にも未来の自分にも執着しないこと。
それが人生を生きやすくするくすりなのです。
人間を不安や寂しさを救ってくれるもの。
それは個々人が培ってきた人生の知恵しかないのです。
歳を重ねることはマイナスではありません。
それは知恵が蓄積されることでもあるのです。
もしも将来への不安を抱えているのなら、
それをどうこうしようとするのではなく、
知恵を重ねる努力をすること。
その努力とはすなわち、
今を一生懸命に生きることに尽きるのです。
~「人は人、自分は自分」と考えること~ より
人と関わること。
結局人間の喜びはそこにある。
誰かと関わることで、自分の存在が明確になってくる。
自分が必要とされていること。
自分が一人ではないということが実感できるのです。
誰かと関わることから比較が生まれてくる。
そう考えがちです。
しかしそれは逆です。
本当に人と関われば、比較など生まれてきません。
誰とも深く関わろうとせずに、自分の心だけで考えるから
不要な比較が生じてくるのです。
勝手に相手のことを想像し、自分にないものを探したりするのです。
誰かと比較することに苦しい思いを持っているのなら、
そこから逃げるのではなく、誰かと積極的に関わることです。
そくで初めて人は気づきます。
みんな同じような不安を抱えていることを。