「船頭くん、悪いが飲むのはまたにしてくれないか。この人と二人になりたいのだ。」
「へぇ~、先生もスミに置けないっすね!へへへ!では、さいなら~。」
何を勘違いしているのだ。
船頭が出ていくのを見送ると、俺は魚座の黄金聖闘士のほうに向き直った。
「まあ、どうぞお座りください。いまちょうど、酒盛りの準備をしていたんです。よかったら、いかがですか。」
「ケフェウス座のダイダロス…貴様は自分がどんな立場に置かれているのか、わかっていないようだな…」
「わかっていますよ。でも何も急ぐことはない。酒でも飲みながら、ゆっくり話でも…」
おもむろに、魚座の黄金聖闘士が赤い薔薇を口にくわえた。
キザだな。
「あいにく、私にはそんな時間などないのだよ。」
う!?
薔薇くわえながら、しゃべってる!
「聖域から抹殺命令が出ている貴様と話すことなど何もない。ひと思いに楽にしてやる…」
「だから、そんなに急がなくても。お互い、話し合えばわかりあえるかもしれないじゃないですか。私は知りたいんですよ、あなたという人を。趣味はなんですか?日曜日は何して過ごしてます?」
「音楽鑑賞だ。って、そんなことを聞いて何の意味がある?いいから早く、聖衣を着用したまえ。」
「いや~、実は、聖衣、ないんですよ。ちょっとしたアクシデントで壊れてしまって…それより、薔薇をくわえながらどうやって喋ってるんです?そこがいちばん気になるな。」
「貴様はふざけているのか?最早、問答は無用だ。死ね、ダイダロス。」
魚座の聖闘士が、無数の紅い薔薇を放った。
俺は風をおこし、その薔薇をすべて蹴散らした。
「俺だって、そう簡単にやられるわけにはいかない。俺には守るべき者たちがいるんだ。」
魚座の聖闘士がくっくっと笑う。
「守るべきもの?女神か?」
「女神…まあ、それもあるが…それよりもっと俺にとって大切なものだ。もう俺よりも強いかもしれないな…でも、あの子たちは俺が死んだら悲しむ。あの子たちに悲しい思いはさせたくない。だから俺は死ねない。」
「女神より大切なものだと…貴様、よくそれで聖闘士が務まるな。」
「オイオイ、あなたが言うか?」
「私にツッコミなど、100年早いわ!」
今度は黒薔薇が飛んできて、俺の身体を傷つける。
いて!いてて!
「俺にとって一番大切なものは、家族だ…瞬にも抹殺命令が出ているのなら、阻止せねば…」
しかし、やはり黄金聖闘士だ。
聖衣を着けていないこともあり、もう俺は限界かもしれない。
「フッ。家族などと甘いことを…いいか、最期だから教えてやろう。力こそ正義なのだよ。そんな小さなものなど大きな力の前ではなんの意味も持たん。」
「なるほど、そういう考えもあるかもしれない…だが、俺は、どんなにちっぽけでも、瞬やジュネを守りたい…」
「その瞬とやらも、この私が引導を渡してやろう。ありがたく思えよ。受けよ!ブラッディローズ!」
一本の白薔薇が、俺の心臓に突き刺さる。
ぷすっ。
結局、俺はお前たちを守れないまま死んでしまうのか。
カッコ悪!