智也にはいつもたくさんの女性の影があった
誰でも知ってる芸能人から大手企業の令嬢まで
智也が誘うというよりは女性の方から積極的に寄ってくる
智也のストライクゾーンはすごく広くて見た目とかもあまり関係なく誘われれば断ることはしない
そんな智也の女関係に私はいつも苦しくて相手の女に電話をかけて撃退したり、あれこれやった
女関係だけならまだしも智也は競馬もパチンコも好きで消費者金融からお金を借りていた
今思えば私は滑稽だった
智也の浮気相手の家まで行ったり、数百万の借金を肩代わりしたり、電話がつながらなければなん百回でもかけなおした
智也を独占したい、そのころには好きかどうかもわからなくなっていた
執着なのか、自分を止められなかった
智也の悪いところは根っからのワルではないところ
女性をだますつもりはないし、傷つける気はないし、反省もする
ただ、心の弱い部分が変わることはないのだ
智也は変わらなかったけど、私は変わっていった
私たちの関係に終わりを感じ始めたのはみかねた両親が駐在先の東南アジアに長期休みを取ってくるように言ってくれたころからだ
初めて訪れるバンコクは活気と刺激にあふれていた
私はバンコクに夢中になったし、そこで出会った小松と名乗る男性に興味を持つようになった
それまでは休みの度に行く感じだったがある日私は仕事も智也も捨てて日本を後にした
それが智也との最後だ
実はそのあと智也も私を追ってバンコクに来たがもう以前のように智也に興味を持つことができなかった
長く苦しかった恋はようやく終わった
でも智也を心底憎む気持ちはない
むしろ智也との出会いは私を大きく成長させてくれた
男を選ぶとき一番大切なものはなにか、それは心が安定していること
心が強く安定していれば女性関係やギャンブルなどにつけこまれたりしない
自分がどういう人間でありたいか、どう生きたいか、確固たるものを持っていれば、おのずとまっすぐ道を進んでいける
智也は家庭環境にも問題があった
母親は宗教にどっぷりはまっていたし、父親は早くに亡くなった
いたずらに外見が良かったために何をしても女性に守られてきた
能力の伴わない外見の良さは悪だと思った
私は男友達がいない男性を信用しない
女性は外見を見るけど男性同士に外見など全く関係ない
男友達がいないということは中身(人間性)が✖ということ
五十路の声を聞いて苦しかった恋もただ遠く懐かしい思い出だ
それに智也との恋は強烈ではあったけど私の人生の最高の恋ではない、たくさんの恋の一つに過ぎない
今でも思い出すだけで心が満たされる、再燃することはなくても相手の幸せも願って止まない、それは櫂との恋以外他にない