病院から、一カ月くらい前に途中まで書いてメモに残していた記事をまとめてアップします。今日は楽器の話。めちゃ長いので注意!



みなさんお久しぶりです!今日も朝から奏の森。薪割りをコンテナに二つ分割ってから、サックスの練習。


相棒は手に入れてから四年半になるキングのシルバーソニック41万番代。この楽器との出逢いはとても面白いストーリーでした。ちょっと書きます。


キングのスーパー20シルバーソニック。チャーリーパーカーとキャノンボールアダレイの二大巨頭が使っていた伝説の名器と言われる楽器。ネックとベルが純銀製で、今では平気で100万円を超えるアメリカンセルマーのマーク6が売られていた当時は、新品のマーク6よりも中古のシルバーソニックの方が高かったという話。それだけ高かったにも関わらず、キングのシルバーソニックは売れば売るほど赤字になってしまうコストのかかりまくる楽器だったらしい。初期のモデルはフルパールといって指が当たる部分にすべてに貝が入っていたり、シルバーのベルの上に金の装飾が入っていたりの豪華仕様で、あとネックがダブルソケットだったりして、パーカーとキャノンボールが使ったのはその初期のモデル。ただ、その時代のものはもうまず手に入らないし、もしあったとしてもとんでもない値段になるのは間違いない。その中で状態のいいものはまず現存しないと思う。当時キングは赤字を解消するためにコストダウンをはかり、貝や金の装飾やダブルソケットのネックをやめたりと作りを簡素化していったんだけど、結局経営はうまくいかず、60年代の中ごろに工場を移転することになる。工場を移転してからのキングはそれまでとはかなり違う楽器になってしまったと聞くし、結局それも続かず、キングは今はもうない。


さて、そんなシルバーソニック。ずっと気にはなっていたけど、楽器自体見かけることもほとんどなく、ずっと試す機会はなかった。そのとき自分が使っていた楽器はセルマーの銀メッキのシリーズ2。高校時代同じサックスパートだったあやちゃんからずっと借りている楽器。マーク6を使っていた時期もあったけど、音程や音量など、自分にはどうもシリーズ2の方が合っていて、使ってきた。あとは銀の響きが自分の感覚にしっくり来ていて。ちなみに自分の使っているソプラノも、こちらはヤナギサワのシルバーソニック。こちらはサックスパートの羽柴が使っていたのを格安で譲ってもらったもの。自分にはなぜか銀の響きがしっくりくる。


2019年の7月のある朝、起きたらなぜかキングのシルバーソニックというワードが気になって仕方なくなり、ググってみた。すると検索結果に信じられないくらい状態のいいシルバーソニックの写真が。しかも、製造番台を見ると、工場が移転する直前くらいに作られた楽器。これは吹いてみたい!!値段は70万円とある。お店は名古屋のクロサワウィンド。そんなお金はもちろんないけど、とにかく試してみたくなって、すぐに家の前のバス停から名古屋に向かった。


名古屋のバスターミナルで降りると、同じバスから降りてくる外人さんが何故かアルトサックスを担いでる。なんで?と思って声をかけてみたら、奥さんの実家がある飯田に夏休みに来ていたアメリカの高校の先生だった。ジャズをやっているという話。めちゃくちゃ面白いタイミング!これからキングのシルバーソニックを見に行くんだけど、一緒に見に行かないか?と英語で話しかけると、ぜひ行きたい!となって一緒に向かった。


二人でクロサワウィンドに着いて、早速サックスコーナーへ。店からはいっすぐの中古楽器コーナーにピカピカのキングのシルバーソニックが鎮座していた。見た瞬間体の奥がドクンとした記憶がある。広い試奏室へ案内されて二人で中へ入り、お互い自分の楽器を出す。なんと彼の楽器は、セルマーのバランスドアクション。マーク6の前に作られていたこれも名器と言われている楽器。リラッカーだったけど、すごくいい音をしていた。


店員さんが楽器を持って入ってきた。まさに傷一つない、まるで新品のような状態。早速マウスピースをつけて吹いてみる。どんな音が鳴ってくれるのか?しかし、出て来た音はヤマハなんかの新品の楽器を吹いたときのような吹奏感で、期待していたほど鳴らなかった。アメリカ人の彼が吹いてもやっぱりそんな感じ。持っていったシリーズ2の方がずっと鳴る。そうかぁ、こういう感じなんだなー、とちょっと残念に思いながらしばらく吹いていたんだけど、吹いているうちになんだか音が変わってきた。吹けば吹くほどどんどん鳴るようになってくる。つまりどうやら、新品のまま一度も吹かれていなかった楽器のようだった。吹けば吹くだけ音が変わっていくので、夢中で吹き続けた。アメリカ人の彼も興奮ぎみに隣で聴いてる。


すると、試奏室に「ちょっとよろしいですか?」と店員さんがやってきた。何かな?と思ったら、「この楽器は委託販売なんですが、今ちょうど委託されているお客様が偶然いらしてて、ぜひお話をしたいとおっしゃってるんです。いかがでしょうか?」もちろん。それにしてもなんたるタイミング!その方に試奏室に入ってもらう。


話を聴いてみると、その方は無類のキング好きで、もう一台フルパールのキングを持っていて、このシルバーソニックは海外のオークションサイトで見つけて購入したけど、二つは必要ないので、委託に出している、とのこと。このシルバーソニックは、とあるコレクターの方が新品のまま所蔵していたものらしく、これ以上ないレアな状態。しかもその方、半年前に委託に出してお店に来るのがその時以来という、どう考えても運命的なタイミング。


その方は僕の音を聴いて、ぜひあなたに吹いていただきたい、とおっしゃって、値段を70万円から65万円へと値引きしてくれるという話に。こんなレアな状態のレアな楽器へのレアな出逢いは、あり得ない。しかしながらやっぱり買うお金がない。一旦店を離れました。ついてきてくれた彼にラーメンをご馳走して別れ、いつもお世話になっている名古屋在住のサックス奏者の小濱さんに相談の電話をしました。「そういえば植村楽器にもキングのシルバーソニックが出てたよ。あっちも試してみたら?」なんと同じ名古屋にもう一台シルバーソニックがあることが判明。早速向かいました。値段は75万円、番台は新しく、工場移転後のモデル。試奏させてもらいましたが、全くしっくりこず、改めてあのシルバーソニックしかないと思いました。その晩は名古屋の漫画喫茶に泊まり、翌日も試奏に行きました。やっぱり素晴らしい楽器。これはもう買うしか考えられません。


そこで母に相談の電話。ここで話しておきますが、僕は精神に障がいを持っていて、国から二級の障がい者手帳を交付されていて、2か月に一度、障がい年金が支給されています。そのお金から分割で買いたい、という相談です。40回まで分割手数料が無料とのことで、その40回で。なかなか納得してもらうのに時間がかかりましたが、なんとか了承を得て、晴れてとうとうキングのシルバーソニックのオーナーに。今ではもうその分割も終わりました。


しかしこの楽器、少し問題が。調整によって吹いた感じが全く変わってしまうんです。いろんな調整師の方にみていただいたんですが、いろいろいじってもらううちにどうも上手く鳴らなくなり、音程もうまく取れなくなり、またセルマーの銀のシリーズ2をメインに吹くようになっていました。


カナデル幸響楽団のライブやレコーディングもそちらの銀のシリーズ2でずっとやってきたんですが、去年の秋、ずっと使ってなかったキングをひさびさに吹いてみました。やっぱりこの音が好きだ!と思いましたが、音程がひどい。きちんと調整してやっぱりこの楽器を吹きたい、と思いました。


そこで浮かんだのが、名古屋で評判のアトリエKさん。ちょっと話を聞いてもらおうと電話をすると、「長野の太田さんですよね?」と、僕のことを知っていてくださいました。しかもアトリエKさんは、僕と同じくキングのスーパー20を使っていらっしゃる池田篤さんの楽器の調整をしていて、なんとその池田さんの楽器がちょうどお店にあるというのです。フルパールの時代のものですが、とてもいい調整に仕上がっているとのことで、こちらの音程の話をすると、池田さんの楽器の開きのバランスを真似て調整してくださることに。さっそく楽器を送りました。


アトリエKさん、何というかめちゃめちゃアーティスト気質の調整師さん。何度か電話をしたのですが、「どうしてもまだ真ん中のドの音色が決まらなくて。。もう数日お待ちください。」ドの音を決めるだけでも何日もかけてくださいました。最初はバランス調整くらいの予算のつもりでしたが、音色や音程に影響するタンポの交換が必要だったりと、当初の予算からは結構オーバーしましたが、それぞれ確認のお電話をいただき、納得するところまでお願いしました。


さて、何週間かして調整完了のお電話をいただき、奏の森の歩実ちゃんに付き添いをお願いし、車で名古屋へ。途中間違えて同じ愛知にある同じ名前の工房アトリエケイまで行ってしまったりしながら、到着。さっそく楽器を出していただき、マウスピースをつけて吹いてみると、うん。今までとは全く違う鳴り。持っていったセルマーの銀シリーズ2も素晴らしい楽器ですね、と誉めていただきました。実際比べて吹いてみて、改めてやっぱりこっちもいい楽器だな〜、と思いました。


さて、シリーズ2とシルバーソニックの違いなのですが、両方ともとてもいい楽器ですが、方向性は全く違う。どっちがいい楽器とか、そういうのは全くありません。まずは音色。セルマーはダーク、キングはとにかくクリア。そして音程の取り方に関していえば、セルマーは割と一つの音に一つの音程が決まっている感じなのに対して、キングは一つの音でいろんな音程が出る感じ。音色と音程の幅がとても広い感じです。つまり吹き方によっていろんな音が出る。


調整をしたシルバーソニックが戻ってきてからは、こちらばかりを吹いています。やっぱり自分のメインはこっちだな。吹くたびに新しい発見があり、いつまでも吹いていたくなります。


退院して、はやくまた練習したいです!長々とお付き合いいただき、ありがとうございました。