長編小説「生者の行進-Still alive-」 24~断頭台と執行者~ | 「空虚ノスタルジア」

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校門を抜けたら、異様な光景が広がっていた。登校中の制服の群れ、朝練のランニングに励むジャージの集団、窓から見下ろす顔の束、全ての視線が俺に向けられる。学年もクラスも性別も関係無く、ありとあらゆる視線が、その他大勢的な俺を捉えるのだ。だが、不可解な感覚はほんの束の間、下駄箱で上履きに履き替えた時には、何が起きたか察していた。

 

だから怖かった。教室までの道程が。断頭台に立たされる罪人の心地、長い廊下は冷たく、通り過ぎる群れの数々は処刑を今か今かと待ち侘びるオーディエンスだと思った。

 

2-4のドア、開きっ放しじゃ、踏み出す躊躇など要らない。もう既に「執行者」の面は確認出来たし、廊下の途中にもこの領域に属する数名の姿があった。普段ならホームルームの鐘がならない限り、殆どの連中が不在なのに、今日に限って…いや、今日だからこそ、連中は待ち構えていた。朝練をサボってまで俺を処刑したいとは…連中には朝練以上の価値が俺にあるのだろう。

 

 

「オッス!遅かったじゃねえか。皆、お前のこと待ってたんだぜ!」

 

 

先に口火を切ったのは、不良として名高い、葛城丈。彼の言葉をきっかけにクラスメイト…いや、執行者達はハロウィンの仮装パレードみたいに湧き上がった。俺を取り囲み、教壇へ強制連行すれば、葛城丈は「皆、知ってると思うが一応、言っとくぜ。コイツは昨日の放課後、大樹に告白しました~」と嘲笑し、あちこちから喚きが飛び交う。

 

「変態」だの「キモい」だの「その勇気っつーか、無謀さだけは称えてやるよ」だの…思い返せばキリが無い。だが、そんな罵声さえ霞ませたのは、窓際に立つ大樹の姿だった。部活仲間の数人とともに軽蔑を織込んだ嘲笑を向ける。

 

 

「だけど残念だったな。お前の大好きな大樹はその日のうちに拡散しちゃったぜ」

 

 

葛城丈の掲げたスマホにはSNSの画面が表示されていた。

 

「拓斗にカミングアウトされて告られた。マジ気分最悪」

「あんな奴と友達だったとか…有り得ないっての」

「言っとくけど俺はホモじゃねーからな。こっちは被害者だ」

 

大樹の呟きはまだまだ続くようだが、それ以上を確かめることなど出来やしない。俺は思わず、廊下へ逃げようとした。だけど、執行者達が許す筈も無く、あっさり捕まると、再び教壇の上に立たされた。廊下には別の領域の者達が列を成し、奇妙な生命体を発見したかのようにカメラを向ける。

 

無名な俺が一躍時の人。絶望を通り越して、笑いと皮肉が込み上げた。

 

 

 

「…ちゃん…タ~ちゃん!」

「…ん、うぅ…」

 

 

朝陽の眩しさより、玲奈の呼び掛けより、真っ先に感じたのは顔から足の裏に至るまで噴き上げた尋常じゃない汗。乾き切る事も無く、滴がダラダラと垂れ、フローリングは失禁したかのように湿り気を帯びる。玲奈が不安気に揺さぶったのも無理はない。

 

 

「大丈夫?具合でも悪いの?」

「…何でも無い」

 

 

とりあえず起き上がろうとした。だが、さすがにこの状況下の「何でも無い」は無理があったらしく、玲奈の「うなされてたよ。やめろ、やめてくれ、って」という指摘に俺は認めるしか無かった。過去に縛られ続ける不様な現在を。

 

 

「タ~ちゃん…」

「分かっただろ?昔とは違う、俺とは関わらない方がいい。汗を流してくる」

 

 

正直、怖かった。いずれは玲奈さえも壊してしまう気がして。

いや…詭弁だ。俺はただ、自分がこれ以上狂いたくないだけなのだ。結局は自己保身に傾く愚かしい存在。「汗を流してくる」、それもまた口実、この場から逃げ出すための言い訳に過ぎない。

 

 

空想の中、熱い飛沫を帯びながら、俺はまた大樹を殺す。一時的な抑制さえ抱けないと知っていても、いつだって空想はアイツに刃を向ける。鋭利な刃物を振り翳しても、鈍器のようなものをぶつけても、毒を盛ったって足りやしない。

 

 

「死んでも、お前を許さねえ」

 

 

壁に叩き付けた拳の痛みすら憎悪に捧ぐ。狂ってしまった時計は2度と正確な時を刻まない、そんなことを言い聞かせながら…

 

 

 

(続く)

 

 

 

 

 

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