“愛里跨(ありか)の恋愛スイッチ小説(星之くん編56)” | 愛里跨の恋愛スイッチ小説ブログ

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56、溢れでる恋情




あれから、俺達の日常は平穏に過ぎていった。
『四人で会おう』という話は、
皆でゲームをする機会が少なくなったせいか。
それとも、それぞれのすべきことに追われ、
時間に余裕がないからなのか、未だなされていない。
彩とは、定期的に連絡を取って食事に行ったり、
電話で互いの近況報告をしている。
けれど、美羽さんとはあれ以来まったく話していない。



それだけでなく、
仕事でなると別行動が増えたのもあって、
彼ともゆっくり話す時間も少なくなっている。
一緒に過ごす時間は平日の夜だけ。
なるは相変わらず男性モデルの撮影に勤しみ、
かなり充実しているようだ。
そして俺はというと、新たなスケジュールに入り、
流偉さんとバディを組むことになった。
尊敬する彼と一緒に撮影し作品を作り上げる。
それはとても光栄で、願ってもない機会。
だけど何故か物足りないような、
寒々しい空洞にひとり取り残されたような、
何ともつかみどころのない感情が胸をくすぶっている。








季節は移り変わり、
気がつけば部屋のカレンダーは師走になっていった。
今日は静岡で撮影を終えた後、
臨時で華月先生の仕事をすることになり、
本社に帰る前に流偉さんとアモールに立ち寄る。
そして、俺達が来ることを知っていたのか、
涼火から「おまえに話がある」と重いメールが届く。






流偉「せのさん、涼火の用事があるんでしょう?」
星之「え、ええ。なんなんだろう、あいつ。
  話があるなら電話でもできるのに」
流偉「ツンデレの彼だからきっと、
  せのさんに何か頼みたいことでもあるんじゃないですか?」
星之「ツンデレって。いつもゲームやってる仲なのに」
流偉「ふふっ。それはそれですよ。
  華月先生への書類は僕が提出してきますよ。
  涼火のお相手、楽しんできてください」
星之「ありがとうございます。
  ではお言葉甘えて、よろしくお願いします」
流偉「はい。君が私に甘えてくれるのは大歓迎ですよ。
  あぁ、そうだ。
  ついでに華月先生に報告することもあるので、
  少し時間がかかるかもしれません。
  どこか別の場所で待ち合わせますか?」
星之「だったら。
  涼火との待ち合わせが地下の図書室なんでそこにしましょう。
  それなら行き違いになることもないし、
  時間も気にしなくていいですよ」
流偉「承知しました。それでは、いってきますね」
星之「はい。後ほど」




俺は回廊入口で流偉さんと分かれて、
エレベーターで地下一階に向かった。
扉を開けると海外映画のワンシーンにあるような、
レトロ感漂うが図書室が現れ、左右には本棚がずらっと並んでいる。
華月先生や神道社長たちが世界中から集めたお宝コレクションを含め、
世界中の精神科関連の書籍がここには眠っている。
ドアノブを回しここへ入るのは何時ぐらいぶりだろう。
まだ美羽さんがこの施設に入所し、茉がこの世に存在していた頃。
ここで彼女達と出会い、いろんな話をした。
多重人格という実態を知ったのもこの場所だった。
俺は「懐かしいな」とポツリつぶやいて、
図書室の奥中央に設置してある、
ダークブラウンの木製置時計の前で足を止める。
揺れ動く振り子をじっと目で追い、あの時の柔いな美羽さんを、
そして対照的でアグレッシブな茉を思い出し、俺は深く目を閉じた。
あの頃と何ら変わらない静かな空間が、
明らかに変わった俺と彼女達の現状を浮き彫りにさせる。
あまりのギャップに胸が痛くなりくらくらする。
すると負の感情をかき消すように、
背後から足音がして徐々にこちらへ近づいてくる。
そして「待たせたな」と野太い涼火の声が聞こえて、
俺は安堵するようにゆっくりと後ろを振り返った。





星之「ああ。涼火、お疲れさん」
涼火「どうした。顔色が悪いぞ」
星之「い、いや。なんでもない」
涼火「ははん。さては、痛き恋路に浸ってたか?」
星之「ふっ。よせよ。
  この空間に顔色が悪くなるまで浸るほどの想い出はない」
涼火「そうか?
  俺の両目がとらえたのは、
  全身全霊で耐えられないと訴えるくらい、
  哀愁漂う背中だったけどな」
星之「ふっ。……だったら、そういうことにしておこう」
涼火「そうだ。それでいい」
星之「ところで、話って何だ。
  昨日もゲームチャットで話してたのに」
涼火「ああ。そうだったな。
  まあ、座って話そう」
星之「分かった」





涼火からすーっと笑みが消えて、
急に改まると椅子に座わり、
テーブルに一枚の白い封筒を置いて俺の前に差し出した。
明らかに誰かが書いた手紙なのだろうと察しながら、
俺も涼火を直視しながら向かい合わせに腰かける。



星之「これは?誰の?」
涼火「……ずっと悩んでいたんだ。
  この存在を明かすべきか」
星之「悩むって」
涼火「これは、ある人物から預かったものだ。
  おまえに渡してほしいと」
星之「……えっ」
涼火「でも当時の俺は、そんな厄介なことを頼まれるのも、
  預かって手元に置いておくのも嫌だった。
  『お断りだ』と何度も本人に突き返したくらいだ。
  そして受け取ったって絶対に渡すものかと思っていた。
  だからずっとデスクの引き出しの奥にしまっていた。
  あいつはなんで俺に託した。
  自分で渡せばいいじゃないか。
  俺じゃなくても、他の誰かに頼めたはずなのに。
  俺だっておまえを心から愛していたのに何故だって、
  ただただ醜い己の感情が最優先だった」
星之「(この手紙って、美羽さん……いや。まさか!)」
涼火「嫉妬、憎悪、そして羨望。
  どうして俺じゃなく、せのなんだと、
  会えなくなってからも何度も何度も問い質した。
  いっそのこと破り捨てて、
  存在そのものをなかったことにしようとも考えた。
  ある時は思い切って封を切り、読んでしまおうかとも思ったさ。
  でも流石にそれは、非人道的行為で正当な理由もない。
  信書開封罪だ……あまりに自分が惨めすぎる」
星之「……」
涼火「でもな。
  あいつがこの世から居なくなって、
  時が経つにつれて、これじゃあいけないと思うようになった。
  しかも今ではおまえとゲームをやるようになって、
  今まで見えなかったおまえの良さも知った。
  あいつが愛して慕っていた意味も徐々に実感してきた」
星之「涼火」
涼火「それに、美羽がだんだん良くなっていく様を見て、
  『ああ、もういいか』って自然に思えてさ。
  だから今日まで時間がかかって申し訳なかったが、
  茉からおまえ宛ての手紙だ。受け取ってくれ」
星之「……本当に、いいのか?」
涼火「いいも何も。元々おまえ宛てだ」
星之「涼火……ありがとう。
  それに今まで辛い思いをさせて、本当にす」
涼火「おっと!謝るなよ。
  おまえに謝られると、余計に惨めになる。
  俺がフッてやった女をおまえに恵んでやったんだって、
  少しくらいは浸らせてくれ」
星之「ふっ。ああ。そうだな」



俺は軽く頭を下げて、テーブルの上に置かれた手紙を受け取り、
バッグに入れるとバツの悪そうな涼火を見る。
俺は茉の部屋を訪問した時に起きた出来事を思い返し、
独り言にも似た口調で言葉を続けた。



星之「涼火……俺も茉に、フラれたんだ。
  いや、違うな。

  嫌われたといったほうがいい」
涼火「はぁ?
  茉からはおまえからフラれたと聞いたぞ」
星之「彼女は優しいから、そう言ったんだろう」
涼火「ふむ」
星之「クリスマスの前、
  プレゼントを渡すのを口実にして彼女と会った。
  美羽さんの統合治療に協力させるために。
  俺は茉に酷いことを、人として最低なことをした。
  彼女を愛していると言いながら、
  この世でいちばん大切なのはなるだと暴露して。
  そして俺は無理矢理に……
  その後の流れは涼火も知ってるだろ」
涼火「ふーん。最低ね。
  それは最低と言えることなのか?」
星之「えっ」
涼火「本当に最低なことをやったやつは、
  大抵自分から『最低』とは言わないし、微塵も思っていない。
  自分を正当化して相手を悪者にしてもな」
星之「だったら涼火も当てはまるな」
涼火「ふん。変な気を遣うなよ。
  俺は自分が最低な男だと自覚してる。
  そうか……茉のことではおまえも、葛藤があったんだな」
星之「あったよ。毎日だ。
  どうして茉は心だけで実体がないんだと。
  いつも想像してた。
  どんな容姿で、どんな仕事をしていて、
  どんな私生活を送っているんだろうってね」
涼火「そういうの、俺にはなかったんだなよな。
  毎日顔を突き合わせて仕事していると、
  確かに見た目は美羽だけど、27歳の茉が居て、
  22歳のタクや19歳のタカトが居て、
    それぞれに書類整理やパソコン作業をしている。
  声も喋り方も仕草も皆それぞれに違うんだよ。
  それが俺の日常だったんだ」
星之「そうだったんだな。
  俺はこの不可解な感情や葛藤を、
  どう解消すればいいかって必死だったよ。
  それは彩や流偉さんにもあったらしいけどな」
涼火「流偉も、か」
流偉「あったよ、私にも。毎日葛藤がね」



突然答えた声に驚いた俺と涼火は、
同時に図書室の入口から歩いてくる流偉さんを見入った。
爽やかな笑みを浮かべてこちらに近づいて涼火の横に腰かけた。




星之「流偉さん!」
涼火「なんだ、立ち聞きか!
  悪趣味だなー。
  てめー、いつから聞いてた!」
流偉「だって。ここ静かだからね、いやでも聞こえるよ。
  それに聞いたっていいじゃないか。
  興味あることには何でも首を突っ込みたいでしょう?」
涼火「しかもイラつくくらい爽快な顔してるんだよなー。
  おい、俺達を茶化してんのか?」
流偉「ううん。
  茶化してるんじゃなくて、心から喜んでいるんだよ」
涼火「喜ぶって何だよ」
流偉「だって。
  かつてライバル視していがみ合ってた涼火とせのさんが、
  今は昔を懐かしみながら、お互いに古傷を舐め合うって美しい。
  男の友情って本当に素敵だわー」
涼火「あぁ。始まった」
星之「流偉さん、すみません。
  タカトさんのこと、思い出させてしまって」
流偉「全然大丈夫ですよ。
  お互いに葛藤の末に掴んだ幸せがあるんだし。
  それよりもう用事は済んだ?二人とも。
  まさかお邪魔だったかしら」
涼火「おお。お邪魔だ」
星之「涼火。
  全然、邪魔ないですよ。
  用事も済みましたしね。
  なっ、涼火」
涼火「ふん」
流偉「だったらいいんだけど。
  じゃあ、そろそろ本社に戻りましょうか」
星之「はい」
流偉「ねえ、涼火」
涼火「は?」
流偉「あなた、最高にいい男ね」
涼火「はぁ!?わけわかんないこと言ってんな!
  とっとと本社に帰りやがれ」
流偉「ほんと、照れちゃって可愛いんだから。
  せのさん、行きましょう」
星之「はい。じゃあ、涼火。またな」
涼火「ああ。お、おい、せの」
星之「ん?なんだ」
涼火「今夜はどうする。インするか?」
星之「ああ。いいよ。
  じゃあ、22時半スタートで」
涼火「OK。じゃあ、ウォーリアの冒険者ギルド前で待ってるよ」
星之「了解した」
流偉「そういうことなら、私も久しぶりに参加していい?」
涼火「ふん。勝手にしろ」
星之「もちろんです。
  じゃあ、さっさと仕事を済ませて帰りましょう」
流偉「承知しました」
涼火「二人とも気をつけてな」
星之「ありがとう。では後ほど」




身も心も幸福感に包まれる。
こんなに自然体でほっこりとした日常や会話ができるなんて、
あの頃は微塵も思っていなかった。
こんな光景を茉が見たら何て言うだろう。
きっとお腹を抱えて笑っているだろうな。
そんな思いを笑顔に変えて俺はエントランスへと向かう。
その後、俺と流偉さんは本社に戻り、
早々に仕事を片付けて家路についた。









マンションに戻るとまだなるは帰ってはいなかった。
コンビニ袋をローテーブルに置き、
バッグからスマホを取り出して着信を確認する。
すると一件、なるからメールが入っていた。
内容は「今夜は遅くなるから先に休んでて」と。
俺は返信した後、シャワールームに向かった。



リビングの時計を見ると21時前だ。
風呂から上がって半渇きの髪のまま、  
俺はドスンとソファに身を預ける。 
コンビニ袋から鮭にぎりとお茶を取り、
ご飯を頬張りながらノートパソコンを開いて準備をする。
すると何かの反動で倒れたビジネスバッグから、
涼火から渡された白い封筒が飛び出した。
まるで『私を忘れないで』というように。
俺はぼんやりとそれを眺めていたが、
ゆっくりと拾いあげてテーブルに置いた。



まだなるは帰ってこない。
読むなら今が絶好の機会かもしれない。
しかし俺は読んた後、動揺しないだろうか。
一時間半後に、
涼火と流偉さんと会話しながらゲームをする約束。
勘の鋭い二人に気づかれず、
何事もなかったようにいつも通りプレイできるのか。
それとも日を改めて一人になれる場所で読むべきか。
それは何時……
悶々と考えながらおにぎりとお茶を交互に運ぶ。
その繰り返しが10分は続いただろう。
1リットルのペットボトルに残ったお茶を、
一気に飲み干した俺は、ゆっくりと白い封筒を手に取った。
そしてローテーブルのペン立てからカッターを出し、
躊躇うことなく封を切る。
すると開いたと同時に、
ジューシーなマンダリンとローズの香りがふわっと漂ってきた。
いつも茉がつけていた香水。
見た目はセクシーガール、
だけどちょっとだけ背伸びした少女のような無邪気さがある。
そんなことを想像させ、心まるごど引き付ける香りだ。
俺は沸々と沸きあがてくる茉への恋情を抑えきれず、
封筒から便箋を取り出し広げた。






(続く)




この物語はフィクションです。
実在の人物や団体などとは関係ありません。

 


 

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