“愛里跨(ありか)の恋愛スイッチ小説(柚子葉ちゃん編35)” | 愛里跨の恋愛スイッチ小説ブログ

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35、白歴史VS黒歴史



包み隠さず全てを雄弁に話した萄真さんに感化された私。
彼はとてもスッキリした表情をしている。
けれど、その目は薄っすらと涙も浮かんでいた。
抱え続ける黒歴史に、克服すべき試練に、
今度こそ立ち向かっていける。
今までかかっていた靄が、ゆっくりと晴れていくのを感じて、
私は安堵の胸を撫でおろした。
すると杏樹さんが肩を優しくポンポンと叩く。




杏樹 「次は柚子葉さんの番よ」
柚子葉「そうだった」
杏樹 「大丈夫?話せそう?」
柚子葉「私、トーク得意じゃないし、
   萄真のようには話せないかも。
   自分の感情を上手く伝えられるかな」
杏樹 「柚子葉さん。
   自己紹介の時、瀬戸口くんが言ってたじゃない。
   『ありのままでいい。
   格好良くしゃべろうとか、
   もっともらしい事言おうとか、
   みんなに好かれようとか考えずに、
   真実をありのまま話せばいい』って」
柑太 「そうだよ、柚子葉さん。
   ありのままの君でいいんだから」
柚子葉「う、うん」
萄真 「……」




私は何も言わない萄真さんが気になって一瞥した。
しかしその表情はとても穏やかで、
心の中に灯りがともるような安心をくれる。
彼の視線に温かさを感じた私は、
目を閉じると大きく深呼吸をして口を開いた。



柚子葉「上手く話せる自信はないけど……
   2番、岡留柚子葉。トーク始めます」
杏樹 「頑張れ」
柚子葉「うん。
   これまで私が生きていた人生は、
   はっきり言ってほとんど黒歴史です。
   両親の離婚に、これまで傍に居た母との、
   逃げ出したくなるような荒んだ生活」
杏樹 「柚子葉さん」
柚子葉「その黒歴史の内容は萄真も、
   柑太さんも杏樹さんも知ってます。
   そして今もその黒い影は、
   私が大切に思う人達まで巻き込もうとしてる」
柑太 「(柚子葉さん。
   本当は思い出すのも、辛いんだろうな)」
柚子葉「でも。それが今日、黒歴史から白歴史に、
   少しずつだけど変わろうとしてるって……
   私はそう感じてます」   
萄真 「柚子葉」
柚子葉「だから今から、
   誰にも話していないもう一つの黒歴史を話します」
萄真 「(君が何を話しても、俺は全て受け止めるよ)」
柚子葉「高校二年の春の出来事で、私の勘違いから始まって、
   つい最近まで自分自身を苦しめるキッカケになったこと。
   私はいつものように登校して教室に入って、
   窓際にある自分の席に座って、クラスメイトとおしゃべりしてたの。
   窓からは隣接する一年生校舎の教室が見えるんだけど、
   その日も何気なく外を見ていたのね。
   その時に二階のある教室の、一番後ろの窓際の席で、
   本を読んでいる男子に目が留まったの。
   始めは意識なんてしてなかった。
   でもいつの間にか、自然と彼の姿を探すようになった。
   授業中も、休み時間も、姿が見えない時は、
   『あぁ、今は体育の時間なんだろうな』って思ったり。
   毎日彼を見ているうちに、
   私の中でどんな人なんだろうって考えるようになって。
   私も本棚に眠ってた文庫本を持ち出して、
   同じように本を読むふりしながらその男子を見てた」






柚子葉「それが一ヶ月は続いたかな。
   でもある日、その男子もこちらを見ているのに気がついて、
   教科書から視線を外して彼を見ると、彼もじっとこちらを見てる。
   そしたら手を振ってくれて、私には微笑んでいるように見えた。
   それからは毎日、手を振ってくれるその男子に、
   手を振り返す日々が始まったのね」
柑太 「なんか。青春だなー」
杏樹 「増川さん。しっ!」
柑太 「おっと、ごめん」
柚子葉「二週間経った頃、
   彼に手を振ってるところを、私の前席の女子に見つかってしまって、
   休憩時間や昼休みになるとその子も窓の外を見るようになった。
   それからはなんだか周りの目を意識しちゃって、
   彼が手を振ってくれても、振り返せなくなってしまったの。
   数日して、前席の子、茉奈ちゃんが話しかけてきた。
   そして、私にあることを教えてくれたの。
   あの男子は剛田くんだよって」
萄真 「剛田……」



校舎


(柚子葉の回想シーン)
 
  

茉奈 「柚子葉っちさ。
   いつも一番端のクラスの男子に手振ってるでしょ」
柚子葉「えっ」
茉奈 「誤魔化しても駄目だよ」
柚子葉「そ、そう、だね」
茉奈 「じゃあ、仲間じゃん」
柚子葉「仲間?」
茉奈 「あの教室は一年C組だよ」
柚子葉「茉奈ちゃん、知ってるの?」
茉奈 「うちの彼氏、あのクラスだもん」 
柚子葉「へ、へーっ。彼氏、いるんだ」  
茉奈 「うん。いるよ。
   中二の時から付き合ってるもん」
柚子葉「ち、中学から」
茉奈 「それに、一番後ろの席に座ってる男子、
   剛田くんって言うんだよ」
柚子葉「茉奈ちゃん、名前知ってるの!?」
茉奈 「しーっ。声がでかい」
柚子葉「ご、ごめん。
   仲間ってもしかして、
   茉奈ちゃんの彼氏ってあの男子?」
茉奈 「違う違う。
   うちの彼氏はあんな美形じゃない。
   うちの彼氏は、あの美形くんの前の前の席。
   うちらもよく手を振り合ってるから、
   それで仲間って言ったんだよ」
柚子葉「そ、そういうこと」
茉奈 「柚子葉っちさ。剛田くんのこと好きなの?」
柚子葉「はい!?
   す、好きとか、全然知らない男子だし。
   たまたま窓の外、見てただけで」
茉奈 「毎日手振ってるのに?見てるだけ?ふーん」
柚子葉「やっぱ。誤魔化せぬかぁ……」
茉奈 「美形くんのことすごく気になってるみたいだから、
   柚子葉っちに剛田くんのこと教えてあげるよ」
柚子葉「えっ」
茉奈 「クラブは剣道部。
   うちの彼氏、大田智輝っていうんだけど、
   智輝も剣道部だから仲いいみたいなんだ」
柚子葉「そ、そうなんだ」
茉奈 「剛田くんの下の名前、なんて言ってたっけかなー。
   ごめん。すぐに出てこないや。
   それで、剛田くんには二つ上のお兄さんがいて、
   空手か居合道か何かの格闘技大会で、優勝したって聞いたことがある」
柚子葉「剣道部、か」
茉奈 「そんなに気になるなら放課後、剣道場に行ってみれば?
   すごーく近くでなま剛田くん見れるよ」
柚子葉「やだな。
   その言い方、なんかいやらしく聞こえるよ。
   私は、い、行かないわよ。
   別に好きでも、何でもないし」
茉奈 「ふーん。
   あのさ。これ、うちのクラスの女子情報だけど。
   剛田くんってかなりモテるらしいし、
   このクラスにも狙ってる子何人かいるみたいだよ。
   意地張ってるとすぐに誰かに取られちゃうよ」
柚子葉「えっ……」



それはとてもあどけなく、でも心にずっと宿るような切ない思い。
茉奈ちゃんが背中を押してくれたせいか、
私は彼のことがもっと気になって、
この日の放課後、剣道場に行ってみることにした。
中庭を通り、人目を避けて道場裏に回った私は、
少し空いた掃き出し窓からこっそりと覗いた。
するとそこに剣道着姿の剛田くんが居て、
被っていた面を取って汗を拭いている。
私はドキドキしながら暫く見つめてた。

 

 

 


その姿は高校一年生とは思えないほど凛々しくて、
読書をしている彼とは全く別人に見える。
頬が火照り胸がどきついて、そんな自分に戸惑いを感じてると、
剣道部員が数名道場に入ってきて「明義ー」と声を掛けた。
私はその時やっと、彼の名前を知った。
それからの私の学校生活は、音楽部の活動をしながら、
その合間に窓辺に座って本を読む明義くんと、
剣道の練習をする明義くん、二つの彼を見つめる日々。
でも勇気がなくて、一度も彼に声は掛けられなかった。




二学期が始まって、
転校した子の後釜で生徒会に所属することになって、
文化祭の実行委員でもあった私は元カレ貴義と出会う。
苗字を聞いても始めはピンとこなかった。
貴義ともルックスも性格も似てないし、
まさか彼が明義くんのお兄さんだとは気がつかなかった。



ある日の放課後。
呼び出された親友の桃奈から、
好きな人が居てたった今、その男子に告ってきたと聞かされる。
剣道場の裏で、ラブレターとハンドメイドの道衣袋を渡したと。
私はこの時、彼女が明義くんに告ったと勘違いした。
その日から彼を見つめるのを止めて、
ルーティンを奪われて気力もなくし抜け殻状態だった。
それとは対照的に、桃奈は彼の話をしたくてうずうずしてる様子で、
クラスは違ってたのに私のクラスに頻繁にやってきた。
その度に詳細を話したそうにしている。
でも私は、二人の話しなんて聞きたくなくて、
何かと理由をつけて誤魔化し避けていた。



一週間くらいは何もかもがつまらなく感じて、惰性で過ごていたと思う。
けれど文化祭が近づくにつれて、催し物である音楽部のライブ練習と、
実行委員の活動で帰りが夜になることが多くなる。
作業を終えて疲れて足取りも重くて、
薄暗い下足場から外に出ると、貴義が私を待っていた。
そして「付き合ってほしい」といきなりの告白。
暫くは放心状態だったけれど、好きとか嫌いとか、
嬉しいとか迷惑とか、これといった感情が全く湧いてこない。
でも……
桃奈が明義くんに告る場面がふと頭の隅をよぎって、
寂しさと辛さが急に押し寄せてきた。
私はそんな滅入る気持ちを振り切りたくて、
貴義に「いいよ」と返事した。







文化祭の前日。
音楽室で一人、課題曲の練習をしていると、
ゆっくりとドアが開いて一人の男子生徒が入ってきた。
始めはピアノを弾くのに夢中で、それが誰なのか分からなかったけど、
彼の姿を見て、鍵盤を叩く指をピタッと止める。


柚子葉「(なんで……
   なんでここに、剛田くんが居るの)」
明義 「練習中にごめん。
   2年A組の岡留柚子葉さんだよね」
柚子葉「そ、そうだけど」
明義 「僕は1年C組の剛田明義」
柚子葉「あ、あの。
   初対面なのに、どうして私の名前、知ってるの」
明義 「智輝の彼女、あぁ、石倉茉菜さんから、
   貴女のことをいろいろ聞いた。
   音楽部に所属してるから今日はライブ練習してるって」
柚子葉「(茉菜ちゃんが明義くんに話した!?
   でも。なんで桃奈からじゃなく……茉菜ちゃん?)」
明義 「それと兄さんからも聞いた。
   貴女と付き合ってるって」
柚子葉「お兄さん?」
明義 「剛田貴義は、僕の兄さん」
柚子葉「……」


咎めるような視線。
明義くんはつかみどころのない傷心に突き動かされていたのか、
初めて面と向かう私にストレートな言葉を投げかける。



明義 「兄さんが好きなの?」
柚子葉「えっ」
明義 「付き合うってそういうことだよね」
柚子葉「……」
明義 「まさか、好きでもないのにOKしたわけ?」
柚子葉「そ、それは……」
明義 「それに、初対面って。
   まぁ、こんなに間近で会うのは初めてだけどさ。
   僕はずっと、窓際の席で本を読んでる貴女を見てたんだよ。
   僕のこと、気づいてたよね」
柚子葉「剛田くん……
   うん。気づいてたよ」
明義 「目が合ったと思ったから手を振ったら、貴女が振り返してくれて。
   気づいてくれたんだ。すげーなって。
   すごく嬉しくて、柄にもなくはしゃいじゃってさ」
柚子葉「……」
明義 「なのに。いつからか、全くこっちを見なくなって、
   手を振っても無視されて、どうしてって余計に気になった。
   それで親友の智輝に相談したら、
   彼女と同じクラスで友達だって聞いた。
   智輝に頼んで石倉さんと会って貴女のこと聞いたんだ。
   そしたら貴女も僕をずっと気に掛けてるって」
柚子葉「(私の気持ち、知られたの!?)」
明義 「これでやっと、貴女と会って話せるって思ってほっとしたよ。
   でもさ。その矢先に、兄さんから聞かされたんだ。 
   貴女に告って付き合いだしたって」
柚子葉「剛田くん。それはね」
明義 「兄さんは、やめたほうがいい。
   貴女には相応しくないよ」
柚子葉「えっ……
   何故。そんなこと言うの?」
明義 「兄さんの本性を知らないから」
柚子葉「本性。それってどういう意味、なの」
明義 「貴女が泣く姿を、僕は見たくないんだよ」
柚子葉「……」
明義 「まだ間に合う。
   兄さんとは付き合えないって、断ってくれないかな」



お兄さんである貴義を敵視し、眉根を寄せ真剣な表情をする。
彼はストレートに思いを告げてるのに、
私には桃奈とのことを聞く勇気がなくて、
険しい顔の明義さんを黙って見つめるしかなかった。



明義 「なるべく早く。
   それで兄さんと別れたら僕に教えてほしい。
   これ。僕の携帯電話の番号」
柚子葉「携帯って」
明義 「僕の用事はそれだけ」
柚子葉「……」
明義 「練習の邪魔してごめん。
   明日のライブ、頑張って。
   僕、必ず観に行くから」
柚子葉「う、うん。ありがとう」
明義 「じゃあ」
柚子葉「剛田、くん」


いきなり私に会いに来た明義さんに何も言えなかった。
貴義とのこれからもどうすればいいのか、
自分の答えが見えないまま、彼の背中を見つめてた。







柚子葉「その日の夜。
   電話してきた貴義に、
   『やっぱり付き合えない』って言ったの。
   貴義を好きなのかどうかも分からないし、
   ある人への想いを抱えたままで一緒に居ても、
   傷つけてしまうだけだって。
   そしたら彼は家までやってきて、
   恐ろしい形相で相手は誰だと問い質した。
   桃奈のこともある。
   明義さんだって、いくら兄弟でも何をされるかって、
   そのくらい激しい嫉妬の炎を感じて怖かった。
   彼は何かを察したようにいきなり、
   『相手が誰でも絶対に別れない』と私に言った。
   それで……二人を守るためには、
   この人と付き合っていくしかないと抵抗を止めたの。
   その当時の私は思ってしまったのよね。
   “惚れられたが不祥”だって。
   すべては軽はずみにOKなんかした私のせい」
柑太 「(君はそうやって、いつも自分を犠牲にして責めるんだ)」
柚子葉「貴義はその期を境に私に辛く当たるようになった。
   時に暴力を振るわれ、乱暴も、されて……
   愛情なんて、微塵も感じなかった」
萄真 「くっ……」
柚子葉「明義さんには連絡しなかった。
   渡されたメモも持っていたらいつか、
   貴義に見つかっちゃう気がして捨てちゃったから。
   そのうち彼はいろんな子と浮気するようになって、
   乱暴されては謝られ、別れては寄りが戻って、その繰り返し。
   でも。そんな無慈悲な交際を終わらせられたキッカケは、
   皮肉にも彼が母の醜態を見たから。
   『おまえもいつか、あの女みたいになるんだろうな』って。
   それが貴義の最後の言葉だった。
   切りたくて仕方がなかった黒歴史の根源同士が、
   鉢合わせてようやく一つ、終わらせることができたんだもの」
杏樹 「柚子葉さん」
柚子葉「高校卒業した翌年に一度だけ、
   明義さんと偶然に会ったことがある。
   貴義と婚約が決まった次の日。
   その日は文化祭の前日でもあったけど、
   OBとして演奏指導を後輩から頼まれて母校に行ったの。
   音楽室に入ってピアノを見ていたら懐かしくなって、
   少しだけ弾かせてもらったんだけどね。
   そしたら明義さんがピアノの音に誘われるようにやってきたの。
   なんだかデジャヴを感じた。
   彼は婚約のことも知ってて、
   久しぶりに話したのに、一年前と同じように怪訝な顔をしてた。
   そして私に言ったの。
   『“ますらをと 思へる我やかくばかり 
   みつれにみつれ 片思をせむ”。
   おめでとうは言わない。
   僕は貴女と兄さんを祝福しない』って」
萄真 「(万葉集、大伴宿禰家持の和歌。
   彼の思いは、憧れなんかじゃない)」
柚子葉「私はまた何も言えず、
   去年と同じように彼の背中を見送るしかなかった。
   家に帰った後、その歌の意味を調べたけど、
   彼の思いを知っても私には何も応えられない。
   でももし、明義さんにあの時の気持ちを伝えていたら。
   桃奈とのこともどうなったのか気軽に聞けていたら。
   自分の思いを素直に伝えたら、何かが変わってたかもしれない。
   でも、スムーズにいかないのには何か意味があるかもって。
   あれこれと考えて何度も自問自答したわ」
柑太 「(柚子葉さん。その気持ち、わかるよ……すごく)」
柚子葉「随分後になって、
   桃奈の相手が明義さんじゃなかったって、
   彼女が他の男性と結婚して解ったんだけどね。
   それに告白した相手が貴義だったってことも、
   ほんのつい最近、桃奈本人から聞かされて呆然。
   結局、彼女とも絶縁状態になった」
萄真 「あの時の話だね。
   慕情で彼女と言い合ってた」
柚子葉「うん。そう。
   貴義が絡んだ桃奈の自殺未遂も含めて、
   後はみんなが知ってる通り。   
   今は……明義くんが素敵な人と一緒になって、
   幸せな人生を歩いてくれてたらいいなと思う。
   なんて、最後にいい人ぶってみました。
   以上、岡留柚子葉のトークを終わります」
萄真 「……」
杏樹 「辛い話しを最後まで話してくれて、ありがとう」
柚子葉「ううん。
   みんなに聞いてもらったらなんだかスッキリして、
   私こそ、禊ができたみたいに爽快」
杏樹 「うん。だったらよかったね」
柑太 「みんなが黒歴史語ってるのに、
   僕だけ質問コーナーって、やっぱカッコ悪いよな」
杏樹 「だったら黒歴史でもいいですよ」
柚子葉「私はどちらも聞いてみたいけど」
柑太 「頼む。どちらかにさせてくれー。
   なんで二人して僕をイジメるの」
柚子葉「イジメてないよ。ね、杏樹さん」
杏樹 「うふふふふふっ。
   そうね。私はもっとイジメたいけど」
萄真 「(柚子葉……
   黒歴史の幕を引けたように、
   彼への想いも幕引きできたのか)」






私と杏樹さんは次にトークする柑太さんをからかいながら、
グラスに継がれたお酒を飲み始めた。
でも萄真さんの表情だけは違っていて、
何かを考えあぐねているような神妙な面持ちをしている。
けれど私と目が合った瞬間、
萄真は真面目な表情で話しかけてきた。




萄真 「柚子葉」
柚子葉「ん?何?」
萄真 「桐生明義さん。
   今の彼は、警察官になってる」
柚子葉「えっ……桐生って」
萄真 「彼は高校三年生の時、
   叔父さんの養子になって、苗字が変わってるんだ」
柚子葉「な、なんで。萄真が彼を、知ってるの」
柑太 「萄真、もしかして。
   夏生さんの家で会ったっていう、
   柚子葉さんを知ってる警察官って」
萄真 「そうだよ。剛田明義さんだ」
杏樹 「そんな偶然ってあるの?
   世間って本当に狭いわよね」  
萄真 「君のお母さんの件で通報した時、
   駆けつけてくれた警察官の中に彼がいた。
   三葉桃奈と剛田の事件と、今回の被害届の件で、
   君と俺のことも彼は知ってて、是非協力させてほしいと言われた」
柚子葉「協力って、何の」
萄真 「柚子葉、君を守るための協力だよ」
柚子葉「私を、守る……明義さんが」
萄真 「君は彼と会っても、もう大丈夫なのか?」
柚子葉「……」
柑太 「おい、萄真。
   黒歴史を暴露し合ってるのはお互い理解し合うためで、
   柚子葉さんを責めるためじゃないだろ」
萄真 「責めるんじゃないよ。
   確認してるだけだ。
   柚子葉が彼を想う気持ちに、幕引きできているのかどうか」
杏樹 「そうね。
   久々里さんのいう通り。
   黒歴史フェアゲームの趣旨は、互いの理解と気持ちの整理だもの。
   どう?柚子葉さん。
   その彼が事件の件を担当してるなら、
   これからも、お母さんのことでいつか会うことになるわよ。
   明義さんに会っても、平常心で居られそう?」
柑太 「……好きな気持ちなんて、
   そんなに簡単に割り切れるもんじゃないよ」
杏樹 「増川さん。それって、自分のこと言ってます?」
柑太 「い、いや。それとこれとは全く別物だろ。
   今は柚子葉さんのことを話してるんだから」
柚子葉「二人とも、私のことで言い合いなんてやめて」
杏樹 「柚子葉さん、ごめんね」
柑太 「ご、ごめん」
萄真 「もしもまだ、少しでも彼を好きな気持ちが残っていても、
   俺は責めないし、怒らない。
   だから、柚子葉の気持ちを正直に話してほしい」
柚子葉「私は。私は……
   (すっきりしてるはずなのに。
   過去に心かき乱されるなんて情けない。
   早く答えなきゃ、また萄真を悲しませる)」





“ますらをと 思へる我やかくばかり 
 みつれにみつれ 片思をせむ”
話しながら思い出した明義さんの言葉と、
聞かされた今の彼の思いが相まって心の中に波紋が広がる。
それはまるで……
消されまいと黒歴史が抵抗して、白歴史に戦いを挑んでいるようだ。
説明のつかない妙な感情に囚われる私。
けれど萄真は、柔らかい眼差しで見つめて、
私の言葉を待っていたのだった。





(続く)




この物語はフィクションです。


 


 

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