“愛里跨(ありか)の恋愛スイッチ小説(柚子葉ちゃん編34)” | 愛里跨の恋愛スイッチ小説ブログ

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33、萄真の黒歴史



無邪気な子供のように笑い合う私達を、
優しい目で見つめた萄真さんは、
覚悟を決めたのか姿勢を正した。




萄真 「1番、久々里萄真。トーク、始めます」
柑太 「途中でめげるなよ」
杏樹 「久々里さん、頑張れ」
柚子葉「(萄真……)」



彼の様相は恐ろしく厳粛だ。
それはまるで自分の心を覗き込み、
鉄槌を下すような表情にも見える。
さっきまで笑っていた私達三人も、
そのひどく神妙な顔に自然と姿勢を正される。
萄真さんは大きく深呼吸をし、
記憶を辿りながら落ち着いた声で話し出した。




萄真 「2011年6月23日。
   暦の上では仲夏で、
   もうそろそろ梅雨明けしてもいいだろうと世間がぼやいていた。
   なのにその日は早朝から大雨で、
   上着を羽織らないと震えるくらい寒い日だった。


   俺は家具引取りの帰り、
   淡い紫色のワンピースを身にまとった女性と出会った。
   それも人気のない山の中で。
   違和感を覚えた俺はトラックを停めて、
   すぐに降りてその女性に声をかけた。
   山道の路肩に佇む彼女は全身ずぶ濡れで、
   今にも崩れ落ちそうなほど脆く、
   愁いを帯びた瞳をしていた……」






(萄真の回想シーン)




萄真 「おい!
   女性が一人、こんな山の中で何してるんだ。
   ずぶ濡れじゃないか」
みやこ「……」
萄真 「ここまでどうやって来た」
みやこ「あ、あの……電車で」
萄真 「電車?駅から結構な距離なのに。
   軽装ってことはお遍路じゃないよな。
   ここはイノシシも出るし、
   女性が一人で歩くには危険なところなんだぞ」
みやこ「ミヤコワスレを、見たかったんです。
   だから……この先にあるお寺に行こうと、思って」
萄真 「この先だと幸縁寺か。
   歩いていくにはかなり距離があるぞ」
みやこ「……」
萄真 「俺が連れてってやるから助手席に乗って。
   このままじゃ風邪を引く」
みやこ「で、でも」
萄真 「俺は、久々里萄真。
   城南区にある家具屋で怪しい者じゃないよ。
   こんな時に遠慮なんてしなくていい」
みやこ「はい……」



助手席のドアを開けて椅子に座らせると、
萄真さんはドアを閉め運転席に戻る。
バッグからビニールに入った水色のタオルを出し、
「これ使って」と彼女に渡すとゆっくりと車を発進させた。
坂を下り広い場所に出るとUターンし、
来た道に戻って坂を上っていく。
その山道は部分的に道幅がとても細くなったり、
見通しが悪く急なカーブが続いている。
萄真さんは慎重に運転しながら話し出す。




萄真 「そのタオルは新品だからあげるよ」
みやこ「あ、ありがとうございます」
萄真 「(人っけのない山奥で何やってんだ、この子。
   何か訳ありか?まさか、自殺願望者じゃないだろうな)
   こんな大雨の日に、何故ミヤコワスレなんて見に行くんだ?
   ミヤコワスレは何処にでも咲いてる多年生の草本で、
   そんなに珍しい花じゃないだろ」
みやこ「ミヤコワスレ、知ってるんですか?」
萄真 「ああ、よく知ってるよ。
   ちょうど君が着てる服と同じような色の菊科の花だろ」
みやこ「はい」
萄真 「花言葉は“しばしの慰め”“別れ”。
   “また会う日まで”とか“短い恋”とも言われてるけど、
   フランスの哲学者、ブレーズ・パスカルも名言を残してる。
   “Little things console us because little things afflict us.
   些細なことが私たちの慰めになるのは、
   些細なことが私たちの苦しみになるからである”ってね」
みやこ「すごい……英語ペラペラ。
   貴方は……とても、博識のある方なんですね」
萄真 「別に、すごくはないよ。
   英語話せるのは少しの間、海外に住んでたことがあるからだし。
   それに、パスカルは俺が大好きな哲学者で、
   “パンセ”とかいろいろ読み漁ってるから、
   人より無駄に知識があるだけだ」
みやこ「“パンセ”って、何ですか?」
萄真 「パスカルの書物だよ。
   “考えられたこと”“思考”“思想”って意味だね。
   彼は短命だったから、遺稿が出版されたんだけど、
   すごい人物で幼少期から天才と呼ばれてたらしい。
   23歳の頃には“人間の罪深さ”に目覚めて、
   罪深い人間がどう生きるべきかって苦悩したそうだよ」
みやこ「23歳って……
   若くしてそんな考えを持つなんてすごい」
萄真 「(少しは表情、晴れてきた……か)
   うん。だからファンになった。
   理性こそ万能だという考えには危うさがある。
   『人間は弱いもの』『驕ってはいけない』って、
   確信し明らかにするために世に名言を書き残したんだよ。
   俺の23歳の頃って、親友とバックパッカーして、
   自分のことばっかだったからすごく尊敬する」
みやこ「そうなんですね。
   親友と個人旅行……なんだか、楽しそうです。
   今の私。それこそ“パンセ”ですけど……
   枯れてしまう前に、どうしても見たかったんです。
   ミヤコワスレ。
   あの花は私の分身だから」





萄真 「(また暗い顔に戻った)
   ミヤコワスレが分身?
   君、名前は?」
みやこ「……みやこです。奥園みやこ」
萄真 「みやこさん。
   花と同じ名前。それで分身ね。
   いい名前だな」
みやこ「そうでしょうか」
萄真 「ああ。いい名前だよ。
   黒髪に黒い瞳。
   雅で華やかで洗練された雰囲気。
   君のイメージ通りだよ」
みやこ「子供の頃、名前の由来を母に聞きました。
   心は丸く優しく穏やかに育ってほしい。
   そして冷静で誠実な人になってほしい、と。
   でも私にそんな期待を掛けられても、
   冷静にも誠実にもなれないんです。 
   人生は空虚で冷酷なのに丸いままなんて居られない」
萄真 「うん。その通りだな。
   でも、名前の意味なんてそんなもんだ」
みやこ「えっ」
萄真 「俺もそう。
   俺なんて、葡萄の萄に真実の真で萄真(とうま)。
   母が花オタクでさ、花言葉なんかよく知ってて、
   “葡萄の花言葉のように、思いやりと人間愛溢れる子供になってほしい。
   周囲から信頼され、純粋で真心のある人間になってほしい”ってさ。
   それこそ、そんなの一生貫くのって大変だよ。
   名は体を表すって諺は問題児の俺には当てはまらないって、
   子供の頃、親戚からよく突かれた」
みやこ「そ、そうなんですか?」
萄真 「ああ。
   でも、だからなんだ。
   自分の人間性や意思より、名前が勝っちゃうなんておかしいだろ?
   もしも人生の中に三割変えられないものがあったとしても、
   七割変えることができたなら、自ずと楽しい未来が開けてくる。
   誰にも幸せになれる可能性は無限にあるんだから。
   君だってそうだよ」
みやこ「私にも、幸せの可能性……
   貴方のお話を聞いていると、眩しいです」
萄真 「えっ。眩しい?」
みやこ「久々里さんの生きている世界が、とても生き生きしてて……
   私の生きる世界とは正反対」
萄真 「……何かあったの? 
   ただ花を見たいってわけじゃないんだろ」
みやこ「……」
萄真 「差し支えなければ、俺に話してみない?
   少しは、心が楽になるかもしれない」
みやこ「……花がらを放置すると、
   病気になってしまいます。
   それは周囲の花々にも悪影響を及ぼします。
   だから悪いものは早く摘み取ってしまわないといけない。
   そういうことです」
萄真 「君が花がら、ってこと?」
みやこ「そうです」
萄真 「なんだ、それ。
    摘み取られるって、
   腐ったみかん的なやつか。
   君、社会人?それとも学生?」
みやこ「社会人です」
萄真 「職場で何か、嫌な事でもあった?」



話している間にトラックは、
彼女の目的地であるお寺に到着する。
駐車場に着いて窓を少しだけ開けると、萄真さんはエンジンを切った。
フロントガラスの向こうに見える景色は、
ミヤコワスレの薄紫色と森林の老緑色が混ざり合い幻想的で、
見渡すすべてが雨粒に濡れてとても物悲しい。





みやこ「社内恋愛してる先輩が私に嫉妬して、
   彼に横恋慕していると社内中に言いふらしました。
   先輩の彼は私の直属の上司でしたから、
   親切丁寧に指導するのが彼女には気に入らなかったのでしょう。
   彼も噂を聞いて、私は関係ないと反論してくれましたが、 
   それが火に油を注ぐ結果になってしまいました。
   騒動は幹部クラスの耳にも入り、職場では針のむしろです。
   それでも怒りの収まらない彼女は、私の名前をネットに曝しました。
   SNSは大炎上。
   私のアカウントは運営からロックされて……」
萄真 「おかしい話だな。
   悪いのは、勝手な思い込みをして暴走したその先輩だ。
   彼氏であるその上司はどうして上に事実を報告しなかった」
みやこ「してくれました。
   最後まで私を庇ってくれたけど、
   それでも彼は責任を取らされて、
   社内で無法地帯と呼ばれている支店に転勤になりました。
   その先輩は常務ともできていたらしくて、
   浮気していたのは彼女だったんです」
萄真 「なんだ。それ」  
みやこ「私のせいで、全く関係のない人が辛い目に遭うなんて。
   すごく悔しくて、課長を詰る先輩と常務が許せなくて、
   憎みだけが心の中でどんどん膨らんできました。
   それでパワハラで二人を訴えると課長に話しました。
   でも、彼は『“悪事身にとまる”だぞ』って、
   今のままお互い頑張ろうって止められました」
萄真 「そうか。
   大変だったんだな。
   でも。いい上司だな、その人。
   それで君は今もその会社に?」
みやこ「はい……
   課長がすべての責任を負うことで、
   私の解雇は無くなって、まだ在職はしています」
萄真 「そう。その課長さんから連絡はあるの?」
みやこ「時々連絡してくれます。
   でも誤算というのでしょうか」
萄真 「ん?それどういう意味」
みやこ「現実にはなかったことが、
   騒ぎになって現実になってしまった」
萄真 「庇ってくれた課長さんと、恋仲になったと?」
みやこ「そ、それは……」
萄真 「(にしては今にも。
   崩れ落ちてしまいそうなほど悲しそうな表情してるんだよな)」
みやこ「……」
萄真 「課長さんほど頼もしいとは言えないけど、
   何かの縁でここに居るんだろうし、まだ何かあるなら俺に」
みやこ「い、いえ……何もない、です」
萄真 「“悪事身にとまる”か……
   相手を憎んだって苦しむのは自分、ってことだよな」
みやこ「えっ」



朝陽


萄真 「実はさ。明日、俺の兄貴が俺の元カノと結婚するんだよ」
みやこ「えっ!?」
萄真 「ジューンブライドだってさ。
   籍入れて、挙式して、披露宴してって……
   それで俺、少し参ってるんだ」
みやこ「……」
萄真 「フったのは俺だから、今更なんだって話しだけど。
   ガキで五つも年下の俺より、兄貴のほうが彼女と年も近いし、
   断然大人で仕事もできてカッコイイし、財産も地位もあるしね」
みやこ「久々里さん」
萄真 「でも。二年も付き合って、
   毎日抱いてた女が義姉なんて……あははははっ。
   滑稽すぎるだろ。
   滑稽すぎて笑っちゃうだろ?」
みやこ「……笑いません。私」
萄真 「えっ」
みやこ「私がその元カノさんだったら。
   こんなに博識があって人の痛みを受け止めてくれて、
   こんなにも優しい人を、諦めません。
   握ってた手を振りほどかれたとしても、何度も握り返します」
萄真 「み、みやこさん。
   ふっ。慰めてくれてありがとな」
みやこ「いえ。慰めなんて。
   私は本当のことを言っただけで」
萄真 「あーっ!なんかスッキリした。
   ……『おめでとう』なんて、
   素直に言えるかどうかは分からない。
   けど、明日は冷静な自分で礼服着れそうだ。
   聞いてくれてありがとう」
みやこ「い、いえ……」
萄真 「みやこさんは課長さんと、今後どうするの」
みやこ「どうするか。
   私なんて誰と居ても……うまくはいかない。
   私は幸せとは無縁の、万年独りぼっちですから」
萄真 「どうしてそんなこと言うの」
みやこ「……」
萄真 「課長さんと付き合ったら独りぼっちじゃなくなるだろ」
みやこ「彼は。彼は……
   私の運命の人ではない、そんな気がするんです」
萄真 「運命の人ね。
   運命とか赤い糸なんて見えないのに、
   どうして言い切れるのかな。
   まぁ、それって感覚的なんだろうけど」

みやこ「私の運命の糸は、ミヤコワスレです。
   私の誕生日は3月11日、ミヤコワスレの日です。
   だからミヤコワスレの日生まれの人が、
   私の運命の人なんです。
   そしてその日に縁がある人も同様に……」
萄真 「そう。
   相手も3月11日じゃないといけないってことか」
みやこ「誕生日は、他にもあって……」
萄真 「(彼の生年月日がうまくいかない理由。
   そんな単純なものか?
   なんだろう。このモヤモヤする違和感)」

 

 

 

 

みやこ「あ、あの、久々里さんのお誕生日は。
   生まれはいつですか?」
萄真 「俺?1983年の8月1日生まれだけど」

みやこ「8月、1日って……」
萄真 「(君の表情、ころころ変わるんだな。
   ちょうど今の天気みたいに不安定で、
   晴れたかと思ったら、夕立みたいな土砂降りの雨になる)
   あのさ。これから君に話すこと。
   ある男の戯言として忘れてくれていいんだけど」
みやこ「えっ」
萄真 「そしてこれも。
   要らなかったら捨ててもらって構わないんだけど、
   一応持ってて」
みやこ「名刺?」
萄真 「もしも……
   これからの先の君に、課長さんや彼氏と呼べる男がいなくて、
   今日のようにまた独りぼっちだと感じてしまったら。
   何か困ったことがあって、どうしようもなく辛くて悲しくなったら、
   俺に会いにおいで」
みやこ「久々里さん……」
萄真 「俺との約束。
   自暴自棄になったら、俺に会いにくるって」
みやこ「で、でも。
   久々里さんに素敵な彼女さんが居たらご迷惑になります」 
萄真 「ご迷惑かどうかは俺が決めることだろ」
みやこ「そう、ですけど。
   あの。自暴自棄になっていなくても……
   久々里さんに会いに行っても、いいですか。
   また、私と会ってくれますか?」
萄真 「いいよ。何もない時ならいつでも。
   その時は名刺に載ってる携帯番号に連絡くれればいい」
みやこ「……はい」



彼女は手渡された名刺を嬉しそうに見つめた。
いつの間にかあがった雨。
西の空にはほんのりと太陽が姿を見せていて、
その優しい光が花々を淡く輝かせる。
洗いたての毛氈のように咲き誇る薄紫色のミヤコワスレは、
見つめ合う二人に「また会う日まで」と囁いたのだった。






萄真さんと彼女の淡い出会いを聞き終えて、
私には黒歴史ではなく美談に聞こえた。
それはとても厄介だと感じたけれど、
萄真との想い出をもっと増やそうと決意表明にも似た感情を抱く。
彼女に負けないくらいに……



萄真 「トラックから下りて一緒にミヤコワスレを見た後、
   俺は彼女を最寄り駅まで送った。
   それから彼女とは、片手で数えるくらいは会ったかな。
   食事に行こうかと提案しても、待ち合わせはいつも植物園。
   時間は一時間半かせいぜい二時間くらいで、
   ベンチに座って花を見ながら、
   自販機で買った缶コーヒーを飲むくらいだった。
   俺が話したのは仕事のことと、
   学生時代や海外でのエピソードを聞かせるくらい。
   だけど。いつも彼女から連絡をしてくるくせに、
   自分のことは何も語らずで、ただ俺の話を聞いていた。
   こっちからいろいろ聞いても俯いて誤魔化される。
   本当に俺と会って楽しいのか?って疑問に思うくらい、
   彼女は自分の気持ちを話さなかった。
   最後に会ったのは5年前くらいか。
   俺も工房を立ち上げて忙しくなってきて、
   兄貴の会社の役員でもあるし、リヴの仕事も請け負ったしね。
   そのうち彼女からの連絡も無くなったから、
   きっと彼氏ができたんだろうって思ってた。
   今年の6月23日、
   彼女の両親がいきなり訪ねてきて告げられた。
   みやこさんが自殺したって。
   そしてあのノートを渡された。
   でも……二人に会うまで俺。
   完全に彼女の存在を忘れてたんだよ」
柚子葉「えっ」



口


萄真さんは立ち上がり、段ボール箱からあのノートを出すと、
私に手渡して杏樹さんと読んでほしいと言った。
内容を知ってる柑太さんは心配そうに私を見つめていたけれど、
それを誤魔化すかように急に立ち上がり、
冷蔵庫からレモン酎ハイを取りだして、
席に戻ると缶を開けて一気に飲み始める。



萄真 「その日記を読んで数日後、
   冷静になれたから調べたよ。
   ミヤコワスレの日が何時か。
   3月11日、6月23日、8月1日だった」
柚子葉「えっ」
萄真 「俺なりにありのままを赤裸々に語ったけど、
   これが噓偽りないミヤコワスレさんとの真相だよ。
   君らがどう取るか分からないけど、
   これは俺にとってみれば黒歴史だ。
   手を差しのべて彼女を助けたつもりでいた。
   カッコつけて会いにおいでなんて言って結果、
   俺に連絡さえ寄こさず彼女は死を選んだ。
   完全に独り相撲、俺の自己満足にすぎなかった」



私と杏樹さんは手渡されたノートを一緒に開いて読む。
杏樹さんはみやこさんの辛く苦しい数日間を読みながら泣いている。
萄真さんの告白を聞いたからか、改めて読み直している私も、
最初に目を通した時に感じていたジェラシーは少し薄れて、
今のほうがみやこさんの気持ちを冷静に理解できた。
彼女が抱えていた感情は、萄真さんに会う前の自分に少し似ている。
でも……何か違う。



萄真さんは私達の姿を慈悲深い目で見守りながら、
みやこさんの両親が来てくれた時のことも話した。
彼女の日記を読んで自分の不甲斐なさを感じ、
拳に血が滲むほど床を叩きつけたこと。
その後、やってきた柑太さんから殴られて泣いたことも。
彼の話を聞いているうちに妙な違和感を覚え、
私は日記の文字を再度見つめる。




柚子葉「(みやこさんと萄真が出会ったのが6月23日。
   両親が彼女と再会したのも、
   萄真に会いに行ったのも6月23日。
   彼女の誕生日は3月11日。
   そして萄真の誕生日は8月1日で、
   すべてミヤコワスレの日だ。
   じゃあ、彼女が萄真に連絡をした日は?
   二人が会っていた日は。
   自分の思いも話さず彼に会っていた理由。
   そうか。彼女は……
   萄真を運命の人って言いたかったんだ。
   出会ったのは偶然じゃないと感じてほしいって)」




私達の始まりの日に突然現れた、
ミヤコワスレさんが日記に残した萄真への想い。
別世界に居ながら今もなお、彼の心に根付かせようとしている。
なんてタチが悪い。
この日記は萄真さん宛てに送られたラブレター。
同情はしてもシンクロしたくはない。
私の心の中でどんどん広がる厭悪の情と醜い嫉妬、
ねじ曲がった羨望が入り混じりぐちゃぐちゃにかき回す。
締めつけられる胸に握った拳を押し当て、
ドロドロした感情に飲み込まれないように必死で堪える私。
しかし、そんな浅ましい私を萄真さんは優しく見つめ、
私達が初めて会った日のことを語りだしたのだ。





萄真 「柚子葉に初めて会った日。
   コンビニの前で俯く君を見て、
   柑太も俺もすぐに異変に気がついた」
柚子葉「……えっ」
萄真 「でも、始めに声をかけようと言ったのは柑太で、
   俺は声を掛けられなかった。
   『そんな薄情なやつだったか』とこいつから詰られたけど、
   柚子葉が彼女と同じようになるのが、内心怖かった」
柚子葉「萄、真」
柑太 「萄真」
萄真 「リヴの研修初日の朝、
   道に迷って困っていた柚子葉を見つけて、
   研修センターまで送った。
   君をトラックの助手席に乗せた時、
   みやこさんと出会った時のことがリンクした。
   だからなのか、不甲斐ない自分にはなりたくない、
   今度は同じ過ちを繰り返したくないと、強く思ったんだ。
   そしてその日の夜、
   柚子葉のお母さんが訪ねてきて、
   心に大きな傷を負っている君を見て痛感した。
   今度こそ俺が助けなきゃって。
   これが柑太に隠していた真実だ。
   ダーティーな黒歴史だよ」
柑太 「萄真。おまえってやつは……」  
柚子葉「……」
萄真 「以上、久々里萄真のトーク終わります」
杏樹 「久々里さん。とても素敵な黒歴史ですよ。
   お話ししてくれて、ありがとうございました」
萄真 「馬木さん」





照れ笑いしながら杏樹さんと話す彼を見て、
私は何か言わなければいけないと思った。
萄真さんとのこれまでの時間の中で、とても大切な何かを。
そう思った途端、あることを思い出し、
堰を切ったように言葉を発した。



柚子葉「あの時!
   萄真は、俺の大切な人達の中にも、
   君と同じような状況に苦しんでいる人がいるって話してくれた。
   どうにかして苦しんでる人を救えないのかって、
   リヴの仕事をするようになってからずっと考えてたって言った」
萄真 「柚子葉」
柚子葉「それで助けてくれたの?って私が聞いたら、
   それもあるけどそれだけじゃなく、
   誰にも言えないことでも、私にだけは言える気がしたって。
   初めて出会ったとき、そんな人だと感じたからって言ってくれたの」
萄真 「よく覚えてたね」
柚子葉「だって……
   初めて会った日から萄真のこと、すごく気になってたの。
   会えば会うほど気になって、貴方のことが知りたくなった。
   これが一目惚れって、言えるのか分からないけど、
   傍に居てくれて私はすごく嬉しかったの」
萄真 「柚子葉」
柑太 「(一目惚れ……か)」
柚子葉「私にとって萄真はなんでも話せる人間かって、
   今すぐでなくてもこれから、そうなり得る存在だろうかって、
   とても優しく見つめて答えを待ってくれてた。
   あの頃の私は荒んでて、生きる意味すら見失ってて、
   差し出された手を素直に握れなかった。
   萄真にどういえばいいか言葉が見つからなくて、
   戸惑っていたけど、今ならはっきりと答えられる。
   私にとって萄真はなんでも話せる人で、
   貴方しか私の心を受け止められる存在は、
   これまでもこれから先もきっと、いないって思う」
萄真 「柚子葉……」
杏樹 「柚子葉さん」
柑太 「(萄真。僕の完敗だ。
   これで心おきなく前に進めるよ)」
萄真 「ありがとう。最高の答えだよ」





包み隠さず全てを雄弁に話した萄真さんに感化された私。
彼はとてもスッキリした表情をしている。
けれど、その目は薄っすらと涙も浮かんでいた。
抱え続ける黒歴史に、克服すべき試練に、
今度こそ立ち向かっていける。
そう思わせてくれたのは、背中を押してくれた柑太さんと杏樹さんで、
慈しみに溢れる眼差しを向けてくれる萄真さんだ。
私はこの三人のお陰で、改めて幸せな気持ちを噛み締めていた。





(続く)



この物語はフィクションです。  
   


 

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